*従姉襲来・結
真白は大いに困惑していた。
当然だ、受験が終わり色んなしがらみから解き放たれ、従弟の様子をからかいついでに驚かせようと訪ねてみれば、目の前には同世代女子の人気を一身に集める有瀬陽乃とその姉ひおりがいたのだ。
わけがわからない。
こんな事、予想しろという方が難しい。
恨みがましく昴の顔を見てみるも、涼しい顔でどこ吹く風だ。
リビングに通され、人気姉妹に囲まれて、借りてきた猫のように大人しくなる――とはならないのが、春日真白という女の子である。
「うそ、本当に平折ちゃん?! 写真集持ってるけど、今まで全然気付かなかったんだけど! 確かめていい? さわるよ? うわっ、姉妹揃ってほっぺたもちもち!」
「ひゃうっ!」
「え、えっとぉ?」
「興奮し過ぎだ、真白」
「あ痛っ!」
無遠慮に平折と陽乃のほっぺたを摘まんだり触りだした真白を、昴が頭を小突いて制止させるが、その程度止まる彼女ではない。
その後も髪を弄ったり、胸や太ももや腰回りなど、女子同士とはいえ普通は躊躇するような場所を撫で繰り回し、へぇ、ほぉ、ふぅん、うわ! といった感嘆の声を上げる。
平折も陽乃もモデルをつとめるほどの容姿と(一部とぼしい部分があるものの)スタイルだ。それを直接確認できる機会を逃す真白でない。
ちなみに、真白が彼女達の色んな部分をまさぐっていると、そのあられもないとも言える姿をみて、顔を赤らめる昴に気が付いた。むしろ途中からはそちらをからかうほうがメインになっていたまでもある。もちろん、目ざとい陽乃がそれに気付かないわけが無い。
結果、真白と陽乃の手によって、平折は「ふぇぇ~」と少々色っぽい鳴き声を上げ続けるハメになった。
「いやぁ、真白さんって本当、昴のお姉さんだね。そっくりだよ」
「は? 真白と? あれと一緒にしてほしくないんだが」
「ふふっ」
「……なんだよ」
嫌そうな顔をする昴を、陽乃はくすりと笑う。
自身をあの有瀬陽乃と知ってなお、変に媚びる事もなく、取り入ろうとすることもない。さりとて萎縮することも無く、あるがままに接してくる真白は、陽乃にとっては好ましく思え、それがどこか昴を髣髴とさせる少女だった。仲良く出来そうと、陽乃の顔に笑みがこぼれる。
一方、恥ずかしい姿を晒してしまった平折は、「もぅ……」と言いながら、頬を赤らめつつ乱れた衣服を整えている。
その犯人の真白はと言えば、どこか満足気ながらも思案顔で平折を眺めていた。
「変わった」
「ふぇ?」
「平折ちゃんは変わってなかったけど、変わった」
「あの、どういう……」
「何でだろう?」
「えーっと……」
そして腕を組みながら、うんうんと唸り始める。
変わった。確かに平折は変わった。
真白の中にある、かつての自分の殻に閉じこもり、うじうじしていた頃とは違う。
外見を見てみれば、黒くてもっさりしていた時と違い、モデルをつとめるほどの変わりようだ。
一方で、性格は以前と同じようどこか引っ込み思案で、流されるままなところがあって、しかし決定的に何かが違っていた。それが真白にはどうしても気にかかった。
そんな真白の視線を受けて平折は、恥ずかしそうに身動ぎしつつ、捲れ上がっていたスカートに気付いて、慌てて裾を直す。昴の視線を気にしてのことであり、唐突に真白はその何かに気付き、ポンと手を叩く。
「あ、女の子になったんだ!」
「ふぇ?」
「あ、わかる! 最近のお姉ちゃんは特にね!」
「陽乃ちゃん、その話くわしく!」
そう、女の子になった。真白の胸にストンと何かが落ちた。
詳しいことはわからない。どんな切っ掛けがあったかも知らない。
見た目だけではなく、ちょっとした仕草や表情――それは、かつての自分自身に頓着していなかった平折には、無かったものだった。
(可愛いなぁ)
心からそう思ってしまう。
ただ見た目や仕草が可愛らしいというだけでなく、以前の平折には存在していなかった、芯とも言うべき強さがにじみ出ている。同性として憧れすら抱いてしまう。
「……」
「ん? 何だよ、真白」
しかし、それゆえに気になってしまうこともあった。
(昴が変な気を起こしてちゃったらどうしよう?)
自分ですらこれほど魅力的に感じてしまうのだ。
男の昴なら、それも一般的に性欲を持て余してしまっているという男子高校生ならば、つい誘惑に負けてこの可愛らしい義理の従妹を、襲わないとは限らない。
――もしわたしが男だったら、3日も持たない。
真白には、そんな妙な自信と確信があった。
きっとこのままでは昴は間違いを起こしてしまうかもしれない。それはダメだ。
真白は姉として、そして叔母に、昴の母にお願いされた身として、この状況を見過ごすことは出来なかった。
「よし、わたしも昴の家に住もう」
「は?」
「ふぇ?」
「え?」
そんなことを、突如真白は高らかに宣言し、3人からは間抜けな声が漏れる。状況についていけないと言った顔だ。
「大学ね、うちからだと1時間半以上かかるんだよね。でも昴ん家からだと30分かからないし、あ、ちゃんとバイトしてお金も入れるよ? 部屋も余ってるしいいよね……あ、もしもし、おじさんですか? 実は――……」
「え、おい、真白?! あぁ、もぅ、マジかよ!」
「ま、真白さん?!」
「……ぷっ、……くくっ、あは、あははははははははっ!!」
早速とばかりに各所へ電話し始める真白。
思いついたら即行動、それが真白という女の子である。
「――はい、はい。てわけで話は纏まりました、と。これからよろしくね、昴に平折ちゃん、陽乃ちゃん」
「……勘弁してくれ」
「は、はい、よろしくお願いします!」
「あははは、よろしくね、真白さん!」
一度暴走した真白は止まらない。それを身をもってよく知っている昴は、頭を抱える。
未だ少し混乱したままの平折に、笑いを堪えられない陽乃。
そしてドヤ顔の真白。
皆に何かが起きそうな予感を抱かせる。
「ほら、やっぱり昴にそっくりだ」
「……それも勘弁してくれ」
こうして倉井家に1人、同居人が増えるのであった。
追伸・9月上旬~中旬頃に、決着がついたその後の、春休み直前の凜と平折を描いたものを投稿しようかと思います。
これにて番外編、従姉の真白がやってくるお話はお終いです。
なんかね、このまま大人しく帰って、そっかぁ、今はそうなんだぁってなるはずなのに、キャラが暴走しちゃったどうしよう……(真顔 なんだか新章のプロローグみたいになってしまいましたね……ともかく、これで一区切りです。
また、何かしら書きたいものが区切りの良い所まで貯まったら、今回のようにまとめて投稿させて頂きたいと思います。
それまで新作の方始めましたので、そちらの方を読みながらお待ちください。タイトルはテンプレの皮を被ったみたいなあれだけど、きっと甘酸っぱい様なものを味わえると思いますので、是非!