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ドブ道ドライブ

 翌日、私は朝食にトーストとコーヒーを頂く。

 ヴィヴィはコーヒーではなくお湯だ。これは家にコーヒー以外の飲み物が無かった為である。

 今日、紅茶を買いに行くのでヴィヴィが水で過ごすのは今回が最後となる。お湯というシンプルな飲み物からサヨナラだ。

 トーストを焼いたのはヴィヴィだた。使い方を教えたわけでもなく、自分から二枚分焼いた。そんなヴィヴィのトーストのお供が、ただの水というのは本当に申し訳ない。

 私はコーヒーをお供にトーストを食べたが、水をお供にトーストを食う気は起きない。

 一応、コーヒーを飲むかと聞いたが、やはりコーヒーは嫌いらしくヴィヴィは水を絶品と言うほど美味しそうに頂いていた。


 食事を終えると着替えて出かける準備をする。

 ヴィヴィは昨日と同じ服装である。肌着だけは私が貸したが、サイズは合わない。上にコートを来ているので見た目は変ではないが、本人は不満が超満載のようだった。


「体の中がグチャグチャのスースー」


「今日だけだから我慢しろ」


 グチャグチャのスースーというオノマトペが理解できない。

 まぁ、奇妙な言葉を使うという事は、ヴィヴィとの距離が縮められたという事だろうと、私はポジティブに考えることにした。


 私は車を一台持っている。カーティスが支給してくれたミニバンだ。パラサイトでは車が一家に一台レベルで普及している。その殆どが私のようにアークから仕事用に支給されたものだ。


「うーん、お腹と目がグルグル」


 また意味不明のオノマトペを発するヴィヴィであったが、素直に助手席に乗り込んだ。

 体が小さいので、ドアの位置が高い大型車に乗り込むのに手間取る。上手く乗り込めなかったのがヴィヴィは不満らしい。

 服といい、今回といい、今日のヴィヴィは不満の詰まった玉手箱。


 車を動かす鍵は、一昔前はワイヤレスキーが流行ったらしいが、この車はボタンも発信機もないプレーンの鍵だ。

 エンジンもハンドルの脇に差し込んで回す事で始動する、実に昔ながらのスタイルとなっている。

 ワイヤレスキーは電池を使う。電池が切れても交換すれば使えるが、この腐ったご時世で電池を調達するのは面倒なので、私は昔ながらの鍵をあえて使っている。


 エンジンは一発で動いたが弱々しい音が響いた。その割に振動は豪快だ。

 車のバッテリーかオイルを交換する必要があるが、動かなくなった時にしようと楽天的に考えている。

 燃料メーターが空に近づいていたが、今日だけなら間に合うだろう。ストックはあるが、その量は少ないので現地で買う事にした。買い物リストに追加だ。


「そういえば何処で買い物なの?」


「ゴミヤさ」


 アーク本部のあるベルリンなら、ここから近いし店も多い。

 だがアソコの店は軒並み高額商品なのだ。その点、ゴミヤはベルリンに比べると遠いが安く物が手に入る。


「遠くに行く分、車の燃料費が高くなると思うけど」


「細かいことは気にしない」


 重要なのは目に見える形でのカネだ。燃料費なんて普段は気にとめない。

 ベルリンに行く倍の時間をかけて車はゴミヤに向かう。

 ただの砂道が砂利道になり車が大きく揺れる。

 揺れがマシになったと思ったら今度はドブ道だ。

 パラサイトの集落からゴミヤまでは一本道で迷う事はまずないが、悪路であるが故にハンドルやタイヤに気を配る必要がある。

 最悪の場合はタイヤが地面に埋まってしまう事もある。

 道路状況が悪くなる程、ゴミヤに近づいてきたという標識になるが、素直に喜べるものではない。

 このドブは実に曲者で、汚れのみならず匂いもキツイ。

 タイヤや車体に付着したドブは早めに洗い流しておかないと、この匂いは車内まで侵食する事になる。

 これは長年、あのゴミヤに通いつめた私の知恵だ。

 人間は生きれば生きるほど知恵の山が膨らむ。


「私は洗車するための労力と水量を考えると、やっぱりベルリンの方が安く済むと思う」


「細かいことは気にしない」


 互いに文句を言いつつ車を進めると、やがてフロントガラスの先に黒々とした煙が見えてくる。煙の足元にはバラックやテントなどの簡易的な建物が密集していた。

 簡易的な建物が並ぶが、この集団は遊牧民のように移動しているわけではなく、少なくとも十年以上はこの地に留まっている。


「ここがゴミヤ、正確にはゴミヤの町だな」


 安易なネーミングだが、ゴミを売り買いしているからゴミヤだ。

 ここの売り物は基本的にゴミなので安く物を買うことができる。

 この周囲にはゴミを売り買いするためのバラックやテントが幾つも建っており、そして売る人間と買う人間で賑わっている。

 治安が悪そうな風景だが、意外なことに窃盗や強盗は皆無に等しく、安定した場所だ。

 悪く言えば嫌な風景が定着してしまっている。

 先進的なアークではまずお目にかかれない光景だ。

 ヴィヴィは興味を持っている反面、どこか眉をひそめていた。

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