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 家族が増えた。それは本来、喜ばしい事である。

 ただ、突然過ぎてまだ娘が居るという実感がない。

 家族が増えた初日、右往左往の初日で娘について分かった事がいくつかある。

 ヴィヴィは余りにも素直であり、そして世間知らずでだった。

 これに関してはヴィヴィが特殊というわけでは無いと思う。

 ドールズは全体的に必要最低限の知識しか与えられていないので、偏った知識を持つ人間が多いのだ。

 そんなドールズとなれば、ある程度の世間知らずは理解できる。

 ただ、ドールズだと考えても部分的に度が過ぎているところがある。その辺がエラーという事なのだろうか?

 どーいう教育をすれば、こーなるのだろう。別に悪い子では無いが、ヴィヴィはドールズらしく偏った人間である。


 夕食のパンとスープをヴィヴィは行儀よく食べた。マニュアル通りの食べ方で返って不自然に見えた。

 声を上げて笑う私に対してヴィヴィは「食事中はお静かに」と言うのだ。

 良い子という枠にピッタリ収まるような、超模範的な子供だ。

 夕食の一時で、ある程度だがヴィヴィを理解できた。極端に真面目で世間知らず、そんな印象……。

 ”食事中はお静かに”の主義を持つヴィヴィだったので二人居るにもかかわらず夕食は静かだった。食器が当たる音すら鳴らず、ストーブの薪が寂しい鳴き声を上げるのみだった。


「トイレとシャワーはそこ、キッチンはそこ、寝る場所は……、まあ後で考えよう」


「はい」


 食後、ヴィヴィに家の中を案内しておく。これから暮らす家で不自由があってはならない。

 家といっても一人暮らしを前提にした家だ。しかも廃材を組み合わせて作ったようなオンボロの家なので広くない。

 案内に時間がかかる事もなく終わってしまう。

 この間も、恐ろしいまでの礼儀正しさを私に見せつけてくれた。

 私も見習いたいくらいだが、この場では不自然極まりない。


「これで一週まわったけど大丈夫か?」

「はい」


 さっきから「はい」と言っては腰まで曲げて礼をする。

 ここは家の中だというのに、ヴィヴィは余りにも事務的な態度をしている。

 どうも調子が狂う。


「ここは自宅だ。少しは肩の力を抜いたらどうだ?」


 このままだと私の方が緊張でどうにかしそうだったので無駄だろうと思ったが言ってみた。


「いつ抜いたらいいの?」


「まさに今だ。別に楽にしても私は構わない」


「初対面の人には礼儀よく」


 コレを聞いて、やっぱり無駄だなと思ったので諦める事にした。


「疲れるまでやってろ」


 ”初対面の人には礼儀良く”という事は、初対面で無くなれば解決するはずだ。私はそう信じる事にした。

 子供の緊張は直ぐに切れる。だから初対面で無くなるのに時間はかからないだろう。

 どうせ直ぐに礼儀いい態度は飽きる。好きなだけやらせておけばいい。


 私は仕事の時はキッチリと、そうでないときはゆったりとするタイプだ。

 ヴィヴィとは正反対とも言えるだろう。

 都合の良い遺伝子配列になっているドールズは基本的に忍耐強く作られている。

 でもドールズは結局人間だ。カーティスを見ればわかる通り、力を抜くときは抜いている。

 ドールズでもガス抜きは必要なのだが、子供のヴィヴィには少し難しいらしい。


「親の顔が見てみたいってのは、こういう時に使うのかねぇ」


 素直にそう思った。きっと親はヴィヴィをかなり厳しく育てたんだろうと勝手に思った。そして、これはすぐに後悔する事になる。


「私に親はいません。」


 キッパリとしたドライすぎる一言。

 別にヴィヴィは怒っているわけではい。「当たり前でしょう」とでも言いたげに答えただけ。

 だからこそ私の胸元に鋭利に突き刺さる。


 --ドールズは遺伝子操作で生まれる。

 人工授精という形で人間が生むこともあるが、最初から最後まで試験管の中という場合もある。

 ヴィヴィがその内のどちらかなのかは不明だが、どちらにせよドールズに親という概念は存在しない。

 勿論、家族という概念も存在しない。

 そんな事は当然のように知っているの私ではあるが、だからこそ普段は頭からスっぽ抜けていた。


「悪い……」


 自然と謝罪の言葉が出た。

 私とヴィヴィは生まれも育ちも違うのだ。

 知っている事のはずなのに、私は格好つけて頭脳明細のフリをして、そして意図的では無いにしろヴィヴィを傷つけてしまった。


「なぜ謝るのですか?」


 ドールズに生みの親という概念は存在しない。

 ドールズでなければ生みの親という概念が存在する。

 私は一方的に親がいないという事を不幸なものと決めつけ、そしてヴィヴィを傷つけた。

 しかし、ヴィヴィは恐ろしく純粋だった。

 私は彼女を傷つけたと思っていたのは一方的だったようだ。

 親の顔が見てみたいという言葉を文字通りに受け取り、傷ついたなど思っていない。

 そもそもドールズ全員が親なしだ。親なしを不幸な事だと思うはずもない。

 少し考えれば分かる事だった。


 思いも考えも一方通行だった。

 私はヴィヴィが傷ついたと思って謝ったのに、ヴィヴィは気にしていなかった。

 ヴィヴィから見れば傷なんて最初から存在していなかったのだ。

 謝らない方が良かったのかもしれない。謝った事により、返ってヴィヴィが傷ついたのかもしれない。

 結局、理解できていないヴィヴィはポッカリと口を開けて「何が言いたいの」とでも言いたいような様子だった。

どうやら変なのは私の方らしい。


「明日は特に用事は無いが早寝に超した事はない。シャワー浴びたら寝よう……先にシャワー使って良いぞ」


 この変な空気を変えたくなって話題を逸らした。


「はい」


 あのポッカリとした感じは収まらなかったが、やはりヴィヴィは素直であった。

 素直である事に今は感謝だ。

 ヴィヴィは、さっき説明したシャワールームにペタペタと向かっていく。

 シャワーでも浴びれば、さっきの事を忘れてくれるだろうと私は勝手に都合の良い未来を作り上げた。

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