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国境が無くなった一ヶ月間

 2176年の今日、世界に国という概念は存在していない。

 名前は残っているが、それはもう地名としての機能しか果たしていない。


 こうなったのは何故か。

 一つの国が世界侵略に成功したとかではない。

 ある事件をキッカケに国という概念が薄くなり、そして無くなったのだ。

 その事件は国という概念を消したと言えるだろう。

 消したのは国だけではない。

 その事件は人間もたくさん消した。

 直接的に、

 間接的に、

 多くの人間を消した。


 今から百年以上前の事だ。

 国という概念はこの時点で既に朧げになっており国境を跨いだ政治、経済が目立つようになっていた。

 これは良い部分もあったが、時には悪いことも起こる。


 "核月間事件"


 事件は後に、そう呼ばれるようになった。

 発端は事件の数年前に国連で合意された核禁止条約である。

 似たような条約は今までにもあったが、この条約はかなり厳しいものだった。

 核兵器は勿論、厳禁である。

 そのほか発電などの平和的利用も安全を考慮して厳しく制限する。

 破れば経済制裁などの措置がとられるようになっていた。

 これにより国家が核兵器を使用することは無いし、平和的な利用でも無理の無い運用をしていたので事故などは起きないと思われた。


 実際この条約締結以降、国が核兵器の使用どころか所持も無くなった。

 平和的利用でも事故は起こらなかった。

 そもそも原子力エネルギーそのものが禁忌とみなされるようになり、原子力発電所は世界中でも片手で数えられる程の数であった。

 原子力を保有する国は平和利用であろうと周辺各国から白い目を向けられていた。


 ただし、これは国に限っての話だ。

 ルールを守っているのは国だけだった。

 各月間事件を起こしたのは国ではなく”ニュークリアリバティと名乗る集団”だった。

 名前通り、「自由の核」を掲げる頭のネジが飛んだようなイカれた集団だった。

 事件から百年以上経った現在でも、ニュークリアリバティの名前を喋ることすらタブーとされている。

 それ程の事を彼らはしでかしたのだ。


 彼らは国境の概念のない多国籍で無国籍の集団だ。

 国連の条約とは無関係に行動する厄介な存在……だからこそ、核なんざに手を出してしまった。

 ニュークリアリバティに所属する理由、それは人によって異なっていたという。


 ある人は自分の技術力を証明する為だったという。

 ある人は原子力を再びエネルギー資源の主役にするという思想の為だったという。

 ある人は核兵器を独占し、世界を手中に収める為だったという。


 目的や思惑はバラバラだが、その手段が核である事だけは一緒だった。

 だから彼らはニュークリアリバティとして集結し密かに活動を始めた。

 彼らの活動が一定に達した2044年の5月、彼らはヒマラヤで地中核実験を行った。

 核実験による人工地震は文字通り、周辺各国を震え上がらせた。

 後にニュークリアリバティが犯行声明をインターネット上で出すと周辺の国は軍隊を、国連は多国籍軍を現地に派遣した。

 ニュークリアリバティをテロリストとしてヒマラヤの施設ごと処分した。

 これによりヒマラヤでの事件は解決したかに見えた。


 だがこの事件の名前は"核事件"ではなく、"核月間事件"なのだ。

 国連が予想していたよりも、この事件は単純だった。

 単純だからこそ、この事件は予想外な方向にブッ飛んでしまう。

 テロリストは国家でない。

 だから一箇所を潰して解決、そんなわけには行かなかったのだ。


 ヒマラヤ以外にもニュークリアリバティは存在し活動をしていた。

 彼らは世界中の非難を浴びる中、二度目の核実験を強行する。

 二回目は海中核実験であった。

 これは地上での核実験よりも非難されるものだった。

 おかげで実験の行われた南シナ海の資源は壊滅だ。

 死者は出なかったというが、それでも被爆者は出たのは確実だろう。


 こんな大事件を起こしてもニュークリアリバティは止まらない。

 彼らは自らの核技術を世界中に拡散させた。

 これにより世界中のテロリストが核兵器を持っていると公言した。

 そして国家は持っていないと言い続けた。


 国ではないニュークリアリバティによる核実験が二度も行われた状況で、この世界が砕けるのは当然の流れだった。

 この事件は一つの集団によるものでは無くなっていた。

 数え切れない集団が核実験を行った。


 ”核月間事件”……。


 2044年の5月は、人類史上最悪の一ヶ月だった。

 余りにも数が多いから事件は一つに纏められて"核月間事件"と呼ばれるようになった。

 事件は一ヶ月程度で終息した。

 国がテロリストを全て殲滅したのか、

 それともテロリスト同士が共倒れしたのか、

 その答えを知る者はもう居ない。

 それだけ混沌とした一ヶ月だったのだろう。

 グチャグチャの時間は、グチャグチャのまま記録されて、そしてグチャグチャな歴史になった。


 あれだけ多くの核実験が行われたのに、この事件による被害者はゼロである。

 核兵器の使用、および実験中の事故は無かったとされるからだ。

 でも現実は甘くないものである。

 頻発した核実験による土壌汚染、海洋汚染、世界中の電子機器も狂った。

 テロリストや軍隊のみならず、一般市民も被爆事例の量産状態だった。

 考える必要も無い、人類は人口減少という谷に向かって真っ逆さまだ。

 世界人口は明らかに減少した。

 人だけで無く動物や植物も減った。


 核月間事件の発生、核の拡散を許した国や国連の不信感は高まった。

 政治機能が麻痺した国もあった。

 人類滅亡も冗談では済まされずリアルな話だった。

 キューバ危機を知らぬ世代にキューバ危機以上の危機が降り注いだ。


 この絶望的な状況で活躍したのは国に頼らないボランティアであった。

 世界を壊したのは集団だったが、世界を立て直すのもまた集団だった。

 数え切れない程のボランティア集団が上海を拠点として集結し様々な復興支援を行った。

 この時点で国という概念は灯火となり、やがて消えていった。

 国に代わって集団や団体が世界を動かすようになった。

 一ヶ月で世界から国境が無くなった。

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