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アークからの使者

 何時の話だっただろうか、正確な日付は覚えていない。

 ただ、その時は寒かった。外出時にはコートを着込む必要がある程だった。

 冬の季節だったということは間違いないだろう。

 これは今、思い出した事だが、ひと月前には雪が降ったような気がする。

 冬で間違いないハズだ。そうであってくれ。


 私は二階建ての家に住んでいた。

 二階建てと言っても、二階部分は屋根裏と言った方が正しいだろう。

 私は一日の殆どを一階で過ごしている。

 二階は眠りに行くようなものでベッドとランプくらいしか置いていない。

 一階はリビングで、応接室でもある。

 この家に来る客は少ないが、その日は来た。

 昼食を食べ終えた午後の時間だ。ノックの音が聞こえたので、私は立ち上がりながらこう言った。


「はいはい、カーティスだろ?」


 仕事を効率良く行う為にパラサイトはこの場所に住んでいる。

 パラサイトの友人はいない。そもそもパラサイトは馴れ合いを殆どしない。

 ここに訪れるのは基本的に仕事相手だけだ。


「やあマイク。久しぶりだな」


 玄関を開けて見慣れた顔、やはり来訪者はカーティスだった。

 ”マイク”は私の事だ。

 本当はマイケルだが、彼は親しみを込めて私の事をマイクと呼ぶ。


 カーティスは私の仕事相手であり、そして私の数少ない友人でもある。

 仕事の用事で来る時もあるが、プライベートとして来る時もある。

 本日は仕事のようだ。服装を見れば一目瞭然である。

 彼は今日スーツ姿、胸元にはご丁寧な事にネームプレートが付けられている。

 カーティスがこのような服装で来る時は仕事の依頼がある日だ。

 アークである彼がパラサイトである私に依頼し、私はそれを遂行する。


 今日もそれだろうと”最初”は思っていた。

 彼のスーツ姿は見慣れている。

 だが今回はちょっと……いや、かなり違う。

 彼の背中に見慣れないオマケが居た。

 それを見て普通の仕事じゃないと瞬時に察した。


「ちょっと、その後ろにいる子供は何だよ。いつの間に子供を作ったのか?」


 こんなパターンは初めてだ。

 カーティスの後ろに居るのは、小さな少女なのだから驚くに決まっている。

 年齢はようやく二桁を越えた頃と言ったところだろう。

 やたらと地味な灰色のコートは、まるで煙突でも潜ってきたのかと言いたくなるほど地味な色だ。

 首元のマフラーも白無地で、やはり地味で地味以外に感想が出てこない服装だった。

 髪は肩を少しはみ出る程度の長さで特に結ぶような事はしていない。地味だ。

 身長は低いが年齢を考えれば平均的だろうが少し痩せている。やはり地味。


「彼女をマイクに紹介しないと今日の話が進まない。さぁ、自己紹介をしな」


 カーティスは少女の背中を叩き一歩前に強制的に移動させた。

 子供からすれば強い衝撃だろう。少女はコケそうになった所を踏ん張った。


「…………」


 少女は喋らない。

 少女は名乗らない。


「自己紹介してくれ」


 それでも少女は喋らない。

 寧ろ唇に力を込め「喋らないぞ」的な雰囲気を出し始めた。


「自己紹介をして下さい」


 とうとう敬語になってしまったカーティスの声を聞いても、やはり少女は喋らなかった。

 ここまで来るとカーティスの力で少女の唇をこじ開けることは不可能だろう。


「嬢ちゃん、名前は?」


 だからカーティスに変わって私が聞いてみた。


「……ヴィヴィ」


 私が尋ねたら素直に名前を口に出した。

 仕方なく名乗ったという感じだが名前を聞き出せたのだから良しとする。

 どうやら少女はヴィヴィという名前のようだ。

 見た目の割にヴィヴィは大人びた声だった。

 大人を通り越して、まるで年寄り婆さんのようなシワのある声だ。


 家の中にカーティスとヴィヴィを招き入れた。

 外は雪こそ降っていないが、先月の雪がまだ残っている。

 寒いだろうと思い私は薪ストーブの火力を少し強めた。

 中に入る時、ヴィヴィがやたらと小刻みに歩いていた。

 寒かったのだろうか? ヴィヴィの着ているコートは最低限の防寒は出来そうだが、最低限にしか出来そうに無い。少し気の毒だった。

 ヴィヴィが何故震えていたのか、その正解は知らない。私は超能力者では無いから人の心なんて読めない。


 私の部屋に入ってすぐの部屋の中央には古い長方形のテーブルと種類の統一が取れていない椅子が四脚ある。

 二脚ずつ向かい合うようなポジショニングだ。

 普段はカーティスが来た時や、私がくつろぐ時に使っている。

 この四脚の椅子をすべて使う機会は今まで一度も無かった。

 この家に訪れるのはカーティスくらいだからだ。

 強いて言えば宅配関連の人間や得体の知れない団体への勧誘が来るが、家の中まで入るような人間はカーティスの他にいない。

 だから椅子は二脚で十分なのだ。

 向かい合う四脚椅子のうち普段は使われない二脚は物置状態になっている。

 片方は外出用のバッグとコート置き場。

 もう片方は仕事で使う資料等を一時的に置いている。

 本来の用途で使われていない二脚の椅子はさぞかし不満だろう。


 二人以上の来客を想定していない家に本日は二人の来客だ。

 椅子の数は足りるが、座れる椅子の数は足りていない。

 私は大急ぎで物置の椅子を一脚に集中させた。

 これで三人座ることが出来る。

 私の向かいにカーティスとヴィヴィが座った。

 私の隣は今にも崩壊しそうな荷物の山だ。


 小汚いテーブルの上に、サイズも柄もバラバラなコップが三つ並んだ。

 ふたつはコーヒーでひとつは水だ。

 ヴィヴィは子供らしくコーヒーが苦くて飲めないらしい。

 不幸なことに、この一人暮らしの家はコーヒー以外の飲料物は水しか置いていない。

 実に自己中心的なドリンクのラインナップだ。

 ヴィヴィには申し訳ないが、ここは水で我慢してもらう事にした。

 

 コートを脱いだヴィヴィは下に白いセーターを着ていた。

 編み込みがハート形で可愛らしいが、かなりヨレヨレになってしまっている。

 だからこの服は過去形、”可愛らしかった服”だ。

 薄桃色のスカートも同様でシワが目立つ。

 気に入った服を長期間に渡って着続けていたのか、もしくは他に服がないのか……。


「それで……まさか今回の仕事、コレなのか?」


 目の前の少女が如何にも不満げに「コレじゃない、ヴィヴィ」と静かに文句を言っているが私は気にしない事にする。

 今は大人の話をしているから子供の出る幕じゃ無い。

 

「冊子の通り、今回の仕事はコレだ。コレが仕事になる」


 暫くの間ヴィヴィはコレという代名詞で呼ばれる事になるだろう。

 代名詞で呼ばれることに関してヴィヴィが聞き取れない程の声で文句を言っている。

 大人二人は無視した。聞き取れないからだ。

 文句があるのなら相手に聞こえるボリュームでないとダメだ。


「ヴィヴィが仕事って、なんの冗談だよ。まさかコレを預かれってか? ここは託児所じゃない。今までの仕事とは180度も違うじゃないか」


「珍しい仕事だってのは認める。三年間ヴィヴィを預かる事、それが今回の仕事依頼だ」


「珍しいを超えて稀少だな。明日は嵐かもしれない」


 カーティスが持ってくる仕事は当然、アークからの仕事である。

 アークは基本的に技術者が多い。技術者集団の彼らに出来ることには限界がある。

 そのような事情もあり、アークは第三者に仕事を依頼する事がある。

 依頼先の殆どはパラサイト、政治や交渉はアーク自らか、パラサイトよりも形がハッキリした集団に依頼する。

 技術者の多いアークだが、カーティスは技術者ではない。

 カーティスの仕事はアークの仕事をパラサイトに紹介する事である。

 依頼内容は多種多様だが、これまでの仕事に子守は聞いた事がない。

 少なくとも私はやった事は無い。

 聞いた事も無い。

 アークは技術者集団という事もあり、人材育成の名目で託児所や教育施設が充実している。

 子供を大切にしているので子供がアークの管轄外にでるのは希。

 外部に預けるのは珍しいどころか異例すら感じられた。


「私にとっても、こんな仕事は初めてだよ。私どころかアーク全体でも初の試みだ」


 コーヒーを一口だけ飲んでカーティスは唇を湿らせる。

 眉間を一瞬だけ掻いてから彼は話を続けた。


「今回は本当に特別でレアな仕事だ。報酬は弾ませてもらうよ」


 カーティスの胸元に付けてあるネームプレートには名前の下に"アーク役人・パラサイト担当"との肩書きが書かれている。

 彼は役人として生まれ、そして役人と名乗っている。


「三年間と言ったか? かなりの長期間だな」


「ヴィヴィにとっては三年間というのがポイントだ」


 呼ばれた訳ではないが自分の名前が会話に出てきた為だろう。ヴィヴィはビクッと一瞬の痙攣を起こした。

 それ以外でもヴィヴィは時折、体の震えを起こす。

 体がまだ温まらないのだろうか?


「具体的に三年間、どう預かるんだよ」


「その前にだな……」


 ここでカーティスは一回、深呼吸をする。


「俺たちアークがどんな集団だか知っているだろ?」


「常識的な範囲ではな」


 私はパラサイトというアークに依存した集団である以上アークの知識はある程度ある。


「技術者の団体……確か元々は大企業の労働組合だった。あとは……」


「間違っていないが、答えはもっと単純でいい」


「単純って何だよ」


 イマイチ話の流れについていけない。

 ヴィヴィも同様なのか、大人の会話について行けないようだた。

 今は退屈そうにコップの中の水面を覗き込んでいる。

 時折、足をバタつかせていた。


「俺たちアークの人間は人間は人間でもドールズだ。それだけの話だよ」


 私はようやく理解した。

 カーティスの言うアークがどんな集団なのかという事だ。

 本当に単純な事なのだが、それは非常に大きくて重要な事だった。

 アークの人間は普通の人間とは少し違う……。

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