パラサイト
人は何時から思想を持つようになったのだろうか?
人は何時から動物という概念を飛び出したのだろうか?
人は何時から神になったと錯覚したのだろうか?
意志を持った時か?
文明を手にした時か?
稲作を始め、家畜を飼い始めた時か?
争いを始めた時か?
こんなことを言い始めると多くの人は口に出さずとも心の中で「この人、チョットヤバイ」と思うだろう。
自分だってそう思う。
一体何時から私はこうなってしまったのだろうかと記憶をほじくり返してみたい。
私は人間だ。少なくとも神では無いと思っているし神になるつもりも無い。
夢も目標ない、そんな非常につまらない人間だ。
ただ食っていれば死ぬことはない。食えなければ死ねばいい……そう思っている。
私はかつて、イギリスと呼ばれた国で生まれた。
イギリスの何処かまでは知らないが、今はベルリンの郊外に住んでいる。
出身国や所在地という情報は、この時代では不要なものである。国籍なんて概念は一世紀以上前の古い考え方だ。
私や私の周りに住んでいる人間はパラサイトと呼ばれる。その名の通り寄生虫だ。
この如何にも貧乏臭い村に腐りかけの木材と錆だらけのトタンで建築されたハンドメイドの匂い漂う家に一人で暮らしている。
この村は面白い。家族構成が多種多様なのだ。
一人暮らしもいる。
夫婦で住んでいる場合もある。
子供がいる家もある。
子供だけの家もある。
家族構成が多種多様な代わり、この村に住む人間には一つの共通点がある。それは職業だ。
この村の近くにはデッカイ街があり、そこには多くの仕事がある。
この付近に住む人間は、そのデッカイ街から仕事を得て、収入を得て暮らしている。だからパラサイト、つまり寄生虫だ。
パラサイトの人間も、そうでない人間も皆、等しくパラサイトと呼んでいる。
強者から仕事をもらう、逆に言えば強者がいなければ生きていくことができない。そんな弱い寄生虫が、ボツボツと暮らしている村がここだ。
この村の名前を聞かれても回答に困る。
誰もが「パラサイトがいる場所」としか答えないし、そもそも村の名前を知らないし、名前を知ったところで生活の役に立つことはないだろう。
ここは仕事が欲しい人間が集まり、いつの間にか自然発生した建物が定着した村なのだ。
パラサイトという名前も、誰かが呼び始めたのが定着しただけ。地名ではなく職業名とい呼ぶべきだ。
パラサイトは地名でも国名でもない。
パラサイトは"集団"だ。
パラサイトが集団ならばパラサイトの仕事相手も集団だ。
アークという団体で、世界でも三本の指に入るほどの大規模な団体。
世界中に支局が存在するが、その本部はベルリンにある。
当然だが支局よりも本部の方が依頼される仕事は多い。
パラサイトがベルリン周囲に集まるのはこの為だ。
私もパラサイトなのでアークから仕事をもらい、生活している。
毎日同じ仕事をしているわけでは無い。
仕事内容はその時によって異なる。
ある時は資材の調達。
ある時は運転手。
場合によっては荒っぽい仕事も来る。
不定期な仕事で報酬にもバラツキがある。
多少の差はあるが一件辺りの報酬は結構にスバラシイといえよう。
私は一人暮らしなので家族連れの場合は知らないが、贅沢をしない一人暮らしなら十分な生活が可能だ。
そう、私は一人暮らしだったのだ。あの日が来るまで、その日まで私は一人でこの家に住んでいた。