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5.松明照らす闘技場

 ディアドコス家の先祖が隠した、クロノスの針。

 それを入手する為の最後の試練が、私達の眼下に広がっていた。


「これが、第三の試練か……?」


 針地獄の落とし穴を潜り抜けた先には、円形の巨大な空間があった。

 私達が立っているのは、その空間──まるで闘技場のような形になった場所の上層……二階部分にあたる。

 一階部分にあたる下層には数種類の魔物が(うごめ)いており、今居る二階部分から飛び降りる事でしか下に向かう手立ては無い状態だった。

 上層と下層にはそれぞれ壁に松明(たいまつ)が掲げられていて、ここに閉じ込められた魔物を利用したシステムであろう燃え続ける魔法の炎によって、灯りを確保していた。

 松明がぐるりと取り囲む空間の中、私は魔物達の(うめ)きが聞こえる一階部分を指差しながら、グラウに告げる。


「あの中に一匹だけ、首から鍵を下げた個体が居るわ。その鍵が無ければ、この第三の試練の間からは出られないの」


 すると、グラウはそれだけで全てを察したらしい。


「要するに、オレが下であいつらを蹴散らせば良いんだよな? で、その鍵を手に入れて先を目指す訳だ」

「そうよ。ここは丁度一階を見渡せる作りになっているから、私はここから貴方を援護するわ」

「そうと決まれば、早速片付けて来ますかね……っと!」

「あっ、ちょっと!」


 私が制止するよりも早く、グラウは下へ飛び降りていってしまった。

 まだ彼には説明しきれていない事があったのに……。

 彼は颯爽と着地すると、腰から短剣を二振り引き抜いた。

 と同時に、グラウの存在に気付いた魔物達が、一斉に彼へと目を向ける。


「ゴブリン四体にウェアウルフ三体、それにキラーフォックスが三体か……。この程度のザコ共が相手なら、獣化するまでもねえな!」

「グギッ!」

「グルルル……!」


 グラウから距離を取って、鋭く睨み付けながら威嚇する魔物達。

 最初に動き出したのは、群れでの戦闘を得意とする有名な魔物、ゴブリン達だった。

 ゴブリンは緑色の肌と鋭い牙を持つ小鬼で、人間のように武器を駆使して戦う事が出来る。二匹のゴブリンはこちらが攻撃する様子が無かったからか、痺れを切らしてグラウに襲いかかって来た。

 ゴブリン達は、グラウの短剣よりも少し大きな剣を振るう。けれどもグラウは両手でそれぞれ弾き返し、その反動でバランスを崩したゴブリン達の腹に、剣をグッと突き刺し、そのまま下に向かって斬り裂いた。


「グギャア‼︎」


 仲間があっさりと倒されて激昂するゴブリン達。

 怒りに任せて突っ込んできた生き残りに対して、グラウは冷静に対処する。

 まずは先程斬り裂いたゴブリン達の身体から短剣を引き抜き、軽く手首をスナップさせて血を払う。

 その次の瞬間、彼はあと数歩といったところまで迫って来たゴブリンの小さな(ひたい)に目掛けて、右手に持った短剣を投擲(とうてき)した。

 そのままバタリと倒れたゴブリンに興味を失ったグラウは、続いて彼の脳天目掛けてハンマーを振り下ろそうと大きくジャンプしたゴブリンに向けて、左手の短剣を勢い良く投げる。

 ハンマーゴブリンは悲鳴を上げながら地面に不時着し、自身のハンマーでぐしゃりと潰されてしまった。

 ほんの数十秒で魅せたグラウの鮮やかな手捌きに、私は驚きと尊敬の入り混じった感情を抱く。それと共に、彼への疑問も大きくなっていた。

 これほどまでの腕を持つ人狼が、どうして人類界で傭兵なんて仕事をしながら、魔界軍への敵対心を抱いているのか──謎は増すばかりだ。


「さて、これでゴブリンは片付いたな。……次はどいつがオレの相手をしてくれるんだ?」


 彼の言葉を理解しているのか、松明に照らされたウェアウルフ達は牙を剥き出しにして、目の前のグラウを威嚇していた。

 ウェアウルフという魔物は、主に人間と同じようにして二足歩行で行動するビースト系の魔物に分類されている。

 彼らはゴブリンのように武器や鎧を身に付ける事もあるのだけれど、ウェアウルフ達はゴブリン以上にタフであり、知能もある。仲間を殺されて怒ろうとも、ゴブリンのように考え無しに突っ込んで来るような相手ではないといわれている。

 けれども、ウェアウルフについては分かっていない事がいくつかあるのだ。


 ウェアウルフとは、純粋な魔物なのかどうか。


 これについての議論や研究についての書物が実家には何冊か置かれていたけれど、私もそれについては答えが出せないでいる。

 世界には私のような人間をはじめ、妖精族の一種とされるエルフや、犬や猫の身体的特徴を持つ獣人、小さな身体に大きなパワーを秘めたドワーフ、水中で暮らす事が出来る魚人など、多種多様な人類が存在している。

 その中で議論の中心になっているのが、『獣人』と『人狼』と『ウェアウルフ』の関係性についてである。

 これら三つの種族は、どれもが動物によく似た特徴を備えている、人型の生物だ。

 けれどもその内の二つ、グラウのような人狼とウェアウルフは魔族・魔物に分類される魔界の種族とされている。

 学者達の中には、そんな彼らと人間の混血によって誕生したのが獣人なのではないか、という主張をする者も居るのだ。それが原因で、何の罪も無い獣人が迫害されるケースもあるという。

 グラウ自身は、人狼は魔族の一つであると認識しているようだけれど……。私と問題無くコミュニケーションをとれているし、狼に変身出来る以外は人間と大差が無いように思える。

 魔族である人狼グラウと、今現在睨み合っている魔物のウェアウルフ達。

 彼らの違いと、私達との違い。

 どちらも『狼人間』と呼ばれる事のある、二つの種族。

 ……私は人間ではあるけれど、複雑な感情を胸に抱きながら、グラウの背中を見守っていた。


「そっちが来ないんなら、こっちから行かせてもらおうか!」


 グラウはそう叫びながら、ウェアウルフ達に向かって走り出した。

 しかし今の彼の手には、何も握られていない。

 ゴブリンにとどめを刺す際に使用された二振りの短剣は、今もまだ小鬼達の亡骸に突き刺さっているからだ。

 それに対してウェアウルフ達は、剣や斧といった近接武器を構えている。いくら彼が優れた傭兵であろうとも、武器も無しに知能の高い魔物の群れと戦うのは不利すぎるだろう。

 私は下層の青年に向かって、声を張り上げた。


「無茶よグラウ! 早く武器を拾って!」


 けれどもグラウは、


「心配すんな! オレがどれだけ腕の良い傭兵か、しっかりご主人サマに見せてやんなきゃなんねえだろ?」


 一切不安な様子を見せず、私の指示を無視して突き進んだのだ。

 そして、彼を斬り裂こうと振るわれるウェアウルフの長剣。

 私は、声も出せずに息を飲む。


「それぐらい、予測済みだッ!」


 次の瞬間、グラウは横薙ぎを払ってきたウェアウルフの攻撃を軽々と跳躍して(かわ)したかと思うと、そのまま勢いを殺さずに敵の頭に(かかと)を落とした。

 その衝撃で手から剣を離したウェアウルフから武器を奪い取ったグラウは、相手が反撃する暇も与えず、瞬く間に両断。

 続いて攻撃を仕掛けて来た斧持ちのウェアウルフには、奪った長剣でその攻撃をガードする事で対処していた。


「どうだイーリス……! 素手で武器を持った相手に挑んだとしても、それを利用しちまえばこっちのもんだ!」


 自慢気にそう告げたグラウは、心底楽しそうに笑っていた。

 まるで、木の棒で剣士の真似事をする少年のような、純粋に楽しんでいる笑顔だった。

 私はそ彼の姿にどこか微笑ましさを感じながら、同時に頼り甲斐のある人物だと改めて評価していた。

 人狼だろうと、身元の分からない相手であろうが関係無い。

 彼は──グラウ・キューンハイトは一人の戦士であり、私が雇った傭兵だ。

 そして私達は、共通の目的の為に手を結んだパートナーでもある。

 いつの間にか緊張の解けた私の口元にも、笑みが浮かんでいた。


「それでこそ、私が見込んだ傭兵よ! ただし……」


 私は無詠唱で宝石を作り出し、それを矢のように細く鋭い棒状のものへと形を整えた。

 それをグラウの背後に向かって、勢い良く発射する。


「能無しのゴブリンのように、無闇に突っ込んでいくのは褒められたものではないわね! 背中がお留守になっているわよ?」


 私が放った宝石の矢は、松明の灯りを受けて(きら)めきながら宙を斬り裂き、薄暗闇の中で彼の背後に迫っていたキラーフォックスへと命中した。

 彼に爪を向けていたキラーフォックスには、猛毒がある。

 その毒を発する爪によって身体に傷を与えられてしまうと、数時間で命を落としてしまうと言われている。

 無防備に背中を晒していたグラウは、そんな危険な魔物を警戒していなかったのだろうか。

 しかし私の疑問は、彼の言葉一つで全て解決してしまう。


「だってあんた、オレを援護してくれるんだろ? それなら、あんたを信じて背中を預けても問題ねえよな?」

「グラウ……!」


 私が貴方を援護する、とは確かに言ったけれど……!

 下手をすれば死んでしまうかもしれない魔物を相手に、出会ったばかりの雇い主をここまで信用するものなのかしら……。


「また何かあったら援護は任せるぞ、イーリス!」

「……わ、分かったわ! この私に任せておけば問題無いんですものね!」

「そういうこった!」


 ……しかし、彼に頼られて悪い気はしない。

 元々、彼との関係の始まりは、プロクスに襲われたところを助けてもらった事だった。

 彼に助けられたのだから、今度は私が彼を助ける番。

 そうやって互いに支え合いながら魔王軍を……魔界王を倒し、屋敷の皆を救うのだから──!



 グラウは自身の持つ俊敏性や戦闘経験の豊富さを遺憾無く発揮し、私も彼のサポートに徹した事で、無事に下層の魔物を退治する事に成功した。

 最後に残っていたウェアウルフの首に掛かっていた紐付きの鍵を取り外し、私達は下層に設置された第三の試練の扉の前に立つ。


「思っていたよりも早く決着がついて良かったわ。でないと……」

「でないと、何だ?」


 私は、首を傾げるグラウにこう言った。


「貴方が下層に飛び降りる前に、言い掛けていた事があったでしょう? 実はこの第三の試練は、あまり攻略に時間が掛かっていると、巨大なゴーレムが出現するように設定されていたそうなのよ」


 私の予想では、このまま時間制限を迎えてゴーレム戦に突入するものだとばかり思っていた。

 しかし、グラウは私の想像を遥かに上回る活躍を見せ、私もどうにか彼を援護するだけの技術は持ち合わせていたらしい。

 そんな二つの幸運が重なり、更なる死の危険を回避する事が出来たのは、実に喜ばしい事である。


「そんな仕掛けがあったのか?」

「ええ。魔導装置を利用した、時限式召喚魔法によるものだと記載されていたわ。貴方、気付いていたかしら? この試練の間にだけ、松明が用意されていた事に」

「松明……? ああ、言われてみればそうだな」


 すっかり薄暗くなってしまった試練の間には、いくつか炎が消えている松明があった。

 その数、上層下層合わせて十二本。

 それらの内、火が消えてしまった松明は四本だった。


「この部屋に使用されている松明は、指定された範囲に存在する生物の魔力を吸い上げて、松明に刻まれた炎魔法の術式によって炎を維持しているの。そして、試練が始まると同時に、もう一つの術式が作動する」

「その術式が、ゴーレムの召喚なんだな」

「そう。ここの松明には一体ずつの魔物の魔力を吸い上げるように設定されていて、その供給が途絶えると同時にゴーレム召喚の術式がスタンバイされる仕組みになっているのよ」


 用意された松明の本数も、私達が倒した魔物の数も、十二。


「私達がこの鍵を手に入れるまでに掛かった時間、どれぐらいか分かるかしら? 体感で良いから答えてみて」

「ええと……大体、二十分ぐらいか?」

「正解よ。あの松明は、試練開始から五分が経過する毎に、一本ずつ火が消えるようになっているの。消えている松明は全部で六本だから、私達の試練達成時間は約二十分になるのよ」


 私がそう言うと、グラウは納得したように何度も頷いていた。


「ああ、だから何だか少し薄暗いなと思ったんだ。という事は、もしかしてゴーレム召喚のタイムリミットってのは……」

「一時間で鍵を開けてここを出られなければ、動く石人形さんとご対面だったのよね。さあ、そろそろ先へ進みましょうか。ここを抜けたら、いよいよクロノスの針がある最後の部屋が待っているはずよ」


 頷き、グラウは扉に鍵を差し込んだ。

 そして私達は遂に、最後の間へと到着した。

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