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SS:偉大な将軍の墓参り

 ディルクは久々の休日であった。

「ディルク、お義父様のお墓が英雄広場にあると聞いたわ。私との結婚を報告してくださらないのですか?」

 リーナはディルクが父に顔向けできないと考えているのは知っていた。しかし、命をかけて国を守ったディルクの行いを義父が責めるなどと、彼女にはとても思えなかった。そして、ディルクが尊敬してやまない義父に妻と紹介して貰いたかった。

 しかし、ディルクは力なく首を振る。

「リーナ、ごめん。僕は二重に父を裏切ったから、とても会いに行けないんだ」


 ディルクは父である前将軍の最強部隊に所属していた。常に行動を共にし、将軍が倒されるようなことがあれば暫定的に最強部隊の指揮を執り事態の収拾に当たる。そして、顛末を次期将軍に報告をするのが任務であった。当時の副将軍は母親であり、次男のツェーザルが行動を共にしていた。

 父は自分ではなくツェーザルに将軍の座を引き継ぐつもりであるとディルクは考えていた。ディルクにはそのことに不満はなかった。長子だからと自動的に将軍になれるほど騎士団は甘くない。国内数万人の騎士の頂点に立つのだ。圧倒的な強さと威厳がなければ、騎士たちは将軍と認めないに違いない。剣の強さはともかく、柔和で優しそうなディルクでは騎士団をまとめられないとディルク自身も考えていた。


 そんな中、父が敵国カラタユートに卑怯な謀略で倒された。

 カラタユートがどのような卑怯な手を使ってきても、頑なに騎士道を守り抜いた前将軍。しかし、戦局は悪化していた。

 英雄として騎士たちに心酔され、皆に頼られきっていた父が倒されたら一気に国が傾く。そう危惧したディルクは新たな将軍になることを宣言し、騎士道を捨て、どのような手を使ってでも勝てと命じた。


 国が勝利すれば、ディルクは騎士道を捨てた愚かな将軍として死ぬはずだった。そして、ツェーザルが新しい将軍になる。それが父の願いだからと、ディルクはただひたすら派手な甲冑をまとって最前線で戦い続けた。

 しかし、目立ちすぎたため伝説化してしまい、ツェーザルに譲ることもできなくなり将軍を続けている。


 父が大切に守ってきた騎士道を裏切ったことに加えて、ツェーザルに将軍を継がせたいとの父の思いも裏切った。ディルクはそう考えて、父の墓に参る資格はないと思っていた。


「父は僕を許さないと思うよ。本当にごめん」

 いつもはにこやかなディルクの声は掠れて本当に辛そうだった。

「ディルク。誰が何と言っても貴方は英雄よ。私の国まで守ってくれたじゃない」

 もし、ブランデスが敗れることがあれば、カラタユートはリーナの母国をも滅ぼしただろう。王侯貴族は全員殺され、平民たちは生き残ったとしても奴隷に落とされてしまう。リーナにとってこれ以上の辛いことはない。

 ディルクは大国ブランデスを救っただけではなく、周辺諸国までも救った英雄である。


 ディルクが泣きそうな顔をしているので、リーナは彼の大きな胸に抱きついた。

「リーナ?」

「私はお義父様に会いたい。だから、英雄広場まで連れて行って。お義父様は立派な騎士様なのでしょう。義理の娘になった私のわがままを怒ったりしないと思うの」

「わかった。英雄広場へ行こう」

 ディルクはリーナをそっと抱きしめる。ディルクの大切な妻はいつもディルクの欲しい言葉をくれる。リーナの暖かさはディルクの罪を溶かしていくように感じた。




「お義父様、はじめまして。ディルクの妻になりましたリーナです。よろしくお願いします」

 ハルフォーフ家の庭師が用意した両手に抱えきれないほどの花束を、リーナは大きい塔のような前将軍の墓に捧げた。

「父上、僕の愛する妻のリーナです。僕は貴方を裏切りました。それでも、僕はリーナのために生きたいです」

 リーナと同じように花を捧げるディルクの手を、リーナはそっと握りしめた。

 穏やかな日差しが磨かれた墓の壁面に反射して輝く。

「お義父様はディルクに感謝していると思うの。何より大切な国民を守ったのだから」

 リーナにはそう思えてならなかった。

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