5 幼馴染と合流しました。
コンコンコン
二度あることは三度ある。いや、あれから結構時間がたっているから、今度こそ晩餐会の迎えかもしれない。
「はい。どうぞ」
「キョウッ!」
テーブルから体を起こそうとしたが、次に聞こえてきた声を耳にして、俺はテーブルから体を起こすのをやめた。
「どうしたの?大丈夫?キョウ」
「んー。ちょい疲れてる」
「VIP待遇なのに?なんで疲れてるの?」
「いろいろ技能を使ってみたからな。調子に乗って魔力枯渇までいった」
「こいつ無茶しやがる」
「まあ、でも錬成術師について色々わかったような気がする」
「さすがゲーマー」
「ゲーマーなのはお前もだろうが」
「それは否定しない。でもこっちは部屋に通されたかと思ったら早々に着替えさせられて、その後で技能を確認しようと思ったら、王女様からの呼び出しでこの部屋の隣の部屋に移動させられて、挙句の果てにはキョウがここに居るって言うから、こうして話を聞きに来てみれば机に突っ伏してるし。一体どうなってるの?」
怒涛の如く捲し立てる幼馴染の言葉を聞いてから、俺は体を起こして幼馴染と向き合った。
「着替えさせられたって言ってたが、見た感じ制服のままじゃん」
「下着を着替えさせられたんだよ。調節とか紐でする野暮ったいやつに。下着はすぐ駄目になるからその前に保存するとかなんとか」
「それって、メイドさんに言われたのか?」
「うん。まあそれで、寝室で着替えてから脱いだ下着を籠に入れたら、その場で洗浄魔法をかけて名前のメモを付けて持っていかれた」
「名前のメモってことは、クラスメイト達は全員着替えさせられたのかね?」
「そうだと思う。少なくとも乙女宮は確実」
「まあ、野郎はそんなにこだわらないからな。俺も着替えさせられてはいないし」
「なんで女子だけ?」
「…まあ、大体予想は着く」
生活水準の向上ってそういうことか。なるほど、だから布素材が多かったのか。
「えーっと、どういうこと?」
「錬成術師の技能を使えるようになれば、複製が出来るようになるんだと思う。それを見越して早めに確保したんだろ」
「あー、だからアレも持っていかれたのか」
「アレってなんだよ?」
「ん。ポーチに入れといた月のモノ用のやつ」
「オーケー、良くわかった」
まあ幼馴染の部屋のベッドのヘッドボードに袋ごと置いてあった物なので、その辺はさらっと流しておく。女性って色々大変だよね。
「そっか。あれ、でもそうすると、キョウがみんなの下着を確認することになるわけ?」
「そういうことになる可能性が高い。でも同意が得られないなら受けないようにする。何より気まずいし、変態やスケベ扱いは御免だ」
「ん。そうだね。私のやつはキョウに任せる。無くても困るし。まあ、アレはみんな使えるし、いっぱい作ってもらうことになるだろうけど」
「とりあえず了解」
「でも、そういったものの技術レベルが高いってことを、どうしてこの世界の人が知っているのかな?」
「王女様が言うには、30年前に異世界人錬成術師のミノリ・オオツキさんが亡くなってから、彼女の周りの生活水準が落ち始めたらしい。それを教訓にした周りの人が、最優先で確保するものをリスト化して各国の女性に配ってあるんじゃないか」
「前例が居たのか。納得。ところで何で女性限定?」
「いや、男に異世界人女性の下着を保存しろとか、生理用品を確保しろとか言わせるのは無理あるだろ。王妃様とか王女様とかに連絡が回ってるんじゃない?」
「あー確かに。王様や大臣がそんなこと言ったらドン引きだし」
そう言って小さく笑うと、幼馴染は上目づかいで俺を見る。
「ところで、今はふたりきりだよ?キョウ」
「大丈夫だと思うけど、一応警戒していた方がいいんじゃないか?ユカ」
「だって金曜日だよ。いつもなら私の部屋でまったりしてる頃だし」
「いや確かにそうだけどさ。まあここなら周りに学校の奴らも居ないし、少しくらいなら構わないのか?」
「じゃあ、キョウ成分を補給する。ぎゅーっと」
そう言うと水瀬由香里は俺の後ろに回り込んで背中側から抱き着いてきた。俺の左肩に顎を載せてふんふんと鼻を鳴らしている。犬っぽい。
「はー。落ち着く。キョウの匂い」
「クラスのアイドルらしからぬ発言だな」
「あれって男子が勝手に言ってるだけだし。私や志保や咲耶は女子で固まっているだけなのに、ウザ山のグループの男子が話しかけてきて迷惑」
「ユカのグループって、実際にはユカと西条さんと高梨さんの三人?」
「基本はそう。ウザ山が姫乃を使って私達に絡んでくるから、私達もウザ山のグループの一員と思われている。甚だ遺憾」
「トップカーストのグループだから、その辺はいいんじゃねえ?ギブアンドテイクってことで」
「ウザ山が居なければ完璧なんだけど」
さっきから城山の扱いが酷い。西条さんと高梨さんもそう思っているのだろうか。そうだとしたら城山、ざまぁ。
「まあ異世界に来たことだし、ウザ山のグループとは決別する。まあ姫乃とは話とかするけれど、男子はパス。表向きはまず水瀬グループを立ち上げる」
「実際は?」
「村雨グループに決まってる。むしろそれしかない」
「目立ちたくないんだけどなあ。まあ無理か」
「キョウらしからぬ聞き分けの良さ。何があった?」
「んー、俺の職業である錬成術師ってのがさ、この世界では重要視されている職業らしい。俺がここに居るのも特別扱いらしいし。それにユカが俺の部屋の隣に移ってきたのも、王女様が『ムラサメ様の大切な人』を聞いてきたんで、俺がユカの名前を教えたからだし」
「ほー。それってキョウが主人公ってこと?じゃあ私はヒロイン枠?」
「おそらくそうだと思う。ざまぁ系じゃなくて良かったよ。ユカに裏切られたら立ち直れねえ」
「ざまぁ系でもキョウが主人公なのは確定なんだ」
「まあな。ステータスからすれば俺なんて最弱だし、捨てられ勇者系の主人公間違いなしだわ」
「それって実は最強だったってパターンじゃん。たとえそっちだったとしても私はヒロイン枠。異論は認めない」
「なんでそう言い切れる?」
「私がキョウを好きだから。言わせるな恥ずかしい」
「お、おう」
面と向かって言われると返事に困る。ユカのやつはいつの間にか俺の肩に両手を置き、少しだけ頬を赤らめ、覗き込むようにして俺を見おろしていた。
「目、閉じて」
「晩餐会が終わってからの方がいいんじゃないか?顔合わせ辛いぞ?」
「大丈夫。朝の挨拶代りってことで」
その言葉を聞いて俺は素直に降参して、目を閉じてユカを受け入れる。土曜日の日課を繰り上げたと思えばいいや。
「ん。これで勝つる」
「何にだよ」
「王女様。キョウが色々とお世話になったみたいだから」
そう言ってユカは立ち上がるとテーブルの反対側にあった椅子を俺の左隣まで持ってきて腰を下ろした。そしてそのまま左肩にもたれ掛ってくる。
「キョウの隣は私の場所。異論は認めない」
「別に異論を唱える気はない。そもそも王女様には錬成術師のことをいろいろ教わっただけでそういうんじゃない。素材を貰ったからなんとなく錬成術師の才能を使ってみて、調子に乗ってさっき言ったみたいに魔力枯渇までいったけど。まあそのおかげでレベルも上がったし、幾つかの技能を覚えたり、熟練度が上がったりもしたけどな」
「ならいいけど」
なんとなく不満げなユカの気を逸らさないといけない。そう言えば他の人の空間収納がどうなっているか気になっていたんだっけ。ちょうどいいからユカに聞いてみよう。
「ユカの空間収納ってどんな感じ?倉庫って頭の中で念じてどんな表示が出るか教えてくれると助かるんだが」
「了解」
そうして調べてもらったユカの空間収納はこんな感じだった。
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空間収納 レベル1 0/20 上限100
技能:収納 倉庫 整理 消去
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うん。なんていうかしょぼいね。どうやら俺の空間収納は規格外のようだ。
「やっぱり錬成術師は特別なのかも。『レベル1 0/100 上限1000』だったし、解体っていう機能もあるから」
「キョウは完全に生産特化型だね。生産を極めるべし」
「まあそうなるだろうね。才能を使っていればレベルや熟練度が上がるのも確認したし。でも欲を言えば、ユカと一緒に冒険もしたい。折角のファンタジー世界だし」
「暫くは訓練だと思うけど。戦闘訓練を免除されないことを祈る」
「俺は錬成術優先だろうなあ。まあ、基礎能力を上げたいから戦わせてくれって言えばなんとかなりそう」
「騎士団によるパワーレベリングですね。わかります」
「否定できないのが悔しい!」
気が付くといつものように取り留めのない話を始めていた。晩餐会までこのままリラックスできるといいな。