2 裏切られました。
なんだかんだでサクサクとステータス確認は進み、最後の奴も勇者だったことは確認した。
そいつも含めて、城山を筆頭にした勇者連中が国王や隣に立つ少女に『俺(僕、私、あたし)達が国を守ります』アピールをしているのを、勇者以外の職業だったクラスメイト達と共に白けた表情で眺めてみる。
勇者連中は俺達を馬鹿にしているようにも見えるが、こちらにも水瀬由香里や西条志保、高梨咲耶、新田清吾、田沼浩二といったトップカーストやトップカースト寄りのメンバーが居るので気にしないことにする。その中でも最下位なステータスの俺は今のところ、クラスメイト達から虐げられたり、馬鹿にされたり、仲間外れにされたりはしていない。
俺よりも勇者以外の職業を馬鹿にしたような態度をとった勇者連中が、水瀬由香里や西条志保、高梨咲耶から『サイテー』のお言葉をいただいていた。ざまぁ。
ステータスだけ見れば勇者よりも高いステータスの職業もあるのだから、一概に勇者が優れているとは言えないし、国王達の扱いを見ても勇者は一つの職業としてしか見られていないようなのだが、勇者連中は浮かれて気付いていないようだ。
「ではひとまず、そなた達を宿泊施設に案内させるので、しばし身体を休めてくれ。歓迎会を兼ねて晩餐会を開催するので、その時にまた会おう」
「では、ご案内いたします。皆様、私の後に着いてきてください」
国王達と入れ替わるように部屋に入ってきたメイドさんに従って、俺達は廊下から回廊を抜けて、噴水の前に並ぶ数十人のメイドさんの前で横一列に並ばされた。
「男性は向かって右側の獅子宮、女性は向かって左側の乙女宮にお部屋をご用意しております。皆様、部屋付きの侍女に従ってくださいませ」
どうやら一人一部屋を与えられるようだ。部屋付きの侍女と聞いてニヤけている奴もいるが、馬鹿なことはしないで欲しい。
特に誰が誰の担当と決められているわけではないようで、端から順番にメイドさんがクラスメイトを従えて建物へと入っていく。右隣の奴が連れていかれたので次は俺の番と思って歩き出そうとしていたが、次のメイドさんは俺の左隣の奴を連れて建物へと入っていった。
そしてひとりとり残される俺。ぼけーっと噴水を眺めて時間を潰す。
「ムラサメ様。こちらへ」
クラスメイト達が建物内に消えていってから暫くして、俺達を連れてきてくれたメイドさんに呼ばれたので、俺は言われるまま彼女に着いていく。お約束で物置部屋にでも連れていかれるのかねえ。
先ほど歩いてきた回廊を戻って王宮の廊下に出て、召喚された部屋の前を通り越して階段を上る。
重装備の騎士が入口の左右に立っている通路を抜け、高級そうな絨毯の敷かれた廊下を進んで中庭が見える場所の部屋に案内された。
「こちらがムラサメ様のお部屋になります」
「あ、ありがとう」
「では、何かございましたらそちらの鈴にてお呼びください。晩餐会の際にはお迎えにあがりますので」
「はい」
メイドさんが一礼して部屋を出ていくのを見送って、奥にある寝室のベッドの上にうつ伏せで倒れこんだ。
ここって王宮の、警備されている区画にある部屋だよな。何故俺だけがこんな場所に?貴族とかの軟禁場所とか?
一人だけでクラスメイト達と隔離されて、気が付いたら厄介者扱いされるとかないよね?
クラスメイト達はともかく、幼馴染に裏切られたら立ち直れない自信がある。
わざわざこんなところに連れてくるんだから、クラスメイト達の宿舎に行くってことは出来ないんだよなあ。同様にこちらに来ることも出来ないだろう。
まあでも、ベッドは柔らかいし、部屋も大きいし、悪い待遇ってわけではないんだよなあ。
コンコンコン コンコンコン
うだうだと悩んでいると、扉を叩く音が聞こえてきた。晩餐会のお迎えだろうか?それにしては早すぎる気がするが。
「はい、どうぞ?」
寝室を出て鈴の置かれたテーブルの傍へ行き返事をすると、扉が開かれて召喚された部屋で見た金髪碧眼の少女が、使用人を従えて部屋の中へと入ってくる。
「お休み中失礼いたします。ムラサメ様」
「……何のご用でしょうか?」
警戒心全開で身構える。魅了されちゃたまらないからな。
そんな俺の警戒心など気にも留めずに、彼女はあの時と同じようなふわりとした微笑みを浮かべ、真っ直ぐに俺を見る。
美少女だが、残念だったな。俺にはそんな魅了は通用しない!
「そんな警戒なさらないでくださいませ。悲しくなってしまいますわ」
「仲間から隔離されて警戒するなっていうのは無理があると思うのだけれど」
「皆様、王宮内に居られるのに?」
「仲間は獅子宮と乙女宮とかいうところで、俺だけここに居るわけだが?」
厳密に言えばクラスメイト達全員を仲間と呼べるほどの交流があるわけではないのだが、それでも同じ世界から共に召喚されたということでは仲間と呼んでもいいだろう。いいよね?
「離宮も王宮内であることに変わりはありませんが、少し離れているのは確かですわね。その、お仲間の中にムラサメ様の大切な方がいらっしゃるのですか?」
「……まあ、居るな」
『大切な方』という言葉に幼馴染の顔が浮かんできたので、少女の問いかけを肯定すると、少女は再びふわりとした微笑みを浮かべて言った。
「ではその方をムラサメ様の隣の部屋にお迎えいたしますので、その方のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「は?なんでそうなる?」
「ムラサメ様のご要望には出来るだけ沿うようにとの王命ですので」
「はぁっ!?俺だけVIP待遇!?」
「あの、『びっぷ』とはなんでございましょう?」
「えーっと俺達の世界の他の国の言葉で、『最重要人物』のことを表す略称」
「まあ。それでしたら確かにムラサメ様は『びっぷ待遇』ですわ」
少女が口にするVIPの響きが可愛いなと思いつつ、俺は頭に浮かんできた質問を少女にぶつけてみる。
「それって、俺が錬成術師ってのが関係してる?」
「錬成術師という職業もそうですが、創造と神秘の才能を持つ方はとても尊いのですわ」
少女はそう言うと両手を合わせ、潤んだ眼差しで俺を見た。
その眼差しは、モブの俺が異世界転移のお約束に裏切られて、主人公の席に着かされたことを否応なしに気付かせるものであった。