1 どうせお約束の展開なんでしょう?
気が付くと、やけにゴージャスな石造りの部屋の中にクラスメイトたちと一緒に居た。
「ここはいったい…?どうなってるんだ?」
「さっきまで教室に居たわよね?なんでこんなところに居るの?」
「異世界転移キター!」
トップカーストの二人に続いて、空気を読めないオタ友の青野慎吾が喜色満面の笑顔で叫ぶ。
「青野君、その、異世界転移っていったい?」
「龍也、オタ野の言うことなんて聞くだけ無駄だよ」
「姫乃、情報は多い方がいい」
トップカーストの一人である城山龍也が、同じくトップカーストの一人である橘姫乃を諭し、青野に話すよう促す。
「え、えっと、我々は異世界に召喚させられたと思われるわけです。勇者とその仲間として。所謂、定番の異世界転移ですな。その証拠に、ほら、あの照明装置。蝋燭でも電灯でもなく、不思議な光の玉が載っている」
そう言って指差された照明器具を見ると、確かに日本では見たことのないものが室内を照らしていた。
「……剣と魔法の世界かしら」
「ふぉっ!?水瀬殿、わかっているでござるな」
「えっと、リング物語みたいだなって思ったんだけど」
「あー、確かに、そんな感じの建物だね」
「リング物語って、あたしたちが中学んときだっけ?懐い」
「じゃあさ、街の外だと魔物とか出てきちゃうわけ?ヤベー」
橘さんの近くに居た水瀬由香里の言葉をきっかけにして、青野とトップカースト寄りのクラスメイト達が話し始めるのを眺めつつ、俺は今後の展開を予想して溜息を一つ付いた。
どうせ城山が勇者で、俺たちモブのうちの誰かがハズレ職業なんだろ。はいはいお約束お約束。
願わくは俺がハズレ職業ではありませんように。まあハズレ職業の奴が成り上がるってのもお約束なんだけど、俺はモブのままでいい。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開かれて重装備の騎士や、暗い色のローブを着て杖を持った人、白いローブを着て分厚い本を持った人、煌びやかな衣装を着た人たちが部屋に入ってきて、頭に冠を載せた金髪碧眼の偉丈夫が、両手を広げて声高に言い放った。
「クレンティーヌ王国へようこそ、異世界の方々。私は国王のレオナルド・フタミ・ディ・クレンティーヌ。貴方方の来訪を心より歓迎します」
国王の後ろで数人の騎士がテーブルを組んで、その上にノートパソコンくらいの大きさのガラス板のようなものを置いている。おそらく計測器みたいなものだろう。
「此度は突然このクレンティーヌ王国に来訪いただいて申し訳ない。だが、これはそなた達を助けるためのものでもあったのだ」
「俺たちを助けるため?どういうことだ?」
さすが城山。しれっと国王に聞き返しやがった。そこに痺れる、憧れるぅ。まあ嘘だけど。
「この世界には我らがクレンティーヌ王国のほかにもいくつかの国が存在する。そのうちの一つに魔族が治めるブリガンド帝国というものがあるのだが、そのブリガンド帝国が異世界人召喚を行うという情報を手に入れたのだ。そこでその召喚先をここに変更したのだよ」
「魔族に召喚されるはずだった俺たちを王様の所に召喚してくれたってことか?」
「うむ。此度のような大規模召喚は我らには出来ぬからな」
「ふふ。皆様が無事、クレンティーヌに来られて良かったですわ」
国王の隣に居た金髪碧眼の少女がそう言ってふわりと微笑むと、城山をはじめとしたクラスメイトの男子連中が一斉に頬を染めた。
あれ、これって、魅了じゃね?いや、まあ美少女だけどさ。
「ブリガンド帝国はそなた達を戦力として召喚したと考えられるのだが、我々クレンティーヌ王国ならびに人族の国々はそなた達に戦いを強制するようなことはしない。だが、我々にはそなた達を召喚するような力が無いので、そなた達を元の世界へ戻してやることも出来ぬ」
「俺たちは元の世界には戻れないということですか?」
「我々にはそなた達を人族の国に呼び寄せるのが精いっぱいでな。だが操られて戦いの矢面に立たせられるよりは良いと思うぞ」
「俺たちは戦闘経験の無い、ただの学生なんですけど」
「異世界人は強力な才能を持っているのだ。こうして我々と普通に会話しているのも才能の一端であり、その他にいくつかの才能を貰っているはずだ」
「才能、ですか。それを見ることは可能ですか?」
「この水晶板に手を置くことでステータスを見ることが出来る。確認はしておいた方が良いだろう」
国王め、ごく自然にステータスチェックへと話を持ってきたぞ。おい、城山。警戒心ゼロで水晶板に近付いてるんじゃねえよ。
城山が右手を水晶板の上に置くと、水晶板を置いたテーブルの向こう側に居た白ローブを着て分厚い本を持った人の前に水晶板と同じくらいの大きさの半透明な板が浮かび上がり、そこに記された文字を読み上げていく。綺麗な女性の声だった。
――――――――――
リュウヤ・シロヤマ
レベル1
職業 勇者
体力 250
魔力 200
耐物 80
耐魔 60
俊敏 25
幸運 40
才能 異世界人・言語理解・聖剣召喚
技能 空間収納1・状態異常耐性1・光魔法1・生活魔法1・剣技1・盾技1・鼓舞1・指揮1
――――――――――
やっぱり城山が勇者か。だが、変だな。国王達が静かなんだけど。むしろ心なしか落胆しているようにも見える。ってか、異世界人って才能になるのね。
あれ?これって『おお!勇者様!』ってなる場面じゃないの?
「シロヤマ殿は勇者のようですな。他の方々も、自分のステータスを確認なさるが良い」
「龍也すごーい。じゃあ次、あたし」
「その次は拙者でござるな」
「キモッ」
橘さん、青野の順でステータスを確認していく。
――――――――――
ヒメノ・タチバナ
レベル1
職業 勇者
体力 180
魔力 220
耐物 45
耐魔 52
俊敏 32
幸運 25
才能 異世界人・言語理解・聖槍召喚
技能 空間収納1・状態異常耐性1・水魔法1・風魔法1・生活魔法1・槍技1・敏捷1
――――――――――
――――――――――
シンゴ・アオノ
レベル1
職業 魔導士
体力 200
魔力 400
耐物 42
耐魔 72
俊敏 20
幸運 30
才能 異世界人・言語理解・魔導
技能 空間収納1・火魔法1・水魔法1・風魔法1・土魔法1・雷魔法1・生活魔法1・杖術1・詠唱1
――――――――――
橘さんは勇者、青野は魔導士。橘さんは城山と同じ職業ということで城山の隣ではしゃいでいた。
相変わらず国王達は静かで、クラスメイト達に淡々とステータスの確認を促し、クラスメイト達が水晶板の前に列を作り始める。
ここで浮いても仕方がないので、俺も適当なところでその列に並んだ。最後だと巻き込まれ召喚者とかになりそうだし。
「これって、異世界召喚だよね」
「……まあ、そうだな」
「ハズレでも、見放したりしないでね」
「しねえよ。お前も裏切らねえだろ?」
「もちろん。でもさ、勇者様万歳!ってならないのが不思議なんだけど」
「城山は典型的な勇者様だけどな」
「ウザいところとかね」
後ろから幼馴染に小声で話しかけられて、俺も周りに聞こえないよう返事を返す。俺は青野と同じオープンオタク、幼馴染は隠れオタクだからである。
俺の前に並んでいたクラスメイト達は、勇者、賢者、魔導士、剣士、回復術師、魔法戦士、騎士といった職業を発現させていくが、相変わらず国王たちの反応は鈍い。勇者ってこの世界では一般職なのかね?
そんなことを考えているうちに俺の番がやってきた。流れ作業的な感じで、俺も他の奴ら同様に水晶板に右手を置く。
――――――――――
キョウスケ・ムラサメ
レベル1
職業 錬成術師
体力 100
魔力 100
耐物 20
耐魔 20
俊敏 10
幸運 10
才能 異世界人・言語理解・創造・神秘・魔力錬成
技能 空間収納1・無属性魔法1・生活魔法1・鑑定10・調合1・錬成1・複製1
――――――――――
どうやら俺は生産職らしい。その証拠にステータスが軒並み低く、ハズレ職業である可能性が高い。
難癖を付けられる前にステータス確認の終わった奴らの中に紛れ込み、幼馴染の職業を確認しようと水晶板の置かれている方へと視線を向けて、国王達の様子がおかしいことに気が付いた。
幼馴染の職業は結界術師で、ステータスは魔導士に近いものだった。それがアタリ職業だったのだろうか?
まあ、幼馴染が迫害されないのなら安心だ。
城山や橘さんと話している幼馴染を眺めつつ、お約束だとアイツにも裏切られるんだよなあと考えて、それから頭を横に振った。