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☆ 1時間目・数学

「いじめに発展する前に止めないと」


 1時間目の数学の授業中、後ろの席から届いた手紙にそう書かれていた。やや筆圧の高い、読みやすい字だ。手紙に書かれた文章はその1行だけで、宛先も差出人の名前も書かれていなかった。もちろんどちらも書く必要などない。彩から私への手紙だ。


 いじめを止めること。それは阿部の味方になり、上原のグループと敵対することを意味するのではないか。私は、できることなら今回の件に関わりを持ちたくないと思う。極論を言えば、クラス内でどのようなことが起ころうとも(例えば私の左前に座っている野田何某くんが明日急に転校するとしても)、私はなんとも思わない。ただ彩と仲良く出来ればよい。


 しかし彩はそうは思わないのだろう。なにせ彼女は学級委員なのだから。


 そして彩がそうしようというのなら、私に選択の余地はない。私は私にできることを探す。


 私にはいじめをなくす方法などわからない。しかし今回の件は、単なるいじめではない。阿部にちょっかいが出される理由ははっきりとしている。その原因を突き止められれば、「いじめの発展を止める」と言う課題に対しての糸口が見えてくるかもしれない。


 授業では多項式が坂本先生によって退屈に説明されている。坂本先生はもう60歳に近いおじいちゃん先生だ。その単調な声はまるで子守歌で、月曜の1時間目からこれでは眠くなってしまう。頭がぼんやりとしてくる前に、くしゃみの原因について少し頭を捻ってみることにした。




 いつもは阿部の近くに寄ると誰かがくしゃみをするなんてことはなかった。それが今日はどうだろう。彼女と向かい合って会話をした大津と高山先生の2人が立て続けにくしゃみをした。どちらかひとりだけがくしゃみをしたというのなら、ただの偶然で済まされたかもしれない。しかし、わずか5分の間に2人がくしゃみをしたとなると、阿部に恨みがなくと原因は彼女にあるのではと勘ぐってしまう。


 いつもはそんなことはなかった。ということは、いつもと違う箇所を探してみればよい。以前に読んだ本にそのようなことが書かれていた気がした。私は間違い探しをするみたいに、普段との相違点を洗い出してみることにした。


 まず1点目。今日は阿部がマスクを着けている。


 風邪なのだろうか。例えばクラスでは実は風邪が流行していて、そのせいで大津も先生もくしゃみをした、というのはどうだろう。見れば大津はさっきから何度か咳をしている。しかし先ほど朝の学活をしていた高山先生は、特に体調が悪そうには見えなかった。2人も風邪であったという説は一時保留として、ほかに普段との相違点を探してみよう。


 2点目。そういえば今朝は阿部が教室に入ってくるのが遅かった。


 寝坊だろうか。かくいう私も今朝は登校途中にゴミを拾ってくるという美化委員の活動のために、いつもより5分だけ早めに家を出たのだった。それというのも先週金曜日に行われた第1回委員集会で4月度の具体的な活動方針が決まったからで……。


 待てよ。委員集会が行われたのは何も美化委員だけではない。先週金曜日の6時間目を利用して、すべての委員会で集会が行われたはずだ。そして多くの委員会では、今日から委員会活動が本格的に始動することになる。


 美化委員もその例にもれず、「登校途中に目についたゴミを1個以上拾ってくる」という目標が決められた。本日から4月の最後の登校日までそれは続けられる。


 となれば、飼育委員でも今日から委員会活動が本格化した可能性が高い。例えば阿部が今朝、このクラスになって初めて飼育小屋に行き、うさぎ等の小動物の世話をしていたとしたら……。


 私はノートをちぎり、その上にシャーペンを走らせる。書き終わるとその紙片を小さく折りたたんでかわいげのない簡素な手紙を完成させた。宛先は阿部菜穂子だ。

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