ちゃんと見てるよ
とっても元気な子供達。いつも笑っていて、とても幸せそうな子供達が、今日もみんなで遊んでいました。その中心には、一人の少女が立っています。この少女もいつも笑っていて、とても幸せな表情をしていました。
「ねぇ、おねえちゃん。こんなのみつけたよ」
「ぼくもぼくも。ほら、こんなにいっぱい」
「わたしもみつけたよ」
少女は子供達に囲まれていました。子供達は両手いっぱいにどんぐりを持っています。
「わぁ、こんなに沢山見つけるなんて、みんなすごいね」
少女がそう言うと、子供達はとても嬉しそうです。そして気が付くと、子供達が集めたどんぐりが山のようになっています。
「こんなにいっぱいどうしよっか」
少女が褒めれば褒めるほど、どんぐりはどんどん増えていきます。
「そうだ。ちょっと待っててね」
少女はそう言うと、走ってどこかへ行ってしまいました。その間、子供達はじっとその場を動こうとはしません。そして、少女が帰ってくると、また子供達の賑やかな声でいっぱいになるのでした。
「じゃ~ん! これなぁんだ!」
「ぼう、がいっぱい?」
「おうちでみたことある!」
少女が持ってきたものを自慢気に見せると、子供達は口々に言い合っています。
「これはねぇ。ツマヨウジっていうんだよ。これとどんぐりを使って、色んなものが作れるんだ」
少女はそう言って、どんぐりを一つ手に取りました。そして、どんぐりの帽子の真ん中に、爪楊枝を刺したのです。
「ほら、これでどんぐりゴマの出来上がりだよ」
少女は出来上がったコマをクルっと回すと、カタカタと踊るようにどんぐりが回りだしました。それをみて、子供達は大はしゃぎです。
「ぼくもつくる!」
一人の子供がそう言うと、みんなしてどんぐりの取り合いが始まりました。
「みんな上手だね」
少女がそう言うと、子供達は一層嬉しそうにしています。
「こんなのも作れるんだよ」
少女は三つのどんぐりを使ってやじろべえを作ったり、もっと沢山のどんぐりを使って動物の形を作って見せます。すると、子供達はますます元気いっぱいになりました。山のようにあったどんぐりは、あっという間に色んなものに変身して無くなってしまいました。子供達は作ったものを自慢したり、コマを使ってどちらが長く回していられるか競い合ったりしています。
ひとしきり遊び終わると、少女は立ち上がって言いました。
「じゃあみんな、作ったものを持って秘密基地に行こう!」
少女は子供達を連れて、移動を始めました。みんなで手を繋いで、ご機嫌に鼻歌なんかも歌っています。
「はい、到着!」
少女の秘密基地は、浜辺の近くの古びた小屋でした。今では使われていないであろう小屋は、綺麗なものではありません。しかし、それが秘密基地としてのいい味を出しているのです。それに、少女や子供達が持ち寄ったもので溢れていて、ここには沢山の夢が詰まっているのです。
「ここにみんなで作ったものを飾っておこう」
少女はそういって、みんなが作ったものを大事に並べ始めました。すると、そこへ予期せぬものがやってきたのです。
「おいお前ら、こんな所でなにやってんだ」
突然やって来たのは、男の声でした。その声に驚いた少女は、小屋の中で怯えています。
「え、な、何」
恐る恐る少女が顔を覗かせると、そこには見知った人物が立っていました。
「あれ、理緒じゃないか。こんな所で何してんだ?」
そこにいたのは、少女のクラスメイトの男子だったのです。
「な、な、な、なにもしてないよ!?」
「じゃあ、なんでこんな所に居るんだよ」
「えっと……遊んでいるよ? そ、それより、なんでこんな所に居るの?」
「なんでって、その小屋うちのだし。お前らこそなんで勝手に入ってんだよ」
「そ、そうなんだ。ごめんね。勝手に秘密基地にしちゃってた」
「秘密、基地? お前もう高校生だぞ」
少年との会話の最中、少女はずっと顔を覗かせているだけで、とても怯えているようでした。
「ね、ねぇちゃんをいじめるな!」
少女を守るために飛び出したのは、一番やんちゃな男の子でした。そして、次々に他の子供達も出てきます。
「え、なんでそうなるんだ」
子供達に取り囲まれて、少年はたじたじになっています。
「みんなありがとう。もう大丈夫だからこっちにおいで」
子供達に勇気を貰って、少女もようやく小屋から出てきました。
「ごめんね。なんだか勝手に押しかけちゃったし、変な事に巻き込んじゃって」
「いや、いいけど。この秘密基地を使って何してんだ?」
「んーっと、みんなで作ったものを飾ったり、この街の平和を守ったり?」
少女が答えると、少年は大笑いを始めました。
「あぁおっかしい。この街の平和を守ってるのか。そりゃすげぇな」
「あ、馬鹿にしてるでしょ?」
「いや、悪い悪い。本気でそんな事言うとは思わなかったから。そうか、久々にこういうのも悪くないな」
少年はそういうと、適当な枝を手にしました。そして、突然不気味な笑い声を上げたのです。
「ふっふっふ。お前たちがこの街の平和を守ってるやつらだったのか。ようやく見つける事が出来た」
突然の出来事に、少女も子供達も驚いて固まってしまいました。ですが、少女だけはすぐに理解する事が出来ました。
「よ~し。みんなであの侵入者をやっつけちゃえ!」
少女がそういうと、子供達は元気に声をあげました。
「ふっふっふ。お前たちにこの俺を倒すことが出来るかな?」
少女と子供達は、この街の平和を守るために一生懸命戦いました。最初は怖くてなかなか前に出る事が出来ませんでしたが、少女が何度も勇気付ける言葉を投げかけると、次第に子供達の恐怖もなくなり、分後にはいつもの力を発揮出来るようになったのです。
「ぬ、ぬお、よ、よくも。なら、これならどうだ!」
一斉に取り囲まれて、少年は思うように戦えません。そんな時、一人の子供が少年につかまってしまいました。
「ふっふっふ。これで手も足もでまい……なに!?」
少年の人質作戦は、子供達にはまったく通用しません。みんなはお構いなしに少年への攻撃を続け、あっという間に少年は敗北してしまったのです。
「みんなよくやった! これで今日もこの街の平和は守られたね」
少女がそう言うと、子供達は大喜びです。まるで、本当にこの街を守ったかのような誇らしい顔をしていました。
そうこうしていると、辺りはすっかり茜色に染まり、お別れの時間がやって来ました。
「あぁ、今日も楽しかった。また遊ぼうね」
元気にお別れを済ませて、残ったのは少女と少年だけになりました。
「いつもこんな事してるのか?」
「うーん、だいたいそうかな」
「もしかして、学校に友達居ないとか?」
「ひどいな! そんな事ないよ。明日はお友達とお買い物に行くんだから。それより、今日は本当にありがとう。おかげですっごく楽しかった」
「大した事じゃねぇよ。俺も弟が居るけど、あんま身体強くないから外で遊べないんだ。そのせいか余計にヒーローに憧れてるみたいでな、よく悪役やってたんだ。だから、やられ役は得意ってわけ」
「そうなんだ。優しいお兄ちゃんなんだね」
「理緒もいいお姉ちゃんやってんだろ」
「そうだといいけど、私の場合は自分が楽しんじゃってるからね」
「いいんじゃね。でも、子供に守られてんのはダメかもな」
「だって、怖かったんだもん。なんか突然の出来事って苦手で……ついね」
「そっか。すごい元気なイメージだったけど、案外臆病なんだな。こうやって話すのは大丈夫なのか?」
「うん。一回慣れてしまえば平気かな」
「そっか。あんまり子供達に心配かけんなよ。それじゃ、俺はそろそろ帰るわ。あ、それとあの小屋、これからも自由に使っていいから」
「ありがとう。またね」
少女はいつものように一人で帰って行きます。例え一人でも、少女にかかれば退屈な時間なんてありません。一人で鼻歌を歌っているかと思えば、道の脇に咲いている草花や浮かんでいる雲に目を奪われたりしているのです。そうして、まっすぐ帰れば十分とかからない道を、三十分近くかけて帰ったのです。
次の日の放課後、少女は同級生の友達と買い物に出かけます。
「この服可愛い!」
少女が来ていたのは近くの服屋さんです。
「理緒はほんとに可愛い服が好きだね。もっと大人っぽい服とか興味ないの?」
少女が惹かれているのは、ふりふりの付いたとても可愛い洋服でした。ですが、友人の好みとは合わなかったようです。
「これなんかどう?」
友人が選んだのは、シンプルで落ち着いた印象を受けるものでした。それは、少女の好みとは正反対のものでしたが、少女は喜んで試着室へと向かっていきます。
「じゃ~ん。どうかな?」
「うん。似合ってると思うよ」
「ほんと? やったね。これで、私も大人っぽくなれたかな」
少女は褒められて、とても嬉しそうな顔をしています。
「いや、それはないけど……」
「え、そうなの……?」
「黙ってれば大人っぽく見えなくもないけど……理緒って落ち着きないから」
「うぅ……そうだよね。もっと考えて動かないとダメだよね」
少女はとても素直でした。自分の良い所も悪い所も隠そうとはせず、人の忠告にも耳を傾けます。ですが、次の瞬間には忘れてしまうという難点もありました。
「わぁ、こっちの服も可愛いね!」
「理緒……考えて行動するんじゃなかったの?」
「え、うん。ちゃんと考えてるよ!」
次から次へと表情を変える少女に、周りは大忙しです。
「この服着てみてよ」
少女が友人に差し出したのは、やはり可愛らしいものでした。
「私こういうの似合わないから……」
「そんな事ないよ。きっと似合うよ」
「もう、理緒はいつも強引なんだから。じゃあ、着てみるよ」
少女は行動は予測不能で、周りはいつも振り回されてばかりです。ですが、不思議とみんなの顔には笑顔がありました。
「……どう、かな?」
「すごく可愛いよ。今度デートの時に着ていけばいいよ!」
「え、ちょ、ちょっと、なんで?」
「へへーん。理緒さんはなんでも知っているのです。ちゃんと似合ってるから、可愛い服も着てみたら?」
「……うん。ありがとう」
少女はとても自由奔放ですが、いつもみんなの事を大切に想っていました。だから、しっかりした一面を見せて、周りを驚かせる場面も度々あるのです。
「なんか、悔しいな。理緒のくせに!」
「えぇ!? せっかくいい事言ったのに」
「いつも馬鹿な事ばかりしてるのに、こんな時だけまともな事言っちゃって。ずるいぞ」
「ひどいなぁ。これでもしっかりしてるところもあるんだよ」
「それがずるいの! 子供っぽいくせに、妙な所で大人っぽいんだから。なんで彼氏出来ないんだろうね」
「え、それは……なんで、だろう、ね」
自分の話題になった途端に、少女は少し動揺しているようでした。
「どうかした?」
「ううん。なんでもない。さぁさぁ、他のも見ようよ」
少女はすぐに切り替えて楽しもうとしていますが、友人はそれを許しませんでした。
「ちょっと待った! ちゃんと言いなさい」
「ほんとに何もないよ」
少女は目を逸らして言いました。
「こらこら、そんなわかりやすい態度で誤魔化せると思ってるの?」
「ほんとにほんと、なんでもないから……」
少女は平静を保ってはいるものの、友人の顔を見ようとはしませんでした。
「はは~ん。さては好きな人でも出来たな」
友人はにやにやと嬉しそうに言いました。
「違うよ! そうじゃないけど……」
「じゃあ、告白でもされた?」
「う……」
「え! そうなの? いつ? 誰に?」
「三日前に隣のクラスの人から……」
「返事は?」
「う……よくわからなくて、謝って逃げちゃった」
「はぁ? 全く理緒は肝心な時に臆病なんだから」
「だって、よく知らないし、話した事だってないんだよ? それに、そういうのに興味がないっていうか、怖いっていうか……もっと時間が欲しいっていうか……ダメだね私」
少女は周りに勇気や元気を与えることは上手でも、自分に与えるのは苦手でした。それは本人も気づいていて、そんな自分をあまり好きではなかったのです。
「まぁ、そんな感じ! よし、切り替えていこう」
少女は少しだけ暗い表情を見せましたが、すぐに笑顔いっぱいの明るい表情に戻りました。
「やれやれ、ほんと切り替えの速さだけは天下一品なんだから。よーし、今日はとことん遊んじゃおう」
こうして二人は日が暮れるまで楽しい時間を過ごしました。
「今日は楽しかったね。私寄るところあるから行くね」
「うん。また明日学校でね」
友人と別れると、少女は秘密基地へと向かって行きました。少女は毎日通って、子供達が居ない間に部屋の片付けや、次の作戦を考えたりしているのです。ですが、今日はいつもと様子が違います。いつもならとっくに静かになっているはずが、まだ子供達の声が聞こえてきます。
「あれ、誰か残ってるのかな」
少女が急いで駆け寄ると、そこには見慣れない光景が広がっていました。
「うぁ、やられたぁ。今日のところは負けたことにしてやるが、次はこうはいかないからな」
そこには、昨日の少年が子供達と遊んでいる姿がありました。
「みんな、何してるの?」
「あ、おねえちゃん。ぼくたちきょうもへいわをまもったよ」
「ほんと? みんなすごいね。お姉ちゃんも一緒に戦えなくてごめんね。でも、今日はもう遅いから帰らないと」
少女が褒めると、子供達は満足した表情で帰っていきました。そして、また少女と少年だけがこの場に残ります。
「あの子達と遊んでてくれたんだ?」
「まぁな。ふらっと来てみたら、なんだか退屈そうだったから、襲撃してやったぜ」
「ふふふ、悪役お疲れさま」
「ほんと、あいつら容赦ねぇのな。元気すぎんだろ」
「そうだよね。一日中走り回って、ずっとにこにこしてるのに、全然疲れないんだからすごいよね」
「理緒も似たようなもんだと思うけどな」
「ほんと? っていうか、それ褒められてる?」
「どうだろ。それなりに馬鹿にしてるかもな」
「ひっどい! 今度はもっときつくやっつけてもらわないと」
「おいおい、勘弁してくれよ」
「また、あの子達と遊んでくれる?」
「あぁ、時間がある時は顔出してみるよ」
戦うべき相手を見つけた子供達は、毎日のように激闘を繰り広げていました。そして、その度に窮地に立たされてしまいますが、少女を中心とした団結力で、何度もその危機を乗り越えていったのです。
そんな日々を過ごしていると、少年に大きな変化がありました。
「ぐっ、ま、負けたぜ」
少年は今日も子供達に負けてしまいました。それを見て、子供達は大喜びをしています。ですが、今日の少年はそのまま立ち上がってこちらにやって来ました。
「なんだ、まだやるのか!?」
やんちゃな男の子は武器を構えて立ち塞がります。
「今まで済まなかった。どうやら俺にも正義の心ってやつが芽生えちまったようだ。これからは、俺も一緒に戦わせてくれないか?」
少年の申し出に、子供達は顔を見合わせています。そして、子供達だけのヒソヒソ話が始まりました。
それからしばらくすると、子供達の間で意見がまとまったようです。
「ほんとだろうな。ねぇちゃんいじめたらゆるさないからな!」
「あぁ約束するよ」
「じゃあ、なかまにしてやってもいいぜ」
こうして、今日から少年はこの街の平和を守る一員となりました。
「いいか、りーだーはおれだからな。ちゃんということきけよ」
正義の味方と言っても、新人の待遇はそれほどいいものではありません。そのほとんどが雑用で、少年は言いように使われていたのです。そして、あれやこれや命令を受けていると、あっという間にお別れの時間になっていました。
「あいつらまじで元気だな」
「すごいね。ほんと容赦ないって感じ」
「わかってるなら止めてくれよ」
「ふふふ、だって、見てるだけで面白かったんだもん」
「理緒もひでぇのな」
「へへーん。日頃馬鹿にされてるお返しだよ。それより、なんで仲間になろうと思ったの?」
「たまには正義の味方にもなりたいじゃん。それに、理緒とも仲良くしたいと思ったから。敵同士だとそうはいかないだろ」
「なにそれ。今まで通りでもこうして話せるのに」
「もっと近くで……いや、なんとなく同じ舞台に立ってみたくなったんだよ。これからもよろしくな」
「ふーん、そっか。じゃあ、改めてよろしくね」
もうこの街の平和を脅かす者は居なくなりました。ですが、次の悪者が現れた時に備えて、みんなは毎日特訓を重ねています。そして日が暮れた頃には、少女と少年が楽しそうに作戦会議をする。そんな日々がいつまでも続いたのです。
こんな高校生が居るのかどうかはわからないけど、こんな関係には憧れる。こんな社会人ならよく遭遇するんだけどね(笑)今からでも青春がしたいな!
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