ダンボール
学校帰り、自宅の前の電柱の影に小さなダンボール箱が置かれていた。
フタはきちんと閉められており、前面には『拾ってください』と書かれた紙が貼り付けられている。
オーソドックスで簡潔でとてもわかりやすい。
なかから、鳴き声らしきものは聞こえないが、小さなものが動く音がコトコトとかすかに聞こえる。
なんとなく興味は持ったものの、箱があまりキレイではなく、触ろうとは思えなかった。
名残惜しく思いつつ、電柱の向かいにある自宅の玄関をくぐった。
制服から部屋着に着替え、二階の自室へと上がり、窓から箱を見下ろす。
ダレかが開けてくれるのを待つことにしたのだ。
すると早速こちらへ歩いてくる人影があった。
学生服の男子がふたり、声は聞こえないものの談笑しているのがわかる。
電柱のすこし手前で、箱に近いほうの男子がそれに気づいた。
箱の前にくると、気づいたほうの男子が立ち止まる。
指で示しながら、もうひとりへ声をかけた。
教えられた男子は『やめとけ』というように首を振った。
本当は気が付いていたが無視していたようだ。
そのままふたりは何事もなかったかのように通り過ぎていった。
その後も数える程度だがヒトが通る。
ほとんどの通行人は見なかったことにして歩いていった。
二十分ほど眺めていてもダレひとりとして開こうともしない。
――まぁそんなものだろう。
あきらめて私は机に向かい宿題を始めた。
始めて二時間程度経ったとき、家の電話が鳴る。
一階へ下りて電話をとると仕事場にいる母からの電話だった。
雨が降り始めたから洗濯物を回収しておいてほしい、という話だ。
電話を切り、ベランダへと出る。
ポツリポツリ、
と、雨が降り始めていた。
ふと思い出し、ベランダから箱を見下ろした。
箱は、電柱を離れ、道路の真ん中に移動していた。
ダレかがふれたのだろうか。
クルマの通らない道だがバイクや自転車に当たる危険性はある。
気になるところだが、洗濯物がさきだ。
タオルをひとまとめにして、衣服をハンガーごと部屋のなかへ放り込む。
五分もかからなかった。
室内にもどる直前、なんとはなしに箱が視界にはいった。
そのとき、小さな違和感があった。
気になりもう一度、今度はしっかりと箱を見据える。
――移動している?
さきほどまでは右側面がわずかに見るだけだったが、いまは左側面がこちらを向いていたのだ。
そして、さきほどよりもこちらへ近づいている。
ダレもナニもこの道を通ってはいない。
勘違いであることの確認のために、そのまま箱を見続けた。
そうして見ていたが箱はまったく動く様子はない。
ときどき風が吹いていたが箱を動かせるほどのものではなかった。
見間違いか気のせいだった、そう思うことにして室内へもどった。
雨は本格的に降り始め、時間とともに勢いを増してゆく。
夜になると雨音でテレビの音が聞きづらいほどだ。
両親から、今日は帰ることが出来ないと電話があった。
大雨の影響で移動手段が確保できないらしい。
ひとりきりの家で、晩ご飯に冷凍食品を食べ、友達との話題にするためのテレビを見て、お風呂を沸かさずシャワーで済ませた。
あとは、火の元と戸締まりの確認、そして眠るだけとなる。
玄関トビラにカギをかける――同時に、
ガチャッ
ドアノブが回った。
「え?」
思わず声が漏れる。
こちらがカギを閉めたのがわずかに早かったためトビラが開くことはなかった。
――両親が帰ってきたのだろうか。
ドアスコープから外をのぞく。
玄関の灯りはついているものの、雨で視界が悪くほとんどなにも見ない。
少なくとも人影は見当たらない。
ふたたびドアノブが回り始める。
トビラが開かないことを確認するようにゆっくりと動いた。
なにが起きているのか理解できず、ドアノブに手を伸ばす。
ふれる直前、ドアノブが音を立てて勢いよく暴れ始めた。
――外からトビラをこじ開けようとしている!?
それに気づいたとき全身が恐怖で凍った。
追い討ちをかけるようにトビラが激しく叩かれる。
重い音が絶え間なく家中に響く。
激しく叩きならされるトビラを前に、硬直し震えることしか出来ずにいた。




