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フィリスと二人

今まで俺一人で下層を目指いしていたが、今はフィリスと二人で迷宮を進んでいる。

二人で戦えばちょっと強い魔神も相手ではなかった。だから数日で21階層から24階層まで順調に進んでいった。

そして次の日には、フィリスが倒せなかった(本人曰く「死神の宴スキル」を使えば勝てるとのこと)25階層の魔神―――〈蒼鱗〉と戦った。


25階層はいつもの迷路のような階層ではなく、向こうの壁が見えない程に一面が水で広がっていた。

千里眼でも見えにくい下層でも、この場所に足を踏み入れられれば、ここの空間だけなら千里眼を使い周囲を見ることが出来る。

そしたら……もしかしたら地球の海程に広い、全てが水に埋まったこの一つの空間しかなかった。もうここは海だな。

そしてこの海の底に、次の階層へ行く扉も見つける。


問題はこの階層の魔神だ。

ここの生物はそいつ一体だけ。やたらと広い空間を独占しているくせに、そいつの姿は鮮やかな蒼色に輝く、小さくて綺麗な鯉だった。


けれど、その力は絶大。

海を操り、侵入者である俺達に容赦なく大津波が襲い掛かる。これは確かに質量が異常で厄介だ。


フィリスは禁呪の一つ、【異界の渦】という星一つ消滅させる幻想級に近い威力の魔法を使う。何もかも全てを飲み込む巨大な緑の竜巻を起こし、この海ごと魔神を飲み込み消滅させようとした。

俺も土属性幻想級魔法【隕石器の雨】を発動させる。

石で出来た様々な形や種類の剣、大剣、レイピア、刀、槍、ランス、斧、槌、メイスなどなど武器が、この空間の天井を埋め尽くさんばかりに広がる。

見た目は石で出来た普通の武器だが……一つ一つが山を亡ぼす上級魔法の威力を持っている為、これだけの量が地面に落ちれば星など消滅してしまうだろう。

それに俺の魔力数値で放たれれば、武器一つに上級魔法どころか精霊級の威力がある。


俺達二人の攻撃は、確実にこの空間ごと消滅させるような威力を持っている。

しかし―――〈海虹〉の操る海に触れた直後、突然魔法が消えてしまった。幻想級の魔法を無効化したのだ。

迫りくる津波に、俺は咄嗟に〈竜魔刀〉を引き抜き【白夜】で切り裂く。


幻想級の魔法が通じないなんて……確かに魔法を通さないこの水は驚異だ。魔神眼もこの水の中に居られては、直接魔法を掛ける事も出来ない。

それにこの大量の水を自由自在に操るなんて、確かに魔法主体で戦うフィリスとでは相性が悪すぎるな……。こりゃ苦戦する訳だ。

それでも俺の【白夜】の前では無意味。

むしろ俺には戦い安い敵だった。千里眼で敵の居場所を把握し、【白夜】で海を切り裂きながら進み、あっさりと〈蒼鱗〉を切り裂いて殺した。



〉★★★「蒼海スキル」:固定レベル7を得た。

・水を操る能力であり、操った水は魔力を阻む力がある。幻想級の魔法すらも通さず、無力化する。

・操っている時の水は鮮やかな蒼色に輝き、最高で14億立方キロメートルほどの水量(約地球の海と同じ総量)を操る事が出来る。

・魔法で生み出した水も精霊級以下の魔法なら操ることが出来る。



こうして無事25階層は突破した。

そのままの勢いで、26階層、27階層、28、29……35階層まで順調に進んでいった。

30階層に足を踏み入れてから、フィリスと二人でなければ倒せない魔神ばかりだった。魔神を倒すといつも、フィリスが魔神の死体に手を差し込み、心臓を鷲掴みにして取り出して俺に差し出し、「そろそろなる?」と聞いて来るが、「まだまだ、もっと強い魔神の心臓がいい」と断り続けた。


ここまで来ても、まだ迷宮を脱出する方法が見つからない。

このままだと本当に魔神にならないといけなくなるぞこれ。でもフィリスも本当に仲間が欲しそうだし……もっと真剣に考えないとな。


魔神を倒して戦闘が終了すると、俺達は決まってフィリスの城に戻って休息を取り、一応俺は客人扱いになっているので、客室を作ってもらい柔らかいベッドと温かい食事を出して貰っている。

ここには生贄とし人間を放り込む以外に、こうしたあらゆる物資も投げ込まれるらしい。食材や家具や本なども……魔神が好きな物とか分からないし、とにかく何でも放り込んでみよう的な考えなんだろう。


魔神であるフィリスも、その〈眷属〉たるメイドも、魔力(MP)さえあれば食事や睡眠を必要としないのに、こうして食事やベッドがあるのは娯楽の一種としてたまに使っているからだそうだ。


城ではメイドに嫉妬と殺意が混じった視線を常に向けられて、かなり居心地は悪いのだが、俺の部屋とフィリスの部屋には簡単に入ってこない。

だから俺はフィリスの部屋から本を借りて自室で読み漁るか、フィリスの部屋にお邪魔して二人で色々な会話をするのが日課になっていた。


フィリスが持つ本の種類は豊富で―――魔物の観察図鑑、魔道具や武器などのアイテム図鑑、魔法に関する本や魔道書、作物や料理に関する本、外の世界の国々の歴史、詳しい地図や情報、お伽噺や冒険の話など、本の種類に統一性はなく何でもあった。

その中でも俺のお気に入りは、やはりお伽噺や実際に旅して者の話をまとめた冒険の本だ。元の世界のお伽噺ではただのフィクションとしか思えなかっただろうが、異世界で読むお伽噺は実際にありえそうでワクワクした。


そんなある日、俺がフィリスの部屋で自室に持っていく本を選ぼうとし、しかしそのまま読み耽ってしまっていると、部屋にメイドがお茶と焼き菓子を持って入って来た。


「失礼致します。フィリス様、お茶をお持ちしました」

「…………」


フィリスは椅子に座りながら、本に集中して返事がない。

しかしこれは本に集中している訳ではない。ここの本は全て読み飽きるほど読破しているフィリスが、メイドの存在に気付かないほどに集中する訳がない。

これは返事が面倒だから無視しているのだ。

相変わらずの冷たい態度、しかしメイドはそんな事も気にせず、フィリスの前にお茶と菓子を広げる。

だがそこでフィリスの目が本からお茶とお菓子に向けられた。


「アキヒトの分は?」

「は、はい?」

「アキヒトの分のお茶と、焼き菓子は?」

「え、えっと……フィリス様の分しか用意しておりませんっ」

「アキヒトの分も持って来て」

「か、畏まりましたっ」


動揺しながらも、メイドはフィリスに深々と頭を下げる。

普段無視されているメイドが、突然主に声を掛けられ何事かと思ったら……まさか俺の分のお菓子が無い事を気にかけ、追加で持ってくるよう命じられた事にかなり驚いたようだ。

部屋を出て行く前に、メイドは俺に一睨みする。

いや……睨まれても。


フィリスは湯気の立つお茶を飲みながら、また本の続きを読みだした。

絶対服従を誓う自分の〈眷属〉といえど、決して人間に心を許さないフィリスは、まだ魔神候補の俺の方に優しさを向ける。


仕えるべき主であり、崇めるべき神であり、尽きる事のない愛を捧げる相手のような存在であり、この身と心が灰になるまで一生を掛けて尽くす事が出来れば幸せだと想える―――そんな絶対の存在が、自分達よりもポッと出の男に気を許しているのは面白くないだろう。


「……フィリスってさ」

「ん?」


こんな何となく話し掛けただけでも、やはり俺にはちゃんと反応する。


「魔神になったのは、やっぱり魔神の肉を食べたからなんだろ? なんで、魔神の肉を食べたんだ?」


込み入った話かもしれないが、結構前からずっと気になっていたので聞いてしまった。

けれどフィリスは別に気にした様子もなく、本を読みながら軽く答えた。


「別に、それ以外に食べる物がなかったから」

「魔神の肉以外に……食べるの物がない……」


それはどんな状況だ。

これ本当に聞いちゃマズイ話かも。


「まだ人間だった頃、私は小国の姫だったわ」


あ~~ダメだ、話が続く。

もうこれ今更引き返せないぞ。


「あ、ああ、お姫様だったんだ」

「ええ、でもあまりいいものじゃないわ。国王である父様が病死に見せかけて母様を毒殺して、新しい王妃を娶った後、元王妃との子である私が邪魔なのか、城の地下に何故かある迷路のような場所に放り込まれて閉じ込められたから」


さらっと重い話になった!

その幼少期の経験キツイ‼ それはフィリスが人嫌いになっても……まぁしょうがない気もする。


「何で城に下にそんな空間があるのかは知らないけど、出口のない迷路をさ迷い歩き、そこで行き着いた部屋には、首のない魔神の死体が杭で壁に貼り付けられていたわ」


城の地下に迷路のような大きな空間と、魔神の死体があるなんて……本当にどんな国だったんだそれ? 謎すぎるだろ。


「最初その部屋は不気味で恐ろしかったけど、日が経つにつれてお腹が空いて、でも食べる物なんて無くて、外に出る事もできなくて……あまりにもお腹が空いていたから、魔神の肉に目が眩んだの」

「それは……生きる為とはいえ、思い切った決断をしたな」

「そうね。元々私は姫らしくなかったから、出来たのかな。舞踏会とか、綺麗なドレスも宝石も、強い騎士や王子様にも興味無かった。本ばかり読んでいて、子供らしい可愛らしいさなんてないし、社交的でも無かったから、簡単に父様に捨てられたんでしょうね」


ねぇ、重い事言うのやめてくれる?


「話が脱線したけど、私はその魔神の肉を、そこら辺にあった石を使って少しずつ削って食べたわ」

「うっ…………で、どうだったんだ?」

「すぐに吐いた」


やっぱり!


「美味しくないし、気持ち悪いし、ちょっと食べただけなのに何で体に激痛が走るの? って思ったわ。けれどそれでも少しは空腹を満たせるから、ずっと魔神の肉を食べ続けた。魔神を何度か食べている内に、徐々に体の異変にも気付いたわ。お腹があまり空かなくなったり、魔力が徐々に上がっている感じがしたり……何もない地下では、寝るか魔神を食べるかしかやる事がなかったかな。そんな状況で数年は経ったかしら」


キッツイなッ!

けれどそれで徐々に魔神の力に順応する体になっていたのか。まぁ元々魔神になれる素質もあったから、肉を食べても死なずに激痛や吐く程度で済んでいたんだろうな。


「そんなある日、魔神の心臓がまだ動いている事に気付いたの。私は興味が湧いて、肉を裂いてその心臓を取り出して……食べてみた」

「うっ…………それで、魔神になったと?」

「ええ。体中から力が湧いて、不思議な能力も手に入って……地下の入り口を塞いでいた硬い扉を壊し、地上へ出て城の人間を皆殺しにしたわ。人間なんて花弁のように柔らかくて簡単に散っていった」


いつの間にか本から目を離し、まるで懐かしい思い出を語っているように虚空を見つめながら口を動かしている。


「ああでも、誤解しないで欲しいのだけれど、虐殺したのは別に復讐心とかじゃないわ。恨みなんてそこまで無かったし。ただ……何となくやっただけよ。力があるから、振るってみただけ」

「ああ、うん。そうなんだ」


全然なっとく出来ないけど、取り敢えず頷いとく。


「それからは……まぁ角が生えた私の姿と、私の異常な力に怯えた人間どもに命を狙われ続けたわ。それはもう鬱陶しいくらいに何度も何度もね。……そんななに私が恐ろしいならと、その期待に応えて、軍隊を引き連れて来た人間どもを何度も何度も殺したわ」

「ま、まぁ、正当防衛ってやつかな?」


なんとなくフォロー(?)してみる。


「彼方此方を様よながら旅をしていると、他にも私と同じ魔神になった元人間の人達と会ったわ」

「へぇ…………………………え? え⁉ 他にもいるの⁉ 魔神になった人間が⁉」

「ええ。数は少ないけど、私と同じような境遇で魔神になった人達が居るわ。魔神同士の仲間を見つけて、集まって組織的な行動もしていた。その人達と旅をしながら、色々な国を滅ぼしたなぁ……」

「遠い目をしながらさらっと何か言った?」

「私はただ人間という生物が好きじゃないだけだけど、皆は人間に凄く恨みを抱いていたから、ノリノリで殺していたわ。懐かしい……皆で人類を滅ぼした後は私達魔神の世界を作ろうなんて計画も立てた。世界の何割を誰が貰うかなんて分配の話もしたわね。もし私が外にいたら、世界の1割を貰う筈だったのに」

「おい、お前らマジで世界を亡ぼす気かっ!」


それ、ゲームでよくある魔王が『お前に世界の半分をくれてやろう、私の配下に入れ』とか言うやつのマジバージョン?

てかフィリスよ、世界の1割を貰ってどうするつもりだ。


「でもこの迷宮に追いやられてから、外の事はさっぱり分からない。皆まだ生きているのかな? 今、どのくらい生き残っているんだろう」

「いやいや、魔神なんて早々倒せるもんじゃないだろ? むしろ人類の殆どが滅ぼされてるかも」

「いいえ、それはないわ。鬱陶しいけど、人類はそんなに弱くない。むしろ私がここに来るまでは、私達の方が劣勢だったから」

「え、ホントに?」


とてもそうとは思えない。

俺としては、人間がどう頑張っても下級魔神にすら倒せないと思っていた。

この世界に来た時に、勝手に頭に入って来た一般常識でも、魔神は簡単に国を亡ぼす事が出来るとなっていたし……。


「魔神と言っても、私達魔神の組織の中では殆どの者がスキルレベル1か2だったし。強いと言っても、大国の聖騎士クラスが出てくれば、力の低い魔神は倒せなくもないわ」

「聖騎士……それって、そんなに強いのか?」

「そこそこよ。私のような上級魔神の敵ではないけれど、油断はできないかも」


やっぱり、フィリスは魔神の中でも上に位置する存在なのか。

確かにフィリスのステータス数値も高く、スキル能力も異質で強い。……まぁ、俺はそんなフィリスに人間のまま勝てたわけでけど。


「聖騎士3人と1万人の兵士や騎士が居れば、弱い魔神は倒せるわ。聖騎士は人間の中では特出した力と才能を持ち、聖剣や魔剣を装備して力を高め、厄介な能力も使ってくるから厄介よ。アキヒトも強いけど、気を付けて」


いや、俺は聖騎士に狙われるような存在になりたくないんだけど……。

こんな話をフィリスとし度々しながら徐々に仲を深め、より下層を目指して凶悪な化け物と戦うという、充実した日々を過ごしていた。



そんなある日―――38階層まで到達した俺達は、ヤバイ魔神と出会う。



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