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これが頑張った結果

俺はさらなる地獄、21階層に足を踏み入れる。

ここからは千里眼でも見られなかった未知の場所だ。

けれど相変わらず見慣れた広くて大きな洞窟だけ。変わった所があるとすれば、薄暗い程度だった洞窟内も、下層に行くほど明るくなっている気がするくらいか。

それだけじゃない。徐々に下層へと行く度に、洞窟がより広くなっているのは感じていた。それはもう一つの町がすっぽり入りそうな程にどの空間も広く大きかった。

洞窟の天井も高く、ドラゴンが飛ぶには少々窮屈かもしれないが、それでも飛ぶことには問題なさそうな程の高さと広さだ。


それは21階層も同じで、いつも通り迷路のように広い洞窟の通路を歩く。

いつもは千里眼で進む方向を確かめてから歩いていたが、今は気分で行く先を決める。


すると、適当に選んだ通路の先から大量の水が落ちる水飛沫の音が聞こえて来た。心なしか少し涼しくなった気もするし、この先に水場があるのは間違いないだろう。

だんだん明かりが強く成り、水場に辿り着くと……そこは美しい水晶に囲まれた、美しい水場だった。


「凄いな……こんな幻想的な場所がここにあったなんて」


今まで硬い岩しかない迷宮だと思っていたから驚いた。

この空間の中心では天井から滝のように水が勢いよく流れ落ち、大きな水晶を伝いあちこちに流している。

美しいのは水晶だけではない、流れる水も何とも言えない綺麗な光を放っていた。「鑑定スキル」で見ると、この水は〈ウンディーネの魂水〉となっている。


俺の足元にまで流れている小さな川から、その水を掌で掬い飲んでみると……美味い!

今まで飲んだことのない美味さだ。味だけじゃない、水を飲んだ後も体に染み込んでいくのが良く分かる。

この水が体の一部になっていき、体の疲れなど吹っ飛び、精神的にも癒される。


「少しこの水を持って帰ろう。確か〈奈落の水袋〉を作って【アイテムボックス】の中にしまってたな」


〈奈落の水袋〉は俺が作ったアイテムで、見た目は上質そうな布で作った水袋だが、幾らでも水を入れられる特別な水袋なのだ。


「どうせなら、滝のように出ている場所から取りたいな」


何処で取っても同じかもしれないが、気分的にだ。

水晶の景色を確かめながら中央を目指して気分よく歩く。それにしても、何でこんな場所が有るのだろう? 魔物が飲みに来るのか? でも俺が今まで会った魔物は凶暴な奴ばかりで、こんな綺麗な水より魔物の血を飲み干すのが好きそうな奴ばっかりだった。

そんな事を考えていると、何処からか水の跳ねる音が聞こえて来た。


魔物か? いや、もしかしたら以外に魚かもしれない。

気になってのだ音が聞こえた方向へ行ってみると、水晶に囲われた広い水場があった。そして―――そこには従者のようにバスタオルを準備して待つ黒髪の美しい女と、フィリスが素っ裸で水浴びをしていた。


「―――っ!」


言葉を失う、てか呼吸が止まる。

まず急にフィリスに会えた事に対する驚きと、そのフィリスが裸でいる事に対する驚きで、心臓が止まりそうになった。

水浴びをしているフィリスは……すごく綺麗だ。


雪のような綺麗な白い髪は湿り、きめ細かい美しい白い肌には艶めかしく水が流れ、相も変わらず美しくも無表情な横顔は、水浴びの気持ち良さから少し和らいで見える。

元々反則的に可愛くて綺麗な子だけど、そんなフィリスの裸体はこの幻想的な水場を上回る神秘的な魅力を放っていた。

角が生えてようが関係ない。完成された美しさの前では些細な事だ。


見てはいけないと思いつつも、目が離せない。

ここに居てはいけないと分かってはいても、体が動かない。

本当に美しい物を目の当たりにした人は、身も心もその美に支配されたような感覚になる。これは男でなくても見惚れてしまう光景だろう。


きっと―――傍に控えていた黒髪の女が俺に気が付かなければ、時間を忘れいつまででも見ていただろう。


「誰だ貴様はっ‼」

「―――っと」


怒鳴られ、やっと自我を取り戻す。

黒髪の女は俺を睨み、殺気を向けながら俺に近付いて来る。途中、結界らしき見えない壁を壊すと、「男がっ、フィリス様の水浴びを覗くとは許せん!」と言って腰の剣を抜き突進してきた。

フィリスに見惚れて気付かなかったが、この水場に結界を張っており、周りに気付かれない様に魔力を隠していたらしい。

そう言えば俺の魔力感知でもこの二人の存在に気付かなかった。結界による魔力の波動も感じられないとは、かなり隠密性に優れた高度な結界みたいだな。

向こうも俺の〈死霊のコート〉により、魔力を外に漏らさないから感知出来なかったのだろう。


「死ね!」


あ、もう目の前にまで来てる。

チラッとフィリスの方に目をやると―――、


「…………」


体を隠すような体制のフィリスと目が合う。

あれは……裸を見られて怒っている顔じゃないな。自分と同格の強さを持つ者が突然目の前に現れた事に、不思議に思っている目だ。

相手も俺に興味を持ってくれた事は嬉しいが、話しをする前に、今は剣を振り上げているこの女を何とかするか。


女の斬撃はもう目の前にまで来ている。

俺はそれを軽く二本の指で受け止めると、一瞬で剣を折り、女の背後に回って首の後ろを手刀で峰内し、簡単に気絶させた。

しかし俺に峰内で上手く気絶させる技術なんてない。

体に触れた瞬間、無属性下級魔法【魔痺】を使ったのだ。本来は魔力抵抗の低い、弱い相手にしか使えない魔法だが、相手に直接触れて魔力を流す事で気絶させたり体を痺れさせたりする事ができる。

この子の力や速さは一般的に見ればかなり異常なものだろう。けれど俺とは格が違い過ぎる。だから【魔痺】で充分に倒せた。


弱い……。

恐らくはフィリスの〈眷属〉なのだろうが、それでもかなり弱いな。

〈眷属〉になっても角とかはないな……きっと見た目は変わらないのだろう。

人間が嫌いと言っていたフィリスが何故この子を眷属にしているのかは疑問だけど、きっと深い意味はなさそな気がする。

「観察スキル」でこの子を見てみると、




名前:レイナ

性別:女  種族:天人族

年齢:223歳

レベル:56

MP(魔力量):316万9563

ステータス数値

魔力:3310

筋力:1777

敏捷:2345

耐久:1870

感覚:2356

スキル:

「無詠唱スキル」:レベル3

「高速詠唱スキル」:レベル3


種族固有スキル「天族の翼スキル」:レベル5

・天人族だけが持つ事の出来るスキル。

・背中から翼が生え、空を飛ぶ事が出来る。翼は実際に背中から生える訳ではないので、服の上から翼が現れる、着ている服が破けるなどという事はない。

・スキルレベルが上がる程に速く、遠くへ飛んで行ける。レベル1~5で翼は二枚、レベル6~8で四枚、レベル9で六枚、レベル10で八枚の翼が生える。

★「黒翼の目玉スキル」:レベル10

・天人族の殆どが白い羽を持つが、何百年に一度、黒い羽を持った天人が生まれる。

・黒い翼を広げると大きな目玉の文様があり、この目玉の文様は重力を操ることが出来る。この文様により空を飛ぶ生物を地面に叩き落とす事も、地を這う生物達を押し潰す事も可能である。

・「天族の翼スキル」のスキルレベルが上がるほど、このスキル能力の威力も上がる。




天人族なのか……初めて会ったな。

この世界の種族は様々で、代表的なのは人族・エルフ族・ドワーフ族・獣人族・人魚族・天人族・吸血鬼族と多くの種族がある。その中でも人族が一番数も多く繁栄もしているらしい。


ちなみに―――この世界はエルフ、人魚、天人の女が素晴らしく美しいとされている。俺としてはフィリス程ではないと思うが、実際にこのレイナという女の子も綺麗な子だ。

長い黒髪に、整った美しい顔と白い肌。先ほど見たが綺麗な金色の瞳に、体も出ると所は出て引っ込む所は引っ込んでる。

年齢的には225歳だけど、俺とそう変わらない17歳か、それより少し上くらいに見える。フィリスが居なければ、俺が今まで見た女の子の中で1番綺麗だと思っただろう。


この三種族の女が特に美しいと言われるのは見た目だけの問題ではなく、寿命が他の種族とは比べものにならない程に長く、長い間若くて綺麗でいられるからだ。


一般的な種族の平均寿命はこうなっている。

人族=約100年

獣人族=約100年

ドワーフ族=約100年

エルフ族=約800年

人魚族=約700年

天人族=約1000年

吸血鬼=寿命有りの者と無しの者で分かれる(有りの者は1000年程)。


さらに人族にだけ各種族との間で子供を作ることができ、エルフや人魚や天人以外のハーフは寿命が100年だが、この三種族とのハーフは各種族の平均寿命の半分が寿命となる。


さらにさらに、人族などの通常は100年だが、魔法使いなど魔力数値の高い者や高レベルの者は寿命が延び、人族でも150~200年は生きる事もあると言う。


美しさ代表の三種属は、16歳から18歳の姿のまま200歳まで維持され、200歳~400歳までに22歳位まで成長した姿に変わる。そして400歳を過ぎた頃から寿命まで平均的に歳をとっていく。

ハーフの場合では、これがハーフの寿命に変換されて平均的に歳を取る。




と、こんな事を考えている場合じゃない。

俺は倒れるレイナを受け止め、そっと地面に寝かせる。

いつの間にか黒いドレスに着替えたフィリスが水場から出て来ていた。もう着替えてしまったのか……ちょっと、いやかなり残念だ。


「貴方、何者?」


少し距離を取った場所から、綺麗な声で問いかけられる。

よし、裸を見てしまった事について怒っている様子はないな。


やっと―――やっと話し合える機会が来たのだ!

真面な人間(?)と会話をする為に、俺頑張って強く成った!


「俺の事覚えてないか? 一度君に殺されてるんだけど」

「……?」


覚えてないみたいだ。

あの時の俺程度など、虫けら同然といったところなのか。


「5階層だったかな。君が黒鬼と白鬼を倒した後、俺は君に赤い刃物で刺されて死んだんだけどさ」

「嘘、なら死んでる筈」

「それはまぁ、俺にも特別な力があるからな」


フィリスは俺の体をじろじろと見る。だがそれも大した時間を掛けず、一瞬にして俺の目の前まで間合いを詰めた。

そして掌にはまた赤い刃が出ている。


「なら、もう一度死んで」


赤い刃が俺の腹に刺さる―――前に体をずらして躱し、フィリスの腕を掴んで止めた。

うん、反応出来る。さすがに身体能力で1万も差が有れば、近接戦は問題ないな。


「そう簡単には死なないよ。俺は君と話をしに来たんだ」

「私は人間が嫌い」

「でもあの子みたいな人間を〈眷属〉にしてるだろ?」

「ただの世話係よ。私は貴方と話す気はない、触らないで」


フィリスはもう片方の手から赤い刃を生やし、俺の首を落とそうとする。

その刃も躱して一度距離を取り、〈竜魔刀〉を抜いて臨戦態勢をとる。


一気に俺のステータスは+3万。

これで俺の全ステータス数値は8万。対するフィリスの身体的ステータス数値は4万、けれど魔力数値8万。

急に力が増した俺を見て、フィリスが警戒心を高めた。

〈竜魔刀〉を持った俺に、フィリスは真面に戦って俺に勝てる筈がない。それはフィリスも魔眼による「観察スキル」を使い、俺との詳しい力の差は気付いているだろう。


いくら「死神の鎌スキル」の即死能力があっても、不用意に近づいて来ないだろう。

ならフィリスの戦術は魔法戦に限られる。きっと「禁忌辞典スキル」により禁呪を放ってくる筈だ。

禁呪は発動に多くの犠牲を払う分、上級魔法以上かそれと同等、もしくは精霊級や幻想級に近い威力すらあるの魔法が多い。

しかも魔法でも難しい事象も、禁呪では可能としてしまう厄介な魔法まである。

それに禁呪はただの魔法と違う為、俺の「銀竜の鱗スキル」でも単純に95%カットは出来ないだろう。

まぁそれでも、何にしろどんな手段でこようが打ち負かしてやる。


力で敵わないと分からせてからではないと、フィリスは真面に話をしてくれそうにないし。戦いは無駄だと分からせてから、話し合いに持ちこもう。


俺の予想通り、フィリスは黒い魔道書を手元に出現させる。

―――っと、フィリスの近くではレイナが寝ている。フィリスはレイナにまったく興味ないようで、別に死んでも構わないといった感じだ。

俺とフィリスがここで暴れたら、間違いなくレイナは巻き込まれて死ぬだろう。

それは後味が悪い……。

俺は魔神眼でレイナに直接転移の魔法を掛け、この階層の入り口付近に飛ばした。そして高度な結界を何十にも張ってやる。これでよし。


「【黒光の剣】」


レイナを飛ばしている間に、いつの間にか戦闘は開始されていた。

フィリスが5つの黒く輝く剣を生み出し、音速に近い勢いで俺に放つ。

瞬時にその剣を食らってはマズイと判断した俺は、〈竜魔刀〉で弾き飛ばす。

弾き飛ばした黒光の剣は周りの水晶に当たり―――剣に触れた部分の水晶が消滅した。


「うわ……食らいたくねぇ」

「…………」


魔法を弾かれても、フィリスの無表情は変わらない。

むしろ剣の本数を増やし、数千……数万の剣で上空を覆った。


「跡形も残さない」


フィリスの宣言と共に、音速で一気に放たれたその剣を、俺は〈竜魔刀〉で全て弾き凌ぐ。

俺の耐久数値でも真面に食らえばただでは済まない。

弾いて弾いて、弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いてもなかなか終わらないぞこれ。


俺は一度鞘に〈竜魔刀〉を納めると、【白夜】と【斬境無辺】という武芸を組み合わせ、一瞬の間に数万回の斬撃を周囲に繰り出した。

「武人の奥義スキル」により編み出した【斬境無辺】。一度刀を鞘に納め、高速で抜き、また高速で鞘に納めるを繰り返し行う技であるが、その行為を一瞬のうちに何万回と行う武芸である。

この武芸は何万回もの居合切りを一瞬で行える事が特徴―――なのではない。

名前の通り、斬撃の境界が無辺である事が、最大の特徴なのである。

斬撃は何処まで届き、どれ程の速さで放たれ、どんな角度から斬り込まれるのか……そんな物理的な境を超え、渾身の一撃で放つ斬撃を無数に増やし、発動者が認識する所へなら何処へでも届かせ、あやゆる角度から無数の斬撃を同時に命中させる異常な大技である。


以前に銀竜との戦闘で、居合切りによる【白夜】の一撃を増やした事があった。

【白夜】が消えない間に速さで一撃の効果を延ばした経験から、それを武芸として編み出したのだ。

まだまだ作り出した武芸は他にもある。

魔法と武芸、どちらも熟す俺の死角は容易くは衝けないぞ。


「…………」


一瞬のうちに全ての剣を消滅させられ、さらに【白夜】の斬撃を目にしたフィリスの表情が少し変化した。

ほんの小さな変化だが、目を細めて不快そうな顔している。


フィリスはさらに距離を取り、今度は俺もよく使う闇属性上級魔法【悪魔の瞳】を使い、巨大な赤い瞳に見つめられ、俺の体を圧縮しに掛かる。

―――が、俺の「銀竜の鱗スキル」による魔法攻撃95%カットで殆ど無効化したため、ダメージなどないに等しかった。そうじゃなくても俺の耐久度8万の前では、フィリスの上級魔法でもそう簡単にはダメージは与えられない。

やはり禁呪でなくては俺に傷一つ傷つけられないだろう。


「…………っ」


フィリスの表情がまた少し歪む。

上級魔法は効果がない。

即死の能力があっても近接戦は不利。

なら禁呪で押し切るしかないが、膨大な魔力を消費する。しかも【黒光の剣】程度ではまったく通用しない。

ならばと、フィリスは再び禁忌辞典のページを捲り、危険な魔法を唱えた。


「【魂食の川】」


相変わらず詠唱無しの、魔法名を唱えるだけで発動させる。けれど「高速詠唱スキル」や「無詠唱スキル」を持つフィリスでも、禁呪を無詠唱で発動させるのは難しいようだ。


俺は唱えられた禁呪の名前を聞いただけで、その魔法がどれだけヤバイのかが伝わって来た。

虚空に大きな穴が開き、魂を食らう白い蛇が滝の様な勢いで無数に出て来ては、そのまま荒れ狂う川のような勢いで俺へ向かって来る。

魔法を解析する事ができる「解析スキル」で蛇を見てみると、一度でも噛みつかれれば魂を吸われ即死する蛇だった。

まさに禁忌の魔法だ。


目の前に迫る蛇の大群を、威力を抑えた雷属性精霊級魔法【蒼雷も空】を発動させ、蒼い雷の雨が洞窟の天井から降り注ぎ、波のように迫る蛇の大群を消滅させる。

こんな場所で本気の精霊級など放ったら、この空間ごと俺達が滅茶苦茶になる。


「【死界の戦士】」


すぐに次の魔法を唱えていたフィリスは、5000体ほどの骸骨兵士を呼び出した。

発動者の魔力が尽きるまで消えない、全ステータス数値5000の無駄に超強い兵士達だ。そいつらが蛇の川を避けながら、左右から俺に迫る。


俺は再び【白夜】と【斬境無辺】を組み合わせ、左右の骸骨を切り裂いた。

発動者に魔力(MP)が有る限り、どんなに破壊しても死なず消えずで戦う骸骨達も【白夜】の前では簡単に消滅した。


「―――っ」


フィリスも色々と予想外過ぎるのだろう。骸骨兵士達でも俺に適わないと悟り、また次の禁呪を唱え始めた。禁呪は大量の魔力(MP)を消費するのに、さすが286億も魔力(MP)を持っているだけあってよく唱える。


「【黒雷の化身】っ」


黒い雷がバカデカい竜の形になり、こっちへ突っ込んで来る。触れた物を消滅させる黒雷は、大陸数個分は軽く消し去る力を持っている。


無茶苦茶だ。

【白夜】と【斬境無辺】の組み合わせでバラバラにしても、この竜の規模ではバラバラにしても威力は完全に打ち消せない。

俺は雷属性上級魔法の【雷光一刀】を50ほど発動させ、地面から塔のように突き出た雷の刃で黒雷竜を貫こうとしたが、軽く消し飛ばされてしまった。

この程度では足止めにもならないか……。

ならば俺も同等の力で対抗しようと、銀竜だけの特別な火属性精霊級魔法【炎竜王の尾】を発動させる。

燃える大きな竜の尻尾で虚空から現れ、黒雷竜と衝突するが―――まさか俺の魔法が打ち負け、多少威力が弱まった黒雷竜がもう目の前まで来ている。


「くっ!」


どうするっ。

時間の無い中、幾つか頭に浮かぶ魔法で対抗しようにも、浮かぶのはどれも幻想級の魔法で、この場に居る俺達だけでなくこの階層を中心に3階層くらい消滅させそうな物ばかりだった。

フィリスまで消し炭にしては意味がない。


ああもう、時間がないっ!

初めてだけど、これをやってみるかっ。


俺は〈竜魔刀〉で大気を焼きながら雷速で突っ込んで来る巨大な黒雷竜の鼻先を受け止めると、そのまま踏ん張り押し潰されない様に耐える。

そして★4つの「黒竜の黒炎袋スキル」を発動―――左手を突き出し、掌から黒炎が噴き出した。

凄まじい勢いで放たれた黒炎は黒雷竜を飲み来い、一瞬で消滅させた。いや、それどころか勢いが収まらず黒炎が迷宮の頑丈な岩壁を燃やし突き抜け、大きな穴を空けた。


「っ⁉」


フィリスの顔に、ハッキリと驚きの表情が見られた。

あっぶね~~~っ。

フィリスが正面に居なくて良かった。幻想級並の魔法も一瞬で消滅させたのだ。食らえば灰も残さず消滅していたぞ。

それに使う前から分かっていたが、黒炎はやっぱり扱いが難しい。

炎の勢いを抑えきれず、ちょっと出すつもりでも、一つの町が亡ぶくらいの大量の炎が出てしまう。

ギリギリ上手くはいったが……もっと上手く制御できるまで極力使わないようにしよう。


「【死神の首切り鎌】!」


攻撃の間を空けず、すかさずフィリスが俺の首を狙う巨大な鎌を出現させた。

魔眼持ちでもなければ見る事も出来ない、巨大で綺麗な鎌が高速で俺の首を跳ねようと迫る。この鎌なら例え上級の魔神だろうが竜種だろうが殺せるだろうし、不老不死の者でもこれに殺されれば復活出来ないだろう。……まぁそれでも、きっと俺の〈再誕の首飾り〉なら復活出来るだろうけど。

そんな禁呪を、俺は【白夜】で切り裂いて消滅させる。


「―――っ!」


フィリスは唖然とする。

どうやって見えもしない筈の鎌を切り裂いたのか? そもそもなぜ切り裂く事が出来たのか? どんな防具や攻撃すら無視して相手の命をのみを切り裂くのに、なぜ無効化されてしまったのか?

だんだんフィリスにも余裕がなくなってきた。

魔力(MP)も大分少なくなっている筈だ。そろそろ決着がつくだろうか。


「【魔神の埋葬】っ!」


俺の足元が真っ黒になったと思うと、そこから白い手が伸びて来て、俺を暗黒の底へと引きずり込もうとした。

白い手に掴まれると力を吸い取られ、身動きの自由すら奪われていた。


そのままズルズルと引きずり込まれ、俺の姿は完全に地面の中に消えた―――が、第2魔力器官の全魔力量(17兆もの魔力)を使い、光属性上級魔法【聖なる光の波動】を発動させ、俺を中心に白い光がドームのように広がり、瞬く間に【魔神の埋葬】を消滅させ、光はこの階層の全てに行き渡った。

そして俺は沈んだ地面から飛び出る。

【聖なる光の波動】は闇属性の魔法や魔物などに効果的な魔法で、この光は発動者が敵と認識した相手や現象のみを消滅させる魔法である。


フィリスもこの光に包まれたが、俺が敵として扱ってないからまったくの無傷。

フィリスは目を閉じ―――パタン、と禁忌辞典も閉じた。今までの経験上、下手に放っても無駄撃ちに終わると判断したのだろう。


「諦めた、のか?」

「いえ」


フィリスは目をゆっくりと開けると、何かを決心したような鋭い瞳で俺を睨む。

そして―――邪悪なオーラを体から出し、そのオーラがボロボロの黒いローブにすっぽりと体を包んだ死神へと変わった。

これはもしや……「死神の宴スキル」?


「貴方を本気で殺すことにした」


フィリスのとっておき、絶対の切り札。

スキル所有者が今まで殺した数だけ、強い死神を召喚出来る特殊能力だ。

死の化身のような存在を前にして、その圧倒的な威圧感から、今までフィリスがどれほどの生物を殺して来たのかと想像し……ごくりと息を飲んだ。

俺を簡単に殺した事を考えれば、今まで人間の1万や10万……いやもっと、10億や20億と殺していてもおかしくないと思えるほど、現れた死神の存在感に圧倒されていた。


勝てない。

きっとあの死神にも【白夜】は効く。切り裂ける。でも……近づくことも許されず、俺は殺される。……全然勝てる気がしない。

全力で戦ったって、虫けらの如く殺される。


ボロいローブから出ている手は、どんな闇よりも黒い。あの手で……その黒い指を向けられただけで、俺は死んでしまうと感じた。

死神のステータス数値は分からないが、きっと全ステータス30万か、もしくはそれ以上に感じた。そんな相手にどうやって勝てって言うんだ……。

幾ら生き返る事が出来ても無駄だろう。逃げも隠れもできない。この死神に一度でも殺されればスキルでの復活は望めない。〈再誕の首飾り〉で復活出来てもたった3回では足りない足りない。

この死神は俺に本当の死を与えるんだ。

無駄だと分かっていても逃げるか? ―――とも思ったが、本気で思えた訳じゃない。


戦うのも無理。逃げるのも無駄。

なら後は……ただ死を待つだけ。

終わった。

ただ人間と話したい、そんな大した事でもない希望を求めて俺はここまで頑張って来たのに、最後に死神などと冗談ではない壁に阻まれ、俺はここで儚く……………………………………………いや待て、俺も反則的な事が出来るじゃないか。


〈竜魔刀〉の特殊能力【竜魔の化身】。

魔力(MP)100億を消費する事で、1日に一度だけ、それも3分間しか姿を現さないが、この世界をも亡ぼす暗黒の竜を呼び出せる。

これなら、あの死神にも勝てるかもしれない。


「貴方が何者なのか、少し気になったけどもういい。死んで」


初めて会った時と同じ。

冷たい目で、俺の―――人の命など道端に転がる石ころ程度にしか思ってない。自分の気分次第で蹴飛ばして、邪魔なら踏みつけて、どうでもいいと無視して、命など何処にでもある石ころと同じだと、そう思っている目だ。


そんなフィリスの冷たい瞳に少しムカついた俺は、〈竜魔刀〉を地面に刺し、【竜魔の化身】を発動させた。

するとどうだろう、黒い刀が青白い光を放ちながら、バカデカい黒い竜へと変わる。バカデカいと言っても、先ほどのフィリスが使った【黒雷の化身】よりも大きな竜じゃない。


しかし―――竜魔の姿を見た瞬間、俺は勝利を確信した。

これ勝った。

絶対勝った。

もう死神なんて怖くない。

あの死神はこの黒竜に食い殺される。死神を食うのに3分も要らないだろう。きっと10秒、いや5秒もあれば終わる。

この竜魔が2分あれば、本当に世界すら亡ぼす事も可能かもしれない。

もう迫力があり過ぎて、力の差が分からない。まるで手が届く筈もない月を見ているようだ。


フィリスも、竜魔の姿を見て愕然としている。

それはもう信じられないと、言葉もなく驚いている。けれどフィリスもいつまでも呆然としている訳ではない。

俺が〈竜魔刀〉を手放している間は、むしろフィリスには好機になったのだ。死神もすぐには死なない。近接戦に持ち込んでも【白夜】による反撃はない。

ならば、今こそ「死神の鎌スキル」で殺せる―――と思ったのだろう。だからフィリスは手にルビーのように輝く大きな鎌を出現させ強く握り持っている。


今まで掌から刃を生やしていただけなのに、本気の近接戦をするつもりだ。

けれど俺とフィリスの身体的な能力差は1万もある。〈竜魔刀〉がなくとも、まだ俺に分がある―――とか思っていたが、フィリスは右手で鎌を持ち、左手にまた禁忌辞典を持ちだした。


魔法と近接戦を同時に?


一瞬にしてフィリスは姿が消え、俺の背後に回った。

そして俺の首を狙い鎌を振いながら―――、


「【血桜の舞】、【魔食いの六腕】」


赤い桜の花弁が頭上から降り落ちる。

「解析スキル」で魔法の解析をすると、この花弁……防具や衣服をすり抜け、体に触れるた個所を破裂させる禁呪だった。そして魔法やスキル能力でも治らない傷を負うようだ。魔法で蹴散らそうと思ったが、その魔法すら花弁はすり抜けて落ちる為に効果がない。

さらにフィリスの背中から六本の赤黒く長い腕が伸びる。

その腕は凄まじい筋力と耐久度があり、竜種でも殴り殺せる力があった。さらにはその掌はあらゆる魔力(MP)を吸収し、精霊級の魔法でも吸い込み消滅させるらしい。


なるほど……俺は血を一滴でも流せば、「死神の鎌スキル」の鎌にその血を付けるだけで俺は即死させられる。

【血桜の舞】により何としてでも血を流させ、俺の体に花弁が当たるよう、手数の多いい【魔食いの六腕】と鎌による高速攻撃で俺の動きを制限しようというわけか。


これはちょっと厄介だ。

それでも俺は、高速で振られる鎌の攻撃を避け、手数の多いい六腕の攻撃も防ぎ、拳や足の風圧で花弁を飛ばしながら、俺は間合いを詰めて重たい拳をフィリスの腹に打ち込む―――が、「死神の黒衣スキル」で作ったドレスが、俺の攻撃の威力を吸収し無効化する。


普通の攻撃じゃダメか。

けれど「死神の黒衣スキル」で作られたドレスは、作成時に消費した魔力量により吸収して無力化できる攻撃には限度がある。

魔神眼でドレスに籠められた魔力(MP)をよく見ると……だいたい2億くらいか?


なら、「魔力精密操作スキル」「魔力圧縮スキル」「魔力噴射スキル」を駆使し、俺は全身を20億分の魔力で覆った。武芸者が使う魔力付与は高度な技術だが、俺は個別能力で魔力付与の項目があったのでポイント割り振ったため、全身を魔力で覆える程に使いこなせるようになったのだ。

こうなれば全身が武器と同じ。


「【静寂な森の霧】」


俺達の周りを白い霧が包む。縦横無尽に高速で振り回される鎌と六腕の攻撃に、さらに怪しげな禁呪まで追加されてしまった。【血桜の舞】の花弁は効果がないと思ったのか、既に消えている。

霧に包まれ多少視界は悪くなったが、充分フィリスの姿は目視できる。この霧が何なのかはまだ分からないが、調べるよりも早くフィリスを倒せばいい。


全身を魔力付与により強化した俺の体は、そう簡単に攻撃を通さない。

いける。今度こそ攻撃の隙をついて、フィリスの胸か腹に一撃で風穴を開けて、傷を修復している間に身動きを封印してしまおう。


そう―――フィリスとの間合いを詰め、腹に重たい拳を叩き込もうとした時、ガクンッと体制を崩した。


「……あ、れ?」


間抜けな声を上げてしまう。

脚に力が入らず、何が起こったのかも分からない。力を失った脚に目をやると……右足は膝から下が無く、左足は足首から先がない。

けれど痛みもなく、出血もなく、不思議な感じだった。立つ事も出来ずその場に座り込む。

気付けば右手の手首から先も、左目も、左脇腹も何かに食われた様にない。


ちょっと待て、何だこれは?

痛みがないもの不思議だが、傷が治りもしないのもおかしい。

この魔法が何なんなのか、今更ながらに調べようとしたが、もう片方の目まで食われてしまった。両目を失い、何も見る事ができない。

けれど音と体を伝う振動で分かる。座り込んだ俺の前で、フィリスが鎌を振り上げている事が。


抵抗しようにも、もう体のどこが残っているのかも分からない。

そのまま、俺は首を刎ねられ―――はせず、魔力付与により強化された俺の首は硬く、薄皮一枚も斬れなかった。


「っ、硬い」


まだ生きている。

あ、右耳も聞こえなくなった。俺の体は今どうなってるんだ?

知るのも怖いが……とにかくこの霧の中に居るのはマズイ。


俺は全身から「魔力噴射スキル」で膨大な魔力を放出し、その勢いで霧の中から脱出した。

すると途端に体中に激痛が走り、けれどそれもすぐに治り、体は元通りになった。


あっぶない所だった。

スキルも発動しないし、〈再誕の首飾り〉で復活しても、あの霧の中で復活してもいたぶられて殺されるだけだった。


俺の傷が高速で治ると同時に、霧は消えてフィリスが姿を現した。

六本の腕もない。手元に禁忌辞典もなく、赤く輝く大きな鎌しか持っていない。まだ魔力(MP)が無くなった訳ではないだろうが、大分少なくなって無駄撃ち出来なくなったのだろう。

けれど鎌を持っているという事は、まだ戦う意志はあるという事。


「まだやるのか?」


フィリスの出した死神は、もうとっくに竜魔に食われている。

けれど俺達の戦いに加わらず、高みの見物をしているだけだ。竜魔が消えるまで残り1分はある。1分もあれば……フィリスは千回は死ねる。


「―――っ」


竜魔を見上げながら、その絶望的な力の差に唇を強く噛むフィリス。

そうでなくても、俺が本気でフィリスを殺す気になれば、例え〈竜魔刀〉を持っていなくても勝てないかもしれないと、気付き始めたのだろう。

俺がその気になればフィリスに魔神眼で精霊級の魔法を直接当てればいい。俺の感覚数値ならフィリスの動きも用意に捉えられ、外す事はまずないだろう。


「もう諦めろ。俺は君と戦う為に来たんじゃなくて、話しをする為に来たんだ」

「話す事なんてない……貴方が死ぬか、消えるか、どっちかにして」


ダンッ! と地面を蹴り、無謀な突進で鎌を振り上げた。

頑固な奴っ。

俺は拳を握り、渾身の一撃で放たれる鎌を紙一重で避け、フィリスの胸に打ち込み風穴を開けた。


「っ……かはっ!」


魔神であるフィリスは頭が無事である限りどんなに重傷でも死なず、すぐに傷は治る。

胸に風穴を開けられようと関係ない。きっとフィリスは一度俺から距離を取り、苦しみながらも傷の修復に意識も魔力(MP)も回し始める。

そななれば、拳一つ分の穴などすぐに完治するだろう。


しかし―――今の一撃はそんなに甘くない。


「っ! ……かはっ、うぅっ……‼」


上手く傷が修復されない。

それどころか、フィリスは胸の傷以上に自分の体が重症である事に気付き始めた。


武芸―――【破核】。


先ほど俺が胸に風穴を開けた時、【破核】という武芸も同時に使っていた。

【破核】とは相手の細胞に魔力(MP)を流し込み、細胞を一つ一つ破壊する大技である。流す魔力量で肉体を分子レベルまで破壊する事も可能。

【破核】を上手く扱えば、相手の血流に乗って魔力(MP)を流し、内部から相手の体を破壊しする事もできる。

これによりフィリスは内部から体中の細胞組織を破壊され、殆どの内臓も筋肉も酷い損傷を受けた。これで体が分子レベルにまで粉々に吹き飛ぶほど、綺麗さっぱり体が無くなっていれば、時間は掛かっても傷の修復はむしろ難しくなかっただろう。

けれど傷だらけの体という器を修復する作業はそう簡単ではない。


フィリスは口から大量の血を吐き、あまりの苦しみから地面に倒れて気絶した。見た目通りに胸に風穴があいた程度なら、気絶もせずまだまだ戦えたのだろうが。

それにしても……ここまで深いダメージを負っても魔神の再生力は恐ろしく、ゆっくりとだが傷が修復され始めた。

この調子なら5時間―――いや3時間ほどで完治するかもしれない。


しかし、胸の傷はゆっくりと塞がっていくのだが…………ドレスの穴は塞がらず、むしろ徐々にドレスが霧の様に無くなっていく。これはマズイ。またあの神秘的な姿を見たくはあるが……それは人として色々とマズイ。

だから俺のコートを掛けてやった。……掛ける前に、ちょっとくらい見ておけばよかったと少し後悔する。けれど見たら見たで目が離せないだろうから、これで良かったのかな?



〉★★★「死神の鎌スキル」:固定レベル7を得た。

〉★★★「死神の黒衣スキル」:固定レベル7を得た。

〉★★★「禁忌辞典スキル」:固定レベル7を得た。

〉★★★「死神の宴スキル」:固定レベル10を得た。

〉「魔眼スキル」を得た。



これでフィリスを倒した事になり、レアなスキルが手に入った。それに「魔眼スキル」まで……「魔神眼スキル」がある俺に、今更普通の魔眼が手に入ってもなぁ……。

俺は竜魔を〈竜魔刀〉へと元に戻し、倒れたフィリスの隣に座り込む。


「終わったぁ~~~っ」


はぁ~~~~っと息を吐きながら力を抜く。やっと一息つける。

まだ目的を果たした訳ではないが、それでもここまで大変だったなぁ。フィリスが起きるまで、俺もちょっと休憩しよう。


「はぁ……はぁ……っ」

「…………」


隣をチラッと見ると、苦しそうな息遣いで寝ているフィリス。

この状態の女の子を3時間見ながら待つのか……自分で傷つけておいてなんだけど、少し傷を治すのを手伝おうかな。

俺はフィリスに回復魔法を掛けてやる―――が、これは……なかなか大変だな。思ったよりもヤバイかも……。フィリスは俺との戦いで魔力量も少なく、傷が中途半端に修復されている。悪くすればこのまま傷が治りきってしまい、生きながらにして死んだ廃人になるかも。


うん。本気で治そう。

それから全力で魔法を掛け、1時間くらい経過した。


「……っ。…………っ⁉」


まだ体は動かないだろうが、痛みも消えたフィリスは目を覚ます。そしてすぐに自分の体の異常に気付いた。


「なに、なんで……っ」

「そりゃあまだ動けないさ。俺が与えたダメージは深刻だぞ。君みたいにな凄い再生力を持った魔神でも、俺が回復魔法を掛けなければ生きながら死んでるところだったよ」

「……っ」

「後は放っておいても勝手に完治するな。よし、これでやっと話し合える」


ここまで本当に長かった。

チラッと不機嫌そうなフィリスの方を向いて、俺は聞きたい事を言いだした。


「君は魔神なのか? それとも人間から魔神になったのか? どんな方法で魔神に……いや、もっと聞きたい事があった、この迷宮から出る方法はあるか? 俺はここから出たいんだけど方法が分からなくて、そもそも君達は何でここに? いつからここに居る?」

「…………」


無視。

いや、俺も質問し過ぎたかな。


「悪い、質問し過ぎたな。まずはこの迷宮について、何か知っている事があるなら教えてくれないか?」

「…………」


やはり無視。


「何も話してくれないか……しょうがない」


俺は仕方ないと立ち上がる。

まだ身動きの取れないフィリスは警戒する。


「なに、するの」

「今日は帰る」

「……?」

「で、また明日来る」

「……??」


『訳が分からない、こいつは何を言っているんだ?』って顔してる。


「俺も今日は疲れた。正直、話すのも面倒になってきた。どっかで一眠りして、また明日来させてもらうよ」


刀を鞘に納め、俺は階層の入り口に飛ばしたレイナを、またこの場所に転移させた。

そしてこの階層の探索と、何処か少しでも安全そうな場所目指して歩き出す。

後ろからフィリスが「…………バカなの?」とか言っている声が聞こえたが、いくら話し掛けても無視する相手に根気よく粘ってられるほど、今日はそんな体力はないのだ。

肉体的と精神的な疲労が溜まり、魔法による疲労回復ではなく、今はぐっすりと眠りたい気分だ。


それから適当に魔物をあしらい、魔物の居ないちょうど良さそうな空間を見つけたので、そこで結界を張り、久しぶりに眠りについた。


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