いざ銀竜へ
おかしい、おかしいって。
だってここに入るのはあれだけ簡単だったのに、他の人間達も入っているのに、何で出口が見つからない?
不思議な迷宮だからだと納得するのは簡単だけど、それでは俺が困る。
何か方法はないかと、そこからまた1週間探索を続けた。
千里眼で見るだけではなく、実際に足を運び確かめて、ついでに珍しい鉱物や霊薬などを回収し、魔物を倒して(できるだけ〈竜魔刀〉に頼らず)素材を剥ぎ取り魔核なども回収して、この前覚えた【アイテムボックス】という収納魔法の中へしまいながら探索した。
【アイテムボックス】とは無属性収納魔法で、魔法使いなら誰でも覚えようとする定番の収納魔法だ。
特別な異次元空間に物を入れられ、自由に出し入れできる。
魔力数値により【アイテムボックス】の性能が異なり、入れられる許容量が大きく変わり、物質を風化の進行速度も異なる。
高い魔力数値の【アイテムボックス】なら、数十年は【アイテムボックス】に入れた生物の死体や食料や水は腐らず(生きている物は入れられない)、植物は枯れず、鉱物や風化せず、時間が止まったように物質を風化させない。
結局1~3回階層はいくら探索しても出口を見つける事は出来ず、途方に暮れた。
もしかしたら千里眼でも見えないもっと下層へ行かなければならないのか?
正直嫌だ……どうしよう。
入る事ができるなら出る事もできる筈なのだが……方法が分からない。
こういう時は、一度違う事に頭を切り替えた方が良い。ゲームなどでもよくあった。何故か上手くいかない時などに、一度ゲームをやめて時間を置いてまたやり始めたら、今度はなんか上手くいったりした。
……うん、よくあったな。
きっとこれも同じだろう。
少し迷宮脱出から頭を切り替えてみよう。
じゃあその間は何をしようか? ここでは出来る事など限られるし…………いっそのこと、銀竜にでも挑戦しようかね?
アイテムのお蔭で死んでも死なないし、俺も今ではかなり強くなっているし、魔法にも自信が付いてきているし。
本当に気晴らしのつもりで、無謀だけど挑戦してみようと思った。
けれど正面から戦おうとは思わない。罠とか作戦とか、いろいろ準備をしてからやろう。
俺はそんな適当なノリで銀竜に挑戦するべく、まずは相手の情報を知る為に千里眼と観察を使い銀竜のステータスを見ようとした……が、何も分からなかった。
魔神眼の「観察スキル」レベル10でも視られないとは、どんな化け物だ。
恐ろしくなった。でも諦める気はない。
作戦を考え色々と準備し、その準備に1日も時間を掛け、最後に自分のコンディションを確認して戦う覚悟を決めた。
具体的な作戦はこうだ。
銀竜を『パッと行く?』の道へおびき寄せる。
『パッと行く?』の通路は銀竜でもギリギリ通れる大きな空洞。通路の前に魔法で作り出した俺の分身を用意し、怒り狂った銀竜を俺の所まで誘き寄せ、ここまで来たら本体の俺が〈竜魔刀〉を構えながら【白夜】で斬り伏せる―――というのが作戦の内容だ。
とても作戦とは言えない単純な方法だが、銀竜相手には下手な小細工の数より【白夜】で倒す準備を整える作戦が有効だと判断したのだ。
千里眼で銀竜を見る。まだ寝ているようだ。恐らく俺がこの刀やその他のアイテムを勝手に取って行ったあの日から、一度も起きていないような気がする。
俺も寝るのは好きだからその気持ちは分る。
だから寝起きを無理やり起こされるムカつきも分かる。
「理性が吹き飛ぶくらいに怒ってもらおう。ムカついた相手には冷静な対応が出来ないって言うしな」
俺は、「魔神眼スキル」で寝ている銀竜に直接魔法を食らわせるのではなく、その一歩出前で発動させた。雷属性の上級魔法【雷虎の牙】【雷薔薇の棘】【雷光一刀】の魔法を一瞬で発動させ、同時に食らわせる。
〈竜魔〉刀を持ち魔力数値を極端に上げた最大攻撃。
寝ている銀竜の首に巨大な雷虎の頭が現れ噛みつき、牙を食い込む。
そして地面から雷の薔薇の蔓が絡みつき締め上げながら雷爆する。銀竜の腹の下からは塔のように巨大な雷の刃が銀竜を勢いよく突き刺す。
上級魔法は山一つ吹き飛ばす威力をもっているが、俺の魔法は魔力収束数値を上げているので魔法の力を凝縮し、さらに威力が極端に高いのだ。
例え銀竜といえどこの激しい雷属性魔法の嵐を食らえば、倒せずともそれなりのダメージを与えられ―――ていなかった。
全然効いていない。むしろ無傷だ。
俺がやったのは先制攻撃ではなく、寝ているところを無理矢理起こして、ただ機嫌を悪くしただけだった。
―――何故無傷?
と考える時間はもう無く、銀竜が目蓋をゆっくり開け、起き上がった。
少し離れた場所には魔法で作り出した俺の分身がいる。
それを見た銀竜が口を開けたと思うと、口の前に魔法陣が現れる。そして魔法陣から黒い炎が飛び出し―――迷宮の丈夫な壁を破壊しながら、隠し通路ごと全てを焼き尽くしながら俺の所まで攻撃を届かせてきた。
「なっ⁉」
慌てて飛び上がり、「浮遊スキル」で洞窟の天井と同じ高さまで逃げる。
下では黒い炎の海が広がっている。そして炎の勢いは止まらず壁を貫通しながら洞窟を破壊していった。
迷宮を構成する物質は、壊しても勝手に元に戻るが……この洞窟の壁や天井はとにかく硬くて丈夫なのだ。俺の上級魔法でも少し削るのがやっとだった。
それをこんな簡単にメチャクチャにするとは……アレ食らいたくねー。
てかヤバイ。思った以上に寝起きの機嫌が悪いぞ。
予想外というか予想通りでもあるというか、ともかくこの強さは反則だ。
下に降りると一直線の綺麗な穴で壁は貫通しており、その破壊の跡は目を凝らせば遠くの銀竜が見える程だ。
本来は通路に多少の曲がり角があったのだが、元の原型などない。
ちょー逃げたい。けど今更もう遅い。
さらに広くなった通路を使い、銀竜は翼を広げてこっちに『パッと来る?』で飛んで来ている。
次にどんな魔法が来る?
またこんな強力な魔法が来るのか?
自分より遥かに強い相手にはどうする?
格の違う相手からは逃げられない。
格上の相手には長期戦になるほど不利。
なら勝負は一瞬で決めるべき。
時間のない中、幾つも頭に浮かんだ考えから、戦うという結論が出た。
〈無敵の1分薬〉を一気に2本飲み、竜魔刀と合わせステータス数値合計+2万、MP(魔力量)を+2万にする。
そして「電光石火スキル」の能力で初速から最高速度で動き、迫る銀竜に突撃した。
しかし銀竜がまた口の前で魔法陣を展開させる。その魔法陣を瞬間に、背筋が凍った。
アレは……大陸すら消滅させるという精霊級? もしくは惑星規模を亡ぼす幻想級魔法か? あんなの個人に向けていい魔法じゃないだろ。
まだ俺の手の届かない領域の魔法が、今俺に向けられている。
発動させて堪るか。
俺は「魔神眼スキル」の特殊能力、【理への干渉】で魔法陣の事象に干渉し、魔法陣を消滅させてMP1万を消費する。
そしてその間に銀竜の間合いまで詰めた。
だが銀竜も瞬時に幻想級の魔法陣を9つ出す。それぞれから凄く危ない気配を感じるが、もう俺の足は止まれない。
けれど、あと一歩足りない。
一つだけ、もう発動する魔法がある。このままでは斬撃が届く前に銀竜の魔法が先に発動する。【理への干渉】でその魔法陣を消したいが……俺が【白夜】を発動させる魔力(MP)が足りなくなる。
魔力(MP)が足りなくては―――いや、俺が手にしているのは普通の武器ではない、魔剣だ。
魔剣なら例え魔力(MP)が足りずとも、俺の生命エネルギーを吸い取り、死と引き換えにでも無理矢理に攻撃を可能とさせるだろう。
生死の境などもう通いなれた。命を賭ける事に迷いも抵抗もない。ならばこの銀竜に文字通り命を賭けた渾身の大技を食らわせてやろう。
【理のへの干渉】で魔法陣を消すと、詰めた間合いから残りの魔法陣ごと、「居合切りスキル」を使い高速十三連撃の【白夜】を繰り出し―――銀竜を斬り伏した。
普通の攻撃なら【白夜】の一撃で魔力(MP)を1万消費するが、居合切りならその者の実力次第で【白夜】を連撃する事ができる……ようだ。
半ば直感でやったから成功するかは微妙だったけど。
銀竜としても予想外だったのだろう。
自分が今まで守っていた武器が寝ている内に相手に渡っていて、予想外の超高速移動で近づいて来ても、充分反応できたので魔法で駆逐しようとしたら、その魔法が突然消えた。
そして何より人間が〈竜魔刀〉を使いこないし【白夜】ほどの攻撃を仕掛ける事が出来たのが、一番の誤算だった。
人間の攻撃など上位竜種にとっては蟻に噛まれるようなもの―――だった筈なのに、その一撃一撃に体を切断させられるとは、どうやって予想しろと言うか。
俺は地面に膝を付き倒れる。大技と引き換えに、俺は一度死んだ。
そしてすぐに生き返ると、ドバっと吹き出る汗が噴き出て、呼吸が荒くなる。自分が今どれ程ピンチだったか、今更ながら実感してきた。
危ない……久々に本気の死を覚悟した。
今まで何やかんだで〈竜魔刀〉と無敵の薬や、生き返る事で精神的な余裕を保っていたが、今のは本当に反撃のタイミングを逃していたら命が三つ四つじゃ足りなかった。
勿論逃げるのも不可能だっただろう。
軽い気持ちで死んでもいいから戦ってみようと思ったけど、さすがにダメだねこれは。二度と軽い気持ちでこんな事しないわ。
〉★★★「銀竜の鱗スキル」:固定レベル7を得た。
・スキル所有者に害となる魔法ダメージは全て95%カット。さらに中級魔法以下までなら全てダメージを完全カットする。
・スキルによる能力やアイテムなどの特殊能力も大幅に低下させる。しかしレベルの高いスキルや★付きのスキルほど低下の力が弱まる。
〉★★★「銀竜の魔袋スキル」:固定レベル10を得た。
・神話級の魔法でも詠唱の必要なく、さらに無詠唱で発動可能にする。
・どんな高度な魔法陣も描く準備の必要なく、一瞬で完成したものを出現させる。
・複数の魔法を同時に何種類も発動させられる。その者の技量にも左右されるが、未熟者でも最低1000種類以上の発動は可能。
・神級の魔法でも、このスキルが充分な魔力放出と魔力収束の代わりとなり、発動体の必要なく魔法が使える。
〉★★「銀竜の爪スキル」:固定レベル10を得た。
・あらゆる魔法を武器や体の一部に付与する事が出来る。例え山一つ吹き飛ばす上級魔法でも纏わせる事ができ、纏わせた魔法は威力や効果が10倍に跳ね上がる。
・魔法を纏わせるだけでなく、魔法の形を変えて武器にしたり、生き物に変えたりして操る事もできる。ゴーレムや召喚獣などは生き物の形から武器に変える事も可能である。
〉★★★「魔の蔵スキル」:固定レベル5を得た。
・スキル所有者の魔力量を千倍にする。そして千倍後、魔力(MP)が+5万される。
・魔力(MP)の回復を早め、どんなに多くの魔力(MP)を持ち、どんなに減っても1時間もすれば全回復する。
・魔力(MP)を使えば使うほど、魔力(MP)とは異なる力が溜まり、その溜めた力を魔法や武芸により一気に解放する事で、凄まじい威力となる。ただし魔力(MP)が回復すると溜まった力も減っていく。
〉★★★「銀竜の血縁者スキル」:固定レベル10を得た。
・自分の持っていない属性でも、全属性の魔法を90%の力を引き出し行使する事ができる。既に持っている属性なら本来の力を超え、150%の力で行使できるようになる。
・自分の血が銀竜の物と同じになる事で、天性の魔法の才能が得られ、本来魔法の才能がまったく無い者でも、大魔導士以上に魔法を容易に使う事が可能となる。
・門属性の召喚魔法などは、魔法との特別な契約行為がなければ発動させられないが、召喚魔法の魔法目名さえ知っていれば契約行為を無視し、簡単に発動させる事が可能である。
・自分の器により、覚えられる数に限度のある召喚魔法でも、このスキルが有れば無限に覚えられる。
・自分の血を他者に飲ませると、その者も「銀竜の血縁者スキル」の効果を一時的に得られ、魔法行使も可能となる。
〉★★★★「銀竜の魔脳スキル」:固定レベル7を得た。
・銀竜しか使えない特別な魔法を使えるようになり、さらに銀竜が生まれつき覚えている全魔法―――全属性の下級魔法から幻想級魔法までの魔法をざっと数千万と習得する。
・このスキルには【魔道図書】という特殊な能力が使え、世界に自分の頭脳を繋げる事で、この世界に存在する魔法なら全て使う事が出来る。それこそ神話級の魔法さえ使える。しかし【魔道図書】は1日に1度、5分間しか使えない。
・魔法という魔法は全て覚えやすくなり、「魔門」からでも簡単に魔法を習得する事も、自分で新しい魔法を容易に作り出す事も可能である。新しい魔法を作り出すには世界にその魔法を認めさせる必要があるが、このスキルでは簡単にそれを認めさせる事が出来る。しかし【魔道図書】を通じてあらゆる魔法を覚えようとする事はできない。
〉光属性・闇属性・門属性・火属性・幻属性・命属性・風属性・氷属性を得た。
苦労の戦果か、いろいろ手に入ったし、どれもレアみたいだけど……特に「銀竜の魔脳スキル」により精霊級や幻想級の魔法を多数覚えられたのは凄いな。
俺が「魔門」で覚えられたのは最高でも上級魔法までだったけど、このスキルで殆どの魔法を一気に覚えてしまった。
いやそれ以前に……【魔道図書】という特殊能力から、この世全ての魔法が使える様になり、神話級の魔法すら使える様になったのは素晴らしすぎる。
とうとう大陸を吹き飛ばす精霊級、惑星規模で亡ぼす幻想級、そして【魔道図書】に脳を繋げれば世界すら変える神話級の魔法まで使えてしまう俺って……もう殆ど神様じゃない?
まぁ、神話級の魔法なんてどれだけ魔力(MP)が必要なのか分からないし、不用意に発動させる気はないけど。
そういえば……何か属性まで手に入っていたな。何でだ?
解らない。というか今は考える気力もない。疲れた。
残りの「無敵の1分薬」は5個か……残り少ないからもう使わないようにしよう。
とにかくもう疲れたから、
「結界を張って、もうここで寝ちゃお」
俺はその場で仰向けに倒れ、ぐっすりと眠りについた。