ここから頑張ります
ザッポ――――――――――――ンッ‼
痛ってぇぇぇぇぇぇえええええええええっ!
落下のせいで殆ど意識が飛びかけていたが、水場らしき場所に落ちて、あまりの痛さに目が覚めた。なかなか深い水場らしく、沈む前に慌てて水面を目指す。
「ぶはっ! ぷは! はぁ、はぁ、はぁ…………………なんだ、どうなったっ?」
水面から顔を出して辺りを確認すると、洞窟の中のような岩だらけの場所だった。
しかし明かりがある訳でもないのに、洞窟内はそこそこ明るい。そして俺が今居る場所は洞窟と言うには無駄に広すぎる大空間だった。
今いる水場もちょっとした湖くらいある。何より落ちてきたはずなのに上を見ると岩の天井がちゃんとあり、空なんて見えない。
……………もしや、ここは迷宮なのではないか?
この世界の常識的知識の一つ―――迷宮。
迷宮とは魔物を無から生み出し続ける、別世界の危険な場所である。
迷宮の特徴としては、
1. 迷宮内はすごく広く、まさにもう一つの世界のような隔離された特別な空間。
2. 迷宮内の構造や特徴、広さは迷宮により様々で、魔物の強さや種類も迷宮により異なる。
3. 迷宮が存在する理由は不明。
4. 迷宮を破壊する方法は色々と試されたが不可能だった。
5. 迷宮内には区切りとなる階層がいくつかあり、奥に行けば行くほど強い魔物や珍しい素材が多い。
6. 迷宮は魔物を生み出し、魔物の力を徐々に強くさせる。
7. 迷宮には魔物だけでなく、特殊な武器や魔法の道具を誕生させる事がある。宝箱の中にあったり、道に落ちていたりなど、なぜ誕生するかは不明。
8. 迷宮内でしか取れない素材や、会えない魔物がいる。
9. 迷宮では人間の最悪の敵である魔神を生み出す事がある。魔神を生み出させない為に、迷宮内の魔物を討伐し魔物の数を減らすことで、迷宮の力を魔神誕生から魔物生産へと向けさせ、魔神を誕生させないようにバランスを維持する必要がある。
10. 迷宮を長く放っておくと、迷宮内の魔物はどんどん増え、魔物だけでも手が付けられなくなった迷宮は魔神生誕を恐れ、迷宮の入り口を封印してしまう。だがそれはその場凌ぎにしかならず、魔神が中から封印を破壊し、数百年かけて出てくる場合がある。
などなどが、迷宮について考えて頭によぎったこの世界の常識だ。
やはりこの世界の一般常識は勝手に頭に入っているが、これだけではまだまだ情報が足りない。
俺は洞窟なのにバカ高い天井をもう一度見た。
あれだけ上空から落下して、いくら水場に落ちたからといってこの程度の痛さですむ筈がない。
おそらく迷宮に入ってことで、一度運動エネルギーがゼロになり、ここの天井くらいの高さから落下したような扱いになったのであろう。
雰囲気からしてもただの洞窟ではない気もするし、ここが迷宮なのは間違いなさそうだ。
迷宮ならではの不思議ファンタジーに助けられた。
とりあえず、ここから上がって探索してみよう。
迷宮なら冒険者やどこかの国の騎士なんかが魔物討伐に来ているかもしれないし。
ちなみに冒険者とは、迷宮や町の外などに出る魔物を殺し、その魔物の素材と心臓である魔核や、採取した薬草や鉱物を売却したり、冒険者ギルドなどで様々な依頼を受けて生計を立てている者達のことだ。
基本的に多くの冒険者は倒した魔物の素材を売ることで生計を立てている者が多い。
だからここが迷宮なら、魔物もいるが冒険者にも会えるかもしれない。
俺はとにかく水場から上がり、上着を脱いで水を絞る。そして今の内に体にどこか怪我をしている箇所がないか探す。それらしい所は見当たらなかったので、上着を着て衣服を整える。
さて、冒険者を探しながらここを探検するにも、まず武器になる物を探さないとな。
そこらに良い感じの木の棒が都合よく落ちてないかと目を凝らしていると―――背後から大きな水飛沫が上がった。
振り返ると……巨大な首の長い恐竜のような化け物がこちらを見下ろしている。
「…………もうやだ、この世界」
全力ダッシュで水場から離れる。
さっきまで自分が入っていた水場に、あんな恐竜のような化け物が居たと思うとゾッとする。もしかしたら今が一番怖いかもしれない。
一度も振り返ることなく、人が7~8人は肩を並べて通れるような広さの通路へと逃げ込む。天井もそこそこ高く、まぁまぁ広い通路だが、この程度の広さならあの化け物恐竜も入って来れまい。
「はぁ、はぁ……なんか、俺こんなのばっか」
この世界で生きていくには戦う力が必要だ。
あんな化け物達と戦える程の力を付けるなら……やっぱりレベルを上げるしかないだろう。どれだけ強くなれるかは分からないが、この世界で生きていくにはそれしかない。
でもどうやってレベルを上げる?
まさかあの魔物を倒して?
初めての戦闘にしては棒高跳び並みにハードル高すぎる。今だってもう怖くて怖くて逃げ切っても足が止まらないくらいなのに。
「はぁ、はぁ、はぁ」
この落ち着かない感じ、すごく嫌だ。
早くこの状況を何とかしたい。
通路という通路を闇雲に走り、広い場所に出たり、またどこぞの通路に入ったり、とにかく足を止めず人を探して走り続けた。
魔物がうろつくこんな場所で無暗に走り回るのが危険なのは充分わかっているけど、もうこっちはかなり構参ってしまっているのだ。
走り続けていると、ある場所に出て、そこで足が止まった。
そこには何千もの人の死体と思われる骸骨が散乱している。
剣や鎧もあるが、錆びていて使えそうにない。薬なのか、謎の液体の入った瓶があるが……異世界の薬系に手を出すのはちょっと怖い。魔法使いの物らしき杖や本も、そこら中に散らばっているがボロボロだ。でも本があるなら後で読んでみようかな。文字は勝手に頭の中に入っているので、読み書きは簡単だ。
洞窟内に荷馬車も引いてきたのか、馬の骨はなさそうだが積み荷がまるまる残っている。中にはいろいろな道具と……食糧もあったがどれも腐っている。水もダメだ。
「これ……迷宮内の魔物を討伐しに来たどこかの国の兵士達、なんだろうな。それにしても、こんなにいて全滅って……」
この状況だけ見るに、多くの魔物達と連戦して死んだようには見えない。魔物の死体もないし。
恐らくもの凄く強い魔物一匹と遭遇し、その魔物にまとめて全滅させられたように思える。一体この迷宮には何がいるのやら。
辺りを探索していると、高貴なローブを着た魔法使いっぽい骸骨が、大切そうに地図を両手で握っているのを見つけた。
ここの地図だろうか? 取って見てみる。
地図はまだまだ作製途中だったが、地図の上側には『最上級迷宮、〈魔界の口〉』とこの迷宮の名前らしき事が書かれている。
最上級迷宮とか見たくなかった情報まである。
おいおい、勘弁してくれ。
軽く絶望してもいいんじゃないかな? もう死んでみる? ―――などと思って絶望できるほど、完璧に参ったわけではない。
むしろ錆びていてもここの武器や道具を見て、多少希望が湧いてしまった。なかなか俺は図太い神経を持っていたみたいだ。
だからここにある装備や道具の数々は、ありがたく貰って行こうと思う。俺が生きる為には必要だし、死者にはもう必要ないしな。
適当にそこらへんに落ちている剣の中から、一番良さそうな剣と小楯を拾った。そしてナイフを二本拾う。鎧は着なかったが、あまり汚れていない魔法使いのローブを奪いそれを着た。
後は破けていない鞄を拾って、その中に出来るだけ使えそうな物を入れる。
ロープに青色の謎の液体。蝋燭に火打石。布と油のような臭いがする液体もあったので、割れていない空の瓶に入れて火炎瓶を作って鞄の中に入れる。
謎の液体を少し地面に垂らすと、一瞬にしてその部分が凍ってしまった。これはそういう物らしい。間違って飲んだら苦しみながら死んでたな……怖い怖い。
あとは火薬の臭いがする粉も発見したので袋に入れ、そして煙玉を何個か見つけたのでこれも入れておく。
まだ探せばいろいろと使える物は出てくるだろうが、食べ物や飲み水がなさそうなら、一カ所に留まらず探索しよう。
また迷路のように入り組んだ洞窟の道に戻る。
この場所にもう一度戻って来られるかなど分からないが、それでも今は進むしかない。
薄暗い穴の道を落ち着いて歩き、耳を研ぎ澄ませ周りに意識を集中させる。
いつ……何と出くわすか分からない。
ここのレベルの魔物と出会ったら、必ず俺は死ぬだろう。
だんだん俺の進む先に出口が見えてきた。
さて、この出口の先にはどんな物が待っているのやら。
そして見えてきたのは、紫の茨がそこらじゅうに伸びている空間だった。
この空間に恐る恐る足を踏み入れると、茨がゆっくりと俺の方へ伸びてくる。茨に目があるわけじゃない……なら体温か何かに反応して近づいて来ているのか。
ここは危ない……直感でそう思う。
引き返そう―――と思った矢先に、後ろから足音が聞こえた。
薄暗くてまだよく見えないが、人には見えない……やはり魔物だろう。
そしてこっちが見えたという事は、向こうにも俺が見えたという事だ。向こうはすぐに走りだした。
ヤバイ!
この場所に隠れるしかない!
俺は羽織っているローブに青色の液体を垂らし凍らせる。冷たくなったローブを被り、茨の中へと逃げ込んだ。
そして少し進んだ所で茨の陰に身を潜め隠れる。
俺が隠れるとすぐに魔物はやってきた。人間のように二足方向で歩き、服を着ていて大きな袋を持ち、俺と同じようにローブを被る豚の魔物だった。
身長は俺と同じくらいで、太った体で回りをキョロキョロしていて、俺の姿を探しているようだ。だが正直言ってあまり強そうには見えないな。
人を食らう魔物というより……あれじゃあ死体を漁るコソ泥だな。
あれなら不意を衝けば倒せるかもしれない。これはレベルを上げるチャンスか?
まだ俺の姿を探す豚に、こっそり近づこうと茨の中から出た瞬間、突然豚はこっちを振りむいた。
「キィイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
甲高い声を上げて突進してくる。
なんか……思っていたよりも怖い。
だが不用意に茨の中に足を踏み入れたのは失敗だ。豚の体温で茨が動き出し、脚に絡みついて棘が肉に食い込んでいく。大げさに倒れた豚は、ズルズルと茨に引っ張られる。このまま放っておいたら茨に栄養とか吸われて干からびてしまうのかな?
「キィイッ⁉」
俺は身動きできない豚に近づき、少し震える手で剣を振り上げ首元に突き刺した。しかし上手く斬れず浅く首の肉を斬っただけだった。
今度こそグッサリ行こうと再び振りかざすが、なんだか豚君の様子がおかしいぞ?
肌がみるみる赤くなり……みるみると……巨大化し始めた。
おっと、これはマズいのでは?
すでに豚の身長は5メートル程になり、茨を引き千切って立ち上がった。そして俺を叩き潰そうと拳を振り上げる。
「おい、おいおいおい! そんなのありかよ!」
弱そうに見えて、後から巨大化するなんてズルいじゃないか!
振り下ろされた拳をなんとか躱し、距離を取って逃げる。茨は今も巨大化した豚に絡みつくがビクともしない。
大きな体の豚君は歩幅も大きく、普通に逃げてもすぐに追いつかれそうなので、煙玉を投げて煙幕を張る。今のうちにと元来た通路へ逃げようとしたが―――豚君はそこら辺にあった岩を持ち上げ、それを投げて通路の入り口を岩で塞いでしまった。
「おいっ!」
勘弁してくれよ。
今の通路以外にこの空間からでる道はない。
俺は逃げ道を完全に失い、とにかく少しでも豚君から距離を取る為この空間の端っこまで逃げた。
豚君はまだ巨大化を続け、今では9メートル程になっている。
とにかく倒せずとも、何かしなければ……ただ死ぬのはご免だ。
だがもう剣やナイフが通用するとは思えない。今ある物で使えそうなのは……火炎瓶と凍らせる液体。そして火薬を詰めた袋だ。
火打ち石で火炎瓶の布に着火させ、こっちに走って豚君にありったけの煙玉を投げつけて煙幕を張り逃げ回る。
そして不意を突いて火炎瓶を豚の顔面に投げつけた。
驚くほど上手く顔に命中し燃え上がった。
俺は剣を抜き、相手が混乱している間に足を斬りつけようとした―――が、顔面が燃え錯乱状態になり、豚は無茶苦茶に洞窟の岩壁を殴り、蹴りで近づくのが危ないのなんのって。
……ダメもとで近づかずに剣を投げてみた。
結構俺の命中率は良く、足に勢いよく迷宮したのだが、勢いよく蹴り飛ばされどこかの岩壁に刺さった。
これ絶対近づけない。
だから最後に俺に取れる手段。俺は燃え上がる豚の顔面に火薬を入れた袋を投げた。
ドオンッ! と豚の顔面を爆発させたが、殺せる程の威力はない。
豚は顔面爆発にも大したダメージを負わず、火も消えると平然と俺を睨めつける。現在、豚の身長は12メートル程。
ギロッと大変ご立腹な瞳で睨まれ、巨大な手を振りかざし、俺を叩き潰そうとした。
ああ、これは避けられない。
また死を覚悟した……が、突然豚が白目を向いてドシンッ! と倒れた。
え? なんで?
豚は口から泡を吹き、苦しそうにピクピクしている。
これはどう見ても毒物による死に方だ。そしてその毒に思い当たるとしたら……茨の棘に毒があったとしか思えない。
あっぶね~っ、俺も少し行動を間違えれば死んでたぞこれ。
だが、何とか助かった。
ギリギリ過ぎてもうここで生きていける気がしない。
武器になりそうな物も後はナイフと―――、
「あっ、剣を探さなきゃな。…………あそこの壁に刺さっているよ、岩壁に刺さるほどの勢いで跳ね返されるってヤバイな」
洞窟の壁に刺さっている剣を引き抜こうと力を込める―――が、なかなか抜けない。
もっとこうスポッと抜けると思っていたのに。ただ力で抜くだけじゃダメみたいだ。
あれかな、こう少し斜めにしてこう……、
ガシャッ。
あ、抜けた。
だがただ剣が抜けただけでなく、岩壁まで崩れてしまった。
突然の事で驚いたが、そもそも剣がそう簡単に岩に刺さるものではない。この岩壁の部分だけ特別に脆かったのだ。そして壁が崩れた事で大きな隠し通路が出てきた。
迷宮なら、隠し通路や隠し部屋の一つや二つあっても不思議ではない。
迷宮には宝箱なども存在するし、もしやこの先に金銀財宝の山があるかもしれない! 今一番欲しいのは武器だけどね。でもレアな武器も有るかもしれない!
RPGゲームを好んでやってきた俺には、隠し通路によくあるそんな都合のいい展開を期待せずにはいられなかった。
行ってみるか? いや行くしかないだろう。
俺は金銀財宝より、レアな武器やアイテムが有る事を期待し、駆け足で隠し通路の中を進んだ。
やっと、やっと運が向いて来た!
この異世界に来てまだ一日も経ってないのに波乱万丈だった。死にそうな時もあった。泣きたい時もあった。辛い事はもっとあった。でもそろそろ良い事ありそうでホントに嬉しいっ‼
しばらく走り続けた通路の先に、異様に光る出口を見つける。それが俺には希望の光に見えて、よりいっそう足に力が入る。
そして異様に光る出口の先には―――銀色に輝く、ドラゴンさんが寝ていました。
銀色に輝く広場の奥、祭壇の様な場所で寝ている銀色のドラゴン。
レベル0にして、ラスボスの前まで来てしまった気分だよこれ。
好きなRPGゲームに、ダンジョンの入り口からラスボス一歩手前の場所まですぐに移動できる『パッと行く?』なんてお助け機能があったが……今まさにそれを使った感じだ。よけいな事をしてくれる。
なんてくだらない事を考えている場合じゃない。そんな事は分っいるけれど、どんどん生きる希望が無くなっていくんですけど。
それにしても馬鹿みたいに大きく、そして綺麗な生き物だ…………いやいやそうでもない。いい加減現実逃避はやめないと。
ここに突っ立てても何も良い事は何もないんだし、取り敢えず回れ右して……右して……アレは何だ?
銀竜が寝ている祭壇の中央には、まるで守っているかの様に体全身で宝箱を囲っていた。宝箱などリアルで初めて見た。
宝箱だけではない。禍々しい異様なオーラを放つ、刀と思われる武器も、宝箱の中に入らないのか立て掛けられている。
その刀……一目見て、ただの武器ではない事が分かった。目が離せない。
あれ、取りに行こうかな?
自分の中で、大それた考えが頭に過る。
自殺志願のつもりはないが、どのみちそこらの武器を手に入れたところで、この地獄のような迷宮から生き抜く事が出来るとは思えない。
なら今死ぬのも後で死ぬもの一緒ではないだろうか?
うん、そうだ。
ここで決断しなきゃいけない。
ここで行かなかったら、これからこの世界で強い生き物にただ背を抜けるだけの人生になってしまう気がする。それは嫌だ。俺はお前らのエサじゃない。
静かに、一歩一歩足を動かす。
足音を殺し。息を殺し。姿はめっちゃ晒しているけど、今更取り乱しては銀竜が起きてしまう。だから心も殺して、恐怖など感じていないかのように銀竜へ向かう。
まったく、こんなの高校生が味わう命の危機じゃないだろに。
ここんな世界に俺を放り込んだのはやっぱ神様的な存在かな?
帰れるのかな? 俺以外の皆は上手く逃げれたかな? あの時何人死んだんだろう?
そんな今は関係ないどうでもいい事を考えているうちに、もう銀竜の目の前までやって来た。
まだ銀竜は起きる気配がない。
というかホントにぐっすり寝ている。
よし。このまま、このまま。
銀竜の体に触れないようにゆっくり進み、刀の前まで来た。
近くで見るとより禍々しい何かを感じる。まるで刀が生きているような……呪いの武器のような印象だ。
手に取っても大丈夫なのか?
いや、それも今更考える事じゃない。だから思いきって刀を掴む!
………………………………………………………大丈夫そう? だな。
とにかく刀は取った!
次に宝箱を開けようと思うが、欲を出し過ぎれば身を滅ぼす。
刀を取ったならすぐ逃げよう。だけと……でもこの銀竜が守るように全身を使って囲んでいる宝だ。何か特別な物に違いない。また次にこんな無茶が出来るとは思えない。手に入れられる時に手に入れたい。
それに、まだこの刀だけでこの迷宮を切り抜けられるか分からないのだ。
幸い宝箱に施錠はされていない。
だからゆっくり宝箱に手を伸ばし、なるべく音が出ないように箱を開けようと試みる。
………………かちゃっ。
つッ‼‼
宝箱を開けた音が意外に大きく、心臓が止まりそうになった。
身を強張らせ、全身の感覚を使い周囲の様子を伺う。
………………………よかった。銀竜の寝息に変化は見られない。
取り敢えず宝箱の中にある物を見る。
中には指輪が一つ、ピアスが一つ、宝石のように輝く液体の入った試験管のような細い瓶が幾つかあり、あとは首飾りが一つあるだけだった。
これだけ? と思ったが、とにかく今は身に付けられるアクセサリーの類は取り敢えず身に付け、謎の輝く液体が入った瓶は全てポケットに無理やり入れ、後は銀竜が起きる前に逃げるのが先決だ。
ここまで来て銀竜が目覚めて死亡なんてホントにごめんだからな。
幸いまだ起きていない。静かに寝息をたてながら、スヤスヤと眠っている。焦る気持ちを落ち着かせコソコソと移動する。案外全て上手く行き、骸骨達が眠る場所まで帰って来れた。
「よ、よかったぁ~~~~~~~っ」
安堵から足の力が抜け、その場に座り込む。
今まで息をする事すら忘れていたかのように、今更呼吸が荒くなる。
だが、これでやっと使えそうな武器を手に入れた。
一体この禍々しい刀はなんだろうと、目を凝らしよく観察してみる。
〉「鑑定スキル」を得た。
…………ん? え? 今のなに?
自分のステータスを見て観る。
そこには「鑑定」「気配遮断」「観察」のスキルがステータスの欄に増えていた。
〉「鑑定スキル」:レベル1
・物質の性能や本質を見抜き、スキル所有者に分かりやすい言い回しで頭の中に情報が入って来る。
・目で見る、触れる、耳で聞くなど、鑑定の方法は様々である。
〉「気配遮断スキル」:レベル1
・スキル所有者の気配を消し、レベルが高くなると相手の目の前に居ても意識されなくなる。しかしレベルの高い者、凄く気配に敏感な者、感知系の魔法などでは発見される事もある。
〉「観察スキル」:レベル1
・生物の性能や本質を見抜き、相手の体の調子までもスキル所有者の頭の中に情報が入って来る。
・目で見る、触れる、耳で聞くなど、観察の方法は様々である。
と表示されている。
観察や気配遮断のスキルはいつ手に入れた? さっきドラゴンからこそこそ逃げる時や、ドラゴンの様子を観察している時にか?
逃げるのに夢中で気が付かなかった?
だが何でいきなりスキルを覚えたのか。それはおそらく身に付けたアクセサリーの能力だろう。
俺は指にはめた指輪を鑑定してみる。
だがレベルが低いせいか見ても鑑定が出来ない。と思っていたら何故かピアスが突然光り、「鑑定スキル」レベルが一気に最高のレベル10になった。
訳が分からないが、取り敢えず鑑定を行うと、
「覇王の証」:ランクSS
・レベルが上がるとき、全てのステータス数値が大きく上がる。しかしレベルは上がりにくくなる。
・レベルの限界を迎えなくなる。
・レベル以外に訓練や戦闘でもスキルレベルやステータス数値が上がりやすくなる。
・ステータスポイントやボーナスポイントが手に入りやすく、通常より多く手に入る。
・所有する全ポイントを、ポイントが使える物にはそのままの全て、最大ポイント分の数値を各スキルやステータスに与える事が出来る。
わ~お……チートの指輪だ。
む、無茶して手に入れた甲斐はあった。
こ、このピアスは何だろう。
「天の才を受ける者」:ランクSS
・倒した相手の特徴をスキル化し、または所有しているスキルを手に入れる事が出来る。
・自分の行動やその結果がスキル化され、手に入れる事が出来る。
・魔法使いなら魔法を覚えやすくなり、武芸者なら武芸を生み出しやすくなる。
・1日に3回だけ一時的にスキルレベルを最高レベルに引き上げる事が出来る。
・ボーナスポイントをスキルに与える場合、通常よりもスキルレベルが数倍も上がりやすくなる。
ど、どうやら「鑑定」のレベル跳ね上がったのはこの1日に3回だけ使える、スキルレベルを最高レベルに引き上げるお助け機能のおかげみたいだ。
そしてこれもチートのアイテムと。
じゃ、じゃあ、こっちの首飾りは?
「再誕の首飾り」:ランクSS
・3回まで死ねる。死んだあと自動蘇生される。
・死ねばどんな状態からでも完全復活する。生まれつき目が見えない、体に不自由な部分がある、脳に障害がある、不治の病や呪いに掛かっていても、死んで生き返れば悪い部分はなくなっている。もはや生き返りではなく生まれ変わりである。生まれ変わってもレベルが下がるなどなく、記憶は元のまま、強さも変わらず、悪くなる事は何もない。
・生まれ変わりには、その者が実際に歳を重ねた年齢なら、死んだ後に好きな年齢に生まれ変われる。例え大人から子供の状態に戻っても、筋力や魔力量などが劣る事はないく、強い状態で生き返れる。
・3回死んで首飾りの効力が切れても、大量の魔力を注げば修復され回数も回復する。
この謎の液体は⁉
「無敵の1分薬」:ランクS
・飲めば1分だけ全てのステータスとMPが1万+される。
・最上級ポーションと同じ回復効果を持つ。
・飲めばあらゆる毒を解毒できる。
・同時に複数飲んでもステータスは1万+のままだが、MPの総量は飲んだ数だけ増える。
じゃあこの刀は⁉
魔剣「竜魔刀」:ランクSS
・刀を使用するさい、1秒間に魔力(MP)を100消費され、もし魔力(MP)が無ければ生命力を奪われドラゴンや魔神でも3秒で死に到る。
・刀の使用中、魔力量(MP)以外の全てのステータスが1万+される。
・この刀で殺せば殺すほど刀の力は増し、切れ味や耐久度が増し無限に強くなり続ける。
・すでに切れ味は魔神の体やドラゴンの強固な鱗も容易に切り裂き、耐久度は神の鉱物オリファルコンと同等。
・魔力(MP)1万を消費する事で、特殊技能【白夜】を発動させられる。白い斬撃で如何なる物を切り裂く。この斬撃に斬れない存在はない。大陸、海、空間、魂ですら切断可能。斬られた物は再生する事はない。
「どれもこれも…………なんてチートな」