訪問者
むらがあった。
規模からすれば集落といったほうが適切かもしれない。
合わせて百人いるかどうか、小さいむらだ。
そしておそらく貧しいむらだ。
むらを囲む壁は蔦でおおわれ、よく見てみれば崩れかけているところもある。
補修する余裕がないのだろうが、それでも人々が暮らしているということは、ながらく平和なのだろう。
古びれた門をくぐると、簡素な家々が立ち並ぶ。
人の姿はみえない、畑仕事にでも出ているのだろうか。
耳を澄ましてみれば、どこからか子供たちの声や馬のいななきが聞こえる。
この田舎特有の安心感というのだろうか、なにかゆったりとした流れの中を漂っているような、そんな心地をしばし味わう。
「あの...」
と、突然後ろから声をかけられる。
驚き振り向くと、そこにはひとりの少女が立っていた。
純真無垢、そんな言葉が似合いそうなこの娘は
不安でか緊張でか、潤んだ瞳で私を見つめながら、それでもはっきりとした言葉で
「商人さんですか?」
私に尋ねた。
「こんにちは、お嬢さん。だが残念、私は商人ではないんだ。すまないね。」
「えっうそ!? あっいや..そうじゃなくて...えっと....」
しどろもどろ、顔を真っ赤にして言葉を探している。
勇気を振り絞って声をかけてはみたものの想定外の事態に心底驚いている、といったところか。
かわいらしい
もう少し見守っていたい気もするが、
「何か入用だったのかい? 大したものは持っていないが力になれるかもしれない。」
「えっ..と、あの、す、すみません。とくに買いたいものがあるわけではなくて、その...」
さてどういうことだろう。
商人を探し、しかし買うものはない。
なにかを売りたかったのか? いや違う。彼女は手ぶらだ。何も持っていない。
ありふれた簡素な麻の服。
柳色の上衣に深い藍色のスカート。
一本のリボンがきれいな髪に紅をさし、外見とは不釣り合いな色気をまとう。
まて、何のはなしだ。
そう、この娘の用事だ。
売却が目的の場合、今この場に持ってくる必要はない。迎えに来ただけということもありえ・・
ないか。
それならば私が商人でないとわかった時点で用はない、しかし、この娘は立ち去る様子がない。
ただ動転しているだけということもありうるが、やはり何か用事があるように思える。だからこそ必死なのだろう。
さてさてどうしたものか。
と思っていたら助け舟が来てくれた。
「おーい、レイ、何やってんだー?」
よいタイミングだ少年。