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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第3章 司馬子上、蜀漢を滅ぼす
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第92話「蜀漢征伐 ~その1~」

 魏軍の策は実に巧妙であった。

 まず、鄧艾隊が沓中の姜維に向かって真っ直ぐに進軍、その一方で諸葛緒隊は大きく迂回、姜維隊の裏へと回り込み、その退路を断つ。

 こうして姜維を釘付けにしているうちに、鍾会率いる本軍が漢中の地を蹂躙するという筋書きである。

 しかし、この巧みな策を姜維は斥候からもたらされるわずかな情報から見抜いた。


「鄧艾に構っている暇などない! 全軍退け! 退路を完全に断たれれば我らに明日は無い!」


 姜維はそう兵たちに号令すると、撤退戦を開始した。

 鄧艾による激しい追撃。姜維はこれを幾度も躱してみせる。

 しかし、それにもやがて限界が訪れた。

 隘路を夜通し逃げ続けて疲労困憊の姜維隊は、ついに魏軍に追いつかれ、戦闘となってしまったのである。


「姜維殿、我が軍の劣勢は明らかであり、このままでは全滅を待つのみ。この趙広が敵を食い止めますゆえ、姜維殿はお逃げを! 兄上、後を頼みます!」


 趙広はそう言って槍を構えると、姜維の返事を待たず、雲霞の如き魏軍に向かっていった。

 他の将兵たちも後ろに続いていく。


「姜維殿、急ぎましょう! 弟の覚悟を無駄にしないためにも」


「趙統……。分かった。何としてでも生き延びるぞ」


 こうして、姜維は趙統とわずかな供だけを連れ、戦場を離脱した。

 手綱を握る手に自然と力が入る。

 姜維は己が無力を噛み締めながら、ただひたすらに馬を走らせた。






 鄧艾が姜維を追い詰めていたころ、鍾会は軍を複数に分け、蜀軍の各拠点を包囲させていた。

 数ある蜀軍の拠点の中でも、傅僉と蔣舒の守る陽平関は、梓潼・成都に繋がる言わば入り口であり、特に重要な拠点である。

 鍾会よりこの陽平関の攻略を任されたのは胡烈(これつ)という将であった。

 彼は胡奮の弟にあたる。


「ここを抜ければ成都は目前……。流石に守りは堅いか。力任せに攻めるのはいささか骨が折れそうだな」


 いかにして攻め落とすか。

 思案を巡らす胡烈のもとにとある報告が届く。


「蔣舒の軍勢が陽平関より出てきました。真っ直ぐこちらへ向かっております。いかがしますか?」


「打って出てきた? この大軍を相手にか? 気でも触れたか、あるいは……」


 胡烈は初め驚いたが、やがて蔣舒の意図に気が付くとニヤリと笑みを浮かべた。


「兵たちにこちらから手は出すなと伝えよ。私の考えが正しければ、陽平関は容易に落ちるぞ」


 伝令兵は思わず首をかしげたが、その言葉の意味するところはすぐに明らかとなった。

 打って出てきた蔣舒は刃を交えることすらなく、魏軍に降伏してきたのである。

 そして蔣舒は、そのまま魏軍として傅僉の残る陽平関を急襲した。

 完全に虚をつかれた傅僉は、奮戦するも力及ばず、無念の戦死を遂げる。

 かくして陽平関は胡烈の言葉の通り、いとも容易く陥落したのであった。

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