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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第3章 司馬子上、蜀漢を滅ぼす
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第87話「司馬昭と賈充」

 成済らを討ったその日の夜、司馬昭は賈充を自室に招き、酒を酌み交わした。


「不服そうだな、賈充」


 一言も発さず、目も合わさず、ただチビチビと酒を飲む賈充に対し、司馬昭が痺れを切らして話しかける。

 賈充はしばらく黙っていたが、司馬昭が顔を近づけ、目を真っ直ぐ見続けてくるので、ようやく観念して口を開いた。


「言ったはずです。『綺麗事はもう無しにしましょう』と。司馬昭殿、貴方は選択を誤りました。もし本当に天下を目指すのであれば、成済らを赦し、私を殺すべきでした」


 賈充はそう言い終えると、杯に残る酒を一気に飲み干した。

 司馬昭も合わせて杯を空にする。


「そうだな。その通りだ。今回の裁きに不満を持つ者は多くいる。この一件で、人心は一気に俺から離れていっただろう」


「それが分かっていながら何故……!」


 そう賈充が問うと、司馬昭はニッと笑った。


「決まっている。お前の力無くして司馬子上の天下は成り立たないからだ。天下の人心など後からどうとでも出来る。が、お前を失えば我が覇業はそこで終わりよ」


 司馬昭はそう言って、自分と賈充の杯に酒を並々と注ぎ込む。

 そして、杯を前へと突き出した。


「賈充、お前に命ずる。真の忠臣であるならば、生きてこの俺を支えよ」


 賈充もまた己が杯を前へと突き出し、小さく答えた。


「御意」


 杯と杯が合わさり、甲高い金属音が響き渡る。

 杯はすぐに空になった。しかし賈充はいつまで経っても杯を口から離さない。

 それは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を杯で隠すためであった。






 曹髦が死に、また挙兵に加担した者らはことごとく処断された。

 王経とて例外ではなく、こうして魏の国内に司馬昭の道を妨げることが出来る者は誰一人としていなくなった。

 しかし、司馬昭はそれに安堵して自ら帝位につくような真似はせず、新帝として曹奐(そうかん)を擁立する。

 もっとも曹奐は司馬昭の完全な傀儡であった。

 曹奐は即位して早々に司馬昭を相国として晋公に封じる詔を出すが、司馬昭はこれを固辞する。

 翌261年にも同じような詔が出されるが司馬昭は再び固辞した。

 もちろん曹奐とて本心でこのような詔を出しているわけではなく、司馬昭からの圧力に屈してのことである。

 また、帝に詔を出させておきながら、司馬昭がこれを頑なに受けようとしないのは、現時点では帝位簒奪の意図がないことを示し、己が徳の深さを周囲に周知させるためであった。






 こうして、徐々に国内が安定しはじめた262年。

 蜀の姜維が魏領の洮陽(とうよう)へと攻め寄せた。

 蜀軍の先鋒を務めるは車騎将軍・夏侯覇であった。


「姜維殿の読み通り、洮陽城の防備は手薄のようだな! 皆の者続け!まずはあの城を攻め落とす!」


 開け放たれた城門、見張りの兵もわずか。

 で、あれば敵が迎撃の態勢を取る前に一気に城内へと突入するのみ。

 夏侯覇は愛馬の腹を強く蹴り、速度を上げる。


「て、敵襲だ! 門を閉めよ! 蜀軍が攻めてきたぞ!」


 城門を守っていた魏兵の一人がようやく夏侯覇ら蜀軍の存在に気づき、大声で叫んだ。

 しかし、遅かった。

 一閃。夏侯覇の槍がその兵の頭と胴を分かつ。

 そしてその勢いのまま夏侯覇は城内へと入った。


「夏侯仲権、推参! この城は私がいただく!」


 そう名乗りを上げた次の瞬間。

 夏侯覇の顔がわずかにこわ張る。

 夏侯覇の目に映ったもの、それは城内に大量に配備された弓兵と弩兵であった。

 振り向けば既に城門は閉じられ、配下の兵士とは外と内とで分断されている。


「くっ、そういうことか……! なかなか舐めた真似を……!」


 かくして、夏侯覇は敵中に完全に孤立した。

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