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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第3章 司馬子上、蜀漢を滅ぼす
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第86話「裁き」

 曹髦の死は多くの者たちに衝撃を与えた。

 それもそのはず、帝が臣下の手によって直接討たれたのである。

 国中の動揺を感じた司馬昭は、これを鎮める策を求め、陳泰を呼びつけた。

 司馬昭と陳泰はかねてより親交があり、司馬昭は彼の聡明さを心より評価していた。

 しかし、陳泰は曹髦の死後、参内を拒否しており、此度の件に対して否定的な立場であることは明白であった。


「陳泰、俺はどうすれば良いと思う?」


 司馬昭は余計なことは言わずに短く尋ねた。

 陳泰であれば何を聞きたいのか、これで察することが出来ると考えたのである。

 これに対する陳泰の答えは明瞭であった。


「賈充殿を斬るほかありますまい。そうでもしなければ、みな納得はしないでしょう」


 表向きには帝殺害は司馬昭の与り知らぬところで行われたことになっている。

 であるならば、実際に指揮官としてその場に居た賈充が責に問われるのは至極当然といってよかった。

 そして、そのようなことは司馬昭自身も重々理解していた。そのうえで、他に策がないかと陳泰に縋っているのである。


「何か他に手は……」


「ありません。もっとも、賈充殿に代わりその主が首を差し出せば、みな納得するかもしれませんが」


 そう答える陳泰の声は冷たい。

 冗談の類いなどではなく、本気で言っているのだと司馬昭は悟った。


「いまの言葉は不問としよう。時間をとらせてすまなかった。後は自分で考えることにする」


 そう言って司馬昭は話を打ち切ると、部屋を後にした。

 一人残された陳泰は、去り行く友の寂しそうな背を見えなくなるまで見つめていた。






 それから数日後、宮城に二人の人物が呼び出された。

 一人は成済。曹髦を討った張本人である。

 そしてもう一人はその兄の成倅(せいさい)であった。


「兄者、大将軍自らの呼び出しとは一体どういった用件だろうな」


「そりゃ決まっているだろう。褒美だ褒美。賈充殿はおっしゃったのだろう? お前を英雄だと」


 とても上機嫌な二人は、案内されるまま謁見の間まで通される。

 するとそこには、司馬昭と賈充、そして多くの群臣たちの姿があった。


「二人ともよく来てくれた。念のため確認するが、陛下を討った成済とその兄で相違ないな?」


 司馬昭が尋ねる。

 褒美を下賜されるものとばかり思っている成済は、それに対し胸を張って答えた。


「相違ございません! この成済、皇太后陛下と司馬大将軍のお命を狙った聖上を、心苦しくも弑し奉りました!」


 この言葉に司馬昭は小さくニヤリと笑みを浮かべた。

 そして群臣たちに向かって告げる。


「方々聞いたか! この者たちは我が命と皇太后陛下の命を救った恩人でもあり、帝を討った大罪人でもある! どうしたものかと頭を悩ませていたところ、帝を討った者が何も罰を受けないのは道理に反すると、此度自ら登城してくれたのだ!」


 成済と成倅が宮城に来たのは司馬昭より参内の命令を受けたからである。

 当然、罰を受ける覚悟などあろうはずもない。

 ここで二人はようやく司馬昭に嵌められたことに気が付いた。


「ちょ、ちょっとお待ちを! そのような話聞いていない!」


 成済が必死に否定しようとしたが、司馬昭はこれを完全に無視。

 なおも言葉を続けた。


「二人のおかげで目が覚めた。恩義はあれど、それは陛下を弑したこの者たちを赦す理由にはならない。者ども、二人を捕らえよ! そして斬れ!」


 司馬昭の言葉を合図にぞろぞろと兵たちが姿を現した。

 成済と成倅は慌ててその場を逃げ出すが、しかし逃げ場などあるはずがなかった。

 成倅はあっという間に捕らえられ、成済もまた建物の屋根の上に追い詰められた。

 数十人の弓兵たちが建物ごと成済を囲う。


「おのれ司馬昭! おのれ賈充! 陛下を弑すること、後で問題にはしないとあの時確かに言ったではないか! この外道どもが! だが、このようなことをしたとて、貴様らの罪は消えぬぞ! 決して、だ!」


 成済は声がかすれるほど大声で司馬昭と賈充のことを罵ったが、しかしもはや彼に出来る抵抗はそれのみであった。

 次の瞬間、一本の矢が成済の眉間を貫いた。

 成済の身体が力なく倒れ、屋根から地面に落下する。

 地に倒れたときにはもう成済はこと切れていた。

 間を置かず先に捕らえられていた兄の成倅も斬られ、こうして曹髦の挙兵から始まる一連の騒動は一応の終結を迎えた。

 260年のことであった。






 結局、司馬昭は賈充を見捨てることが出来なかった。

 罪を成済と成倅の二人に全て押し付け、賈充は不問としたのである。

 この甘すぎる裁きが、後に司馬昭と、そしてその子孫らを苦しめ続けていくこととなる。

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