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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第3章 司馬子上、蜀漢を滅ぼす
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第85話「曹髦挙兵 ~後編~」

 焦伯と王経という両翼を失った曹髦軍は脆かった。

 瞬く間に軍は瓦解、曹髦自身もまた気が付いた時には包囲されていた。


「ち、近づくな! 貴様ら、誰に刃を向けているか分かっているのか! 朕は曹彦士! この国の帝なるぞ!」


 そんな曹髦の叫びは無視され、一歩、また一歩と包囲は狭まっていく。

 やがて一人の将軍が兵たちの前に歩み出ると、その剣先を曹髦の顔へと向けた。


「某は成済(せいさい)と申す者。陛下に言上つかまつる。速やかに帝の座を退き、司馬大将軍に禅譲されたし」


「さもなくば朕を殺すと? フン、笑わせる。良いのか? 朕を殺せば貴様は皇帝殺しだ。成済という名、天下の極悪人として何百年、何千年先まで残すつもりか?」


 その言葉に成済の剣がかすかに震えた。

 成済が動揺するのも無理はなかった。臣下が皇帝を殺すなど本来あってはならないことである。

 苦悩する成済。そんな彼に近づく一つの人影があった。


「成済、何を悩む必要がある。極悪人? 否、貴様は今日英雄となるのだ。このことを後から問題にする者などいようものか。さっさと斬れ」


 その男、賈充はそう耳元で囁くと、成済の肩をポンと優しく叩いた。

 このとき、成済の覚悟は決まった。






「これが陛下の死体か」


 司馬昭はその後、室内に運ばれた曹髦と対面を果たした。

 が、すでに物言わぬ屍となったそれに特段かける言葉はなく、ただ短く礼を取るのみであった。

 そんな司馬昭の態度を司馬昭の叔父・司馬孚は非難した。


「昭、謝罪の一つもないのか。お前は陛下を……陛下を……!」


「叔父上は何か勘違いをされている。陛下の死は私にとっても予想外のこと。私も胸を痛めています。しかし、いつまでも嘆き悲しんではいられない。速やかに新帝を擁立し、動揺する将兵や民らを安堵させてやらねば」


 その言葉に、司馬孚は顔をさらに赤く染めると司馬昭の胸ぐらを掴んだ。


「昭! いつからお前はそのような! そのような嘘をぬけぬけと言うような汚い男になってしまったんだ! 若いころのお前はもっと澄んだ目をしていた! 今のお前を見たら亡き兄上はなんと言われるだろうか!」


「父上や兄上がしてきたことと私がしたこと。一体何が違うというのです? 父上が生きていらしたらきっと褒めてくださったでしょう。『昭、よくやった』と」


 司馬孚は掴んでいた手を乱暴に離すと、呆れたといった感じでため息をついた。

 怒りよりも憐れみの方が勝ったのである。

 一方、司馬昭はすぐさま乱れた服を正すと、さらに言葉を続けた。


「あ、そうそう。こんなことを言うとまた叔父上を怒らせてしまいそうですが、陛下は謀反を起し、国を乱さんとした大罪人。ゆえに庶人と同じ格式で葬ります」


「なっ……!」


「これも天下泰平のため。どうか納得していただきたく」


 恭しく頭を下げる司馬昭。

 しかし、これで納得してくれるとは当然司馬昭も思っていない。

 また烈火のごとく怒るものと、そう思っていた。

 しかし、予想に反し、司馬孚の返しはとても落ち着いたものであった。


「昭、お前は父や兄の真似事をしているつもりだろうが、お前のしていることは、かつて都を恣にし、悪逆の限りを尽くした董卓や李傕(りかく)郭汜(かくし)と同じだ。もう戻れないのかもしれないが……、この司馬叔達(しばしゅくたつ)、少しでもお前の罪が軽くなるよう、老骨に鞭を打つとしよう」


 この日の2人の言い合いはこれで終わった。






 後日、司馬孚は郭太后に上奏し、曹髦を王侯の格式で葬る許可を得ることに成功する。

 此度の曹髦の反乱は、対外的には「郭太后を殺そうとしたもの」となっていた。

 そのため、その郭太后が認めたとなれば流石の司馬昭も口を出すことは出来なかった。

 かくして司馬昭の意に反し、曹髦は王侯の格式で葬られた。


 方針をめぐっての一族内での対立。

 しかし、そこには堕ちゆく甥の罪を少しでも減らさんとする叔父の優しさがあった。

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