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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第3章 司馬子上、蜀漢を滅ぼす
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第79話「諸葛誕の乱 ~その9~」

 総大将である諸葛誕の死が伝わると、残る寿春城の兵たちも続々と魏軍に降伏した。

 しかしそんな中、城内にただひとり戦意を失わぬ者がいた。

 男の名は于詮(うせん)。呉の将軍である。


「文欽殿に従いこの寿春の城に入り、半年以上の月日が経った。しかしこの半年の間、我らは一体何をした? 然したる戦果も上げられず、ただ糧食を貪るばかり。そして、気が付けば敗軍の将だ。このままで良いのか? 良いわけがない! 救うべき相手を救えず、敵に降るなど武人の道にあらず! かくなる上は兜も鎧も脱ぎ捨て、得物一つで敵の大軍に突撃し、華々しく散ってやろうぞ!」


 于詮の言葉に、配下の兵たちは雄たけびで応える。

 その数わずか数名。もはや軍とも呼べぬ有様だったが、しかし士気は高い。

 もはや勝つことが目的にあらず。彼らはただ死に場所を求めていた。


「報告! 魏軍より降伏を求める使者が参りました!」


「懲りずにまた来たか。丁度良い。使者の首をはね、その首を掲げ、打って出るぞ!」


 かくして呉軍の最後の抵抗が始まった。






 突撃する于詮隊、それを迎え撃つのは魏軍の老将・王基(おうき)であった。


「降伏すれば司馬昭殿なら赦されただろうに。あえて死を選ぶとはなんと愚かな……」


 王基はそう残念そうに呟くと、静かに手を上げて兵たちに合図を送る。

 それを受けた兵たちは弓を引き絞り、狙いを迫る于詮の頭に定めた。


「放て!」


 放たれた無数の矢は弧を描いて飛んで行き、そしてそのうちの一本が見事目標に命中した。

 馬から力なく落ちる于詮に、配下の兵たちは一瞬の動揺を見せる。

 王基はそれを見逃さず、すかさず次の命令を下した。


「槍隊前へ! 一人残らず討ち取れ!」


 長槍を持った兵たちが気勢をあげ、于詮隊に突撃する。

 兵数差は圧倒的。決着がつくのに然したる時間はかからなかった。






「これが于詮とやらの首か」


 魏軍・司馬昭の陣。

 司馬昭は于詮の首を確認していた。

 王基は深く頭を垂れている。


「ご苦労だった王基殿。いやはや流石だ。諸葛誕を仕留めるどころか苦戦し、いたずらに兵を損なった我が愚弟に貴殿の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ」


「過分なるお言葉、恐れ入ります」


「そうかしこまらずとも良い。面を上げてこっちに来てくれ。貴殿に相談がある」


 司馬昭はそう言うと、王基を手招いた。

 そして机の上にある地図を見るよう促す。


「これは呉軍の布陣図ですか」


「ああ。物見の報告によれば奴らは諸葛誕の死を知り、既に退却を始めているらしい。が、士気は低くその足取りは重いという。追撃をかけ、その勢いのまま呉に攻め入るべきとの意見もあるが、ここは戦の経験豊富な王基殿の意見を伺いたくてな」


 司馬昭にそう問われると、王基はしばし目を瞑り、考えを巡らせたのち答えた。


「止めておいた方がよいでしょう。勝ち戦のあとの侵攻は油断が生まれやすいもの。また、長きにわたる対陣で兵たちの顔にも疲弊の色も見えます。この状態で追撃すればこちらも大きな打撃を受けることになるでしょう。蜀の姜維も此度の乱に呼応して国境まで兵を進めているとの報告もありますし、今は戦後の処理に集中されるのが得策かと存じまする」


 王基の意見に司馬昭は感心したように深く頷いた。

 こうして呉への侵攻を諦めた司馬昭は、後を腹心の賈充に任せ、自らは魏帝・曹髦らとともに洛陽へと帰還した。

 諸葛誕が司馬氏の専横を止めるべく引き起こしたこの乱は、皮肉にも世に司馬昭の有能さと寛大さを示し、幕を閉じた。

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