第7話「赤壁の戦い ~前編~」
208年冬、赤壁の地にて二つの軍がぶつかろうとしていた。
曹操軍15万と劉備・孫権連合軍5万。数の差は圧倒的であった。
だが、連合軍に恐れて怯む者はなく、曹操軍におごり高ぶる者はいなかった。
「突撃!」
号令が戦場に響く。
するとそこは瞬く間に地獄と化した。
槍や剣に貫かれ、悲鳴を上げて絶命する者。弓矢で急所を射抜かれ、その場に静かに倒れる者。また、中には棍棒で頭を潰され、見るも無惨な姿で果てる者もいた。
死体の上に死体が重なり、戦場は異臭に包まれる。
だが、そんなことを気にする者など誰一人としておらず、皆ただひたすらに武器を振るっていた。
相手にも友人がいるだろう。恋人がいるだろう。もしかしたら子供もいるかもしれない。
だが、そんなことを気にしていては自分が殺される。
皆、ただ相手を殺すことだけを考えていた。
こうした兵士たちの奮闘もあり、最初は戦況は拮抗していた。だがやはり数の差とは大きいもので、次第に戦況は曹操軍優勢に傾き始めた。
その時である。司馬懿はある異変に気がついた。
「ん……?なぜ船と船が鎖でつながっているのだ」
司馬懿は近くにいた兵士に尋ねた。
記憶が正しければ戦の始まる少し前までは船はつながっていなかったはずだ。
兵士は答える。
「いえ、それがさきほど龐統殿に『船上で酔ってしまっては兵士達も満足に戦えないだろう』と言われましてそれで……」
司馬懿は考える。
たしかに船同士をつないでおけば、揺れも少なくなり、兵士たちの船酔いを防ぐことができるだろう。
だが、この策には一つの弱点がある。
それは火計に弱いというところだった。
船同士が離れていれば、たとえ船が燃えたとしても被害はその一隻だけですむ。
だが、船同士が鎖でつながれたこの状態では炎は一瞬にして全ての船に燃え広がってしまうだろう。
もし相手がそれを狙ってくれば、曹操軍はあっという間に崩壊する。
「おい、龐統殿はどこにいる?」
「あれ、そういえばさっきから姿が見えませんなぁ……」
兵士のその言葉を聞いた瞬間、嫌な考えが頭をよぎった。
「まさか……とりあえず曹操様に連絡を」
司馬懿はすぐさまこのことを知らせるべく曹操に伝令を送ろうとした。
だが、間に合わなかった。
司馬懿のこの嫌な予感は見事的中。曹操軍は紅蓮の炎に包まれたのであった。




