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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第3章 司馬子上、蜀漢を滅ぼす
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第69話「不協和音」

 段谷で手痛い敗北を喫した姜維は命からがら成都へと帰還した。

 血と泥に塗れた鎧、大きく乱れた髪と髭。顔からは生気が失われ、目も虚ろであった。

 姜維のその姿は魏軍の追撃の激しさを大いに物語っていた。


「姜伯約、皇帝陛下に拝謁いたします」


 成都へと着いた姜維はすぐさま蜀帝・劉禅に拝謁した。

 姜維は広間に入るなり跪くと、さらに頭を深々と下げた。


「陛下はおっしゃいました。もし此度の北伐が失敗に終われば、相応の罰を与えると。そして、私は魏軍に敗れ、多くの将兵を死なせてしまいました。言い逃れはいたしません。陛下、どうかこの姜伯約をお斬り下さい。どうか!」


 そう言って何度も頭を地に擦り付ける姜維。

 その姿はあまりに無様で、しかしながら潔かった。

 そして、そんな彼の姿に心を動かされた者がいた。

 その者の名は廖化(りょうか)。字を元倹(げんけん)という。彼は黄巾の乱の頃より戦場に身を置く老将であった。


「陛下。恐れながら申し上げまする。たしかに姜維殿は敗れ、多くの兵を死なせました。罪に問うべきでしょう。ですがいま姜維殿を失えば、我々は魏が攻めてきたとき抵抗する術を失いまする。姜維殿は蜀にとってなくてはならぬお方。どうかそのことを考慮し、寛大な処置を」


 すると、廖化に続けと言わんばかりに多くの将たちが姜維の助命を懇願し始めた。

 だが、その一方で依然姜維に重き罰を与えるべきと主張する者たちもいた。黄皓をはじめとする文官たちである。

 黄皓は言った。


「陛下。惑わされてはなりませぬぞ。この姜維殿は無用な北伐を強行した挙句、敗れてこの国を危険に晒したのです。確かに姜維殿は将軍方の言われる通り、才ある方なのでしょう。ですが、だからといって罪を軽くしては、他の者に示しがつきませぬ。国の乱れる元となります。かつて諸葛丞相は愛弟子の馬謖殿が過ちを犯した際、一切の贔屓をせずに斬りました。此度はそれに倣うべきです」


 これに対し、劉禅は納得したように頷いた。


「ううむ。確かに黄皓の言うこと一理ある。朕とて姜維を失いたくはないが、しかし特別扱いをするわけにもいかぬ。やはりここは……」


 そう言って、劉禅が決断を下そうとしたその時。

 夏侯覇が慌ててそれを遮った。


「お待ちを! 陛下、もう一度お考え直しください。確かに黄皓殿の言うことはもっともなように聞こえますが、しかし街亭を例に出すならばなおのこと姜維殿は斬られるべきではありません」


「ん? どういうことだ?」


「此度の敗戦、そもそもの原因は胡済殿が敵の伏兵にかかり、勝手に成都へと撤退したことにあります。ですので、もし街亭を例に出すならば、姜維殿が諸葛丞相であり、胡済殿が馬謖殿といえるでしょう。よって姜維殿は斬られるべきではありません」


 その意見に武官たちは皆口々に同調した。

 黄皓らは「それは屁理屈だ」と反論したが、しかしこの夏侯覇の言葉で劉禅の意思は固まったようであった。


「朕は決めた。姜維、此度の敗戦の罰として其方を大将軍から外す。これよりは後将軍として朕を支えてくれ。良いな?」


「ハッ! 身に余るご厚恩、心より感謝いたします」


 かくして、姜維は命を繋ぎ、胡済もまた姜維が「すべての罪は自分にある」と庇ったため、お咎めなしとなった。

 しかしこの劉禅のあまりにも甘い対応は、武官と文官のさらなる対立を生むこととなった。

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