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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第3章 司馬子上、蜀漢を滅ぼす
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第62話「狄道の戦い ~中編~」

「王経殿、まったくなんということを……!」


 王経の敗北を聞いた征西将軍・陳泰は感情をあらわにした。

 攻め来る蜀軍の士気は高く、また姜維は諸葛亮の志を継ぎし稀代の名将。正面から戦っては分が悪い。

 それゆえ王経には城に籠り、防備を固めるよう命じたのだ。

 中央からの援軍到着を待ち、それから攻勢に出る。それが陳泰の思い描いていた策だったのだが、功を焦った王経のせいですべては水の泡となってしまった。


「王経殿がこれほど愚かだとは思わなかった。いや、それを見抜くことが出来なかった私もまた愚かか……。しかしどうするか。狄道の城は蜀軍に完全に包囲されている。陥落も時間の問題だろう。だが我が手勢だけでは救援は無理だ。ううむ……」


 地図を見て頭を悩ませる陳泰。

 吉報がもたらされたのは丁度その時であった。


「陳泰様! 援軍です! 援軍が到着されました! 率いているのは司馬孚様と鄧艾様です!」


「おお、ついに来たか!」


 それは暗闇の中に差した一筋の光。

 陳泰は幕舎を飛び出すと、急ぎ援軍を出迎えた。






 援軍との合流を果たした陳泰は、早速諸将を集め、軍議を開いた。

 王経の守る狄道城はいつ陥落してもおかしくない。もしこの城を取られれば蜀軍はさらに勢いを強め、魏領の奥深くまで侵攻してくることだろう。

 司馬師から司馬昭に権力譲渡されたばかりのこの不安定な時期に、そんなことを許せば国は大きく乱れることになる。

 事態は急を要した。

 最初に口を開いたのは陳泰であった。


「司馬孚殿と鄧艾殿が合流された今ならば、狄道城を救援することができます。城内の味方と我らで挟撃すれば蜀軍もひとたまりもないでしょう。私は急ぎ出陣するべきかと思いますが、各々方いかがでしょうか」


 しかし、陳泰のこの意見に一人の将が反対した。


「お、お、お、お待ちくだされ! わ、私は、ち、陳泰殿の意見に反対です」


「む? では鄧艾殿は王経を見捨てろと申されるのですか」


「い、いかにも。しょ、蜀軍は、さ、先の戦で勝利したことで士気が、た、た、た、高い。と、時が過ぎるのを待ち、しょ、蜀軍の士気が、さ、さ、下がるのを待つのが、と、得策でしょう。そ、そ、それよりも今は、こ、混乱している、ろ、隴西(ろうせい)一帯を、へ、平定することを、ゆ、ゆ、優先すべきかと」


 鄧艾の言葉は相変わらず途切れ途切れで、お世辞にも流暢とは言えなかったが、しかし陳泰がそれを笑うことはなかった。

 彼はしばらく考えたのち、こう言った。


「確かに鄧艾殿の言にも一理あります。ですが、斥候からの報告によれば、いま敵は城攻めに執着し、他への警戒が疎かになっているとか。であるならば、敵の虚を突くことが出来れば十分に勝機はあるはずです。それに鄧艾殿は大切なことを忘れておられる。一時とはいえ領内にのさばる賊を放置し、窮地の味方を見捨てたとなれば、大将軍である司馬昭殿の名を傷つけることになります。それは今の国内の情勢を考えれば絶対に避けなければなりません」


「そ、それは………。ううむ」


 司馬昭の名を出されては強く反論することは出来ず、結局鄧艾は渋々であるが陳泰の意見に賛成した。

 陳泰は他に異論ある者がいないことを確認すると、すぐさま詳しい策の説明に入った。


「まず部隊を二つに分けます。一方はここで待機し、蜀軍の目を引き付けます。もう一方の部隊は夜陰に乗じて密かに移動、狄道城の近くの山に布陣。山頂に陣を張ることができれば、蜀軍相手に優位戦えますし、そこで烽火をたき、鬨の声をあげれば蜀軍は震え上がり、城兵は大いに奮い立つことでしょう」


 その陳泰の策に、皆感嘆の声を上げた。

 それは鄧艾とて例外ではない。

 自分の意見を退けられたときは不満に思った鄧艾であったが、話を聞くうちにそんな感情はどこかへと吹き飛んでいた。


「ち、陳泰殿。こ、この鄧士載、か、か、か、感服いたしました。さ、山頂へと向かう部隊の指揮は、ど、ど、どうか、わ、私にお命じを。か、必ずや期待に、こ、応えてご覧に入れまする」


「おお! 鄧艾殿、よくぞ言ってくれました」


 危険な任務に率先して名乗りを上げた鄧艾に、陳泰もまた感心した。

 かくして、魏軍は密かに狄道城救援に向け動き出した。

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