第5話「山賊討伐 ~後編~」
近頃領内を荒らしまわる山賊たちを討ち滅ぼすべく、出陣した司馬懿。
だが、戦況は現在膠着状態となっていた。
策を看破された山賊たちが山に立て篭もったのである。
山道にはおぞましい罠が仕掛けられ、それを強引に突破しようとすれば多くの犠牲がでることは想像に容易い。
そこで司馬懿はとある策を打ち出した。
「こりゃまた残酷な策だ……」
策の内容を聞いた夏侯惇は思わずそう呟いたという。
翌朝、山賊たちが目を覚まし、山のふもとを見下ろすとそこには驚くべき光景が広がっていた。
「おのれ……よくも……!」
山賊たちは怒りに震えた。
それもそのはず、なんと彼らの目に飛び込んできたのは見るも無惨な姿をした仲間たちの姿であった。
先の小競り合いの際、何人かの仲間たちが曹操軍に捕らえられた。
その捕らえられた者たちが木の柱に張り付けられていたのだ。
身体は拷問を受けたのか全身血まみれで傷だらけ。なかには両目をつぶされている者もいた。
「お頭!」
「ああ。ここまでされて黙っているわけにはいかねえな。てめぇら!出撃だァ!」
こうして怒りに我を忘れた山賊たちは自ら山を降り、まんまと曹操軍の前に姿を現してくれたのだった。
やがて山のふもとの平地にて両軍は激突した。
「よくも仲間たちを!てめえら、絶対に許さねえからな!」
「フン、よく言う!貴様らだって数々の村を襲い、多くの者たちを傷つけてきたではないか!」
大将同士の罵り合いから始まったこの戦いはしばらく一進一退の攻防が続いた。
戦場に兵士と山賊の怒号、そして悲鳴が響き渡り、やがて血の海となった。
骸の上にまた骸が重なり、死体の山が出来上がっていく。
そんな中、司馬懿は馬上から冷静に戦況を見ていた。
「フッ、やはり前に出てきたか……」
司馬懿の目の先には敵の大将の大男。
司馬懿はこのときを狙っていた。敵の大将が前線に出てくるこのときを。
夏侯惇曰く、敵の大将は前の戦では数多の兵を葬る大活躍だったという。
おそらく、後方から指揮をとるよりも前線で暴れまわるのが好きな男なのだろう。
ならば、挑発されたこの状況で前に出ないはずがない。
「夏侯惇殿、出番です」
「ああ、まかせておけ」
夏侯惇はそう答えると、愛馬にまたがり敵の大将へと駆けて行った。
そして、曹操軍一の猛将が山賊の長ごときに負けるはずもなく、敵大将の首を見事とってこの戦を無事終わらせてみせたのだった。
大将が討ち取られたことが伝わり、残りの山賊たちが一方的に狩られていく中、無事戦場を離脱した一団があった。
その中に、2人の双子の少女の姿もあった。
幼いながらも可憐なこの2人の少女たちはなんと山賊の長の娘であった。
このあどけない少女たちが後に司馬懿の前に立ちはだかり、苦しめることになるとはまだ誰も知る由もなかった。