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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第2章 司馬子元、愚者たちを粛清す
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第57話「毌丘倹・文欽の乱 ~その3~」

 陽が落ち、辺りが暗闇に包まれたころ。

 文欽率いる奇襲部隊は司馬師本陣の目前にまで迫っていた。


「お前ら、このまま一気に駆けるぞ! フン、司馬師の驚く顔が浮かぶようだ」


 そう言って馬の腹を蹴り、さらに速度を上げる文欽。

 文欽の子である文鴦と文虎、そして50騎の騎兵がその後に続いた。

 しかし、次の瞬間。


「な!?」


 文欽は思わず驚きの声を上げた。

 それもそのはず、突如空から矢の雨が降ってきたのである。

 剣を振り、必死に矢を払う文欽たち。

 しかし、兵のうちの何人かは防ぎきれず、地に倒れた。


「父上。どうやら我らは包囲されているようです」


 文虎から言われ、周囲を見渡すと、確かに暗闇の中に多くの人影がうっすらと見えた。

 文欽はこの時初めて自分たちの作戦が筒抜けであったことに気づいた。


「くっ! ここまでか……!」


 思わず諦めの言葉を口にする文欽。

 しかし、その息子は未だ闘志を失ってはいなかった。


「親父、諦めるのはまだ早い。この文次騫が道を切り開く」


 文鴦はそう言うと、一気に前に出た。

 それを狙って弓兵たちが一斉に矢を放つ。だが、文鴦はそれを槍ですべて払うと、そのまま敵陣へと斬りこんだ。


「どうした! 司馬師の配下は弱兵しかいないのか! こんなんでは肩慣らしにもならんぞ!」


 一人、また一人と華麗な槍さばきで敵を切り裂いてく文鴦。

 もう何十人と斬ったにもかかわらず、息一つ乱していない。

 彼の足元には屍の山と血の川が築かれていた。


「ば、バケモンだありゃあ! に、逃げろ! あんなん勝てるわけねえ。」


 その人並外れた武を目の当たりにした兵たちはやがて戦意を失い、逃げ出し始めた。

 この機を文鴦は逃さなかった。


「包囲は解けた! 親父は()とともに急ぎ撤退を!」


「む、お前はどうするのだ」


「フッ、撤退する前に少しばかり司馬師の顔を拝んでくる」


 文鴦はそう言うと、単騎でさらに奥深くへと斬りこんでいった。






「なに? 文鴦がこちらに迫ってきているだと!? 馬鹿な、相手は単騎なのだろう?」


 兵から報告を受けた司馬師は思わず声を荒げた。

 それも当然。連れてきた精鋭たちがたった一人の若武者を相手に手も足も出ないというのだから、これほど情けなく、腹立たしいことはない。


「さらに兵を投入しろ。なんとしてでも食い止めるのだ」


 司馬師が兵士にそう命じたまさにその時であった。

 ソレが壁をぶち壊し、姿を現したのは。


「文次騫推参! 司馬師! 貴様の首、貰いに来たぞ!」


 文鴦はそう叫ぶと、一直線に司馬師に向かって駆け出した。

 取り押さえようとする兵士たちを薙ぎ払い、そしてその刃はついに司馬師の身体を貫かんとした。

 しかし。


「させるか!」


 それはあと一歩のところで阻まれた。

 司馬師を守るように、一人の武者が割って入ったのである。


「ほう、俺の刃を受け止めるとは。貴様、名は?」


「俺は楽綝。そしてこっちが……」


 その瞬間、もう一人の武者が背後から文鴦に斬りかかった。

 文鴦は咄嗟に避けたが、不意を突かれたため完全には避けきれず、肩に小さな傷を負ってしまった。


「張虎ってんだ。よろしくな」


 背後から攻撃してきたもう一人の将はそう名乗るとニッと笑った。

 楽綝と張虎。二人の猛将を前に、さすがの文鴦も少し後ずさる。


「ちっ、ここらが潮時か」


 形勢不利と見た文鴦はそう吐き捨てると、司馬師らに背を向け退いていった。

 このまま逃がすわけにはいかない。司馬師は当然、追っ手を差し向けようとした。

 だが。


「くっ……!」


 その時、司馬師の顔に激痛が走った。

 左目を手で押さえ、その場にうずくまる司馬師。

 楽綝と張虎をはじめ、その場にいる誰もが彼のもとへと駆け寄る。

 そして、その司馬師の姿に絶句した。

 なんと司馬師の左目が大きく飛び出ていたのである。

 心配した楽綝がすぐさま薬師を呼ぼうとしたが、司馬師がそれを引き止めた。


「私なら大丈夫だ。楽綝、このことは全軍の士気に関わることゆえ、決して口外するな。良いな?」


「し、しかし……」


「心配いらんと言っているだろう。今なによりも優先すべきは文欽と文鴦のことだ」


 そう言って司馬師は立ち上がると、すぐさま鍾会と話し合い追撃隊を編成した。

 だが、文欽とその息子たちの行方を掴むことは叶わなかった。

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