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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第2章 司馬子元、愚者たちを粛清す
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第54話「曹芳廃位」

「ふぅ、やっと終わったか」


 司馬師はこの日最後の政務を片付けると、筆を置いて大きく伸びをした。

 窓の外を見てみれば、すでに空は暗くなり始めている。


「もうこのような時間か。まったく一日というものは存外短いものよ」


 そう言って積み上げた書簡を文官に託したその時。

 文官と入れ替わる形で一人の男が駆け込んできた。

 その者は司馬師配下の密偵の一人であった。彼には皇帝曹芳とその周囲の調査を命じていた。


「報告します。張緝の手の者が夏侯玄に接触しました。その者を捕らえ、尋問いたしましたところ……」


「皆まで言わずともわかる。おおかたこの私を謀殺し、曹家に近い夏侯玄に政権を握らすつもりであろう」


「ハッ。おっしゃる通りにございます。この書状が動かぬ証拠になるかと」


 司馬師は、密偵より渡された一枚の書状に目を通すと、小さく笑みを浮かべた。


「上出来だ。これを機にこの司馬子元に歯向かう者どもを一掃する」


 こうして張緝らの企ては瞬く間に露見したのだった。





 その日の夜、この企てに関与せし三人が司馬師の前に召し出された。その三人とはすなわち、張緝・李豊・夏侯玄である。


「張緝殿に問う。今宵呼び出されし理由、心当たりはおありか?」


「いえ、とんと分かりませぬな」


 司馬師の問いに、張緝はわざとらしく首を横に振った。

 しかし、その額にはうっすらと汗が滲んでいた。


「ほう、分からぬと申されるか。では、これに見覚えは?」


「そ、その書状は……!」


 その瞬間、張緝の顔色が一変した。

 張緝だけではない。他の二人も同様であった。


「お三方とも身に覚えがあるようだな」


 そう言って司馬師が静かに手を挙げると、傍に控えていた兵たちが一斉に抜刀した。

 隠れていた兵たちも姿を現し、あっという間に三人は包囲された。


「おのれ司馬師! この奸賊めが! 許さぬ! 絶対に許さぬぞ!」


 そう吠えたのは李豊であった。彼は剣を抜くと、司馬師を睨みつけた。

 これに対し、司馬師は馬鹿にするように笑った。


「奸賊……? これは異なことを言う。私も亡き父も、これまで軍事に内政にと曹魏のため身を粉にして働いてきた。私からすればいたずらに世を乱す貴様らこそ奸賊にしか思えないがな。それとも貴様は、よもやこの企てが陛下のご意志であると、そう申すのか?」


「う……」


 曹芳の名を出され、言葉を詰まらせる李豊。しかしそれは暗に答えを言っているようなものであった。


「ようわかった。これ以上の問答は時間の無駄だろう。者ども、討て」


 その言葉を合図に、包囲していた兵たちが一斉に襲い掛かった。

 張緝・李豊・夏侯玄の三人は必死に抵抗したが、完全武装した十数人の兵たちを相手にどうすることもできず。床は血に染まり、やがて三つの骸が転がった。

 司馬師はそれらを冷たく見下ろすと、さらに兵たちに命じた。


「これで終わりではない。三族皆殺しである。誰一人として生かすな」


「ハッ!」


 かくして、司馬師は政敵を排除することに成功した。処罰は苛烈を極め、その影響は宮中にまで及んだ。

 まず司馬師は、郭太后の命として、張緝の娘であり魏帝曹芳の后・張皇后を排除、そして政務を行わず色欲に耽っていることを理由に曹芳までも廃位した。

 もちろんそれは表向きの理由であり、実際のところは此度の張緝らの計画に曹芳が関与していたためである。

 4代皇帝には郭太后の推薦で曹髦(そうぼう)が即位した。しかし、もはや司馬師の名声は父・司馬懿のものを超えており、魏帝などただの飾りに過ぎぬことは誰の目にも明らかであった。

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