第4話「山賊討伐 ~前編~」
曹操は頭を悩ませていた。
その悩みの種は近頃出没する山賊の存在であった。
奴らは度々山を降りては村々を襲い、民を苦しめていた。
劉備や孫権との戦を控えたこの大切なときに領内が乱れだした。これは曹操にとって由々しき事態であった。
「この件はなるべく早急に片付けたい。そこでだ、司馬懿。お主に兵を500ほど預ける。お主のその知略で速やかに山賊を殲滅せよ」
曹操はこの件を司馬懿にまかせることにした。
これはもちろん、司馬懿の力を試すためである。
これから来るであろう劉備や孫権との戦に果たして司馬懿の知略は使えるのか。
山賊討伐はそれをはかるのにもってこいであった。
司馬懿はこの命を快く引き受けたが、当然曹操の狙いには気付いていた。
(この俺を試すか……面白い。我が知略、存分に見せ付けてくれるわ)
司馬懿は心の中でそう小さく呟くと、ニヤリと笑みを浮かべた。
こうして、司馬懿率いる500の軍勢は山賊の縄張りへ向け、進軍を開始した。
この軍勢の中には猛将・夏侯惇の姿もあった。
彼は、表向きはまだ軍を率いるのに慣れぬであろう司馬懿の補佐役として、実際は司馬懿が戦で使えるかを見極める監視役として従軍していた。
「良いか司馬懿。敵の数は我々とほぼ同数。だが、如何せん奴らは皆武勇に優れている。特に敵の大将は巨大な斧で数多の兵を葬り去る大男。前の戦でもかなりの数がヤツの犠牲となった」
数日前のことである。
山賊を討つべく、討伐軍が結成された。いずれも精鋭ばかり、たかだか山賊ごときに負けることはないと思われていた。
だが蓋を開けてみれば結果は惨敗。軍の8割が帰らぬ人となった。
そのときの敵の大将の活躍は凄まじく、その姿はまるで怒り狂った化け物のようだったという。
そして今、その結果を重く受け止め、司馬懿を総大将として再び討伐軍が結成されたのであった。
「ありがとうございます夏侯惇殿。おかげで良い策が思い浮かびました」
「ほぅ……そいつは楽しみだ」
そうこう話しているうちに、やがて軍は敵が縄張りとしている山のふもとに到着した。
やがて戦が始まった。
曹操軍の姿を確認するやいなや、山賊たちが飛び出してきたのである。
「自ら山を降りてくれるとはありがたい……いや、これは罠か」
司馬懿の予感は見事に的中した。
しばらくすると山賊たちは山の中へと逃げ出したのだ。
「これは我々を山へと誘いこむ罠。決して深追いしてはならぬぞ!」
司馬懿は敵を追撃することを固く禁じた。
案の定、あとで斥候に山の中を探らせた結果、数々のおぞましい罠が発見された。
もしも山に足を踏み入れていたら軍はあっという間に壊滅していただろう。
「ふむ、さすがだな。で、これからどうする?」
「敵を平地におびき出し、敵総大将を仕留める」
戦いはいよいよ佳境に突入しようとしていた。