第3話「対面」
司馬懿はついに曹操と対面した。
といっても1対1というわけではなく、その場には夏侯惇と荀彧の姿もあった。
「お主が司馬懿か……。ほう、たしかになかなか賢そうな顔をしておる」
曹操はしばらく司馬懿の顔を見つめるとそう言い放った。
これに対し、司馬懿も頭を下げ、礼を述べる。
「もったいなきお言葉。この司馬仲達、身を粉にして曹操様に尽くしましょう」
その彼の立ち振る舞いは気品に満ち溢れていた。
だが、司馬懿もいささか変わり者ではあるものの名家・司馬家の生まれ。それは当然といってよかった。
「ふむ。お主の才、期待してるぞ」
こうして無事二人の対面は終わり、司馬懿ははれて曹操の家臣に。
この一件をまかされていた夏侯惇は思わず胸をなでおろした。
だが、この対面はこれで終わりとはならなかった。
「ところでお主、なにゆえわしからの誘いを幾度も断った。答えてみよ。病などというふざけた答えはいらぬぞ」
刹那、場が凍りついた。
夏侯惇は背中に冷たい嫌な汗が流れるのを感じた。
曹操はあまり気の長いほうではない。
もし答えを誤れば、この場が司馬懿の血で赤く染まることになるのは想像に容易かった。
そんな緊迫した空気の中、司馬懿は静かに口を開いた。
「俺はひたすら天下の行方をうかがっていたのです。最終的な勝利者は誰になるのか。この醜き戦乱の世を終焉へと導くのはいったい誰なのか。この才どうせならば天下のために役立てたいのでね」
「すなわち、お主はのちに天下を掴むであろう者に仕える気であったと?」
「ええ、その通りです」
長い沈黙があった。
空気は依然変わらず重いままであった。
曹操はひたすら険しい顔で司馬懿を見つめていた。いや、睨んでいたというべきであろうか。
そして、幾ばくかの時が経ち、ようやく曹操はその口を開いた。
「面白い……」
曹操はそう小さく呟くと、次の瞬間豪快に笑い出した。
司馬懿、夏侯惇、荀彧の3人はいまいち状況を飲み込めず、思わずきょとんとしてしまった。
曹操はしばらく笑っていたが、やがて笑いがおさまると司馬懿にこう告げた。
「ならば、しばらくわしに仕え見極めよ。わしがこの乱世を終わらせるのにふさわしい者なのかどうかをな」
「ハッ!」
こうして司馬懿は無事曹操に認められ、正式に家臣となったのであった。