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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第1章 司馬仲達、乱世を駆ける
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第26話「南蛮征伐 ~中編~」

 蜀軍と南中軍は再び激突した。

 だが、蜀軍の中に諸葛亮の姿はなく、代わりに部隊を指揮するのは魏延(ぎえん)という男であった。

 彼は中肉中背ながらも引き締まった体つきをしており、口元にはうっすらと髭を蓄えている。部隊の指揮能力には定評のあり、今回もそれを見込まれて諸葛亮よりある重要な役目がまかされていた。


「南中軍にはとても叶わぬ!全軍後退だ!」


 魏延がそう叫ぶと、兵たちは速やかに退き始める。

 もっとも彼の言葉とは裏腹にその動きはやけに迅速で混乱した様子も一切ないのだが、兀突骨がそんな些細なことに気づくはずもなく、逃すまいとそれを追った。

 こうして南中軍は逃げる蜀軍を追いかける形となって、やがて両側面を高い崖に囲まれた細道に入っていった。

 するとここで、蜀軍に異変が起こる。

 蜀軍は突如反転すると、あらかじめその道に用意してあった大量のツボを南中軍に向かってぶん投げはじめたのだ。


「な、なんだこりゃ……中に入っているのは……油かこれ?」


 投げつけられたツボは割れ、中に入っていた油が南中軍の足元に散乱する。

 蜀軍のあまりに予想外の行動に南中兵たちが戸惑う中、それまで姿のなかった諸葛亮が戦場に姿を現した。

 彼は崖の上におり、数百人ほどの弓兵を率いていた。

 いずれの兵の矢も先端が赤々と燃えている。

 それらはただの矢ではない。火矢であった。


「放て!」


 諸葛亮の号令とともにその無数の赤き矢は放たれる。

 そして南中兵の足元に突き刺さると、次の瞬間には地面に散乱する油に引火した。

 みるみるうちに火は広がり、やがて南中軍全体を包み込んでいく。

 それだけではない。なんとさらに火は兵士一人ひとりの鎧にまで燃え移っていったのだ。

 藤甲は油を藤の蔓に染み込ませてつくられたもの。火に弱いのは当然と言ってよかった。


「ひぃぃ!こんなもん着てられっか!」


 兵士たちはそういってすかさず藤甲を脱ぎ始める。

 これこそ、諸葛亮の狙っていたことであった。

 藤甲さえなければただの普通の兵士と変わらない。剣も槍も弓も効くのだ。


「いまです!弓隊もう一度放て!」


 諸葛亮は再び弓兵たちに崖下の南中兵たちを射るよう命じる。

 今回は普通の矢である。

 だが、藤甲を失った彼らには十分有効な攻撃だ。

 煙で見通しが悪いため命中率こそ低いが、それでも彼らへの精神攻撃にはなる。

 結局、炎が収まったころには南中兵の無数の屍がそこには広がっていた。

 炎に全身を焼かれた者、煙を吸い込んでしまった者、上空からの矢を受けた者。

 みな無惨な姿で果てていたが、そこに兀突骨の姿はなかった。

 おそらく煙の中炎を突破して逃げたものと思われた。

 だが、諸葛亮に焦る様子など一切ない。それもまた彼の予測の範囲内の出来事であったのだ。






 茂みをかき分け、一人の大男が突き進む。

 彼の肌には無数の火傷の後があり、肩には二本の矢が突き刺さっている。

 常人ならば立っていることさえ困難な状態であるが、普通に歩いていられるのは南中随一の猛将・兀突骨だからだろう。

 といっても、いくら彼でも余裕というわけではないらしく、額には汗が浮かんでいた。


「この森を抜ければ……猛獲(もうかく)大王の陣があるはずだ」


 兀突骨は森の先にある南中王・猛獲の陣を目指していた。そこで治療を受けて再起を図るつもりなのである。

 だがそれはあと一歩のところで阻まれる。


「その長身に風貌……あなたが兀突骨ですね」


 そう言って彼の前に立ちふさがったのはまだ齢20も届かぬ一人の可憐な少女であった。

 一見するとただの品の良いお嬢様にしか見えない彼女だが、軽装ではあるものの鎧を身に纏い、手には長い槍を持っている。

 また、どことなく只者ではない雰囲気を醸し出していた。


「貴様、ただの小娘ではないようだが……名はなんという?」


 兀突骨はその少女に名を訪ねる。

 それに対し、少女ははっきりとした口調で答えた。


「私は関銀屏(かんぎんぺい)!兄・関索の仇、とらせていただきます!」


 彼女の女性らしく細いその体には、紛れもない軍神の血が流れているのであった。

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