第14話「樊城の戦い ~中編~」
司馬懿は眼前に広がる光景に思わず目を疑った。
「なんだこれは……!」
司馬懿の目に飛び込んできたもの。それは水に囲まれ孤立した樊城の姿であった。
関羽は近くの川の水かさが増していることを利用し、水門を破壊。一気に城へ水を流し込んだのだ。
「どうする?水に囲まれていてはどうしようもないぞ」
「仕方ありません。ひとまずここに陣を張り、様子を見ましょう」
司馬懿率いる5000の軍勢だけでは関羽に対抗できるはずがない。
樊城が完全に孤立してしまった今、司馬懿たちにはどうすることもできないのだ。
司馬懿はただ、樊城の曹操軍がじわじわと追い詰められていく姿を渋い顔で見つめていた。
一方、関羽陣営。
司馬懿率いる敵援軍が到着したとの報せはすぐに入った。
「5000か。ならば倍の1万ぐらいでいいだろう。関索、奴らを蹴散らしてこい」
「ハッ!おまかせください!」
関羽は関索に1万の兵をあずけると、司馬懿軍の対応に向かわせた。
敵は水に囲まれ身動きがとれないとはいえ、なにが起こるかわからない。
樊城をほうっておくわけにはいかなかった。
こうして関羽軍は樊城攻めを行う関羽隊と司馬懿軍の相手をする関索隊の二つに分かれた。
関索が疑問を感じたのは、司馬懿軍と戦ってしばらく経ったころだった。
(おかしい。敵からはほとんど攻撃を仕掛けてこない。ヤツは一体なにをたくらんでいるんだ)
司馬懿の兵の使い方は巧みで、兵力差が倍あるというのにいくら攻撃してもまったく崩れない。
だが、その代わり反撃という反撃はまったくなかった。
敵はまるでなにかを待つようにひたすら守りに徹しているように思えた。
(まさか……まだ援軍が!)
そして、この関索の予感は見事的中した。
やがて敵援軍が戦場に到着したのである。
その数2万を超える大軍勢。
あまりの兵の多さに関索も驚いたが、さらに驚くべきことはほかにあった。
「あれは曹操軍じゃない……」
旗も、鎧も曹操軍とは違う。
そして関索は彼らの姿に見覚えがあった。
その正体は同盟を結んでいるはずの孫権軍。
孫権が裏切ったのだと、関索は確信した。
思わぬ裏切りに動揺する兵士達。
そしてその混乱はさらなる混乱を生む形となった。
「関索様、大変です!糜芳殿と傅士仁殿が敵に寝返りました!」
「くそ……おのれ!」
こうして形勢は逆転。
司馬懿軍は一気に攻勢に転ずると関索隊を飲み込んでいった。