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西晋建国記 ~司馬一族の野望~  作者: よこじー
第1章 司馬仲達、乱世を駆ける
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第11話「軍神の子」

 若者は道に迷っていた。


「ここはどこなんだ……」


 若者はあたりを見渡すが、あるのは木と草と岩のみ。

 先ほどからずっと同じ景色だ。

 彼は毛並みの良い馬に乗っており、目立った装飾こそないものの品のよい綺麗な服に身を包んでいる。さらにその上に軽めの鎧、そして腰には剣を携えていた。

 彼は武人であった。


「まさか軍からはぐれてしまうとは……父上に叱られるだろうなぁ」


 彼がそんなことを呟いた時であった。

 一本の矢が飛んできた。

 だが、矢は彼には当たらず、目の前の地面に突き刺さる。


「誰だ」


 矢の飛んできたほうにそう問いかけると、やがて茂みの中から二人の少女が現れた。

 年は二人とも10代後半だろうか。一人は弓、もう一人は槍を持っている。

 とてもそこらの村娘には見えない。


「お兄さん、命が惜しかったらここに金を置いていきな。そうしたら命は助けてあげる」


 槍の少女はそう言い放つと、穂先を若者に向けた。


「お~恐い恐い。しかし、それじゃあまるで君たち山賊みたいじゃないか」


「みたいじゃない!私の名は王桃(おうとう)。一度は聞いたことくらいあるだろう」


 槍の少女・王桃は若者の余裕綽綽な態度に苛立ちを覚え、声を荒げる。

 だが、対する若者のほうはいまだ依然として涼しい顔をしたままだった。


「いや、聞いたことないな」


 若者はそう答えると馬を下り、腰の剣を抜いた。


「名は知らんが山賊というからには黙っているわけにはいかないな。この俺が成敗してくれる」


「フッ、面白い。王悦(おうえつ)、お前は手出すなよ」


「はい、姉様」


 王桃の忠告に弓の少女・王悦はうなずき、数歩後ろに下がった。

 そしてそれを確認すると、王桃は一気に若者に飛びかかった。


「死ねぇぇぇぇぇ!」


「せっかく外見は可愛いのに、言葉が汚いなぁ」


 若者はそう呟くと、いとも簡単に王桃の攻撃を避けて見せた。

 そしてそのまま彼女の背後に回ると、すばやく背中を斬り付けた。


「くっ!」


 王桃は思わず苦悶の表情を浮かべる。

 だが、傷はそこまで深くはない。

 彼女はすぐさま体勢を整えると目にも留まらぬ速さで槍を振るった。

 だが、槍は空を斬る。

 そしてその間に少しの隙が生まれた。

 その少しの間に若者は一気に距離を詰め、王桃の懐に入った。


「あう!」


 王桃は再び苦悶の表情を浮かべた。

 若者の蹴りが王桃の腹に直撃したのだ。

 これには思わず王桃もよろける。

 そして体勢を立て直す暇もなく、次の攻撃が襲う。


「くはっ!」


 当然避けることはできず、まともに攻撃を食らった王桃は地面に倒れた。

 全身に鈍い痛みが走る。

 彼女はなんとか起き上がろうとしたが、身体が言うことを聞かない。

 指先がピクピクと動くだけであった。


「情けない……。私の完敗だ。早くとどめをさせ……」


 王桃は素直に敗北を認めた。

 ここまで圧倒的な差を見せ付けられては認めざるをえなかった。

 若者は無言で王桃に近づく。


「姉様!」


 王悦はたまらず叫んだ。

 そして弓に矢を番えると、若者に向けた。

 手を出さないと約束したものの、実の姉が殺されるところを黙って見ることなどできなかった。

 だが、矢が放たれることはなかった。

 なぜならば次の瞬間、若者が予想外な行動に出たのだ。


「大丈夫か?一応すべて致命傷にならないように手は抜いておいたが……」


 若者はそう言うと王桃に手を差し伸べたのだ。

 この予想外の行動に王桃も王悦も目を丸くした。


「おい、どういうつもりだ」


「いや、ここで君に死なれたら困る。俺は案内役がほしいんだ」


 彼はそう言うとニッと笑ってみせた。

 そして自分は劉備軍の将・関索(かんさく)だと名乗った。

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