part1‐9
無事に魔導会室に着いて皆と合流できた雪達は、九十九と紫音の戦いを魔導会室から見ていたが、直ぐにどうするかを検討し始めた。
「…どうしよう。 やっぱり殺すしかないのかな…」
「悩んでいる暇は無いよ。 もう、やるしか…」
皆、紫音のお願いを承諾したのだが、やはりいざとなると戸惑ってしまう様子だった。
そんな中、雪は一人だけ添えつけられている電話に目を向けていた。その表情は、瑠夏達同様に悩んでいる様に見えたが、その中に少しの恐れを感じた。
「白石君、どうかしたの?」
「……いえ。 殺すかどうかですが、少し時間をくれませんか? 数分でいいんで」
その顔は何かを決意した様なものに変わった。
「…何か策があるの?」
「一応は」
「解った。 それじゃ、私達は先生の様子を見ておくから、出来るだけ早くね」
「了解しました」
雪は早速添えつけられている電話の受話器を取り、素早く番号を入力する。入力している間に瑠夏が問う。
「私達が会話を聞いても良いなら、スピーカーにして欲しいな」
「了解です」
入力を終えてスピーカーボタンを押す。数度のコールが響いた後、不意にコールが止んで声が返ってきた。
『こちら、魔導軍本部です。 何用でしょうか?』
「!?」
その所属に、皆が驚きをあらわにする。だが、しっかりと学園長が戦っている様子を見ているのは律儀な事だ。
「白石雪と言う者です。 ミスティカに代わって貰っても良いですか?」
『…申し訳ありませんが、用件ならば私が聞きます』
「…じゃあ、『シラユキ』って名乗ってもダメですか?」
『っ!? 本当ですか、それは!!』
「確認のためにもミスティカに代わってください」
『…解りました。 暫くお待ちを』
そう言って受話器を置く音がして、放送を入れる音が聞こえた。
「あの、良いですか?」
「なんですか?」
湯野からの質問だ。皆それぞれ疑問を持っているが、真っ先に口にしたのは湯野だった。
「ミスティカ、というと、【魔導軍高位魔導師】のミスティカさんですか…?」
「確か、そんな肩書というか称号持ってましたね」
「それを呼び捨てって、貴方一体何者ですか…?」
「あぁ、それなら多分嫌でも--」
『シラユキ!?』
「うわっ! びっくりした…」
話に集中していた所為か、急にスピーカーからミスティカの切羽詰まった声を聞いて本気で驚いてしまった雪。
それを無視してスピーカーから声が聞こえてくる。
『本当に貴方はシラユキなの!?』
「いや、あの、落ち着いて?」
だが、雪の声が届いていないのか受話器の向こうで「魔導逆探知計測!」という声が聞こえて来た。それから更に数秒が経った。
『本当に、シラユキなのね…!』
「いや、嘘付いても仕方ない状況なんだけど…」
『じゃあ、その場にいる全員にも嘘付いて無いのよね?』
逆探知で雪以外の生命力パターンも探知していたのだろう。「その場の全員」と言う言葉を使ってきた。
「……」
『最終確認。 貴方は、誰?』
その質問は、つまり自分の元使っていた名前と、元所属していた場所、そしてそこで得た称号を全て言えと、そう言っているのだ。
流石に今回ばかりは九十九と紫音の戦闘から目を離して、全員の視線が雪に集まる。
そんな中、ポツリと呟く様に雪は言った。
「…元魔導軍所属、『魔導軍最高位魔刀士』兼『犯罪者殺し』シラユキ」
その言葉が静まり返っていた魔導会室に響く。誰も、何も言えなかった。その中で、瑠夏だけがここに来る前にされていた質問についての意味を理解した。
『そう。 貴方がシラユキなのは確定ね。 それで、何の用かしら?』
「そっちで探知出来てるとは思うけど、ちょっと友達が暴走してて大変な事になってるんだけど…、生命力パターンどうなってるか解る?」
『魔物のものね。 しかも、ネガティブシャドウの奴』
「あぁ、だから紫音に…」
ネガティブシャドウとは他者に憑くタイプの魔物で、憑いた対象の欲や暗い気持ちを糧に生きる魔物だ。
「そう言う奴引きはがす方法って存在したっけ?」
『…無いわね。 でも、理想的に考えれば可能なはず』
「それでもいいから教えてほしい」
『…対象の魂に、強く、明るい気持ちを流し込む事』
「…確かに。 だけど結局魂をどうにかしない、と--」
『どうかしたの、シラユキ』
雪の頭の中でピースがはまる音がした。昨日からずっと考えていた魔法。それがミスティカの言葉によって最後のピースが埋められる。
「実践する方法は思い付いた。 ネガティブシャドウを叩きだした後に戦闘を行うから、援軍を頼めないかな」
『…新たに魔法でも作る気? 止めた方が身のため--って言って止めた事無かったわね』
「そう言う事。 で、援軍はどうかな?」
『任せて。 早くて20分で着くわ』
「じゃあ、町中に魔物の反応が出たらそれを捕捉してそこに向かって」
『了解。 あ、最後に』
「なに?」
『貴方は、誰としてその友達を助け、誰として魔物を退治するの?』
その問いに、ほぼノータイムの雪は答える。
「決まってる。 白石雪として紫音を救い、シラユキとして魔物を討伐する」
『ふふっ。 了解よ。 ユーヴァンス、来るかしら…』
そんな声を残しながら通話が切れる。受話器を戻して雪は振り向く。
瑠夏が、夕が、湯野が、李世が、夜羅が、緋呂が、遊呂が此方を見ていた。
「さて、皆さん言いたい事だらけだとは思いますが、それは紫音を交えてやりましょうか」
誰も、何の反応も返さない。ただ、じっと雪を見ているだけ。
「あ、一つ言っておきます。 僕は現在魔導軍の最高位魔刀士であるシラユキではなく、ラルゲット魔法学院の白石雪という生徒ですので、そこは安心を。 それより--」
何処となくほっとした雰囲気になった7人に向けて言う。
「少しで良いので、生命力分けてください。 紫音を助けに行ってきます」
雪のその言葉に、瑠夏が頷いて言う。
「紫音ちゃんを、救って。 間違っても、殺したら駄目だからね」
その言葉をトリガーに、全員が頷く。雪の体の中に、皆の想いが詰まった生命力が流し込まれる。
それは、雪の生命力と結びつき、1つになる。これを、先程ミスティカのおかげで思い付いた魔法に込めて紫音にぶつける。勿論、この魔法に存在価値が無いのならば魔法は発動されずにもう始末するしか無くなってしまう。
だが、それでも雪は不敵に笑って--
「行って来ます…!」
『行ってらっしゃい!』
皆の声を背中に、雪は窓から飛び出した。
「なっ、雪…!?」
「おぉっと、思ったより早かったね」
「ちょっと昔の仲間に良いこと教えて貰ったんで試しに来ましたよ!」
「そんな、たった数分でどうにかできる策を思い付いたというの…!?」
「まぁ、これが不発に終わったら、万事休すだけどね」
雪は紫音に駆け寄る。紫音は金縛りで動けないので近付いて来る雪から逃げる事は出来ない。
雪は九十九に合図して結界を解いて貰う。それを機に、紫音が『闇の槍』を構成し、放ってくるが--途中で飛来した弾に射抜かれて霧散する。
皆がサポートしてくれている。そう思うと、雪は死ぬ心配は無く紫音を助ける事に専念できた。
「さて、ネガティブシャドウ。 遊びは終わりだ」
「っ!?」
紫音の頭に手を乗せて、撫でる。
「紫音は紫音で助けるから」
「ぅ、う…」
「皆の気持ち、受け取れ…! 『魂繋ぎ』!」
雪の声と気持ちに反応して、その魔法が構成され、具現化する。
具現化したそれは、雪と紫音の丁度心臓辺りを繋ぐ線だった。そして、その線を伝うのが皆の気持ちの宿った雪の生命力。
「ぐっ…!」
勿論、繋ぐからには雪自身も紫音の魂にある物が流し込まれてしまう。が、それを気合いと気持ちで振り払い、紫音に自分の…皆の生命力を流し込み続ける。
「う、うぅああぁぁああぁあっ!!」
絶叫を上げる紫音。その体から人外の形をした何かが追い出される。それこそが、ネガティブシャドウだった。
「先生!」
「はいよっ」
瞬時にネガティブシャドウとの距離を詰め、攻撃を加える。
『ぐあぁぁぁ!』
「おっと」
乱暴に腕を振り回すネガティブシャドウから九十九が離れる。それを見て、ネガティブシャドウは一目散に逃げ出した。
「あちゃ、逃がしちゃったか…」
「大丈夫です。 僕の知り合いがしっかりと捕捉してますので」
「そうかい? なら、僕は消耗が結構凄いからちょいと休ませて貰うね」
「お疲れ様でした」
九十九が去って行くのを見て、雪は意識を失った紫音を抱えて学院の中へ入って行った。
「ふぅ…。 割と、生命力が消耗してるなぁ…」
「…ぅ、ぅう」
少し呻いて紫音が目を開く。
「うぅ…? せ、つ…?」
「おー、目が覚めた様でなにより」
「あれ、私、なんで…」
まだぼーっとしているのか、紫音は今までの事を理解するまでに少し時間がかかった。丁度、魔導会室のある階に到着したあたりで思い出して来たのか、その顔はどんどん青ざめて行った。
だが、そんな様子の紫音を見て、雪は正気を失ってた時の事を思い出せるんだなと、少しずれた事を考えていた。
「雪、どうして殺して、くれなかったの…」
「…はぁ?」
思わず呆れた様な声が出てしまった。理由など、2つ程しかない。
「どう、して…!」
涙を流しながら訴えてくる紫音。湯野が言っていた限りでは、もうこれ以上誰にも迷惑を掛けたくないと言っていたらしい。もし迷惑を掛けるようなら殺してとも。
なのに、紫音は生きている。曖昧にしか思い出せないが、自分のした事は許される事では無いのにも関わらず。
「理由、その1。 僕は、そのお願いを拒否した」
「…えっ」
「例え許されない事をしたとはいえ、大切な友達を斬れるほど僕は強くない」
「だったら、強くなって…」
「お断り。 で、2つ目。 皆に助けて来てって言われたから」
紫音は予想外の事を言われて目を見開いた。
雪は拒否したからともかく、他の皆は承諾してくれたはずだ。なのに、自分を助ける様に言った…?
どうして、どうしてと、そんな思いが胸の内からあふれてくる。
「そんな…」
紫音は、もう茫然として何も言わなくなった。ただ、涙を流して雪に抱えられていた。
そして、魔導会室の前に到着する。紫音は、泣きながら震えていた。
「入るよー」
「ぁ、ま、待って…!」
「はいはい断固拒否ー」
そう言って魔導会室の扉を開く。そこには、笑顔で迎えてくれる7人がいた。
「おかえり、紫音ちゃん」
「あ、うぅぁぁあ…」
その掛けられた「帰ってきた者に対する」挨拶に、紫音は泣いた。雪に抱えられたまま、泣いた。
瑠夏は雪に座らせてあげて、と目で訴えられたので来客用のソファに座らせて少し離れようとすると、紫音に手を掴まれた。声を掛ける前に引っ張られて隣に座らされる。そして、雪の膝に顔を埋めて泣き続ける。
「ど、どうした…?」
「うぅ、うわぁぁぁんっ」
「あはは。 紫音ちゃん、もう大丈夫だよ」
瑠夏は傍にしゃがんで紫音の頭を撫でる。他の皆も頭こそ撫で無かったが、色々と声を掛けてやっていた。
それを見て雪は瑠夏と同様に、紫音の頭を撫でる。瑠夏と目が合った。その微笑みに浮かぶ言葉は、「良くやったよ。 ありがとう」という言葉だった。それに雪は微笑んで返し、紫音が泣きやむのを待った。
紫音が泣きやむまで数分程かかったが、なんとか泣きやんで通常の状態に戻った紫音を再度ちゃんと座らせたのだが、何故か紫音は雪の腕にギュッと抱きついて離れなかった。
そして、現在は紫音に雪の事を話している。
「--という事なんだ。 紫音ちゃんは、何か思う事はある?」
「無い。 雪は、雪だから。 シラユキだろうが、殺人してようが、それは雪」
紫音の回答に、各々が少し驚いたような表情になった。実は、それぞれ言いたい事が存在したのだがその回答を聞いて、なんだか質問するのが馬鹿馬鹿しくなったので、7人とも少し噴き出してしまった。
それを見て、雪と紫音は顔を見合わせて首を傾げる。
「あははっ。 い、いや、なんかもう白石君に対する不満が今の一言で消し飛んだよ。 ぷっ、ふふ…」
瑠夏が可笑しそうにお腹を抱えて笑っていた。
「で、結局言いたい事は無いんですか?」
「あぁ、一つだけ」
なんとか笑いを抑え、深呼吸して落ち着きを取り戻すと表情を真剣な物に変えて問う。
「君は、これからどうするのかな?」
「在学かどうかって話…じゃなさそうですね」
「察しが良くて助かるよ。 で、どうするのかな?」
2度、重ねて質問をしてくる瑠夏。その問いは、その場にいる全員の気持ちを代弁したものだった。
だから雪は、皆の目を見て答える。
「行きますよ。 元同僚が頑張ってるのに、自分が傍観なんて嫌じゃないですか」
「雪は新しい、人を救うための魔法を作り出した。 そして私を救ってくれた。 傍観なんて、してない」
「そうだよ。 君は君が思っている以上に活躍をしているんだよ」
その言葉を聞いた雪は苦笑いを浮かべた。試されているであろうことは、雪にも容易に想像できた。
「それでも行きますよ。 元とは言え、仲間なんですからね」
「そっか、それじゃ私達は--」
「学業に専念してOKですよ」
『--は?』
全員から何言ってんだこいつ、という視線を向けられる。
「あれ、そう言う話じゃないんですか…?」
『違うよっ!!』
「あれー…?」
雪は8人の呆れや怒りなどの視線に晒されて居心地が悪いことこの上なかった。
だが、この8人を巻き込みたくは無いと思う。今更過ぎるかもしれないが、ここは譲れない場所だ。
雪は元魔導軍としてのプライドに掛けて、なんとかこの人達を騙してでも1人で行こうと考えた所で、雪は瑠夏の最大級の(目が笑っていない)笑顔が視界に入った。
「あれー、白石君。 何を考えこんでいるのかなぁー?」
「あはは特に何も考え込んでなんてナイデスヨ?」
「よーし皆。 白石君の家知ってるよね? 荷物持って集合って事で」
「待って! お願いだから待って下さい!」
「あはは。 じゃあ、今すぐ何を考えてたのか隠すことなく私達に言ってみて?」
「………」
ここで雪は悟った。もう逃げ道なんて存在しない事に。
何故なら、言えば強引にでも家に押しかけて来るであろうことは予想できる。恐らく、監視という名目で来るだろう。言わなかった場合に関してはもう押し掛けてこようとしているのは明白だ。
絶望している雪を見てニコニコと笑みを浮かべる瑠夏。
「言わないのかな?」
「初めから選択しなんてなかったんだ…」
「ん、雪。 早く帰る」
「あれ、紫音ちゃんは荷物どうするの?」
「雪のを使うから問題ない」
「いや、流石に着替えとか…」
「むぅ…」
家主抜きで何やら話が進められていく。どうしようかと迷っていた雪だが、もう此処は大人しく諦めて家の事を考えるべきだろうと判断した。
まず、雪の使っている部屋を抜いて存在する部屋は4部屋。つまり、2人ずつペアになって寝るという事になるのだが、男3人女5人という人数の比なので、男女ぺアになる部屋が1つだけ出来てしまう。別に当人同士が良いなら良いのだが、これは--
「雪、直ぐに家に行くから先に帰って待ってて」
「来なくていいです。 切実に」
もういっその事、家を置いて何処かに逃げようかな、などと考え始めた雪の肩に手を置いた瑠夏が一言。
「家を置いて逃げるようなら、あの家勝手に売り払って学生用シェアハウスにするからね?」
瑠夏は心でも読めるのだろうか。毎度のことながら、雪の考えている事を的確に見抜いて来るので恐ろしい。
改めて逃げ場など無いんだと確信した雪は一人とぼとぼと家に向かって歩き出した。家に帰ってから魔導軍に連絡し、ミスティアに合流は少し遅れそうと伝えて貰った。
そして、その晩…。
「ふぅ…。 こんなに広いお風呂初めて」
「なんで僕が連れ込まれてるのだろうか」
部屋割のペアずつ入れとのことだったので、まずは瑠夏と湯野が入り、その次に緋呂と遊呂が入り、夜羅と李世が入り、夕が入った(夕は「一人部屋があったらいいなーちらちら」と言っていたので一人にしておいた)。
そして、余った紫音は何処で寝るかというと雪の部屋らしく、無理矢理お風呂に連れて行かれたのがついさっき。誰も止めようとしないどころか、寧ろ進めていた気がしたのは気のせいだろうか。
「何だか、眠い…」
「紫音、せめてお風呂出てから寝て欲しいな。 僕運ばないからね?」
「雪の薄情者…」
眠たそうな声を出しながらも紫音はシャワーを浴びる。出来るだけそっちを見ないようにしながら雪はぼーっとする。自分で思ったよりも疲れていたのだろう。紫音同様に半分寝ながらお風呂に入っていた。
シャワーを浴びてお風呂を上がった雪と紫音はどちらともなく部屋に向かった。
それを見ていた瑠夏と湯野は微笑ましそうにその後ろ姿を見送った。
「紫音て、何処で寝るの…?」
「ん…、雪の、横で良い…」
「良くないけど、今は此処しか、空いて無い…か…」
もう眠くて何を喋っているかもあやふやな状態の雪と紫音。後の事を考えず、取り敢えず寝てしまいたいという衝動にかられる2人は、やはりどちらともなく布団な中に入ってほぼ同時深い眠りに付いた。
先に目が覚めたのは紫音だった。真夜中にふと目が覚めたのだ。それっきりずっと横にいる雪の寝顔を見つめていた。自分を救ってくれた人の寝顔を、ずっと。
「…無防備な、寝顔」
「すぅ…」
これが魔導軍最高位に君臨する人には見えない、というのが紫音の感想だった。 紫音だけでなく、誰が見てもそう言うとは思うが。
「明日…いや、今日からは、魔物と戦う…」
紫音は自分の所為で皆をこんな目に遭わせてしまったと、まだ何処かで思っている。
だから、せめて誰も傷つけさせない。それは、紫音の譲れない一線だった。それは、きっととても大変なことだと思う。皆が傷つかない様に、頑張らなければいけないからだ。
「…だから、せめて今だけは」
紫音は眠る雪の腕を抱きしめて、再び夢の中へと意識を沈めて行った。
* * *
『はぁ…、はぁ…。 なんだったのだ、あの人間は…!』
ネガティブシャドウは困惑していた。なぜなら、見たこともなければ聞いたこともない魔法を使われ、取り付いていた紫音から無理やり引き剥がされたのだから。
しかも、その引き剥がし方が『紫音の魂に強い想いを流し込む』といった方法 だったので、負を糧とするネガティブシャドウには少なくないダメージを負わせていた。
『それに、あの魔獣爪を装備した男の力は…』
正気を失わせた紫音の闇魔法を右手を振っただけで消し飛ばし、ネガティブシャドウに攻撃を叩き込んだ九十九。その攻撃力が半端ではなかったことにも驚いていた。
『こうなれば、あの娘から取り込んだ『強欲』と『負の感情』で、町ごと消し飛ばしてやる…』
元々負の感情の塊のような存在のネガティブシャドウ。自分の障害になりそうなものはどんな手を使っても排除するという思考回路をしているので、逃げられないように町ごと消し飛ばすという考えに至るには時間が掛からなかった。
『魔物の大群に襲わせるのもいいな。 町ごと消し飛ばすのは、それが失敗したあとでもいいか。 ククッ』
ネガティブシャドウは町が魔物によって破壊されるか、自身の大規模魔法で消滅するところを想像して、嗤った。
シャドウさん出番少なすぎなのを誤字確認をしていて感じたので最後に少し入れてみました。