part1‐8
投稿オンパレードなう。
雪は帰り道である事を思い出した。一番最初に受けた生命力についての授業の時に九十九が言っていた事だ。
『魂を傷つけられたら自我が崩壊してしまったりする』
その言葉を思い出した雪は、魔装体育の時間に紫音が言っていた事を思い出す。
『私の意識が半分途切れたから--』
つまり、半分自分の意思でやってもう半分は無意識の内にやっていたのだろう。つまり、これは自我の崩壊に似た症状が起こっている事では、と雪は検討を付ける。
ならば、作るとすれば魂に干渉する魔法だ。だが、今まで魂に干渉すると言った魔法が存在するなどとは聞いた事が無い雪は少し難しいな、などと思いながらも家に帰って行った。
同時刻。紫音も魔導会を後にして、自分の部屋に戻ってきていた。
時間外の衝動。それも、2種類同時に起こるなどと想像もしていなかった事が起きてしまったのだ。
もう、明日がどうなるか解らない。どんどん自分が壊れて行ってしまっている事を紫音は改めて実感した。
だが、もし明日自分が暴走しようともきっと魔導会が止めてくれるはず、と安心してベッドに倒れ込む。
魔導会の皆は、複雑そうな顔をしながらも了承してくれた。その場に雪がいなかったので雪はどうするか解らないけれど、きっと自分の事を大切に思ってくれているのならば殺してくれるはず、と判断した。
(あぁ、そう言えば九十九先生が何か言ってたな…。 魂を傷つけられたら自我が崩壊するとか…)
何故今それを思い出したのかは知らない。だが、それは何かとても重要な物の気がした。今日の衝動は、半分意識が無い状態でやっていた。つまり、自我が崩壊し始めているという事。完璧に崩壊する前に、殺して貰わないと、などとマイナスの方に考えてしまう紫音。
「…う、ぁ」
寝る前にお風呂入らなきゃ、と思い立ちあがった所で少し眩暈がした。今まで眩暈など起こした事も無かったのに、急にどうしたんだろう、と思いつつも扉に手を掛ける。
今度は誰も居なかったお風呂で一人温まっていると、睡魔が襲ってくるのが解った。紫音は脱衣所に移動し、体を拭いて着替え、自室に戻りベッドに再び倒れ込む。
…睡魔と同時に【別の何か】に襲われ、紫音の意識は暗い闇の中に沈んでいった。
次の日、雪はひたすら考えていた。どの様に紫音の魂に干渉する効果を持つ魔法が良いだろうかという事だ。
「魂を回復させる…? いや、でもなぁ…」
雪は良い案がなかなか出ずに、ひたすら唸り続けていた。不意に、何かが聞こえた様な気がした。
耳を澄ましてみると、それは爆発音だという事が解った。
「誰かが事件を起こしてるのか…?」
雪は魔刀を持って家から飛び出した。目指すは爆発音が響いて来る結構離れた場所。下手に音速行動による移動を繰り出すと通行人にぶつかって事故を起こしてしまう可能性もあるのでひたすら走った。転移は転移で明確な場所と大量の生命力を使用して使用するものだから、少しでも力を温存しておきたい今使うのは得策ではない。
後少しで目的地に着く、となった所で道端で結構な人が倒れているのが解った。 雪は駆け寄って状態を確認すると、生命力の7割程が消耗されている事が解った。
それを確認した瞬間、雪は身体強化をし、音速の手前で走りだした。
到着した場所には紫音が魔導書を開いて佇んでいた。その目に、光は宿っていない。
「…紫音!」
「…? 雪、来てくれたんだ」
「…っ」
2日前に感じた寒気のする紫音の言葉。それと直感で感じられた危険を察知し、その場から飛びのく。すると、先程まで雪のいた位置に魔法陣が構成される。
飛び退いた雪を見て、紫音の顔色が不機嫌そうなものへと変わる。
「なんで避けるの?」
「いや、危険を察知して--っ?!」
「避けたら、ダメ」
背後からその声が聞こえ、振り向く前に闇魔法を発動させて雪を拘束する。
拘束魔法と言う物は、闇属性以外では使えない。なぜなら、強い気持ちや願いではなく、強欲や暗い気持ちに反応して発動させるタイプのものだからだ。
今の紫音は、『雪を逃がさない』という物と、『雪に触れていたい』という物と、『雪を独占したい』といった感情に支配され、その拘束の効力を高めている。
勿論、そこまで強力な拘束魔法を掛けているのだから、対象からは解除出来ない様な作りにもなっている。つまり、雪は逃げる事が出来ない。
「どうして逃げようとするの? 普段は受け入れてくれてたのに」
「いや、命の危機を感じて…」
「安心して。 雪は殺さない。 絶対に何が有ろうと私は私のモノを殺さない」
「僕はモノじゃなくて者なんだけど…」
「でも、雪以外で私の邪魔をする奴は皆皆殺す」
元から闇属性を得意とするだけの強欲や暗い気持ちを持っていた紫音だったが、更にそれが暴走し、何かに魂を傷つけられた結果、ただ己の欲望を満たそうとするだけの存在となっていた。
「後、抵抗するなら雪にも酷い事はする」
「ぐあっ!?」
雪を拘束している闇魔法を通して彼女は生命力吸収魔術を使用する。それにより、どんどん雪から生命力を奪っていく。
「雪の魂をボロボロにして、自我を壊すのも、ありかなぁ…」
そんな恐ろしい事を呟きながらもその口元には笑みが浮かんでいる。本当に楽しそうに雪から生命力を奪う。
雪は、なんとかならないかと思って生命力を使ったり、無理矢理動いてみたりと何度も試したが、体に力が入らなくなって視界がブラックアウト仕掛けて来たあたりで本気で死と自我の崩壊の危機を感じた。
(不味い…。 この、ままだと--)
雪の意識が闇に呑まれようとしていた所で、紫音は吸収魔術を止め、自身の背中に防護壁を作り出す。
何を、と思った雪の視界でその結界にぶつかる斬撃があった。
「…紫音ちゃん。 これはもう被害増大だから手を出させて貰うね」
「本城さんですか。 私の邪魔立てするなら、貴方も殺します」
「--もう、完璧に…」
何かを呟いた瑠夏。それと同時に紫音の『闇の槍』が瑠夏を仕留めようと飛び交う。それを見極めた瑠夏は魔刀を振って槍を撃激する。
(なんとか、白石君の拘束を解かない事には此処から離脱する事も出来ない…)
雪に近付いてあれを切り裂いてしまえばいいのだが、一歩間違えれば雪を切り裂いて殺してしまう事になる。唯でさえ生命力を奪われている雪を切ってしまえば助かる可能性はかなり低い。
(…けど、やるしかない!)
身体強化からの音速行動。魔刀の位置を調整しながら瞬時に紫音の横をすり抜け、雪を通り過ぎて2歩程の所で止まる。すると、紫音の拘束のみにあてる事に成功したようで、雪の拘束が解かれる。
「や、あっ!」
「っ、くぅ…!」
音速を超え、生命力を乗せて突き出された魔刀から『移動する突き』が放たれ、それは光速に近い速度で紫音に向かう。
だが、紫音も大したもので直撃寸前で対突の障壁を練り上げて吹き飛ぶ事でダメージを抑えた。
「白石君、行くよ…!」
「なんか、すみません。 ボロボロで…」
「そんな事は良いから!」
肩を貸して、少し生命力を雪に分けてその場から退散する。
恐らく直ぐに紫音に見つかる事は容易に想像できた。それに、例え瑠夏であろうとも1:1で戦えば勝機は無い。だから気配を薄くする魔法を使用して出来るだけ見つかりにくくする。
「何処に行くんですか?」
「取り敢えず、魔導会員はもう学院に集めてるから、そこかな」
「了解しました。 ところで、あの紫音どう思いました?」
唐突な雪の質問。それに瑠夏は迷いなく答える。
「あれは、見た目は紫音ちゃんだけど、中身は別人だね。 昨日の議題になった話のお願いをまるで知らないかのようにスルーしてたから」
「そうですか」
「そう言う君にはどう見えた?」
「身体こそ紫音ですけど、中身は別人という本城先輩と全く同じ感想ですね。 後はただの憶測ですが、恐らく彼女に何らかの魔物が取り付いて魂を傷つけた結果、こうなってるって感じがするんですよね」
「それは、確かにそうだね。 自我の崩壊を招く魂の崩壊…」
話しながらも足は止めない。学院を目指して歩みを進める2人だったが、次第に瑠夏に疲労の色が見え始めた。
「ご、ごめん…。 少し、休憩しても良いかな?」
「どうぞ。 僕に肩を貸してたせいでこうなったんですから…」
「それは、気にしないで」
近くにあったほぼ崩壊した店に入って気配遮断の結界を張って座りこむ。
「はぁ…。 学院に着いたとして、そこからどうしようか…」
「そうですね…」
瑠夏としても紫音を殺したいとは思わない。助けられるものなら助けたいと思っているのだが、どう考えても助けるどころか、手を付けることすらできない。光速に迫った瑠夏の一撃を防いで見せたところを見るに、それは容易に想像できた。
複数で挑めばなんとかなるか、などの全ての可能性を瑠夏は思考してみた結果、どうにもならないという結論にたどり着いた。
どう考えてもマイナス方向の案しか出て来ない瑠夏は救いを求める様に雪を見て、気が付いた。何かを言いたそうな、でも、何処か迷っている様な、恐れている様な表情をしている。
「…どうか、したの?」
瑠夏が問うと、その表情が消えていつもの様な表情になり、質問をしてきた。
「…本城先輩は、犯罪者を殺す殺人者をどう思いますか」
「唐突にどうしたの…?」
「いえ、何となくですよ」
本当にそうだろうか、などと思ったが詮索しない方が良いと直感的に思ったので何も聞かずに質問に答える。
「犯罪者をなんとかしようと思うその心意気は良いと思うかな…。 でも、殺人はダメなんじゃないかなぁ」
「…そうですか。 こんな時に変な質問すみません」
「気にしないで。 …さて、そろそろ行こっか。 余り同じ場所に留まってたらいつかみ使っちゃうから」
「解りました」
走れるぐらいにまで回復した雪は立ちあがり、瑠夏の後に続いて店から出て行った。
* * *
同時刻。
薄暗い部屋に一人の少女がいた。その部屋のプレートには、『魔導軍魔導部署』と書かれていた。
「っ、ミスティカさん!緊急連絡です!」
そんな叫び声と共に飛び込んできた男がいた。
「どうしたの?」
ミスティカと呼ばれた赤紫色の髪の少女はごく自然と答えた。
「ラルゲット魔法学院付近で、生命力吸収魔術使用者を特定!」
「生命吸収魔術…? 対人で使ったの?」
「はい。 誰も死んでいないものの、意識を失う領域まで吸われています!」
どういう事だろう、と思い色々な場所に配置している魔導計測器の内、ラルゲット魔法学院付近の物にアクセスし、解析する。
「…? 人の力じゃない…?」
「え、どういう事ですか?」
ミスティカ自身、何度もこういう生命力パターンを見た事があるが、それは魔物が持つ生命力のパターンをしていた。
つまり、生命力吸収の魔法を使用している人間は魔物という事になるか、それとも魔物に乗っ取られてしまっているかの2択だ。
「位置の観測終了。 ここね」
モニタに表示された地図に、現在その魔物の生命力パターンを持つ人間の現在位置が表示される。
「直ぐにチーム編成をして此処に向か--」
『み、ミスティカさん、ミスティカさん! 『シラユキ』を名乗る者からお電話です! 至急連絡室まで来てください!』
「シラユキ!? ごめんなさい。 ここの観測は暫く任せるわ」
「了解しました!」
その返事も聞かずにミスティカは部屋を飛び出した。
シラユキという名を聞いて、ミスティカは明らかに動揺していた。
昔、ミスティカともう一人の魔剣使いのユーヴァンスと共にチームとして行動していた【魔導軍最高位魔刀士】の称号を持つ仲間。それがシラユキという人物だった。
だが、数ヶ月前にシラユキは魔導軍からいなくなっていた。かつての仲間だったミスティカやユーヴァンスに何も告げずに。
(シラユキの実家は確か…!)
ラルゲット魔法学院の近くだ。恐らく、何かをしようとしているのだろう。それが、普通の人間としてなのか、魔導軍の最高位魔刀士としてなのかは解らないが、
様々な事を頭の中で考えながらも連絡室へと走って行った。
その数十分前、雪達はなんとか見つからずに学院までこれてホッとしていた所を紫音に見つかってしまった。
「何処に行ったのかと思った」
「くっ…!」
「ある程度なら戦えますよ。 だから、隙を見て--」
「隙を与えると思ってるの?」
その言葉と同時に『闇の槍』が飛んで来る。それを瑠夏と協力して迎撃したが、『闇の槍』の威力が強すぎて背後の学院の運動場に吹き飛ばされる。2人して魔刀だけは離さずになんとか着地する。
だが、2人とも万全な状態じゃない上に遠距離、中距離を苦手としている。最悪の状況で、2,3本飛んで来る『闇の槍』を弾き続ける。
「避けたら、防いだら、ダメ」
じれったくなったのか、紫音は槍を生成するのを止めて代わりに巨大な魔法陣を生み出す。
「あ、あ…」
「そんな、無茶苦茶な…!」
大規模魔法砲撃を行おうとしている事が雪と瑠夏には理解できた。
瑠夏はその場で半歩下がり、魔刀が手から滑り落ちそうになっている。それを見た雪は、残り少ない生命力を身体強化に回そうとして、止めた。
「やー…。 流石に教師として学院潰されそうなのは見てられないね」
「九十九、先生?」
「君たちは早く魔導会室へ。 皆待ってるはずだよ」
いつものような軽い口調だった。だが、その左腕についている魔獣爪はその声にはさっぱり似合わないものだった。
「で、でも、魔法陣が…!」
「あぁ、これなら--」
「なっ!?」
紫音が驚愕の声を漏らす。それは無理の無い事だった。
ただ、軽く魔獣爪の付いていない右腕を横なぎに振るった。それだけで、魔法陣が崩れた。
「ほら、これで学院は大丈夫だから。 …ただ、余り長い事足止めは無理だ。 だから、出来るだけ早く策を考えてくれ」
此方を見ている九十九に無言で頷いて瑠夏と共に学院の中に入る。
それを見送った九十九は魔獣爪を構え、小さく呟く。
「さて、穂坂さん…。 暫く此処は通さないよ?」
「邪魔するなら、殺す…!」
九十九の周囲を取り囲むように複数の黒い竜巻が出来る。それを一瞥し、どういう物かを瞬時に解析し始めた。
「解析を、待つと思うの…!」
「まさか。 そんな訳無いじゃないか」
全方位から殺到してくる黒い竜巻を睨みつけ--その姿がかき消えた。
「えっ…」
「おやおや? こんなものかい?」
「う、そ…」
紫音は間違いなく全力で魔法を放ったはずだ。なのに、かすり傷1つ付けずにその全力の一撃を消し飛ばされた。
「いやぁ…。 元から素質のある人間に取り付いても、所詮は魔物の力って所だね」
「っ」
「恐らく、穂坂さんは今意識を失っているよね。 いや、正気を失ってるのほうがあってるのかな…」
紫音は黙った。黙ったまま、九十九を睨みつけている。
「何処かの誰かさんが穂坂さんの魂に傷を付けるからそうなった訳だ……と、言った所で魔法完了」
「っ、しまった…!」
何の属性も宿っていない、構成された狼たちが紫音に向かって走る。紫音は同種の魔法をぶつけて相殺し、即座に『闇の槍』を作りだし、それを飛ばさずに手に持って勢いよく踏み込んでくる。それを見た九十九は魔獣爪を構え、迎え撃つ。
突きは避け、薙ぎ払いは寧ろ押し返し、魔法は障壁で拒む。
何十回、何百回と繰り返した所で、紫音の方が焦り始めた。
「こうなったら…!」
「おっと、そう来るか。 まぁ、無駄だけどね…!」
紫音は槍を自らに突き刺そうとした。それを九十九が金縛り魔法で止める。
「まだぁ…!」
「それも、無駄だ…!」
周囲に槍を生成し、自らに飛ばそうとするのを今度は魔法不可の結界を張って止める。
「さぁて、残り10分と言ったところか…」
「何がっ…!」
「ん? 穂坂さんを抑えてられる間の話だよ」
「それまでに、雪達が戻ってこなかったら…!」
「あぁ、僕は殺されちゃうね」
それを聞いた紫音は嗤う。たかが10分で結論など出る訳が無いと踏んでの事だ。
「まぁ、そんなに時間はかからないと思うよ。 なにせ、白石君だからね。 きっと面白い解決方法を見つけてくれるはずだ」
不敵に笑う九十九に、少しだけ紫音は恐怖を覚えていた。