表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔刀使いのソウルリンク  作者: 向日葵
生命吸収魔法の使い手
7/18

part1-7

あ、いまさらですが誤字脱字はちゃんと12月以降に修正していきます。

見苦しい誤字があるかもしれませんが、どうかご容赦ください(__)m

 紫音と帰路を進む途中、雪はひたすら考え事をしていた。先程の紫音の症状についてだ。

 先程触れられていたいた時に生命力を吸われる様な事は無かった。つまり、本気で触れていたかっただけという事になる。

 だが、いつもならば睡眠欲求や食欲を肥大化させた様な感覚と共に生命力を吸収したいと思ってしまうはずだ。


(紫音の持つ吸収とは別の衝動の様な物が、それを上回ったってことかな…)


 単純に考えればそうだ。だが、雪はそうではないと思った。

 紫音が持つあの魔導書。あれは対象に衝動を植え付けるタイプのものだ。上書きされる様な衝動があれば、それすら飲み込んで強い吸収衝動を与える魔導書である。

 つまり、上回ったとしても直ぐにその上回った衝動を呑みこみ、それよりも強い吸収衝動を与えられて抑制する間もなく突き動かされてしまうのが普通なのだが…。


「…雪、さっきから難しい顔してる」

「ん、いやちょっと考え事してて…」

「…そ、なんだ」


 余り会話が続かない。雪は考え事をしているし、紫音は紫音で先程の事を思い出して恥ずかしくなり、上手く雪と話す事が出来なくなってしまっている。


(…私、どうなっちゃうんだろ)


 紫音は自身の事で不安になってきていた。

 入学試験の日、帰り道で偶々見つけた魔導書。それを持ってから紫音はおかしくなった。

 人の生命力が欲しくてたまらなくなる時がある。最初、それに耐えられなくて丁度放課後の時間に帰りの生徒から生命力を奪い取った。

 それから紫音は24時間毎に生命力が欲しくなる衝動が起き始め、入学前も後も吸収し続けた結果、魔導会に補足され監視下に置かれ、現在に至る。

 いつも違う所は、今日は吸収衝動が起きなかったというところか。

 だが紫音は、今回衝動が起こらなかったのは偶々だと確信できた。また、明日になれば衝動が起きてしまう事は何故か容易に想像できてしまった。

 2人して考え事をしていると、それぞれの家へ向かう分かれ道に出る。


「あ、雪。 私、こっちだから」

「ん、あぁ。 また」

「ん。 明日…」


 雪と紫音は分かれ、それぞれの岐路に着く。

 雪は家についても考え事を続けていたが、遂には頭が痛くなってきたので冷蔵庫に入っている弁当を食べて薬を飲んで早々に眠った。


 その一方で紫音は、寮の自室でまだ頭を悩ませていた。

 また誰かを襲ってしまうんじゃないか、雪に迷惑を掛けてしまうのではないか、と言った事についてだ。


(多分、絶対に迷惑を掛けてしまう。 雪だけじゃなく、他人にまで…)


 紫音はそんな行動を起こしている自分自身が嫌になった。あの時、この魔導書さえ手に入れて無ければ、と何度もそう思った。

 だが、過ぎた事は悔やんでいても仕方が無い。紫音は頭を冷やすために少し涼みに行こうと部屋を出る。寮の出入り口を目指して進んで行く途中、湯野と遭遇した。


「あ、穂坂さん」

「霞さん…」


 ここ最近よく魔導会員に出会うな、と思いながらも紫音は湯野に目を向ける。

 魔導会で全員に会った訳ではないし、名前しか知らない人もいる紫音だが、湯野に関しては魔導会室に合った写真とその下にあった名前を見て顔も名前も覚えていたのだった。蛇足だが、夕の事も知っている。

 ふと、紫音は魔導会員の実力を思い出した。そこで、とある案を思い付く。


「霞さん。 少しいいですか?」

「なんでしょうか?」

「私の衝動の事なんですが、それについてお願いがあるんです」

「お願い、ですか…?」

「はい。 もし、私が本気で止まらなくなって、周りに凄い被害が出そうなら、全力を持って止めてください」

「それは…」


 紫音の言った事は言わば「暴走したら殺して下さい」と言っているのと同義なのだ。だからこそ、湯野は少し戸惑った声を漏らす事しかできなかった。


「お願い、します。 もう、嫌なんです。 雪にも、他の他人にも迷惑を掛けるのが」

「………」


 なおも沈黙する湯野。現在湯野はどうすべきかを悩んでいる。本人の意思を尊重し、申し出を受けるのか、それともそれは出来ないと申し出を断るのか。

 湯野が聞く限り紫音は本気で言っている。瑠夏に聞いた話だが、今日は吸収衝動が起きなかったそうだ。だが、それが何時再発するかなど解った事では無い。その時、抑えきれずに暴走したら--と考えての言動だろう。


「………解りました」


 湯野は暫く考え抜いたが、本人の意思を尊重しようと思い、その申し出を受ける事にした。


「ありがとうございます」


 紫音はそう言って頭を下げ、外の空気を吸いに寮から出て行った。

 それを見送った湯野は少し考え、今の話を魔導会にすべきかどうかを検討したが、取り敢えず魔導会よりも先に雪に言うべきだと判断して、自分の部屋に戻って行った。


 翌朝、雪は通学中に紫音と遭遇した。昨日の様な寒気を感じる事も無く、普通の紫音だったのでひそかに安心していた。

 いつもの様に授業をこなし、普段と変わることなく昼休みに入る。昼ごはん一週間の約束なので紫音を誘って行こうかと思った雪だったが、その姿が見当たらなかったので一人で食堂に向かう。今日はたこ焼きでも買おうかと思い、食堂に入ろうとして--湯野と遭遇した。


「あ、丁度良いです」

「…? 霞先輩、どうかしましたか?」

「はい。 丁度良いので是非私にお昼ご飯を奢ってください」

「………」

「冗談です」


 霞先輩ってこんな人だっけ、と思いつつも雪はジトっとした目で湯野を見る。


「本題は、穂坂さんの事です。 ちょっと来てください」


 そう言うと湯野は振り向かずに歩き出した。雪はどうしようかと悩んだ末に、魔法で湯野の位置を特定しつつたこ焼きを購入し、慌てて追いかけて行った。

 着いた場所は魔導会室だった。湯野が鍵を開けて中に入る所を見るに、今日のこの時間帯は誰もいないらしい。


「で、紫音の事ってなんですか?」

「…昨日の事なんですが…。 寮で穂坂さんと遭遇した時にお願いをされたんです」

「お願い…?」

「はい。 本気で止まらなくなって、周囲に凄い被害が出る場合は全力を持って止めてほしい、と…」


 雪はその説明だけで「全力を持って止める」という事の意味を理解した。だからこそ、少し顔を顰める。


「…霞先輩は、どうするんですか?」

「私は、承諾しました」

「そう、ですか…」


 ここで、「何故承諾したか」などと聞いてもただ無意味なだけなのは雪も承知している。恐らく、本人の意思を尊重して、と言ったところだろうと見当を付けた所で、湯野から質問が飛ぶ。


「貴方は、どうしますか…?」

「…僕、は」


 雪は、もしそうせざるを得ない状況になった時の事を考える。

 その時に雪は紫音に取り押さえられているか真っ先に殺されているかの2択だろう。しかも、取り押さえられている状態から全力を持って抵抗すると被害が拡大してしまう。

 この結果しか想像できなかった雪は湯野に向けて首を横に振る。


「僕は、大人しくしときます」

「…理由を聞いても?」

「まず、その状況下になると僕は確実に取り押さえられているか殺されているかの状況です。 もし生きていたとしてもそこで抵抗すると紫音の機嫌を損ねて余計に被害が拡大するだけだと判断したからです」

「…たった十数秒で、そこまで考えたんですか」

「いつも紫音に吸収とかされてますしね。 だから、それは魔導会に任せます。 僕も出来そうなら抵抗してみるつもりですけど、紫音がそんな隙を見せるとは思わないので」

「…解りました。 では、この話は魔導会で議題にしたいと思います」


 その言葉に雪は頷いて、持っていたたこ焼きを一パック差し出す。それを見た湯野は目をパチパチさせてたこ焼きと雪の顔を見比べていたが、不意に戸惑った様な顔になって口を開く。


「じ、冗談って言いましたよね…?」

「いや、時間的に昼ご飯抜きになるかもしれないと思ったんで。 まぁ、冷めたから不味いかもしれませんがよければどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 雪から一パック受け取って食べ始める。雪もそれに倣った。残り時間10分だから食堂まで言って食券を買い、完成してから受け取る程の時間はもうなかったので雪の行動は吉と出たようだった。

 その後、湯野と別れてそれぞれの教室へ。

 午後の授業は5,6時間目を使って『魔装体育』と呼ばれる魔装を使用した体育の授業だった。

 魔装と言うのは基本的に生命力が宿っていたり、または、生命力を流し込む事が出来る装備品の事を指す。例を上げるならば、雪の魔刀や紫音の魔導書だ。

 そして、この授業の担当教師はまたしても九十九だった。クラスメイトは皆、「この人は一体何者なんだ…」と戦慄していた。


「えーと、今日の魔装体育は……また鬼ごっこでもしようかな」

「こっち見ながら言わないでください」

「ははは。 まぁ冗談だ。 もうそろそろ来ると思うんだが…」


 九十九が新校舎の方に目を向ける。その視線を追ってみると、何やら雪には見覚えのある上級生4人が此方に歩いて来ていた。九十九の近くで止まると魔装を展開する。魔剣、魔銃、魔銃、魔弓の組み合わせだ。


(李世先輩に夜羅先輩。 緋呂先輩に、遊呂先輩。 …何が始まるんです?)


 雪は内心混乱していた。魔導会の補佐を呼んで一体何をしようというのだろうか。


「えーと、皆は校内何処に行っても良いからこの4人から隠れる事。 攻撃を当てられたらその場で終了。 魔装使用は5回まで。 まぁ、ルールはこんなものかな」

「……はい」

「穂坂さん、何かな?」

「もし、『1人でも』逃げ切れた場合は…?」

「この4人がなんでも奢ってくれるらしいよ」

『えっ!?』

『うおぉぉぉぉ!!』


 4人の驚きの声と1年5組の叫びは同時だった。それを見た九十九は満足そうに頷いた。


「それじゃ、5分後にスタートだ。 1年生は隠れてね。 開始は私が魔法を上空に打ち上げるからそれでスタートだ。 頑張ってくれたまえ!」

『白石、任せたぜ!』

『穂坂さん、よろしくね!』

「なんと言う…」

「無茶ぶり…」


 雪と紫音は呆れの籠ったため息を吐いて校舎の中へと入って行った。この2人は戦闘に関してはずば抜けているが、それ以外はというと--。


「雪、走って。 追いつかれる」

「もう、疲れてるんだけど…!」


 隠れんぼが開始されてから30分。雪と紫音は校内を全力疾走していた。もうかれこれ20分くらい走り続けているのではないだろうか。

 遠距離からの正確な狙撃は遊呂。雪達の後ろから追い回しているのが李世と緋呂。2人以外を相手しているのが夜羅と言った所だ。

 夜羅が魔弓でクラス全員は流石に無理だろうと思っていたが、徐々に被弾した生徒が多くなってきている事から夜羅が割と本気でやっているのが解る。なにせ、1人でも逃げ切れたらなんでも奢るという条件付きだからだ。

 丁度同じ事を考えていたのか、紫音が口を開く。


「ねぇ、なんだか嫌な予感がするんだけど」

「気のせい、じゃないよなぁ…。 1人でも逃げ切れたらって言う1年に有利な条件。 勿論上級生にも有利な何かがあるんだろうし。 で、その有利な何かって言うと--」

「魔導会の、増援」

「ですよねー…」


 この状況で更に瑠夏、夕、湯野が追加される事を考えると雪は泣きたくなってきた。だが、紫音は弱音一つ吐かずに淡々と走り続ける。足を止めれば、そこでゲームオーバーだ。


「雪、図書室…!」

「了解っ!」


 図書室、と言っただけの紫音の意図をくみ取り、雪は足を止めずに背後に向かって『移動する斬撃(極小)』を放つ。背後で足跡の止まる音が聞こえる。同時に、外から狙撃の弾が飛んでくるが魔刀を使わず、生命力をほんの少し消費した障壁で拒む。その間に、紫音は図書室に入り込み、続いて雪も入り込む。それを確認した紫音が魔導書を開いて結界を張る。


「…はぁ、はぁ」

「つ、疲れた…」

「雪、男なのに情けない」

「か、関係あるのかな…?」

「断じて関係ある」


 紫音は少し息が上がっていただけだったが、雪はもうしばらく走る事はできそうにない。幸い、紫音の結界は強力なようで、直ぐに侵入してくる事は無かった。


「このまま此処にいて終わらないかな…」

「それは、無理。 私が死んじゃう」

「それは悲しいな。 だから、少し頑張って作戦でも練ろうかな…」

「…悲しいの?」


 紫音はただその一言だけが気になった。その後の言葉は一切耳に入っていなかった。


「そりゃ、友達やら知り合いやらが死んだから悲しいよ」

「…つまり、雪にとって私は大事なの?」

「それはそうとしか…」


 そう言うと紫音はそっぽを向いて座りこんでいる雪にもたれ掛ってきた。雪は特に不快な感じもしなかった。

 そのまま30分が経過した。残り1時間を切ったからか、魔法探知によると2人増えているのが解る。


「…浜打先輩と--」

「霞さん、かな」

「という事は残り30分を切ったら--」

「本城さんが、出てくる可能性が--ぅ…」

「紫音…? --っ」


 急に紫音がもたれかかるでは無く、腕をまわして抱きついてきた。それと同時に少し脱力感に襲われる。まだ、いつもの時間になっていないにもかかわらずに紫音があの衝動を引き起こした事に雪は目を白黒させながら紫音を受け入れた。

 この症状が収まる時間だが――この前よりは長くなっていた気がした。


「…雪、ごめんね。 こんな時に」

「いや、気にしないで。 それよりも--」

「うん。 私の意識が半分途切れたから--」


 ガシャァァンというガラスの破砕音の様な音を立てて結界が砕け散る。結界を制御していた紫音が半分意識を失った事により結界に歪みが生まれ、そこに外からの攻撃を当てられ結界が破壊されたのだろう。

 更にもう残り30分を切っている。絶望的すぎる状況に、だが、雪と紫音は割と冷静だった。


「紫音。 完璧のこの結界が崩れる前に言うけど、後は任せても--?」

「ん、おっけー」

「それじゃ--」


 雪はとある魔法を紫音に掛けた。その上から重ね崖するように紫音も自身に同じ魔法を掛けて--。



 瑠夏は九十九に参戦を要求され、現在1年生のかくれんぼ兼鬼ごっこに参加していた。1時間半の間に夕や湯野にその補佐達が頑張ったのだろう。被弾した人は気配遮断の結界内に入る決まりなので、感じれる気配は数人の物しかない。


(…ん、結界が破壊された?)


 これは殺傷不可の結界の中に展開されていた侵入不可の結界の気配だろうか。今まさに、その結界が破壊された気配を感じ取っていた。

 瑠夏は一目散にそちらの方に向かった。だが一足遅かったのか、そこには魔導会員もそこに閉じこもっていたであろう人物も全ていなくなってしまっていた。


(まだ、遠くへは行っていない筈)


 瑠夏は探知魔法を使い、調べてみると2人が固まって廊下の隅にいる事に気が付いた。さらに、その隙間を抜けて窓から飛び出したこの気配は--。


「白石君か!」


 窓から外を見渡すと、一目散に逃げている雪の姿が目に映った。瞬時に追いかけようと思ったが、恐らく雪を追いつめたであろう2人が全く動く気配が無い事が気になって、そちらに足を運んでしまう。


「…うわぁ」

「あ、本城先輩! 助けてください!」

「そう言えば、氷系の魔法を得意としてたの完璧に忘れてたぜ…」


 李世と緋呂が壁に縫い付けられる様に凍り付かされ、身動きがとれない姿にされていた。これだけならば普通の炎系の魔法を使用すれば抜け出せるのだが、何か細工をしたのだろう。2人は抜け出せずにいた。


「えい」


 瑠夏は適当に炎を飛ばして氷を融かす。内側から魔法でどうにもならなくて外側からどうにかなるという事は、内側に生命力で膜を作った証拠だ。


「さて、残りは--」

「気配的に白石君だけだね」

「…穂坂さんは何処かで狙撃されたのかな」


 李世が独り言のように呟いた。だが、気配が無いという事はつまりそう言う事なのだろうと割り切って、瑠夏、緋呂と共に雪の気配がある運動場へと走り出した。

 到着した運動場で見つけたのは、疲労困憊のようする雪とそれを追いつめる夕と湯野の姿だった。

 追いつめられている雪が瑠夏達に目を向け、あからさまに面倒臭そうな顔をする。そして、瑠夏に目で『諦めても良いですか?』と聞いて来る。

 瑠夏は雪の状態をチェックする。生命力の消費は3割で、疲労度は目測で6割くらい。

 『まだやれる』と笑顔(目は真剣)で返した瑠夏は身体強化をして音速による接近で雪の不意を突こうと思った所で、雪も同じように音速で動いてすれ違う。その際に互いの魔刀が交差する。


「李世…!」

「承知です!」


 魔銃による中距離攻撃。ライフル程の弾速は無いとは言え、十分脅威に値する一撃を、小さな、けれども頑丈な氷の塊で防ぐ。

 そう言えば、と瑠夏は屋上に目を向ける。あそこで狙撃をしていた遊呂は一体どうしたのだろうかと思う。気配を探知してみても屋上には誰もいない。


『そ、こ!』


 夕と湯野による鋭い斬撃と突きが放たれる。それを、生命力の込めた居合の一撃で切り裂く。ついでに半円状に巨大な斬撃が飛ぶ。


「へ? ちょお!?」


 その先で雪に向けて弓を構えていた夜羅が悲鳴を上げて撃沈。


「これで白石君は魔刀を5回使用した。 さぁ、魔導会の皆、チャンスだよ?」


 何処からともなく現れた九十九がそう告げる。それを聞いた瑠夏を除く魔導会員は一斉に雪に向かって殺到する。瑠夏は時計に目を向け、残り時間を確認する。


(後、5分。 本気で今まで諦めていないとすると、何か策があるのかな…)


 ふと気配遮断の結界の中が見えた。


「--っ!!」


 瑠夏はそこに紫音の姿が無い事(、、、、、、、、)に気が付いて全力の探知魔法を使用する。その際、雪が明らかに動揺する様な表情を見せた。それと同時に一つの気配反応、それもとても薄れているものを見つけた。

 場所は図書室。瑠夏は素早く身を翻すと、身体強化をしながら凄まじいスピードで走りだした。


「っ。 結界…!?」


 先程来た時には何の結界も張られていなかった図書室だが、現在は相当強力な結界が張られている。それは精密に作られており、完璧に他者を拒む結界だった。

 だからこそ瑠夏も全力を出して潰す事にする。魔刀を構え、居合の動作を取る。


 --残り、30秒。


 目を瞑り、意識を集中させる。何も考えずに、頭の中を空っぽにする。


 --残り、15秒。


 目を開くと同時に雷光一閃。音速を超える速度で放たれた一撃は、強力な結界を破壊した。


 --残り、5秒。


 身体強化から音速行動を使用し、中で茫然としている紫音を捕まえ--。


『勝者は魔導会側だ!』


 と言う拡声魔法を使用した九十九の声が聞こえ、魔装体育の授業が終わった。


 その後、雪は魔導会に一応出席はしたが、少し調べたい事があるのでと言って図書室に向かった。どうせ議題となるのは紫音の事についてだから、雪にはもう関係の無い事だった。

 だが、雪は雪で今、紫音のあの衝動が時間外に訪れた事を『最悪の方向』として捕えていた。

 昔、この魔法学院に推薦される前にしていた仕事…の様な物の時も何度かこのケースに当たった事があったからだ。だが、変に勘ぐられたくないので雪はそんな様子は魔導会員の前では一切見せなかった。


(あの時、恐らく接触の衝動と吸収の衝動の両方が出たんだと思う。 妙な脱力感があったし…)


 明日は休日なので休みだ。下手すれば、そこで最悪の事態になりうる可能性だってある。だから雪はそれに対する策を考えるために静かな図書室に来た訳だ。

 可能性のある候補として一番有力なのがやはり魔法だ。魔法は願いや気持ちに反応して具現化されるものだ。だから、魔法には無限の可能性がある。


(かといって、そんな魔法聞いたことないんだよな)


 なら作るか、となると、それはそれで大変だったりする。まず、それがどういう効果を持つものかを考え、更にどういう対象に使うのかという事を決めなければいけない。決めたからと言って魔法になる訳じゃない。それが、魔法として本当に必要な物ならば強い思いや願いを通して具現化する。


「ま、このままいけば絶対に紫音は殺されるし、それを望んじゃうだろうから…」


 少し、頑張ってみようかな、と小さく呟いて雪は学院を出て家に向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ