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魔刀使いのソウルリンク  作者: 向日葵
生命吸収魔法の使い手
5/18

part1-5

「雪、起きて」

「ぅ、ん…?」


 紫音の声によって目を覚ました雪は顔を上げる。どうやら1時間ほど眠っていたらしい。


「今、放送で魔導会に来いって連絡があった」

「あ…、忘れてた」

「私、もう大丈夫だから行って良いよ」

「…解った」


 まだ少し心配だった雪だが、本当に大丈夫そうに見えたので承諾して図書室から出る。

 魔刀と鞄を教室に忘れていたので取りに戻り、そこから魔導会室を目指す。まだ 少し重たい体を引きずって魔導会室の扉を開く。


「あ、白石君。 遅かったんだね」

「すみません。 寝てました」

「寝てたって、何処で寝てたんですか…?」

「図書室ですね」


 あぁなるほど、という表情になる湯野。

 だが、打って変わって瑠夏は心配そうな顔をする。


「あっちは被害が多い旧校舎側だからあまり行かない方が良いよ?」


 雪はさり気無く昨日の事について聞き出そうとしてきている事に気が付いた。


「別に大丈夫だと思いますけどね。 今までで死んだ人はいないんでしょう?」

「それはそうだけど…」

「まぁ、次からは気を付けますよ」


 その言葉にしぶしぶ納得した瑠夏。湯野は一応という事で今までのデータをすべて見直しを行ってい。

 雪は魔導会室を見渡して珍しく管理長とそれぞれの補佐がいない事に気付く。


「浜打先輩達はどこへ?」

「見周りだよ」

「そうですか。 で、呼び出しした理由はなんです?」

「ん? あぁ、それは補佐としての仕事をして貰おうと思って呼んだんだよ」


 にこやかに告げる瑠夏。基本こういう時ににこやかな表情をしている瑠夏は何故か雰囲気が怖かったりする。その理由は恐らく目が笑っていないせいだろうが…。


「で、補佐の仕事ってなんです?」

「知ってる事、調べた事を報告する事」

「要するに全部言えって事ですね。 えーと…」


 雪は取り敢えずあの魔導書について知っている事から話し始めた。

 まず、生命吸収魔法用で有るという事。吸収用と言っても、あの魔導書自体が出来るのが吸収なだけであって、それを所有者が使用し、魔法に変換する事は出来る。此処までは瑠夏も知っている事だ。

 次にあの黒フードこと紫音の事も話した。魔導書の反動により放課後に衝動が湧きあがってくるという事。実は同じクラスメイトだという事を含めて話す。


「君のクラスメイトだったんだ…」

「出来ればそっとしておいてあげてほしいんですが」

「それは無理だね」

「ですよねー」


 雪も此処には期待していなかった。だが、もしも彼女を捕えるだの死刑だのという話になったら全力で止めるための努力をしようと考えている。


「取り敢えず、監視できる所に置いておきたいね」


 その一言に雪は自分の状況を思い出した。


「まさか--」

「まだ、審判の補佐は1枠空いてるんだよね」

「やっぱりそうですか…」

「それに、放課後に衝動が起こるなら今も誰かを狙ってるんじゃないの?」

「………」


 ここで「いえ、僕のを吸わせましたので」なんて言ったらどうなるだろうか。雪は一瞬の間考えてしまった。

 勿論、その一瞬を見逃す瑠夏では無い。伊達に音速での戦闘を得意としているだけはある。


「…まさか、君の生命力を吸わせたとか言わないよね?」


 瑠夏の声が、鋭くなる。ついでに眼光も。

 それを見た雪はなんと良い訳をしたらいいものか、と考えを頭の中に張り巡らせる。

 1つ。紫音を連れて来てなんとかして貰う。…これは紫音が暴露しそうな気がするので却下。

 2つ。話を逸らす。恐らくまた意識を失う事になるのを雪は感じ取ったのでこれも却下。

 3つ。上手く誤魔化す。これも(ry

 これを1秒ほどで頭の中で思い付いたのだが、どれも使えそうにない。

 だから雪は諦めて話す事にした。


「そうですけ--うわ!?」


 強引に引き寄せ、真剣な声で雪に問いかける。


「もう一回聞くけど、死のうとしてる訳じゃ、無いよね? その穂坂紫音って子の『為になる事』をしようとしてやってるんだよね?」

「それは間違いなくそうですね」

「…はぁ。 解った。 君が決めた事だし、それをするのは良いけど…、自分の事もちゃんと大切にしてね? 恐らく、それが妹さんの『為になる』事の一つだと思うから…」

「元より死ぬ気はありませんが」

「あれだけ生命力消耗で意識を失っといて何を言うんだか…」


 ジト目で雪を睨んで瑠夏は自分の席に着く。


「白石君。 できればその穂坂紫音って子を連れて来てくれないかな」

「了解しましたよ」


 と言っても雪に心当たりのある場所なんて先程の図書室か教室くらいしかない。別に気配を探知しても構わないのだが、唯でさえいつも以上に消耗している状態なのだから余計な消耗は避けるべきだと判断して気配の探知を行わずに廊下を進んだ。

 到着した図書室に入り、辺りを見渡してみる。すると--


「う…ぅん…。 …つ、せ…」


 先程雪が突っ伏して居た所に突っ伏してブツブツと何かを呟く紫音の姿があった。

 盗み聞きをするつもりは無いので聞き流しながら足音を立てて本棚の間を進む。すると、ビクッと反応した紫音が顔を上げて雪が立てた足音の方向を見る。


「紫音、いるか?」

「え、あぅ、あ!? せ、雪? ど、どうしたの…!?」


 本棚から姿を現して紫音を見やるが、何故か顔が真っ赤になっていた。


「紫音の事話したら審判長が連れて来いって」

「は、話したの…!?」

「多分何処かに突き出されたりはしないと思うから安心は出来ると思う」

「それなら、別に…。 と、ところで」

「ん?」

「さっきの独り言、聞こえてた…?」


 さっきの独り言、と聞いて何やらブツブツ呟いていた事について入っている事には直ぐに気が付いた。


「いや、何か呻き声の様なものは聞こえたけどそれ以外はさっぱり」

「そ、そっか…。 ………良かった」

「何か言った?」

「うぅん。 それよりも、行こ?」


 なんとかいつもの調子を取り戻した紫音。

 聞かれたくない独り言でも言っていたのだろうか、と雪は怪訝に思ったが聞いてほしくなさそうだったので何も聞かずに紫音を連れて魔導会室に戻った。


「ただ今戻りました」

「…雑い」


 紫音に指摘されるが全く気にした様子の無い雪。実は敬語を使っているが結構ノリは軽かったりする。後、雑だ。

 出て行った時と変わっている事は1つ湯野もいなくなっていた。よって部屋には瑠夏が1人だけいた。


「えーと、穂坂紫音さん…で、あってるかな?」

「…はい」

「私の事、覚えてる?」

「昨日はすみませんでした」

「自覚は出来てるんだね…」


 瑠夏の席に置かれているPCに何かを打ち込んでいく。


「出来れば衝動が起こった時の感覚を教えてほしいんだけど…」

「えぇと…」


 紫音が言うには、衝動が起こっている時はどうしようもなく生命力を欲してしまうという事らしい。感覚として似ているのは極限までお腹が空いて何かを食べたいと思う時や、眠すぎて寝てしまいたいと思う時に酷似しているらしい。しかもそれを倍増した感覚だそうだ。普通の人間に耐えられる訳が無い。


「なるほど…」

「………」


 瑠夏がPCに情報を打ち込んでいる間、雪と紫音は黙っていた。

 キーを押す音が止んだので、雪は瑠夏の方に目を向ける。


「じゃ、取り敢えず穂坂--もう紫音ちゃんでいいや。 紫音ちゃんは仮の魔導審判補佐になって貰います」

「…監視用ですか」

「そうだね。 それと、この方が白石君とも一緒に入れるしね」

「…解りました」


 紫音はそう言ってその申し出を受けた。


「それじゃ、今日はもうやる事は--あー、白石君に少し話が」

「なんですか?」

「白石君の家有るじゃない?」

「有りますね」

「一人で寂しくない?」

「…何が言いたいんですか?」


 遠まわしに何かを伝えようとする瑠夏に説が切り込む。


「あの家、学生用のシェアハウスにしたらどうかなって。 そしたらルールとかも決めれて食生活がマシになると思わないかな?」


 雪の脳裏にはこの前の瑠夏が作った朝食が浮かぶ。唐突な話を聞いて真っ先に思い浮かんだのが朝食なことに雪は内心苦笑しながら瑠夏に返答する。


「確かに魅力的ではあるんですが……、失礼ですが、先輩はどちらにお住みで?」

「ん、寮だよ?」

「……そうですか。 では、考えておきます」


 嫌な予感を感じた雪はひとまず保留として魔導会室を後にした。


「…一人、ってどういうこと?」

「そのままだよ。 今家は一人なんだ」


 興味なさげに雪が言うと、紫音も追求しようとはせずにただ黙って頷いた。

 校門を出て帰路に着いた雪と紫音だったが、急に路地裏から魔銃を持った男が飛び出して来たのを見て抜刀準備をする。

 続いて路地裏から出て来たのは湯野とその補佐2人だった。


「雪、あの人たち…」

「3人組になってる方は魔導会員だから問題ないと思うけど、あっちは犯罪者か何かか…?」


 紫音は許可免許を持っていないので此処で手を出す事は出来ない。だから、相手の一挙一動を見逃さない様に集中している。恐らく動こうとすれば雪に伝え、無力化するつもりの算段だろう。

 一方湯野達は少し焦っていた。魔銃の腕は補佐である遊呂と同じで、近接も緋呂の剣撃について来れる程の腕を持っているからだ。故に下手に攻め込めずに湯野は魔槍を構えたまま魔銃を持った男を睨みつける。


「魔導会ってのは割と弱いのか?」

「そんな事ある訳、無いでしょうが!」


 町中という事で『移動する突き』を全力で打てずに魔銃を持った男に避けられる。

 --そこからの発砲。湯野は完璧に不意をつかれ、左足と右腕に弾が当たる。苦痛を感じながらも、声は出さずに顔を歪める。さらに追撃に入ろうとしたところで、紫音が反応する。


「雪、今あの人完全に油断してる…!」

「それじゃ…!」


 身体強化からの音速移動をし、瞬時に相手の背後に移動。鞘に納めたまま魔刀を一閃し、相手の首筋を捕える。それだけで男は気絶し、倒れ込んだ。


「大丈夫ですか、霞先輩」

「すみません。 ありがとうございます」

「助かったぜ、白石。 サンキューな」


 魔剣を持った緋呂が気さくにそう告げてくる。遊呂も同じように頭を下げていた。


「そんなことよりも霞先輩を」

「あぁ。 取り敢えずここから近い学院に連れて行くか…。 審判長はまだいたか?」

「えぇ、まだいました」

「了解だ」


 遊呂が湯野に肩を貸して、緋呂が気絶した男を縛って引きずる様にして学院の方に向かって歩き出した。

 雪はそれを見送り、わざわざ待っていた紫音の元まで戻った。


「帰っててよかったのに」

「ちょっと心配だったから…」

「そっか。 ところで、紫音の家ってどっちだっけ」

「私は、あっち」


 紫音が指差した方向は雪の家の方向とは少し違い、寮の方を指していた。


「紫音も寮か。 運悪く審判長に出会わせたりして」

「ありそうだから怖い…」


 そう言いながらも紫音は寮に向かって歩き出す。


「バイバイ」

「また」


 互いに手を振って別れ、それぞれの帰路に着いた。


* * *


「うぅ…。 なんか、おかしい…」


 紫音は寮に帰ってから変な感覚に晒され、まともに考える事も出来なくなっていた。

 だが、吸収の衝動の時程不快なものではない。が、それはやはり何かを欲する感覚がある。


「なんだろ…。 何か、いつもと違う事なんて、したっけ…」


 いつもの様に放課後に生命力を吸収して、その後--


「あ、うぅ…」


 図書室で自分がやっていた事を思い出し、顔を赤くする紫音。

 自分は何故あんな事をしたのか?それは本人以外には決して知り得ぬ答えだった。


「いつもと違う事なんて、あの時の事くらいしか…。 もしかして、あれのせい…?」


 雪が呼び出しで呼ばれ、紫音が起こし、雪が出て行った後の事。

 紫音は雪が突っ伏していた所にまったく同じようにして突っ伏した。すると、雪の温もりと匂いを感じてぼーっとしてたら雪が再度訪れていた。

 いつもと違うところと言えば此処くらいだろうか。


「ダメ…。 お風呂に入ってちょっと冷静になろう…」


 寮のお風呂は特に入浴時間なども決まって無い。だから夜に入る人が多いのだだから人が少ないであろう今を狙って紫音はそそくさとお風呂場へと向かった。

 確かにこの時間は人が少なかった。紫音を合わせても3,4人くらいしかいない。問題があるとすれば、その3,4人の中に魔導審判長こと本城瑠夏が入る事くらいか。


(雪が、変なフラグを建てるから…!)

「あ、紫音ちゃん」

「…本城さん」


 紫音と瑠夏は背中を流した後、2人揃って湯船につかっていた。


「ふぅ…。 ところで紫音ちゃん。 なんでそんなにそわそわしてるの?」

「…いえ。 吸収的衝動とはまた違った何かが出て来ただけです」

「それは、大丈夫なのかな?」


 瑠夏の目を真剣みを帯びる。それを見た紫音はた頷いて返す。


「不快なモノでは無いんです。 でも、何かいつもと違う感じ何です」

「ふぅん。 何かいつもと違う事でもしたの?」

「………」


 その一言だけで顔が熱くなってしまう紫音。それを瑠夏は見逃さなかった。


「何か恥ずかしい事でもしたの?」

「ぅぅ…」

「白石君関係かな?」

「っ!?」

「わ、大当たり」


 しまった、と思った時にはすでに遅く、完璧に勘付かれてしまった。

 言い訳を使用にも相手は魔導審判長だ。どの手の良い訳が効くんだろう、と模索し始めるとキリが無くなり視線をあちこちに彷徨わせる。

 やがてどうにもならない事を悟った紫音は正直に告げる。


「……つが寝てた所に、……してただけ」

「え?」


 余りにも小さすぎる声だったせいで瑠夏の耳には届かなかった。


「雪が、寝てた所に、突っ伏してただけ…」

「…あぁ、なるほど」


 瑠夏は紫音の言う吸収的衝動じゃないもう一つの何かの正体を掴んだ。

 だが、それは自分でその正体をハッキリさせなくてはならない問題だ。つまり、教える事は出来ない。


「何か、解ったんですか?」

「解った事しかないけど、これは自分で気付くべきだと思うんだ」

「…そう、ですか」

「でも、これは紫音ちゃんの言うとおり、悪いものではないよ」

「…それだけで、安心できました」

「ん。 なら、もうあがろ。 逆上せちゃうよ」


 瑠夏のその言葉で紫音も湯船から上がり、脱衣所に向かった。

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