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魔刀使いのソウルリンク  作者: 向日葵
生命吸収魔法の使い手
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part1-4

 次の日、雪は家では無く保健室から登校した。2度目目を覚ました時はなんと2時だったからだ。

 扉を開けて教室に入り、自分の席に付く。荷物は書置きによると瑠夏が運んだらしく、それぞれの置き場所にあった。


「…雪」

「紫音?」

「昨日は、ごめん。 で、今日からよろしく」


 それだけ言うと紫音は自分の席に戻って行った。


「了解っと…」


 聞こえない返事をして雪は前を向く。今日からは通常授業が始まる。

 1時間目は魔法の源である生命力についての授業だ。なんと担当は九十九だった。


「まず、生命力とは何か解るかな? 2つの役割をしているんだけど…」


 普段皆が魔法を使用する際に使っている生命力。それが何か、と聞かれて答えられる生徒はいないようだった。

 そんな中、雪と紫音だけが挙手する。


「お、それじゃまず穂坂さん」

「…生命力は、自らの魂から作り出される自分を生かすための命の力…の様なもの」

「正解。 殆んど言われたけど、もう一つは?」


 九十九の視線が雪に向く。


「その生命力を作り出している魂を包み込む命の膜です」

「うん、正解だよ。 ありがとう2人とも。 いま2人が言ってくれたように生命力とは生きて行く上で必須のものだ。 だから消耗し過ぎると意識を失ってしまったりするのは体が無意識にセーブしているからだ。 そんな生命力を強い想いや欲に反応させて魔法として具現化させる。 これが生命力というものだ」


 クラスの皆は驚き半分、納得半分の様子で頷いていた。


(…もしかして、知らずに魔法を使ってたのかな?)


 雪は疑問に思ったが、実は此処に入学して初めての授業で此処まで言える方がおかしかったりするのだ。

 それに気付かずに首を傾げる雪。紫音は後ろの方の席から雪のその様子を見て「後で説明してあげよう」、と決めて九十九の話に耳を傾ける。


「で、魂は生命力を作り出す器官なんだけど、これ以外にどういう働きをしているか知ってる人はいるかい?」


 今度は紫音も首を傾げた。生命力については吸収の衝動があったので相手に酷い被害が出ない様に調べつくしていたが。その先にある魂までには調べて無かったのだ。

 頭に?を浮かべる紫音を他所に雪がまたも挙手する。


「お? 白石君」

「自分が存在する…いや、自我をその体に定着させる為の働きをしています」

「おぉ、正解。 いま白石君が言ってくれたけど、自分の意識や自我と言った物をその体に定着させる働きもしてくれているんだ」


 その説明を聞きながら紫音は内心愕然としていた。一体どこまで知っているのだろうか、と。


「だから、魂は傷つけられたら下手すれば自我が崩壊してしまったりするんだね。 だからこそ生命力という膜によって傷つけられない様に覆われているんだよ」


 そこらから感嘆の声が漏れる。紫音もその内の1人だった。

 授業が終わり、休み時間に入った時に紫音は雪に近付く。


「貴方、色々知ってるのね」

「この分野と魔装の分野だけだけどね」

「それでも、十分凄い」

「ありがと。 …で、まだ大丈夫そう?」


 後半声を潜めて問う。紫音は直ぐ様意味を理解し、声を潜めて返す。


「うん、大丈夫。 感覚からして、放課後までは持ちそう」

「了解。 っと、もう2時間目か」

「ん、バイバイ」


 紫音は自分の席に戻り、次の教科の準備に取り掛かる。

 雪と紫音は気付いていなかったが、周りからは「なんかあの2人仲良いな」と呟かれていた。

 2時間目は通常科目の国語だった。ここでは紫音が読解能力をフル活用し、無双していた。

 3時間目の数学に関しては雪と紫音ともう1人の生徒による正解数勝負が行われていた。

 そして4時間目。体育の授業がやってきた。またも担当は九十九だった。


「えーと…。 今回の体育は魔法有りの鬼ごっこです。 そのために小規模ながら結界を張ります」

「センセー。 魔法ありだと直ぐに終わる気がするんですけどー」

「いやいや、今回逃げるのは白石君だから直ぐには終わらないよ」

「………え?」

『な、白石だと…!?』

『あの音速行動の本城瑠夏と斬り合ってたほどの奴か…!』

『これはやりがいがあるってもんだ!』


 周りのクラスメイトのやる気がどんどん上昇して行く。


「……え?」

「雪。 覚悟、して…」


 遂には紫音まで雪に狙いを定め始めた。


「制限時間はチャイムが鳴るまで。 それじゃ、よーいスタートォ!」

「なんで僕がっ!?」

『覚悟!』

「ひぃ!?」


 雪は身体強化からの音速の手前で包囲網を抜けてフェンスの上に立つ。


「あー、言い忘れてたけど範囲は運動場だけね」

「なんて鬼畜な…っ!」


 飛来する『闇の槍』を跳躍してかわし、そこから足元に最小限の生命力を集め壁を作り、それを蹴りつけて数人の生徒の上を行く。


「あー、後もう1つ。 逃げ切られたら成績マイナスね。 勿論捕まってもマイナス」

「あ、皆の目が真剣マジに…って、まさか、先生ワザと皆を炊きつけた…?」


 そんな事をして得する事があるのだろうか、と考えてみる。すると、1つだけ思い付いた事があって苦笑いしながら迫ってくるクラスメイトから逃げる。


(生命力の残量を把握できるかどうかの授業ってことかな…!)


 時々飛んで来るやたら精密に狙ってくる『闇の槍』を避けつつ、正面に目を向けて、その目を見開く。


「ちょっ! 多すぎだって! 弾膜ゲーじゃないんだからさぁ!」


 身体強化で跳躍し、3メートルほど飛びあがった所で生命力で足場を構成し、停止する。その下を大量の魔法攻撃が殺到する。


「危ないな…って、うわっ」

「はろー、雪」


 まるで下から生えてくるかのように紫音が飛び上がってくる。危うく触れられる所でギリギリ避けて下に落下する。魔法を発動させ衝撃を和らげる。が、殺到するクラスメイトをどうにかする事は出来ない。


「『氷壁』…!」


 雪は得意な氷魔法の障壁を張って一時しのぎを試みる。


『『炎弾』!』

「これは、もう終わりか…?」


 氷の障壁は炎の攻撃に対して物凄く弱い。破られるのも時間の問題だ、と諦めかけた時、雪は悪寒を感じた。殺気を向けられている、と理解した雪はその殺気の方向に目を向ける。そこには、笑顔で何かを伝える様に口をパクパクさせている瑠夏の姿が有った。

 視覚を強化し、それを読みとって見ると…。


『がんばれ。 諦めたら、Go to hell』

「あぁ、僕はこの殺到するクラスメイトよりも本城先輩の方が怖いよ…」


 輝く様な笑顔で殺気を飛ばしながらそんな事を伝えてくる瑠夏に畏怖を覚えながらも、諦めかけていた気持ちを吹き飛ばす。


「よし、それじゃあちょっと本気だすかな…!」


 その言葉と同時に『氷壁』が破壊される。中に向かって大量の魔法が撃ち込まれる。今度は上にも打たれているので逃げる事は出来ない。


「『命刀』!」


 自分の生命力を刀の形に変える。それも、2本作り出して--


「う、おぉぉ!」


 身体強化からの音速行動。音速で振り回される『命刀』は次々に魔法を撃ち落として行く。

 一か所だけ魔法の出が弱まった所が出来た。雪はそれを見逃さずにそこから抜ける。『命刀』を一本消して、身体強化を止める。


「ぅ…」


 一瞬ふらついたが直ぐに体勢を立て直して正面を向く。が、そこで雪は自分の負けを悟った。目を向けた先には、にやりと笑みを浮かべる紫音の姿。

 雪が隙を見せた時の為に余力を残していたのだ。


「チェック」

「…っ!」



 雪の周囲に無数の針が生成される。


(降参すべきか…?)


 そんな考えが脳裏をよぎり、先程目を向けた所を見ると先ほどとは打って変わって心配そうな顔の瑠夏が『無理はしたらダメだよ』と口パクで伝えてくる。


「どっちなんだか…」

「…? なにか、言った?」

「いや、なにも」

「そう。 降参、する?」


 雪の残り生命力は割と乱用してしまった所為で残り5割を切っている。余り無理は出来ないので降参するのが得策なのだが…。


「それじゃ、これを最後の足掻きにするよ」

「ん。 私も、余り無理して欲しくない」

「ノリノリで追いつめてきておいていまさら何を…」

「それもそうかも」


 無数の針が一気に射出される。それに対して雪は--


「『光壁』…!」

「光系統…。 面倒な事を…!」


 闇に対抗できるのは光。光に対抗できるのは闇。つまり、これは純粋な生命力の強さの勝負となる。


「『光壁、解放』!」

「く、ぅ…」


 光の壁が弾けて周囲の針を全て押し返す。だが、それだけだ。雪はもう生命力はほとんど残っていない。

 対する紫音は--。


「今度は、チェックメイト」

「参りました…」

「そこまで。 この様子だと、勝ちは穂坂さんだけかな?」


 他のクラスメイトは皆本気で魔法を撃ち続けていたせいで意識を失って倒れていたりする。


「あと、白石君は白石君で頑張ってたからプラスにはならないけど±0ってところかな」


 それだけ言うと九十九は気絶した生徒を起こし始めた。


「無理、したかなぁ…」

「うん。 無理、してた。 放課後に私に吸われる生命力は残して置いてね」

「あ…」

「忘れてたね…?」


 物凄く不機嫌そうに言う紫音。目が何かを要求している。


「…さ、さーて。 皆を起こさないと」

「雪…?」

「…ハイ」

「昼ごはん、1週間分で許してあげる」

「長いっ!?」

「貴方が悪い」


 プイ、とそっぽを向く紫音。どうやら拗ねているらしい。

 そして何気なく瑠夏がいた所に目を向けると『昼休み、魔導会室ね』と言っているのが見て取れた。


 4時間目も終わり、昼休みに入った所で雪は魔導会室に顔を出した。何故か部屋の外まで紫音が付いて来ていた。


「4時間目お疲れ様、白石君」

「………」

「ねぇ、どうして黙ってるのかな?」


 にこやかに瑠夏は問いかけてくる。笑っているのに目が笑っていない。さらに何故かドスの利いた声で言われたら誰でも無言になってしまうか、もしくは変なことを口走ってしまっているだろう。


「取り敢えず、私が言いたい事は解るかな」

「生命力の使用のしすぎ」

「良く解ってるね。 確かに諦めたらGo to hellとか言ったのは私だけど、君は真に受けすぎだよ…。 私がそんな酷い事する人に見える?」

「は…いえ、見えないですね」


 危うく即答で「はい」と答えそうになってあくまで不自然さを感じさせない様に言い直したが、どうやら瑠夏にはしっかりと聞こえていたようだ。にこにこと笑みを浮かべている。さらに額に青筋が見て取れる。


「昼ごはん1週間か、もう2度としないかどっちが良い?」

「もう2度としないので許して下さい…」

「ん。 じゃあ、外で待ってる子がかわいそうだから行って良いよ」

「気付いてたんですか」

「このくらい、気配でね」

「なるほど。 まぁ、失礼します」


 雪は魔導会室を後にして紫音と共に食堂に向かう。そして食堂のメニューだが…


「安っ!」

「だから、1週間」

「な、なるほど…」


 元取れているのか?と疑問に思う程安かったりする。定食が150円だったり、単品においては50~80円と驚きの価格だ。


「ん…。 私、これ」


 紫音が食券販売機の1つのボタンを示す。


「ん…? イカの姿焼、だと…?」


 なんとイカなども扱っているようで価格はなんと80円。破格だ。

 雪は適当に焼きそばの食券を買ってついでにイカの姿焼の食券も買い、その2つを食堂の人に渡して待つ事3分。焼きそばとイカの姿焼を受け取って席をとってくれていた紫音の元へと向かう。


「はい、これだけで足りるの…?」

「ん、問題ない」


 目を輝かせて姿焼にかぶりつく紫音。なんだか餌付けされてる動物みたいだな、と思い雪は内心微笑む。

 後2時間で授業は終了し放課後に入る。つまり、紫音の衝動が再発する時間帯に入る事になる。

 それまでに生命力を回復できる所まで回復させとかないと下手したら雪が死んでしまう事もあり得るのだ。


「ふぃ…。 御馳走様」

「御馳走様」


 幸せそうな顔の紫音。その顔が、どこか妹に似ている気がして雪は寂しげな笑みを浮かべた。

 目ざとくその表情に気付いた紫音は首を傾げる。


「…どうか、した?」

「いや、何でもないよ。 それより、戻ろうか」

「ん…」


 雪が席を立ち、歩き出す。その後を追う紫音は先程雪が見せた表情についてをずっと考えていた。


 5時間目も6時間目も終わり、紫音は徐々に衝動を感じ始めた。終わりのSHRも終わった頃には割と我慢する事も出来なくなりそうなくらいにまでの衝動に襲われていた。


「紫音」

「せ、つ…」


 今すぐ生命力を吸いたい衝動にかられるが、ここで吸ってしまうと大惨事になってしまう。

 早足で雪が人気の無い場所へと移動する。それを追い掛け、図書室に着いた所で雪を押さえつける。


「はぁ…、はぁ…」

「う、ぁ…」


 押さえつける、という事はつまり触れるという事。その触れている所から生命力を吸い上げ、自らを満たす紫音。

 雪は雪で意識を繋ぎとめ、紫音の様子を窺う。徐々にマシになって行ってるのが解る。


「あ、ぅ…。 雪、無、事…?」

「大、丈夫…」

「ここなら誰もいないし、椅子も机もあるから寝ても大丈夫かな…」


 肩を貸して雪を図書室の椅子に座らせて机に突っ伏させる。


「そっか…。 ちょっと、だけ…」

「ん。 おやすみ、雪。 そして、ありがとう」


 毎日の如く意識を失う雪の頭を優しい手つきで紫音は撫で続けた。

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