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魔刀使いのソウルリンク  作者: 向日葵
生命吸収魔法の使い手
2/18

part1-2

今回も10000文字越えです。読んでいる最中に疲れたな、と思ったら休憩する事を提案します。


 あれから数週間、雪と瑠夏は少女を探し続けたが一向に見つからずに入学式の日を迎えた。

 雪は瑠夏の言葉を信じて、『妹の所へ行く』ではなく『妹の為になる事』の為の努力をし始めた。

 とは言っても、まだあの少女を探す事しかしていないのだが…。


『--以上を持ちまして、第50回入学式を閉会します。 放送の指示に従って各クラスへと戻ってください』


 入学式も終わり、放送に従って1組から順に退場して行く。

 この学院の入学式はほぼ1年生だけで行っていたりする。何故ほぼかというと、流石に司会などは上級生がするからだ。ちなみに司会は瑠夏と夕と湯野だった。


『5組、退場してください』


 ようやく雪のいるクラスの退場の番になったので周囲のクラスメイトに合わせる様にして立つ。


『あ、ごめんなさい。 白石雪君だけ残ってください』

「oh…」


 何故かそんなため息が漏れてしまった。ついでに周りの視線が痛い。


(ねぇ、確か白石雪って…)

(Z級を魔刀一本で二桁倒したって言う…)

(なんか、許可免許無しに抜刀したらしいぞ?)

(実力のある問題児…?)


 それら全てを聞き流し、雪はもう一度椅子に腰かける。蛇足だが、5組で最後だったりする。

 1年生全員が退場を終えたあたりで雪は立ちあがり、壇上に目を向ける。


「やー、ごめんね?」

「なんですか…。 放課後呼べばいい話なんじゃないんですか?」


 その雪の疑問に、夕と湯野が繋ぐように答える。


「いやそれがな…」

「放課後では少し遅いのです」

「遅い…?」

「取り敢えず、魔導会室に来て貰うよ」


 そう言う瑠夏に雪は黙って従った。

 魔導会室は3階にあり、特別なことは何も無い普通の教室だった。

 瑠夏は真剣な顔になり、用件を話し始める。


「単刀直入に言うね。 魔導会に入ってみる気は無い?」

「…魔導会って審判、計測、管理のみだった気がするんですが」

「うん、そうだね。 でも、その補佐がいるのは知ってるよね」

「…まさか、審判の補佐ですか」

「流石白石君。 良く解ってる」


 雪は、どういう意図があるのかを探ろうかと思ったが、探るまでも無く心当たりが一つ思い浮かんでしまった。


「まだ見つかって無いから監視という名目で目の届く所に置いとくつもり…ですかね」

「………」


 にこり、と笑みを浮かべる瑠夏。どうやら雪の思った通りのようだった。


「別に良いですけど…、というか、断らせる気ないでしょう? 浜打先輩と霞先輩がそれぞれ気配を薄くして背後で武器構えてますし」

「「っ!?」」


 振り返らず、瑠夏に目を合わせたままそう言う。背後では夕と湯野が驚いた表情を浮かべる。


「あはは。 普通、この気配を薄くしている(、、、、、、)なんて言わないよ」

「消している、が正しかったですかね」

「そうだね。 そこまで言えるんだったら、『面白い事』になりそうかな」

「…?」

「審判の補佐になるという事は、自然と色々な許可免許が必要になってくるの」


 雪は黙って瑠夏の言葉に耳を傾ける。


「で、その免許の取得方法が特殊でね。 まず、審判、計測、管理の各々のおさが認めた者で無いといけないという事」

「計測長、管理長とは第一印象問題児認定されかねない出会いしてるんですが…」

「そこは2人共目を瞑ってるから大丈夫だよ。 で、次がその3人と実力が拮抗している事」

「あー。 本城先輩の『面白い事』が解りました。 3対1ですか?」

「うぅん。 7対1だね」

「は!? って、あぁ…。 計測、管理の補佐か…」


 そう言えば名前を聞くのを忘れたな、と今更過ぎる事が雪の脳裏に過る。

 だが、それよりもルールの把握とそれぞれの武器くらい教えて貰えないかと検討してみる。


「ルールはありますか?」

「当たり前だけど相手を殺すのはダメってくらいかな。 まぁ、結界張るから死なないけど」

「魔法は有り、と?」

「実戦形式だからね」

「なるほど…。 皆さんの武器って教えてもらえたりしませんかね」


 雪がそう言うと、瑠夏が魔刀を左手で持ちあげながら言う。


「私は知っての通り魔刀だよ」


 続いて、背後で夕が魔剣を見せながら言う。


「俺は魔剣だ。 補佐は魔銃と魔弓だな」


 夕に倣う様に湯野も手に持っていた魔槍を見せながら言う。


「私は魔槍です。 補佐は魔剣と魔銃ですね」

「(魔刀が一人、魔剣が二人、魔銃が二人、魔弓が一人、魔槍が一人…。 一番厄介なのは普通に見れば魔銃、魔弓だろうが、人物で行くと本城先輩の魔刀が一番厄介というか、要注意かな…) で、その7対1はいつやるんですか?」

「今日、この後から結界の張った学院内全てを使ってやるよ」

「この後ですか…って、だから放課後じゃ遅いのか」

「そう言う事。 君の魔刀は勝手ながら持って来てるから、取り敢えず自分の教室に行って。 そこから開始の宣言が聞こえたら開始って事で」


 雪は無言で頷いて魔刀を受け取り、魔導会室を後にした。

 黙って廊下を歩き、1年5組の教室に到着する。すると、殺傷不可と破壊復元の大規模な結界が展開された余波が伝わってくる。

 この結界を維持できるのは精々1時間程度しかないことを雪は知っているので、 早々に決着を付けなければいけないな、と思う。


『これより、魔導会対魔導審判長補佐候補による模擬戦を行う』


 何処からともなく、瑠夏に気絶させられた教員の声が聞こえてくる。


『ルールは、相手を気絶させた方の勝ち。 数は魔導会が7人、候補が1人だ』

「相変わらず酷い人数差だよ…」

『それでは、始めっ!!』


 雪は運動場側の窓を開けると迷いなく飛び降りた。相手に此方の場所はバレているのは確定だからだ。瑠夏が『取り敢えず自分の教室に行って』と言っていた事を雪は聞き逃しはしなかった。

 かといって、運動場の様な絶好の的になる場所に長時間いるのも危険だ。魔銃と魔弓の餌食になるのがオチだろう。

 直ぐ近くにあった昇降口から校内に侵入し、気配を殺して意識を集中させる。


(本城先輩が…魔導会室から動いていない。 対象的に浜打先輩と霞先輩はそれぞれ動きまわって僕を探している…。 その補佐計4人は、1年5組の教室に2人。 魔導会室付近に2人…か。 いや…いや、違う。 この感じは--)


 雪は魔刀に生命力を込め、背後に向かって『移動する残撃』を放つ。すると、その放った方向から生命力が宿った矢と銃弾が飛来し、打ち消した。


「っ! バレてた…!」

「まずい…!」

「リボルバー型の魔銃と魔弓…。 奇襲で仕留めるつもりだったかな」


 近接刑を相手に、近接系がいない状況で遠距離系のみで相手をしたらどうなるか。そんなもの、解りきっている事だ。

 だが、雪は正面の2人にではなく、運動場に向かって『移動する斬撃を』放つ。 それを、正面以外の所から飛来した複数の銃弾が撃ち抜いた。


「もう1人はオートマチックのスナイパー…かな」


 小さく呟きながらも雪は運動場から死角になる位置に移動し、正面から飛んで来る矢と弾を魔刀で斬り、弾き、避け、凌ぎ続ける。


「…くっ。 なんで、当たらない…!」

「っ!! ダメ! 大技は…!」

「まず2人」

「「えっ…」」


 魔銃使いと魔弓使いの子には雪の姿がかき消えた様に見えただろう。自分たちの背後に移動した事にすら気付けぬまま、意識を失って倒れ込んだ。


「この気配が全部偽物なら…」


 小さく舌打ちをして雪は運動場に目を向ける。弾が飛来し、壁に穴を穿つ。

 雪は魔刀を後ろに引いて突きの構えをとる。これから雪が打つ技は『移動する斬撃』の応用であり、かなりの技術を必要をする技だ。


「……っ!!」


 勢い良く突き出すと同時に魔刀に生命力を乗せる。その生命力が刀身の先に丁度集まる時に突きが出終わる。この条件を満たす事により、『移動する突き』が放てる。

 今回雪が放った一撃はかなり上出来な方だったと言えるだろう。

 だが、ギィンッと金属同士がぶつかり合う様な音が響いて『移動する突き』がかき消える。


「…霞先輩かな」

「俺もいるがな…!」

「えぇ、気付いてますよっと」


 振り向き様に夕の振り降ろした魔剣を弾き、運動場から飛来する弾と『移動する突き』をそちらに目を向けずに避ける。おまけとばかりに湯野の補佐である魔剣使いの一撃も避ける。


「おいおい…。 バケモノレベルじゃないか」

「僕でバケモノって、本城先輩どうなるんですか」

「あれはもう…な? …っ!」

「っ!」


 夕と魔剣使いが同時に地面に平行に斬撃を放ってくるが、雪は持ち前の素早さを生かし、そのリーチの届かない位置に移動する。移動した場所は丁度運動場から死角になる位置だった。そのまま雪は運動場からは確認できない位置にある部屋に入り込む。それを追う様に夕と魔剣使いが追ってくる。


「図書室とかあったんですね--っ!」

「割と人気が無さ過ぎる場所なんだけどな…っ!!」

「2人とも、良く喋りながら戦えますね!」

「取り敢えず貴方を退場させないと不味そうですね」


 雪は魔刀を持っていない方の左手に生命力を集中させる。


「行け、雪竜!」

「雪竜…!? ぐ、ぁ」


 雪が放った魔法は竜の形をした氷の魔法だ。勿論、生命力の使用のしすぎで倒れない様に使用量はセーブしている。


「これで3人。 後4人」

「まさか魔法も上位だったとは…」

「上位系は氷しか使えませんけどね」


 そう言いながらも夕は魔剣に宿る生命力を使用し、刀身を炎で包み込んでリーチを伸ばしながら斬り掛る。

 対する雪は半歩横にずれ、そのまま突きのモーションに入り、ノータイムで魔刀を突き出す。生命力を乗せた事により、突きが移動し夕に吸い込まれる様に当たる--直前で弾けた。


「間に合った様ですね」

「なんてタイミングで霞先輩が来るんですか…」


 雪は夕に目を向けずに魔刀を弾き、湯野の持つ魔槍に意識を集中させる。

 魔槍もまた生命力が宿っており、それを使用し『移動する突き』を放てたりする。


「はっ!」

「……っ!」


 少し離れた所から放たれた湯野の鋭い『移動する突き』と同時に、反対方向から夕による『移動する斬撃』が放たれる。が、極集中状態の雪にはかなり遅く迫って来るように見える。


(…失敗したら終わりだな)


 雪は小さく呟き、魔刀を鞘に納めて居合の構えを取る。今回は生命力は乗せない、唯の一撃だ。


「っ!!」


 雪は魔刀を一気に引き抜いて一回転しながら真一文字に一閃。『移動する斬撃』は断ち切られて湯野の両側の壁に、『移動する突き』は軌道を逸らされて夕の顔の横に着弾する。


「う、ぉ…!」

「4人目…!」

「ぐあっ!?」


 力いっぱい柄で相手の頭部を強打する。その一撃で、夕の意識は刈り取られた。


「霞先輩がいるという事は恐らく魔銃使いも何処かにいるんでしょうね」

「…さぁ、それはどうでしょう」


 不敵に笑い、魔槍を構える湯野。その表情を見た雪は嫌な予感を感じて慌ててその場から飛びのいた。

 すると、先程まで雪が立っていた床に四角形の亀裂が入り、床が抜ける。


「あれ、逃げられちゃったか…」

「本城先輩…」

「見てたら戦いたくなっちゃった」

「この状況は、詰みか…?」


 窓の外に目を向けず『移動する突き』を放ち、魔銃から放たれた弾を突き破り、魔銃使いの元へと吸い込まれる。少しすると、ドサッと言う音が聞こえてきた。


「後、2人…」

「だけど、流石に詰んでるんじゃないかな?」

「そうですね」

「……」

「っ」


 一瞬、瑠夏が此方を睨みつけ殺気を放つ。その殺気に湯野が敏感に反応してしまう。

 雪はその口元に笑みを浮かべる。あえて瑠夏がこの前言っていた『どうにかなる様に努力をするべき』という言葉をまるで無視した様な一言を呟いた。

 すると、案の定瑠夏はそのオーラを鋭いものへと変え、殺気を放った。それにあてられた湯野が一瞬怖気づいた。それを見逃す雪では無い。


「く、らえ!」

「しまっ--あぁっ!!」


 湯野の近くに瞬時によって斬撃と殴打の連携により、湯野の意識も刈り取る事に成功する。


「これで、後1人ですね…」

「ハメられちゃったかな…」


 不機嫌な様子で瑠夏が呟く。


「まさか、ワザと私に殺気を出させるなんて」

「これでも、一度決めた事はあまり曲げないタイプなので」

「してやられたよ。 だから、そのお礼はたっぷりと刀で返してあげるから、ね?」


 瑠夏の姿がかき消えると同時に雪は背後に向けて魔刀を振るう。刃同士のぶつかる音が響くが、次の瞬間にはその音が鳴った場所には2人の姿は無い。また音が弾けたが、その音が鳴りやむ前に2人はやはりその場から消え失せる。

 音速さえも超える行動。勿論2人にもとてつもない不可が掛っている。魔法で身体強化をしていなければ恐らく音速を超える速度で身体が耐える事など不可能だろう。


「なんで最初に私と一戦した時、手を抜いてたの?」

「手を抜いたつもりは無いですよ。 ただ、カウンターに失敗しただけです…!」

「カウンターに慣れてないのにやろうとするからだよ。 君には高速戦闘の方が似合ってるし、何よりも楽しそうに魔刀を振っているよ…!」

「そうかもしれませんね…!」


 互いにぶつかり合うたびに言葉もぶつけ合う。

 何時までも続くかと思われた音速の剣舞の嵐は、雪が魔刀を落とし、膝を付いた所で終焉を迎える。


「あ、あれ…? 体に、力…が…」

「生命力の使い過ぎ。 かなり危ない所まで来ているから残念だけど、もう終わりだよ」

「…あー。 もう少しで、全員に勝てるかと思ったんですがねぇ…」

「あははっ。 君が勝ったら、私が補佐になっちゃうじゃない」

「それも、そうですね…」


 小さく呟いた雪はそのまま仰向けに寝転がる。瑠夏の言う通り、生命力を消費し過ぎた雪はそのまま意識を失った。


* * *


 瑠夏は意識を失った雪を保健室に連れて行き、その傍らに腰を降ろして雪の額に手を当てていた。


(冷たい…。 殆んど生命力も感じられないよ……)


 別に放っておいても死ぬ事は無い。寧ろ放っておいた方が回復するのは事実なのだが、瑠夏は何故か放っておけずにかれこれ2時間近くも傍にいる。

 雪の消費した生命力は全体のおよそ9割。後一回でも生命力を使用した何かを使っていれば死んでいた可能性もある。如何に殺傷不可の結界でも、生命力低下による死は起こるのだ。

 保健室の扉が開く。扉の向こうには夕と湯野がいた。


「まだ、目を覚まさないのですか…」

「まぁ、最初から結構飛ばしてたしな。 李世りせ夜羅やら相手にも隙を見て音速行動で仕留めてたし、緋呂ひろに雪竜を撃ってたしな」

「おまけに『移動する斬撃』と『移動する突き』をかなり多様してましたしね…。遊呂ゆうろも目すら向けずに撃たれた突きでやられてましたし」

「そこまでしといて、私と音速の戦闘してたんだ…」


 雪の生命力の多さに瑠夏自身も驚く。ちなみに李世と夜羅は雪が最初に戦った魔銃使いと魔弓使いだ。緋呂が魔剣使いで遊呂がスナイパー型の魔銃使いだ。

 もし自分だったら、と瑠夏は考える。雪を含んだ7人を相手にあそこまで動けただろうか。否、不可能だろう。自分の命を最優先に考え、例え負けても此処まで消耗する様な事はしない筈だ。

 そこまで考えて瑠夏は改めて疑う。本当に雪が『妹の為になる事』をしようとしているのかを。今回の戦い方は明らかに『為にならない事』だ。

 目を覚ましたらその辺をきっちりと聞こうと思い、瑠夏はそっと雪の冷たい手を握った。


「瑠夏はこの後どうするのですか?」

「もう少し、此処にいようかな」

「解りました。 私達は--」

「捜査の続きだな」


 夕と湯野は小さくため息をついて部屋から出て行った。


* * *



 次の日、なんとか回復した雪はだるい体を引きずって登校する。今日も特に授業などは無く、この学院の案内と校則の説明があるだけだ。

 教室の扉を開き、掲示板に張られている座席表に目を向け、自分の席を確認して座る。雪の席は窓側の一番後ろの席だった。

 この学院の机は少し特殊で、右側に物を掛けるフック、左側には武器を立て掛けるスペースが設けられている。パッと見た限り、特殊そうな武器を持った者はいなかった。

 まだ朝のSHRが始まるまで15分程ある。少し速かったかな、と思いつつもぼーっと窓の外に目を向ける。


(周りの視線が気になる…!)


 皆が雪の事を物珍しそうな目でじーっと見ているのだ。雪から目を向けると逸らされるというお決まりの状態になっていた。

 雪は落ち着かない気分になりながらもただひたすら視線を無視し続けた。

 視線を無視し続ける事10分。SHR5分前に担任の教師が入室してきた。入学式の日は魔導会が体育館まで誘導してくれていたので、実は皆担任の先生は知らなかったりする。


(あの先生は…)

『変態先生!?』

「酷いね!?」


 そう。入室してきた担任は合格発表の日に瑠夏に気絶させられていた教師だった。そして女子からはこの呼び名である。

 教師が雪に気付いて声を掛ける。


「やあ、白石雪君。 合格発表ぶり」

「そうですね」

「入学式の後もお疲れさまだったね」

「もう二度とやりたくない気分ですよ」

「そりゃそうだ。 誰だって好き好んであんな7対1なんてしないよ」


 雪は丁度いいので周りの視線の事について尋ねてみる事にした。


「あの、この周りの視線はなんでしょう」

「あぁ、君がZ級を魔刀一本で殲滅して、許可免許無しで抜刀し、さらに魔導審判長の補佐になったからその影響じゃないかな」


 教師がそこまで言った時にチャイムが鳴る。


「皆、席付いて」


 その一声で皆きちんと席に座る。


「えーと、まず変態先生とか呼ばれたけど私は九十九つくも千里せんりだ。 出来れば変態ではなく九十九と呼んでほしいかな。 それじゃ、適当に廊下側から自己紹介して行こうか」

「はい。 私は--」


 何の変哲もない普通の自己紹介が始まる。そこらの学校と違うのは自分の武器の紹介と得意な魔法の属性が入っている事くらいか。

 特に気になる武器や得意属性も無いので半分以上聞き流していた雪だったが、とある女子の自己紹介が何故か耳に止まった。


穂坂紫音ほさかしおん。 武器は魔導書で、得意属性は闇。 よろしく」


 静かであって鈴の音の様なその声。肩甲骨辺りまで伸びた水色の髪。無表情の顔。雪は自分でも何故紫音の自己紹介だけ耳に止まったのか不思議で仕方が無かった。

 その後も自己紹介は続いて行ったが、紫音の時の様に特別耳に止まる自己紹介も無く雪の番が回ってくる。


「白石雪です。 武器は魔刀で得意属性は氷です。 よろしくお願いします」


 早口で言葉を紡ぎ、椅子に座る。


「自己紹介が終わったし、丁度SHRも終わったから休憩ー。 次は学院案内だけど、白石君は魔導会室に来るようにって本城さんから伝言預かってるよ」

「解りました」


 小さく頷いて魔刀を持って魔導会室を目指す。今雪がこの学院で知っている場所は教室と魔導会室と体育館と職員室と図書室くらいしかない。

 教室と魔導会室は特に離れた場所でも無いので直ぐにたどり着く。ノックをし、返事を待ってから中に入る。魔導会室にいたのは瑠夏1人だけだった。


「何か用ですか?」

「うん。 昨日は目を覚ましたのが遅すぎたから家に帰らせたけど聞きたい事があったんだ」

「何ですか?」

「昨日の戦闘で、君は酷く生命力を消耗したよね」

「そうですね」

「どうしてああなるまでにセーブしなかったの? あの戦い方じゃまるで--」

「--死にに行こうとしてる様なものだと思われますよね…」


 瑠夏は黙って続きを促す。


「すみません。 あれはただ純粋に先輩との戦闘を楽しんでいただけですよ」

「私との…?」

「そうです。 あれは僕自身生命力の残量を忘れてしまう程のものでした」

「そう、なんだ…。 別に、死のうとしてやった訳じゃないんだね?」

「それは審判補佐の地位に誓って」

「ん、解った。 呼び出した理由はこれだけだから」

「心配させてすみませんでした」


 雪がそう言うと瑠夏は微笑んだ。若干見惚れつつも、雪は魔導会室を後にした。

 なんとか学院案内が始まるまでに教室に戻ってこれた雪は自分の席に着く。それを見計らっていた紫音は雪に声を掛けた。


「…ねぇ」

「…? えーと、穂坂さん、だっけ」

「そう。 学院案内の時修練所にも行くみたいなの」

「そりゃ、学院の一部だし…」

「で、そこで模擬戦をするらしいの」

「へぁ!?」

 

 何を考えてるんんですか先生!と雪は心の中で突っ込む。ついでにへんな声が口から洩れてしまった。


「…変な声」

「いや、ごめん。 驚きすぎた…」


 続けるよ、と前置きをして、紫音は話を続ける。


「その時のペアが必要なんだけど…」

「まさかはぶられた…?」

「そう。 誰も組んでくれない…」


 少し落ち込んだ様子で紫音が俯く。

 ちなみに雪は何故誰も紫音と組まないのか解っている。恐らく、闇属性が得意という点でだろう。

 闇属性は他の魔法とは違い、強い思いを超えた『強い欲』や『強い恨み』又は『強い妬み』を糧として生命力を通して放つ魔法だからだ。要するに、禍々しい。

 気にしない人は全く気にしないが、気にする人はとことん気にするタイプの魔法だ。雪は前者なので全く気にはしていないが。


「別にペアになるくらいどうってこないけど」

「ありがと。 取り敢えず、一旦バイバイ」


 そう言うと紫音は自分の席に帰って行った。その直後にチャイムが鳴り、担任の九十九が入室してきた。


「えーと、まず1組から3組が校内を見るらしく、4組と5組は修練所で時間を潰す事になったんだ」

「センセー。 まさか4組と戦うとか言わないですよねー?」

「勿論戦うよ。 2対2で」

『えぇ!?』


 5組の生徒は皆、ペアになった者同士で戦うのだと思っていた。それ故に驚きは大きかった。

 殆んど全員がペアになった生徒と作戦会議をしている。

 そんな中、雪と紫音だけは集まらずにただぼーっとしていた。お互いの得意な事を聞いても即興で作った作戦で活かしきれるかなんて解らないし、何よりももうすでに互いの得意分野は知っているからだ。

 雪に関しては魔刀で有名であり、誰でも近接が得意だという事が解る。紫音については魔導書を武器として持っている事から遠距離型という事が解る。


「4組が行ったみたいだから5組の皆も行くよ。 付いて来て」


 九十九が一声を掛けて先頭に立って歩くと、ゾロゾロ皆がその後を追う。雪はその最後尾をのんびりと歩いていた。紫音もペアだからか雪の隣を歩いていた。

 ほどなくして修練所に着き、先生の説明等を聞いた後にお互いにどのペアを出すかを決めて戦闘を開始する。それ以外は戦闘スペースを囲う様に出来ている殺傷不可の結界の外で観戦という形になった。


「4組、5組は互いにどのペアを出すかを決めてください」


 4組の方では悩んでいるオーラが立ち上っていた。5組に関しては挙手制で複数上がったらジャンケンというやる気がある者だけを集め、さらに平等に決めるという平和的選択をしていた。

 模擬戦が始まっても雪と紫音は戦闘には目を向けていなかった。


「貴方は、参加しないの?」


 戦闘の中盤頃になって紫音がポツリと呟く。


「僕はどっちでも。 穂坂さんこそ、参加しないの?」

「私も、どっちでも」

「なら後で参加してみるか?」

「ん。 でも、私は遠距離型だから近付かれたら--」

「終わり、か。 それじゃ、近付かせない様に立ちまわるよ」

「…ん」


 丁度戦闘が終わった所で雪と紫音は立ち上がる。


「あ、やる?」


 それに気付いたクラスメイトが声を掛けてくる。雪は頷いて紫音と共に結界内へと踏み出す。


「…あ、時間稼ぐだけで、いいから」

「了解。 僕から言う事は、例えどれだけ近付かれても集中を切らなくて良いってことかな」

「それでやられたら?」

「土下座します…」


 紫音を守る様に立ち雪は魔刀を構える。立ちあいの教師により、開始の合図が出される。


 …結果だけ言うと、瞬殺だった。

 雪の足止めにより相手2人は紫音に近付く事が出来ずに、紫音が放った通称『闇の槍』の一撃で気絶していた。そこまで強い技では無いのに一撃で倒れた所を見るに、相当『強い欲』等の感情を持っている事が解る。


「…1人でも勝てたかも」

「時間とかほぼ稼いでないしね…」


 雪と紫音は修練所の隅っこの方で座っていた。何というか、参加したら直ぐに終わってしまうからとのことで観戦を頼まれたのだ。


「でも、前にいてくれたから集中できたのは確か」

「なら良かったかな」

「ん。 良かった」


 紫音は小さく呟いた後、唯々模擬戦を観戦していた。

何か戦闘ばかりな気がしますが、次話は戦闘が無い予定です。

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