part2-2
次の日、雪はいつもの魔刀では無く雪之血を持って登校した。雪之血が「一人は寂しいです」とか「連れて行かないと周りに被害を」とか言い出したので仕方なくだ。決して雪の意思で持って行っているわけではない。
「頼むから人型になるなよな…」
『フリですか、契約者』
「違うから」
ふざけた事を言っているが、その声に感情を感じさせない話し方をする雪之血。
『まぁ、契約者の迷惑にならない程度にふざけさせてもらいます』
「ふざけないで欲しいんだけどね」
雪は呆れながら通学路を歩いていた。今日は一人だ。というものの、みんな起こしてくれていたそうなのだが、どれだけ声を掛けても目を覚まさなかったらしく、諦めて先に行ったらしい。そう書置きに記されていた。ちなみに今回は家に誰も残っていなかった。
『遂にみんなに置いていかれるようになりましたねぇ、契約者? 』
「どう考えてもお前のせいだよ…」
『人の所為――いや、魔装の所為にするのはどうかと思いますよ』
「僕を永遠と眠らせていたのはどこの誰だ…!? 」
結局あの後眠らされて、ずっと夢の中で雪之血と話をしていた。ちょっと戦闘の練習などもしていたが、意地悪くそれを永遠と繰り返させられてようやく目を覚ましたと思ったら遅刻確定の時間。雪は何故か空を見上げたい気分になった。
到着した学校では既に授業が始まっているようで、シンとしていた。
「遅れましたー」
「知ってる」
声をかけながら自分の教室に入ると、先生からそんな声が返ってくる。最初に帰ってきた声こそは先生のものだったが、いち早く雪に目を向けたのは無論、紫音だった。
紫音の顔には心配と若干の怒りが浮かんでいる。というか、若干涙目になっている。
取り敢えず自分の席に座り、授業に途中参加する。取り敢えず書いてあることを全てメモに写して、後で誰かにノートを貸して貰って足りない部分を補わせてもらうつもりだ。
来た時間が来た時間なので、ものの十数分で授業が終わり――紫音に捕まった。校内にも関わらず魔法を発動させ、雪を拘束しズルズルと引きずって図書室まで連れて行く。
「雪、どうして起きなかったの」
「あー、それは…」
説明できなかった。雪之血の存在を知らせるときっと紫音は本気で殺しに行くだろう。まだピリピリしているのが雰囲気で解る。
誤魔化そうかと思い、紫音の目を見て――固まった。
「嘘、誤魔化しは無駄。 雪に魔法に似たようなものが掛けられているのを確認したから。 正直に答えて。 あの場に雪を刺したって言う女はいたの…? 」
真剣だった。本気で雪の身を案じていることが解る。嘘や誤魔化しはダメだと解らせる程に。
『どうするんです、契約者』
離れていても頭の中に直接声を響かせてくる雪之血。話も全て雪を通して聞いていたようだった。それでどうするかを問いかけてくる所、一応契約者を立てているのが解る。
雪は嘘を許さないであろう紫音に本当の事を言うことにする――が、勿論雪之血の事は黙っているつもりだ。
「いたよ」
「やっぱり…!」
紫音の殺気が膨れ上がる。周囲に黒いオーラが漂い始めている。このままだといずれまた魔物に疲れてしまうのではないかと言うレベルのものだった。
「でも、相手は僕を眠らせて逃げるという行動を取った。 この意味は解るかな」
「雪、まさか戦ったの…? 」
「一応ね」
「それも、嘘。 だって瑠夏は何も聞いていなかった」
そこまで情報を集めていたか、と思った雪。勿論顔には出さない。雪之血も空気を読んでいるのか話しかけてこない。
頭の中で話を作り上げて辻褄を合わせていく。
「そりゃ相手が防音、破壊復元、認識最低化の結界使ってたからね」
「っ」
紫音は言い返せないようだった。確かにそれらが展開されていたら幾ら瑠夏でも気づけないと解ったからだ。それも、瑠夏を倒す程の相手が使ったのなら、尚更。
「でも、撃退はできた。 これからは多分容易に顔を出さないと思うよ」
「どうして、そう思う…? 」
「一度余裕で勝った相手に撤退を余儀なくされたんだ。 馬鹿か阿呆か間抜けじゃないと襲ってこないと思うよ」
「確かに…」
『契約者、後で私刑です。 私の領域を使って契約者の体の自由を奪って――』
なにやら雪之血が刺々しい口調で割り込んできたが、無視。
「それに、いざとなれば魂繋ぎでみんなを呼べるしね」
「むぅ…。 もし呼ばなければ、100年間添い寝の刑」
「死後までっ!? 」
「私は別にどっちでも、良い。 ふふっ」
ようやく紫音が何時もの様に笑ってくれた。周りの黒いオーラも消えている。
ほっと一息付いた雪は時計に目を向けて残り2分程でチャイムがなるのを確認して紫音に声をかける。
「そろそろ戻ろうか」
「ん、戻る」
紫音は大人しく従って雪の後ろをとてとてと追いかけて教室に戻った――と、そこで皆が体操服に着替えていることに気が付く。
「2,3,4って、魔装体育か…」
「忘れてた。 残ってるの雪だけだし、ここで着替えよ」
みんなが出ていったタイミングで紫音がそんな事を言う。と、言っても雪は同じ部屋で寝ているほどなのでそれほど気にしない。さっさと着替えて魔装を手に取り、窓の外に目を向ける。クラスの皆が急いで並んでいるのが分かる。恐らく後40秒ほどだろう。
紫音も着替え終わったらしく。近くに来て雪の体操服の裾を握っている。
「時間ないからここから降りようか」
「ん、2人なら生命力消費は2分の1」
そう言って窓を開けて飛び降りる。余談だが、この学校に戸締りという概念は無い。
なんとかギリギリでチャイムが鳴る前に皆の所にたどり着くことができて安堵の息を吐いた雪と紫音。
今日の魔装体育の時間は1時間戦闘練習をし、残り2時間でいつかの隠れんぼ(隠れおに?)をするらしい。あの時は勝てなかったけど、今回こそは、と雪と紫音は張り切っていた。
そして最初に一時間は――
「白石、相手をしてくれ!」
「次は俺だ!」
「その次は私でっ」
「何故こうなった…」
雪の所に近接武器使いや遠距離から攻める武器使いがかなり集まっていた。それを雪は面倒そうに見ていたが、一応片っ端から相手にすることにした。
ちなみに紫音はというと――
「穂坂さん、勝負!」
「その次は俺だっ!」
「私だって!」
「うぅ、雪と戦いたかった…」
雪と全く同じ状況になっていた。当の本人は雪と戦いたかったようだが、仕方がないと判断してこちらも相手をすることを決めたようだった。
「『氷の槍』」
「うぉっ」
遠距離から雪を攻める相手は容赦のない氷系統の魔法を当てられ、接近戦を試みる相手は実力で叩き潰す。しまいには2:1になったり4:1になったりとしたが、誰一人雪に勝てた者はいなかった。
「『闇の花』」
「うっ…」
紫音はどんな相手でも足元に闇の花を開花させ、そこからの花粉で精神にダメージを与える。勿論加減してやっているし、それ用の結界も貼られているのでリアルに鬱になったりはしない。
それを克服して、咲くと同時にその場から離れ近づこうと試みた生徒は紫音の手の中に作り出された闇の槍の餌食となった。
互いに練習を申し込んできたクラスメイトを倒し終え、一息付いていた。残り十分程で2時間目が終わる。
「雪」
「ん、どした? 」
「残り時間少ないけど、やろ? 」
「おーけー」
雪は少し離れて魔刀を構え、紫音は魔道書を開く。
先に動いたのは雪。お得意の素早い動きで紫音に接近する。
それを見た紫音は――
「『闇壁』」
『契約者、貴方ではあれの破壊が困難かと』
「…そうだな」
周りに怪しまれないように極限まで声と口の動きを抑えて雪之血と意思疎通を図る。どうやらサポートしてくれるようだ。
『ふむ…。 結構強力な壁ですね。 斬り裂くことが出来なさそうです』
「お前でもかよ…」
『ですが、あの壁は四方に展開されてるだけですので下から攻撃すれば良いかと』
「なるほど。 『氷の槍』」
「っ!」
紫音の足元から氷の槍を発生させる。だが、意識を下に持っていくことでそこにも壁を生成。氷の槍は闇の壁に阻まれて通らなかった。
「下からの攻撃とは…雪、恐ろしい」
「そりゃどうもって、返事してる途中に攻撃は卑怯なっ!」
雪の足元に生成された魔法陣はいつかの拘束魔法のもの。そこから拘束する魔法が飛び出すのだから、多少離れたところで無駄だ。
『契約者、魔法陣を斬ってください。 魔法陣からの攻撃は基本的に魔法陣を破壊することで止めることができます』
「らぁっ!」
少し移動してしまっていたので、『移動する斬撃』を魔法陣に向かって放ち、魔法陣を破壊する。そこから魔法が発動されることはなかった。
「くっ、魔法陣攻撃の弱点もしってたなんて…」
今知ったばかりだということは口が裂けても言えない雪だった。
結局紫音との勝負は途中から互いに生命力を使用せずに戦っていた所為で決着は付かなかった。
ここで魔道書の紫音が不利だと思う人もいるだろうが、実は魔道書は余程な事をしない限り斬れないし、破れない。それこそこの前の『希望の一撃』の様な無茶をしない限りは大丈夫だ。
ちなみに生命力を使用しなかった理由は残り2時間に全力を費やすためだ。
「今回も魔導会の皆さんに来てもらいました」
『最初から全員いる!? 』
クラス全員の声がシンクロする。確かに最初から全員いる。瑠夏を始めとする長3人。審判補佐は雪と紫音なのでいないが、計測と管理の補佐はしっかりといる。ちなみに魔導会全員の視線は雪に向けられている。
「開始は今から10分後。 それじゃ、1年は散って貰っていいよ」
九十九のその一言で皆それぞれバラバラに散っていく。校舎に行く者、運動場に残る者、窓から教室に入る者、魔導会に捕まる者。勿論最後は雪だ。
「全く、朝くらいちゃんと起きないとダメだよ、雪君」
「すみませ――」
「瑠夏が言っていた奴に眠らされたらしい」
「――ぐえっ!?」
紫音が割り込んで事情を一言で説明すると瑠夏に襟首を掴まれ引き寄せられる。割と良くされる行為なのでもう若干慣れてきている雪は瑠夏を安心させるためにも口を開く。
「だ、大丈夫ですよ。 ほら、元気ですし? 」
「……それなら、良いけど」
「雪が戦って撃退したらしい」
「それは嘘だよ」
「でも、防音、破壊復元、認識最低化の結界を張ったらしい」
「……っ。 今度から残る時は雪君と同じ部屋にいようかな…」
それは雪之血を呼び出せずに面倒だな、なんて思った雪だったが口にはしなかった――が、代わりに顔に出ていたようで瑠夏の表情が引き攣った笑みになる。
「そうだ、雪君。 あの子を撃退出来たのなら、勿論私達を撃退、もしくは私達からの逃走なんて余裕だよね? 」
「いや、人数差が――」
「私達全員とあの子だと、あの子の方が強いよ」
にこにこと目が笑っていない笑みを浮かべながら言葉を並べていく瑠夏。
雪には解る。絶対に負けさせる気でこのようなことを言っている事が。負けたら一体何をさせられる、もしくはされるか解らないので負けられない戦いになってしまった。
『契約者、暇なので適当にサポートしますよ』
雪之血からの嬉しい提案。雪自信も彼女ともう少し話して見たいと思っていたので丁度いいので力を貸してもらうことにする。
「もし雪君が負けたら、私と紫音ちゃんと同じ部屋にいて貰うからね? 」
『契約者、訂正です。 全力でサポートします』
雪之血がやる気になった。恐らく部屋に来て欲しくないからだろう。寧ろ勝ったら紫音すら追い出そうとするんじゃないだろうか。というか、確実に命令してくると雪は確信していた。
「先生」
「ん、なんだい? 」
「私も鬼になってもいい? 」
「構わないが、なぜまた急に? 」
「ちょっと雪にお灸を」
「僕が何を!? 」
『契約者、全力で潰しましょう。 貴方なら出来るはずです』
雪之血の言う通りだった。雪ならば全力を持って掛かれば問題なく倒すことが出来る。更に今回は魔装の使用制限等も無い。恐らく勝つのは困難でも出来ないことはない筈だ。
「後1分で開始だよ」
「やばいっ!?」
「雪、逃げられると思わないで」
「雪君、覚悟して、ね? 」
校舎に逃げ込む雪の後ろから聞こえる逃がさない宣言と覚悟しろ宣言。雪は深い溜息を吐きながら校舎内に隠れた。
雪之血のサポートを得て、かれこれ30分程見つからずに行動している。割と万能な魔装だなと、少し認識を改めた雪。
『契約者、残り1時間半ですが体力的に大丈夫そうですか? 』
相変わらず感情の篭らない声で話しかけてくる雪之血。
「見つかってないからね」
『それは何よりです。 そろそろ仕掛けないときつくなって来ますよ。 残り人数が4人です』
「本気出しすぎ…」
『全くですね』
開始から30分しか経っていないと言うのにも関わらず、もう残り人数が1桁になってしまっていることから魔導会――というか瑠夏と紫音が全力なのが良く解る。ちなみにクラス総数は50人である。
『丁度近くに2人組がいますね。 契約者、宜しくお願いします』
「はいはいっと」
雪自身も気配を探りながら歩みを進める。丁度旧校舎の2階から3階に上がる階段の踊り場にいるのを確認し、魔刀に手を掛けた――が、先に魔法で奇襲することにした。
「『氷の槍』」
「「わあっ!? 」」
踊り場にいたのは李世と夜羅。突如壁から突き出て来た氷の槍に驚いて悲鳴を上げる。だが、間一髪のところで槍自体は回避している。
「っ!」
「なっ、隠れてる方から攻撃してくるなんてっ…!」
「ダメと言うルールは無いはずですよ」
「くっ、油断したわ…!」
夜羅が雪に向けて矢を放つ。だが、雪はものともせずに刀で叩き落とす。李世はまだ体制を立て直せずにいるせいで攻撃ができていない。
雪は決めるなら此処しか無いと判断し、生命力を乗せた斬撃を放つ。それは移動する斬撃となって2人に襲い掛かり、防御の姿勢を余儀なくされる。
「李世…!」
「解ってる…!」
斬撃が2人に届く前に矢と銃弾に阻まれ、届きはしなかった。
『契約者、不味いです。 本城瑠夏及び穂坂紫音と思われる気配がこちらに急行しています』
「面倒だなっ」
『私の言う通りにしてください。 まずこの2人を振り切って屋上まで行ってください』
雪には雪之血の意図が掴めなかったが、言う通りにした方が良いと直感で感じ取ったので従う。
李世と夜羅を氷でその場に縫い付け、武器も凍結させて使えないようにする。そしてそこから上を目指して走り出す。
「逃げる気!? 」
「本城さん、穂坂さん! バレてます全力で追いかけてください!」
今回は魔導会が連絡を取り合えるのか、離れた所にいるであろう瑠夏に声を飛ばす李世。雪にとっては面倒が加速するだけの事実だった。
なんとか追いつかれる前に屋上にたどり着くことができた。そこで雪之血が認識最低化の結界を張る指示を出したのでそれに従う。
『契約者、私を屋上に突き立ててください』
「こんな感じ? 」
『それでOKです。 ゆっくりと生命力を流し込んでください。 変換は私自身が行うので』
雪は指示通りに雪之血に生命力を流し込む。すると、刃の白い部分が輝いて鋭い冷気を発生させる。屋上は既に氷が張ってきている程だ。
屋上へと続く扉がガタガタと揺れる。どうやら凍り付いて開かないようだ――が、2,3重に亀裂が走ったかと思うと、扉が斬り刻まれて破壊される。
「雪君、残りは君だけだよ」
「仕事早すぎです」
『他の連中は氷で縫い付けるのに成功しましたが、予想外ですね。 本城瑠夏が氷で足止めできなかったのは』
「全くだよ…」
「雪君、最近独り言増えたね」
「っ」
かなり小さめの声で呟いたのにも関わらず瑠夏はその声を拾い、問いを投げかけてくる。
「いや、最近物騒ですから精神的にやられてるのかもしれませんね」
「なら尚更私達の傍にいるべきだと思うんだよね」
「一緒にいて変な迷惑かけるの嫌ですし…」
「気にしないで良いよ。 だって、私達…というか、魔導会は家族みたいなものでしょ? 一緒に住んでるんだし」
「確かにそうですが…」
瑠夏は既に抜刀している。隙を見せれば一発で仕留められると、解る。だから雪は動けなかった。動いたところで瑠夏が相手ではこの距離では何処に動いても変わらないからだ。
『契約者、今は答えなくてもいいですが、あの女何者です? 以前戦った時に比べて覇気が比べ物にならない程違うんですが』
「……」
恐らく瑠夏は怒りに任せた行動よりも誰かを守ろうとする想いだけがある時の方が全力を発揮できるのだろう。事実、雪之血と戦った時は怒りに突き動かされて敗れた。
だが今瑠夏が雪之血と戦えば互角に戦えるであろう事は雪にも雪之血にも理解できた。
「さてと…、そろそろ残り45分程だね。 始めよう? 」
「なんで毎回瑠夏先輩と戦うんだろうか…」
「君が強いからだよ。 言ったら失礼だけど、紫音ちゃんでも雪君には勝てない」
「――っ」
言葉が終わると同時に背後から首筋に刀を添えられている。
雪は勿論、雪之血にすらその動きを捉えることはできなかった。
「動かないでね。 動いたら、意識を飛ばすことになる」
その言葉は本気だった。一切の容赦のない、抵抗を許さない真剣さを帯びた声色。
雪之血にも打開策が思い浮かばない。もしここで動いてしまうと雪の意識が奪われる。かといって何もしなければそれは負けを意味する。雪之血の中ではそれだけは避けなければなからなかった。
自身の『領域』と呼ばれるものを使用しこの場から抜け出すことは簡単だ。だが、それを実行するには姿を現す必要がある。無駄に警戒されるだけだろう。
つまり、もう逆転する方法はない。
『契約者、残念ですが諦めましょう。 これは無理です』
「……」
『代わりの行動を起こしますから今は負けを認めてください』
「参りました…」
「うん、聞き分けが良くていいね」
瑠夏は笑みを浮かべながら魔刀を鞘に落とす。それと同時に屋上に雪崩込んでくる魔導会の面々。雪之血は魔導会員の気配も勿論感じ取っていて敗北を認めるしかないと判断した。
「さてと、これで今日の授業は終わりだね」
「あれ、5,6時間目は無いんですか? 」
「しっかり連絡は――と、そうか。 雪君は昨日休んだんだっけ。 実は、犯罪者…それも、禁術を使う輩が現れたって話。 無差別に襲っている訳ではなさそうなんだけど、どうも危険視されてるから今日が終われば当分自宅待機だよ」
「禁術…」
この世界には禁術と呼ばれる魔法が幾つかある。
代表的なものは基本的に2つ。
1つ目は『支配』。どうやってこの魔法を作り上げたのか皆目検討もつかないし、一番初めに禁忌として認定された魔法。その効力は対象を支配し、操るもの。解除方法は術者が解除しない限り解けない。
2つ目は『時間操作』。これもどの様に作られたかは知られていない。これも支配のすぐ後に禁忌認定された魔法である。効力は名前の通りそのままで、時間を操作するものだ。
「どの禁術を使ってるんです? 」
「支配、だね」
「支配…。 魔導軍が動きそうか」
魔導軍は基本的に魔物退治や町の警護などが主な仕事だが、禁術使いが現れた場合に限っては最低限の戦力を残してそれの討伐、もしくは捕虜に向かう。
「で、雪君を狙ったのもその禁術使いの手先だったんじゃないかって」
「その可能性は高そうですね」
「だから明日からは当分自宅謹慎だね。 勿論、私と紫苑ちゃんのいる部屋で」
「それは息が詰まりそうな部屋ですね」
「君が狙われるから悪いんだよ」
「そんな無茶苦茶な…」
そう言いながらも集まった魔導会の面々と共に運動場に向かう。
『……』
その途中、雪之血は一言も雪に話しかけずにただ黙って鞘に収まっていた。




