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魔刀使いのソウルリンク  作者: 向日葵
生命吸収魔法の使い手
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1‐X -乃亜、紫音-

 雪は自室でオルゴールに目を向けていた。

 あの時どういう理屈で死んだはずの妹である乃亜が現れたのだろうか、と考えた結果、このオルゴールに想いが宿っているのではないか、と行き着いたのだ。


「『魂繋ぎ(ソウルリンク)』」


 あの時の状態を再現するためにオルゴールに向けて『魂繋ぎ(ソウルリンク)』を使ってみる。

 すると――


『ぅ…、にゅ?』

「おぉ…。 これ、どういう理屈なんだろ」


 雪は解っていなかったが、これは他人の命を流し込むことで想いが具現化した姿だ。

 つまり、現在の乃亜は想いこそ乃亜であれ、魂は雪のものだ。


『…? あれ、兄さん…?』


 半透明の姿のまま目をパチパチさせて暫くぼーっとしていた乃亜だったが、乃亜自身はどうすれば自分が具現化するかなどにも気付いているので、途端に慌てる。


『ちょ、兄さん! 私は他人の魂で具現化するんです! だから兄さんの魂に今余計な負担をかけてしまって!?』

「お、落ち着いて…。 えーと、つまり今乃亜は僕の魂を使ってその姿を作ってるってこと?」

『そうです! だから早くこの魔法を解いてください!』

「うぅーん…」

『何を悩んでいるんですか!?』

「いや、乃亜自信具現化していなくても外の景色を見たりはできたり?」

『しませんっ! …あっ』


 そこで乃亜は自分の失態に気づいた。人の為になる事ならば割となんでもしてしまおうとする今の兄にそんな事を言ってしまったら――。


「うーん。 でも、乃亜にこれ以上心配かけるのもあれだし…。 そうだ、近いうちにもう一回だけ呼び出してもいいかな」


 だが、乃亜に返って来た言葉は予想の斜め上を行くものだった。てっきりこのまま繋いで離さないものかとも思っていたが、確かに心配をかけないという点では乃亜の為になることをしている。


『…別に、一回くらいなら構いません。 でも、長時間はダメですからね?』

「それくらい解ってる。 もう心配は掛けないから」

『…では、今はこの魔法解いてくださいね』

「承知しましたよ」


 雪は最後に乃亜の頭に手を持っていこうとして、触れれるものだろうか、と思ったが一応持っていってみると触れれた。やはりなぜ触れれるのかはわからないが。


『……』


 乃亜は頬を赤らめそっぽを向くと、小さな声で「早く、解いてください」と小さく呟いた。


「じゃ、また暫くしたら」

『はい。 これ解いたらちょっと虚脱感感じると思いますから、寝っ転がりながら解いてくださいね』


 雪は乃亜に一時いっときの別れを告げ、ベッドに寝っ転がりながら『魂繋ぎ(ソウルリンク)』を解く。すると、乃亜の姿が消え、言われた通りの虚脱感に襲われて立ち上がれなくなる。


(さて、せめて乃亜に月一でも出て来て貰う為に絶景でもなんでもいいから見せてやりたいと思うんだけど…)


 現在の雪は動くことができない。そんな場所を探しに行こうにも、暫くは無理だろう――と、思った時に、部屋の扉が開く。


「雪、早く、降りてくる…」

「え、ちょ、今無理…」

「早くしないと、瑠夏がまた文句言いに来る。 さぁ、早くそこから起き上がる…」


 一切力の入らない雪に紫音が無理難題を押し付けてくる。必死に起き上がろうとはしてみるものの、徒労に終わる。

 紫音が失った魔道書の代わりにミスティカから貰い受けた魔道書を開き、殺気を飛ばしても雪はやばいと思うだけで何もできない。

 流石に可笑しいと思った紫音がとてとてと近づいてきて雪に触れる。


「…なんで、こんなに力を抜いてるの?」

「いや、抜いてるわけじゃなくて――」


 はっとした時にはもう遅かった。

 紫音の目が妖しく光ると、無抵抗の雪の横に潜り込み、抱きつく――というか締め付ける感じで腕を回してくる。


「ちょ…、紫音…。 締まってる…!」

「そんなの、知らない」


 顔を俯けたままの紫音が雪の体に顔をうずめながら呟く。

 最近、雪の部屋にもう一台ベッドを置いて、紫音とは別々で寝るようにした。そうすることで紫音の不満を買ってえらい目に遭ったのはまた別の話だ。

 兎に角、一緒に寝ようにも雪が頑なに拒んで来ていたのだが、今は一切力が入らない状態だ。それを好機と見た紫音が報復と同時に自分が満足できる体勢……つまり、締め付ける体勢を取った。


「んぅ…。 久し振りの雪の感触…」

「く、苦しっ…」

「雪君! まだ起きないのって、紫音ちゃん!?」


 紫音の締め付けにより肋骨を圧迫されていた雪。そこになかなか下の階に下りて来ない2人の様子を見に瑠夏が部屋に入ってきて、驚きの声を上げる。


「る、瑠夏先輩っ…、助けっ…」

「ちょ、紫音ちゃん! 雪君締まっちゃってる!」

「うー…!」


 瑠夏が引き剥がそうと紫音を引っ張るが、頑なに離れようとしない。寧ろ離れまいともっと締め付ける力を強くする。


「い、意識が…」

「し、紫音ちゃんってば! このままじゃ雪君が気絶しちゃうって!」

「いい…! 一緒に寝てくれなくなった雪なんて、気絶したっていい…!」

「わかっ…。 きょ…、一緒に寝るか…」

「本当…?」

「ほ、本当だから…、離して…」

「それなら…。 雪、小指だして」


 紫音はしぶしぶと言った感じで雪を解放する。そして何時かの物騒な指切りをする。

 その姿を瑠夏は微笑ましそうに見守っていたが、後半の『槍千本』で少し引いていた。


 そしてその夜。約束通り雪と紫音は同じベッドで寝ていた。今回は締め付けるではなく、抱きつくと言った感じで雪の腕にしがみ付いている。

 此処まで紫音が愛情表現していても、雪には伝わっていない所が何とも言えない。


「…そう言えば、今日なんであんなに衰弱してたの?」

「ちょっと乃亜の事で試してみたい事があって――」


 オルゴールに向かって『魂繋ぎ(ソウルリンク)』を使った時の事を話す。紫音は既に乃亜の事を聞かされていたので、黙ってそれを聞いていた。


「――で、何か乃亜の気に入りそうなものを見せてあげたいんだけど…」

「…ん、明日は土曜。 明後日は日曜。 明日から、探そ? 私も、手伝う」

「え、別に無理しなくても…」

「好きで行くだけだから、気にしない」


 それだけ言うと紫音は雪にしがみ付いたまま寝息を立て始めた。そんな紫音の頭を暫くの間撫でていたが、ほどなくして眠気を感じたのでそれに身を任せた。


 紫音の1日は雪の寝顔観察から始まる。最近は雪が一緒に寝るのを拒むので間近では見られなかったのだが、今日は久しぶりに直ぐ近くで見る事が出来ていた。

 それ故に、雪が起きそうになったら『睡眠』の魔法を使って再び眠りの中へ、という事を繰り返していた。

 だが、流石に朝食の時間が来たらいつも通り雪を起こす。名残惜しかった紫音だが、こればかりは仕方が無いと諦めて起こす。


「雪、起きる。 もう直ぐ、朝食の時間」

「うぅ…。 了解…」


 雪は雪で紫音が起こし始めて3回を超えると大変なことになるのを見を持って体感しているから眠たげにしながらも起き上る。今日は紫音と約束をしていた事も思い出し、いつもよりすんなり起きれた。

 紫音に先に行かせて着替えて、リビングに行く前に洗面所に寄って顔を洗ってから行く。


「お? 雪君が早起きだ」

「寝ても良いんですか?」

「それはダメだね」


 何度か雪が早起きしてきたときに交わした会話。この会話か、瑠夏が起きてくるのが遅い雪に説教しているかを聞いてこの家に住んでいる紫音以外の魔導会員の一日が始まる。


「いつも通りだな、あの2人は」

「ですね」


 夕と湯野も微笑ましそうにいつものやり取りを見ている。勿論、李世も夜羅も緋呂も遊呂も同様だ。


 朝食を終えて、雪と紫音は町に出ていた。昨日言っていた通り乃亜の気に入りそうなものを探して回っているのだが、いかんせんあまり広くは無いとは言え1つの町を2人で探す、というのはかなり辛い。


「雪、物は止めにしよ。 景色とかの方が、良いと思う」

「うーん…。 そんな良い景色の所あったっけ…」

「………」


 紫音は暫く考える様に俯いていたが、直ぐに顔を上げて口を開く。


「乃亜は、きっと絶景を見せて貰うよりも変わらないこの町を見せて貰える方が喜ぶと思う」

「それなら、高台か…?」

「1回行ってみる」


 紫音が高台に向かって歩き出したので雪もそれに続く。

 日が傾き始めた高台は、夕暮れ色に染まる町を一望できた。雪が始めてここに来たのはネガティブシャドウが大規模魔法を放って来た時に初めて上ったので、景色など見ている余裕は無かったが、ゆっくりと見渡してみると、この町の全てを見る事が出来る場所というのが良く解る。


「確かに、印象に残る何かよりもありのままのこの町を見せた方が良いのかも…」

「ん、早速連れて来る?」

「んー、そうだな。 取り敢えず日が沈む前じゃないと暗くてよく解らなくなるし…」


 雪と紫音の生命力の強さを見ると、雪の方が上だ。なので、紫音には此処で待機していて貰い雪が転移で家に戻る。オルゴールを手に取り、家にいる瑠夏に頼んでもう一度高台に飛ばして貰おうと事情を話したら、快諾してくれた。

 実は瑠夏も行きたかったのだが、紫音と2人きりなのだったら邪魔はするまいと遠慮したのだ。


「おかえり」

「ただいまっと…。 じゃあ、早速…『魂繋ぎ(ソウルリンク)』」


 雪から魂のラインが伸び、オルゴールに流れ込む。


『兄さん生命力の残量がっ!!』

「あ、僕が転移したらダメだったか」

「雪は、考えなし」

『あ、貴方が紫音さんですか? 兄さんがお世話になってます」

「え、あ、ど、どうも…」


 急に話しかけられ戸惑う紫音を他所に、乃亜は雪に向き直る。


『で、こんな短時間で呼び出して何がしたかったんですか?』

「後ろ」

『後ろがどうか――あぁ、そう言う事ですか』


 まだ日が沈み切っていない夕暮れに染まる町並みを乃亜は見た。自分が死んだ時と、何も変わらない町並みが広がっている。


『…兄さんは、これを見せて何を言いたかったんですか?』

「月一で良いから呼び出したいと思ったからその許可を」

「それは、私からも、お願い」

『…そう、ですか』


 何処か満足げな声を出す乃亜。確かに、変わらない町並みを見れるのは良い事だ。更に月一ならば雪にかかる負担も少ない。


『月一ですよ? もし月二で呼び出したりしたら……憑きますからね?』

「…ちなみに、憑いたらどんな効果があるの?」

『頭痛、吐き気、イライラ、肩こり、体が重くなる、乗っ取る…。 まぁ、これが一部です』

「「一部!?」」

『ですから、月一にしてくださいね?』

「「り、了解です…」」


 顔を青くしながら頷く2人の姿を見て可笑しそうに笑う乃亜。


『でも、今月だけはもう一度呼び出してくれてもお咎めなしです。 ですから…』

「必ず呼び出すよ」

「ん、待ってて…」

『…はい。 待ってますね。 兄さん、もう解いても良いですよ』

「解った。 じゃ、また」

『はい。 また、です』


 雪は魂繋ぎ(ソウルリンク)を解く。

 …この時、完全に雪は虚脱感を感じるのを忘れていた。紫音は気付いてのいたのだが、あえて黙って雪が解除するのを待った。


「ふふっ。 雪、倒れちゃった。 大変、看病しないと」

「図ったな…!」

「忘れる雪が、悪い」


 紫音は自身の生命力で、雪は紫音の魔導書の生命力を使い家まで転移する。

 その後、瑠夏に何故衰弱しているのかをとびっきりの(目が笑ってない)笑顔で尋問され、お風呂には紫音に連れて行かれ(どうなったかはまた別のお話)、看病という名目で一緒に寝た。

 2日連続で一緒に寝れた紫音は最後まで上機嫌だった。


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