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魔刀使いのソウルリンク  作者: 向日葵
生命吸収魔法の使い手
11/18

part1-11

 夕と湯野とその補佐達は、瑠夏が放った神速の一撃の気配を察知していた。


「さて、相変わらず凄い審判長の凄い一撃を確認した事だし、俺等もがんばりますか」

「そうですね。 では、事前に決めていた通りに動きましょう」


 夕と湯野の言葉に、李世、夜羅、緋呂、遊呂が頷く。

 夕と李世、湯野と夜羅、緋呂と遊呂のペアになり、三方向に散って襲い来る魔物に挑みかかる。

 個人個人の戦闘力は、雪や紫音、瑠夏などの3分の1あるかないか、といった所だが、これはあの3人が飛び抜けて高いだけであって、通常の人と比べると何倍もの強さを誇っていた。


「らぁっ!」

「援護します!」


 夕が振り下ろした魔剣の一撃で、真正面にいる魔物を斬り伏せる。そこで出来たすきを埋める様に、李世が魔銃による援護射撃を行う。

 この2人は、たがいに出来る事と出来ない事を完璧に熟知しているのだ。だてに1年半管理長とその補佐という関係を続けている事だけはある。

 夕の場合、剣を振り抜いた後の隙を自分で埋める事が出来ない。だからこそ、そこで李世が援護をする。そうする事により、夕は心おきなく戦える。

 李世は、魔銃使いの中でも群を抜いて近接が苦手なので、夕が絶対に近づけない様に李世を守り続ける。そうすることで、李世は心おきなく夕の援護に回る事が出来る。

 この様にして2人は魔物達を順調に退治しはじめた。


「夕達の方に負けてられないですねっ!」

「追撃は任せて、次の獲物に行って良いわよ…!」

「承知!」


 湯野が繰り出した『移動する突き』。それは、盾に並んだ数体の魔物を貫き絶命させる。だが、最後の1体だけ当たり所が良かったのか、まだ生きていた。瀕死の状態で目を離している湯野に飛びかかろうとして--矢に射抜かれて絶命する。

 湯野と夜羅の戦術は、互いの事を信用し合う事だ。例え仕留め損ねても、その仕留め損ねた魔物は自分の所に来る前に相方がなんとかしてくれるという信頼の気持ちで戦いぬくものだ。


「おぉ…。 俺たちいちばん地味なんじゃないか?」

「それは言わないお約束! 火炎竜!」


 斬撃を放ちながら軽口を叩く緋呂に、遊呂がツッコミを入れて魔銃から『火炎竜』と呼ばれる魔法を放つ。

 この2人は、幼いころから一緒にいた親友同士だ。戦闘は地味であっても、他のペアに見劣りする動きはしていない。


「っ、しまった!」


 夜羅が少し焦って放った矢は瀕死の魔物には当たらずに、別の魔物に当たってしまった。これにより、瀕死の魔物は複数対を相手にしている湯野に、矢が当たった魔物は夜羅に襲いかかる。


「李世! 瀕死の奴を!」

「解りました!」

「遊呂、狙撃!」

「任せろ!」


 2人の魔銃使いが各々の銃を構え、標準し、発砲。李世の放った弾は瀕死の魔物の胴を貫いて、遊呂の放った弾は頭を撃ち抜いて相手を仕留める。

 この様に1つのペアの片割れがミスをしても、他のペアからの援護が来るというツーマンセル三位一体のチームになっているので、余程の事が無い限り誰かがやられるなどという事は無い。


「ごめんなさい。 しくじったわ…」

「気にしないでください! こんな状況、誰だってミスの1つや2つや3つあります!」

「多いな!?」


 ツッコミながらも夕は目の前の敵を斬り伏せる。その背後からの魔物の奇襲には李世が反応し、更にその後ろからの奇襲は遊呂の狙撃によって防がれる。

 此処にいる全員は知る術もないが、実はこの戦術は魔導軍の最強と呼ばれたチームがよく使っていた戦術でもある。

 この場にミスティカ、ユーヴァンス、シラユキこと雪の誰かがいれば、きっと口に出していた事だろう。


「よし、取り敢えず包囲は潰せたな…」

「本城先輩がいるのはあっちね」

「よし、全員、命を大事に行くぞ!」

『了解!』


 夕の『移動する斬撃』と、湯野の『移動する突き』が放たれ、まずは一直線上を確保する。そして、全員でその出来た直線の道に入り込む。勿論、左右は魔物の壁だ。

 そこで、再びあの戦術を使用し、2ペア×3の三位一体を繰り出す。


「…皆、伏せて!」


 そんな瑠夏の声が聞こえて来た。拡声魔法を使って伝えられた言葉に、夕達は即座に従う。すると、その上を凄まじい暴風の様な物が変え抜けて行った感覚があった。

 思わず伏せていた全員は目を瞑り、必死に互いを地面に押さえ付けていた。

 不意に辺りが静かになったな、と思い6人が目を開くと、周囲にあった魔物の壁は綺麗さっぱり消え去っていた。

 代わりに目に映ったのは瑠夏と、魔杖を持った女と魔剣を持った男、更に数人のチームを組んでいる人達だった。


「皆、お疲れ様。 取り敢えず、ここの制圧は終わったよ」

「瑠夏、大丈夫なの?」

「へーきだよ。 それよりも、町に警告を出しに行かないと…」


 もしも町が本当に破壊されてしまったりしたらそこに住んでいる人達も皆消し飛んでしまう。

 それを避けようと、傾向を出しに行こうとする瑠夏だが、眩暈がしてふらついた。それを見たユーヴァンスが口を開く。


「…それは、俺が行こう。 誰に伝えれば良い?」

「魔法学院の場所は解るかな?」

「…あぁ。 ラルゲットの位置は把握済みだ」

「なら、そこにいるであろう九十九って先生に伝えてくれるかな?」

「…承知した。 任せておけ」

「…お願いね。 直ぐに追いかけるから」


 ユーヴァンスは自身に身体強化を掛けると、風魔法を駆使して凄まじい速度で町に向かって行った。


「…ふぅ。 白石君と紫音ちゃん、準備は進んでるかなぁ…」


 瑠夏は今町にいるであろう雪と紫音の事を思い浮かべながら、思い体を引きずって町に向けて歩き出した。


* * *


「…さて、この阿鼻叫喚の町はどうしたものか」


 結構前に町に戻ってきていた雪と紫音は、「魔物の大群が~」と叫びながら逃げ惑う住民達の姿を見ていた。


「雪。 一旦、学院に行こ」

「解った。 が、この人混みだと行くのも一苦労な気が…」


 実は戻って来てから人混みが邪魔でさっぱり前に進めていなかったりする。


「安心して。 この魔導書無駄に生命力蓄えられてるから」


 そう言って件の魔導書を開く。確かにその魔導書からは驚くほどの生命力を感じられる。


「今は、非常時。 だから、使う。 『転移』」


 雪の腕を掴んで、ぼそぼそと呟いて『転移』を発動させる。行き先は勿論学院だ。

 瞬時に学院の図書室に転移してくる2人。


「…なんで、図書室?」

「…私が、一番長くいた所だから」

「なるほど…」


 図書室から出て、一直線に職員室に向かう。勿論、逃げ惑う住民達の収集を付けて貰うために先生にお願いしに来たのだが…。

 ドォンッと凄まじい音が職員室付近から聞こえて来た。紫音と顔を見合わせ、走って職員室まで行く。

 そこには--


「ユーヴァンス、何を…?」

「…いや、すまない。 警告を出してほしいと審判長に言われたので九十九という教師を探しに来たのだが、ブレーキに失敗して突撃してしまったんだ」

「実は、ドジっ子?」

「…それで、九十九という教師は?」


 紫音の言葉をスルーしてユーヴァンスが雪に問いかける。


「呼ばれた気がしたが、気のせいじゃないみたいだね」


 職員室の瓦礫の下から九十九が姿を現す。


「あれ、九十九先生しかいなかったんですか?」

「あぁ、他の教員は既に収集を付けるために奔走しているよ。 まぁ、私はその中で君たちを待っていたんだけどね」

「…待っていた? どういう事だ」


 当然の疑問をユーヴァンスがぶつける。それに対して九十九は口を開く。


「いや、職員室に誰か1人でもいなかったら君たちは探し回って準備の時間を潰してしまうだろう?」

「それはそうですね。 ところで、なんで大規模な攻撃が町に来るって知ってるんですが?」

「あぁ、それは君の此処」


 そう言ってポケットを示す九十九。雪はポケットに手を突っ込んで、そこに何かある事に気が付いて取り出した。


「こ、これは…」

「盗聴器みたいなものだね」

「何時の間に…」


 雪が畏怖の念を覚えている時に、紫音が珍しく感情のこもった声で九十九に問いかける。


「九十九先生。 是非、それ私にもくれませんか…?」

「んん? 何に使うんだい?」

「……」


 無言で一瞬だけ雪に目を向ける紫音。それを見た九十九は二ヤリと笑って紫音に新品の盗聴器を渡した。


「まぁ、好きに使いたまえ。 それじゃ、私は避難誘導に行く。 そっちのユーヴァンス君も付いて来て貰えるかな?」

「…承知した」

「じゃあ、白石君と穂坂さんはこの町の高台があるのは知ってるね? そこに向かって欲しいんだ。 そこに、クラスの皆がいるはずだ」

『は…?』


 思わず疑問の言葉が口から洩れる。それは当然のことだ。何故、皆逃げずに高台に行っているのだろうか。

 その言葉になっていない疑問に、九十九が答える。


「君達も、彼らが如何に仲間思いかは知っているだろう? まだ短い期間なんだ。 まだまだ一緒に痛いと思ってるのさ」

「…紫音。 馬鹿だと思うのは、僕だけかな?」

「ん、そんなことない。 私も、馬鹿だと思う」


 そう言いながらも、口元には笑み。


「さて、それじゃあこれを渡して行かせて貰うよ」

「連絡器ですか」

「恐らく、ユーヴァンス君とミスティカさんは連絡をとれるだろうから、大規模攻撃の座標が解り次第、報告させて貰うよ」

「了解しました。 では、僕たちは先に」

「頑張ってくれたまえ」


 九十九のそんな声を聞いて、雪と紫音は高台を目指して学院から出て行った。それに続く様に九十九とユーヴァンスも住民の避難誘導の為に学院から外に出た。



 高台にて。

 雪は何処かで皆が避難してくれていれば、と思っていたのだが、そんな事は無く、見事にクラス全員が揃っていた。


「おい、2人が来たぞ!」

「よっし、よく来た2人とも!」


 そんな事がそこかしこから飛ぶ。雪と紫音はそのテンションの高さに若干戸惑った。なにせ、これから死ぬかも知れないのにも拘らず此処まで明るいのだから無理も無い。


「死ぬかもしれないのに、なんで此処にいるのか理由を聞いても?」


 そう問うと、代表として一人の男子生徒が出てくる。


「必要か?」

「一応」

「なら言っておいてやる。 俺等はお前等とあまり話した事も無ければ、関わった事も無い。 だがな、それ以前に俺たちは同じクラスの仲間だ、と、これが理由だな」


 その言葉に、クラス全員が頷く。その理由を聞いた雪と紫音の表情には笑みが浮かんでいた。


「馬鹿だな」

「ん、馬鹿」

「な、なんだとー!」


 そんな不毛な言い合いをしながら、雪は準備に必要な物を検討し始める。

 まず、絶対に必要なのは紫音とその魔導書だ。魔導書にため込んでいる生命力を紫音が操り放出する。これがネガティブシャドウの一撃を防ぐ方法だ。

 問題は、その一撃を増幅する為の媒体だ。恐らく、準備する物はこれだけだろう。


「皆、少しいいかな?」

「ん、どうした?」

「魔法を増幅させる媒体で一番良い物ってなんだと思う?」

「それが必要なのか…。 んーそうだなぁ…」

「あ、そうだ。 魔法陣とかいいんじゃない?」

「魔法陣…」


 魔法陣は生命力を消費して、魔法に乗せた思いを増幅させるためのものだ。つまり、今回の増幅にも使う事が出来る。

 だが、肝心な点がある。かなり増幅する一撃になるであろうことから、かなりの人数が必要になってくる。


「使えることは使えるけど、それって人数凄い必要じゃないかな」

「安心して。 4組がなんでも任せてって言ってるから」


 連絡器を耳にあてながらそう言う女子生徒。4組と言えば、以前校内案内の時に戦闘したクラスだ。


「勝つまでは死ねないからな、らしいよ」

「ははっ。 まだ、馬鹿な連中がいたか…」

「それを言うなら、うちの学院は皆バカだな。 勿論、全学年まで含めてな」

「え、それって…」

『おーい!』


 高台を取り囲むように立つ建物の屋上。その西側に百数人の単位で人が集まっていた。

 まさか、と思い周りの建物に目を向けると、同じように学院の生徒が見受けられた。


「せ、つ…」


 小さく呟く様に言葉を紡いだ紫音は、その体を震えさせていた。


「紫音…?」

「怖い。 失敗したら、皆死んじゃう」

「皆、それを覚悟で此処にいるんだと思うけど…」

「やだよ。 もう、誰も傷つけさせたくない…! でも、怖い!」


 その声は小さいものだったが、皆の耳にも確かに届いていた。


「紫音さん、だっけ? 大丈夫。 私達は、信じてるし、それを覚悟の上で来たの」


 優しく声を掛ける女子生徒。


「でも…」

「大丈夫。 まずは、自分を信じてみる事からやって見よう?」


 その言葉に、紫音ははっとする。


「…ん、ごめんなさい。 弱気になった」


 まだ震えて入るものの、その目には再び決意が固まっていた。


「よし、それじゃあ周りの集団に、合図を出したら魔法陣の構成を頼んでくれるか?」

「任せとけ。 拡声魔法は俺の得意分野だからな!」


 拡声魔法に得意不得意とかあるのだろうか、と思いつつも雪はもうすぐ来るであろう連絡を待った。


* * *


『人間共め…』


 上空、数万メートルの所にネガティブシャドウはいた。恨みがましそうに下を…町を見据える。


『待っていろよ。 今に特大の一撃で町ごと消し飛ばしてやるからな…!』


 今回の場合は、人間を滅ぼすのを生き甲斐としている部類のネガティブシャドウなのだ。

 そのほかにも、世界規模で破壊を目的とする部類もいるが、割とピンポイントで狙う魔物のほうが強かったりする。


『ふふ、はははっ。 魔法陣構成。 魔法陣拡大。 魔法収束…』


 ネガティブシャドウはこれから廃墟となるであろう町を見下ろして、魔法の収束を始めた。


* * *


「…っ! 上ね! …ユーヴァンス!」

『…座標は?』

「真上、上空よ!」

『…了解だ』


 連絡を受けたユーヴァンスは九十九に報告。その連絡を受けた九十九が雪に連絡を掛ける。


「っ! 雪です。 座標解りましたか?」

『あぁ。 ミスティカさんが言うにはどうやら真上らしいよ』

「真上…? --っ!!」


 雪の声を聞いた人は全員空を見上げる。すると、その上空には何時も無い物が存在していた。

 それは、巨大な黒い魔法陣。あんなものから魔法が放たれれば、下手すればこの世界を貫通して行ってしまうのではないか、と思うほど大規模な魔法陣が構成されていた。

 --だが、その普通なら絶望の状況でも誰も引きはしなかった。

 それどころか、それぞれが「この町を守り抜く」、「仲間を守る」、「皆で一緒にもう一度過ごす」といった強い想いを抱いて上空にある魔法陣を睨みつける。


「よし、上に向けて魔法陣構成!」

「解った。 すぅ…『総員に通たぁぁぁぁつ!! 上空に向けて、魔法陣を構成開始!!』」

『おおおぉぉぉぉっ!!!』


 上空の黒い魔法陣に対抗するかのように、光輝く白銀の魔法陣が現れ、どんどんその大きさを増して行く。


「雪。 私、成功させる。 だから、雪は、私を支えて…!」

「了解っ!」


 雪は意識を集中させ、魔法陣を構成している皆と、まだ町に帰っていないであろう瑠夏達を対象に、雪は自分のオリジナルの魔法を放つ。


「皆の想いよ、繋がり一つになれ!! 『 魂繋ぎ(ソウルリンク)』!!」


 雪から伸びた生命力の(ライン)は雪の対象として選択した全員へと延びて行った。

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