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自分への檄文

作者: 水橋 哩

 大抵の人間は、人の敷いたレールを走る。

 終着駅が「破滅」という名前の路線であったとしても、多くの人間は走り続けるだろう。彼ら、彼女らにとっては、走り続けること、それ自体が目的になってしまっている。

 走る行為に没頭するあまり、何処に向かっているかについて、いつの間にか忘れてしまっているのだろうか。

 身体を動かすのは、多くの人間にとって気持ちが良いものだし、自分の速度が速ければなおさらだろう。遅い人間を追い越していく快感は忘れがたいはず。その進む先が奈落の底であったとしても、忘れがたい刹那の快感は人を簡単に虜にしてしまい、その速度の速い順番で「破滅」へと到着できるだろう。

 

 もしかしたら「破滅」に向かっていることに気付いている人間も沢山いるのかもしれない。

 顔には表さないだけで「このレールを進み続ければ、私の身には破滅しか無い」と確信を得ているのではないだろうか。

 「破滅」へ到着し、身を滅ぼさないためには、立ち止まり、違うレールを探して乗り換える。もしくは、自ら新しいレールを敷いて、自らの望む目的地へと走りだすしかない。

 しかしながら、事はそう簡単には進まない。既に走り始めてしまった群衆の中で立ち止まるのは容易ではない。

 多くの人間は、立ち止まる人間を奇異の目で見るだろう。たとえ、自らの進む方向に疑問を抱いていたとしても、それを胸に一旦閉じ込めてしまって、立ち止まる人間をじっと見るだろう。

 大多数の人間と違う行動を選択する少数の人間に対して、世間の目は冷ややかだ。たとい、少数の行動が多数の救世主となるものであったとしても、多数は少数を蔑んで、蹂躙しようとするだろう。

 また、新しいレールを敷くためには、敷石、砂利、枕木などなどの資材が必要だし、労働力もいる。なにより時間がかかる。

 自らの望む目的地に進むために、新しいレールを敷くより、「破滅」へのレールに乗って、何も考えずにただ走っている方が楽なのは間違いない。

 その結末が悲しいものになると分かっていても、人間は怠惰に走りがちになる生き物だから……。


 以上のような現実の中で、私は新しいレールを敷きたいとを望む、と高らかに叫ぶつもりだ。

 もとより、手元には、敷石も砂利も枕木もない。多くの労働力もなければ、時間も限られている。人の命には、残念ながら限りがあるから。

 ただ、私はこのまま「破滅」へと辿り着く結末だけは、御免被りたいのだ。

 手探りで新しいレールを敷き、その結果として「破滅」へと辿り着いてしまうかもしれない。

 しかしながら、藻掻きもせず、足掻きもせず、ただただ多数に従って「破滅」へと進んでいく。それでほんとうに良いのだろうか。

 自分の愛する人が「破滅」へのレールを進んでいく姿を見て、どうして、そのままでいられるだろうか。

 私はそんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。

 

 だから、私は新しいレールを敷くことにした。

 今あるのは、その決意だけだ。他には何も持ち合わせていない。

 少なくとも、レールを敷くに足るだけの資源は持ち合わせていない。

 けれども、「なんとかなる」と楽観している自分がいる。

 つい最近まで、多数に従って「破滅」へと走り続けていた私だが、やっと立ち止まって、当たりを見回す余裕が出来たようだ。

 ゆとりが無ければ、人間は前しか見ず、先へ進むことしか考えなくなってしまう。

 やっと、立ち止まることが出来た。

 心なしか、世間の風は既に冷たいが、死んでしまう訳ではないから大丈夫だろう。

 

 「破滅」へのレールだって、元はといえば、先人が敷いたものだ。私にだって、多分、きっと出来るはずだ。


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