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【4】 終章

終章


結界の白光した壁は、ガラスを()いたように細かい破片かけらとなって降り注いだ。


 気づいたら、私はひとりで屋上に立っていた。


 周囲にはその破片と混同するかような綿雪が降っている。


「先輩っ……!」


 周囲を振り返ったが、そこには誰の気配もなかった。


「……先輩!」


 屋上の手すりからそのヒトを捜して身を乗り出す。


「げ」


 その瞬間、ものすごい大きな蛇と目が合ってしまった。


「なに、このデカいの……」


「華緒っ!?」


 弼の声がしたと思ったら、思い切り誰かに体当たりされ、派手に尻もちをつい

ていた。


「痛った……」


「華緒、華緒だよね!? 本物だよね!? 結界から出られたんだね!」


 泣きそうな顔で(どうしてこうこいつも芸達者なんだ)、弼が私の両の頬をつかむ。


「本物、本物だから、ちょっと退いて」


「華緒!」


 血相を変えて、聖さんも駆け寄ってきた。


「結界を出られたのかえ! 良かった、本当に」


「ひ、聖さん、血が」


 気にするな、と聖さんは額の血を拭う。彼女の血は赤い。真っ白な顔に、痛々しいほど。


 よくよく見れば、弼もまた思いのほかあちこち怪我をしていた。


 意外だった。このヒトたちがここまで傷つくなんて。


「なんでそんな」


「ちょっと気を使って戦ってたもんだから。……でもこれでもう校舎なんか気にせず、思いっきりやれるね!」


 眸を赤くして、弼は両手を蛇に伸ばす。


「吹き飛べー!!」


 巻き起こる暴風が、巨大な蛇を動かし始める。


「華緒、後ろから僕を支えて!」


 はい、と私は弼の背中を支えた。


 ガシ、と弼の両足のアスファルトが削られて飛んでいく。


「しっかり!」


 わかってる、と弼は顔をしかめる。


「くっそ、お、も、いー!!!」


 一緒に聖さんも弼の背中を支えてくれる。


「華緒、檮杌の手に、手を添えて」


 私は聖さんの指示に頷くと、慎重に弼の手に、後ろから自分の両手を伸ばした。


「がんばれ!」


 弼の手の中の風の中に、細かい無数の光が混じりだす。


 次の瞬間。


 轟音を立てながら、ものすごい速さで巴蛇は空のかなたに飛ばされていった。


「やっ……た!!」


 肩で息をつく。


 疲れたーと弼が屋上に大の字になった。


「華緒」


 聖さんに呼ばれて顔を上げる。聖さんの眼が細められる。


「何があったかはゆっくり聞かせてもらうが……ともあれ無事でよかった」


「聖さん」


 まさかこの綺麗な顔をまたみられるとは思っていなかった。


――もう会えないと思っていたのに。


 はっとして私はまた周囲を見回す。


 ――先輩はどこに?


『死なせない』 


 あの言葉は、どうして……。


私はふと、校門から校舎をこちらを見上げる人影に気づいた。


「あれは……」


 麻姑だ。


 周囲にばらまかれるような黒い影は、きっと(とう)(けん)の死骸だろう。


彼女は厳しい顔のまま、私たちの視界から消えていった。


 ふと腕が粟立つ。


不吉な予感がした。


――これまでになく、強い予感が。


「華緒、朝日だよ」


雪が止んでいた。


 名残の強風の吹きすさぶ中、遠い海の向こうから新しい太陽が昇り始めていた。 


                                  

                【見鬼眼 4】 了



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