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真冬の河童物語

作者: 水姫 七瀬

Twitterの以下の『ああ、見える!職場を探して雪の中を彷徨うカッパが低体温症で倒れて降り積もる雪に白く埋れて行く様を。雪上には最期の力を振り絞って書かれた「キュウリ一本88円」という文字……。聞くも涙、語るも涙の悲しい冬の河童物語。』というつぶやきから物語が始まりました。

良く書いたよあたし(苦笑)

そんなちょっと洒落になってないお話をお送りします。



 むかしむかし、というわけでもなくごく最近、ちゃんちという名の河童がおりました。

 ちゃんちは東の河童の国に住んでおり、悠々自適の生活を送っておりました。


 ある年、冷夏できゅうりが不作になりました。

 ちゃんちは毎年、冬の前にはきゅうりのぬか漬けをせっせとこしらえて冬に備えるのですが、今年はきゅうりが不作で冬を越えるのには厳しすぎました。


 なんとか冬を越えるための分を集めようとしますが、なかなか集まりません。

 結局秋が過ぎ、冬になってしまいました。


 ちゃんちは困ってとうとう人里までやって来ました。


「どこかにきゅうりはないかなぁ」


 人に見つかると大変な事になると思い、ちゃんちは紙でできた面妖な箱を被って隠れながら野菜が沢山陳列されてるのが見えた建物に入っていきます。

「おや? こんな所にどうしてダンボールが?」

 ちゃんちが被った紙の箱を見て、1人の男が近づきます。

「きっと誰かが片付け忘れたんだろう」

 男が紙の箱を持ち上げると、その中に居たちゃんちと目があいました。

「なんだコイツ!?」

「ふわっ!?」

 驚いたちゃんちは慌てて駆け回り、なんとか陳列棚に並んだきゅうりをつかんで逃げだします。

「待てこの化け物!」

 しかし、男の方が素早く、ちゃんちは捕獲されてしまいました。

 ちゃんちは建物の奥に連れて行かれました。

 そこで男が、自分がこの『すうぱあまあけっと』の店長であることを話しました。

「どうしてきゅうりを盗もうとしたんだ?」

 男がちゃんちに聞きました。

「こないだの夏が涼しくてきゅうりができなかったの」

 ちゃんちは自分が河童であること、今年はきゅうりが不作だったこと、人里ならあるかもしれないと思って出てきたことを話しました。

 男はちゃんちの話を聞いてうなりました。

「そうか……きゅうりを分けてやりたいのは山々だが、こいつは売り物だ。タダでやる訳にはいかん。お金で買ってもらうしかない」

「お金?」

 ちゃんちは首をひねってたずねると、男が平べったく丸い形のものを取り出しました。

「これがお金だ。これが1円玉、これが5円玉、これが10円玉、これが50円玉だ」

「これがお金……」

 ちゃんちが珍しそうにお金を見ました。

「お金どうすればもらえるん?」

「人間の社会で働かなければ手に入らないものなんだ。ちなみに今のきゅうりの相場は一本58円なんだよ」

 なんということでしょうか、実は人里でも今年はきゅうりが不作で『いんふれ』というものが起こって値段が二倍以上になってしまっているとのことでした。

「おじさん、ちゃんちここで働きたい!」

 ちゃんちは頭を下げました。

 しかし男はきまずそうな顔をして首を縦には振りません。

「申し訳ないな。うちは従業員がいっぱいで雇ってやれないんだ。他を当たってくれないか?」

 ちゃんちがそれを聞いてがっくりと頭を下げました。

「そんなにしょげるなよ。いいところ紹介してやるからさ」

 男はそう言って『はろうわあく』という施設への地図を書いて手渡してくれました。

「ありがとう、おじさん。ボクはたらくよっ!」

 意気揚々として手を振ってちゃんちはおじさんとわかれて『はろうわあく』へと向かいました。


 『はろうわあく』に着いたちゃんちは、さっそく受け付けなるところに行ってはげた男に話しかけました。

「おじさん、こんにちは。ボクにお仕事ください」

 はげた男はちゃんちを一瞬驚いた顔で見ましたが、平静に戻って言いました。

「失礼だが君は人間には見えないんだが?」

「ボクは河童なんだな、ちゃんちだよ」

「そうか、ここは人間専門なんだが、良いだろう。君はなにか特技は持ってるかい?」

「特技? えっと、ちゃんち泳げる!」

「いや、そういうのではなくってね。例えば『がいこくご』が得意とか、『こんぴゅうたあ』が使えるとかね」

「『がいこくご』? 『こんぴゅうたあ』?」

 ちゃんちは首を捻りました。

 生まれてこの方、『こんぴゅうたあ』どころか『がいこくご』というものも聞いたこともなければ見たこともありません。 

「君は計算をすることができるかい? もしかしてできないとか?」

「わかんないけどそろばんなら見たことあるっ!」

「使えるのかね?」

「わかんないよ!」

「読み書きは?」

「字は書けるよ?」

「じゃあこちらの用紙に必要事項を書いてくれたまえ」

 一枚の紙をはげた男が手渡しました。

 ちゃんちは受け取った紙を見て首をひねりました。

「知ってる字…違う……」

 河童と人間の間に基本的に交流は有りません。

「と言うことは読み書きもできないのか」

 はげた男は手元の紙の束をめくってはため息を吐きます。

「参ったな、勧められる仕事が手元にない」

 ちゃんちがそれを聞いて再びがっくりと頭を下げました。

「おねがいなんです。きゅうり無いと死んじゃうよ?」

 はげた男は困りました。

 生きるか死ぬかの瀬戸際とまで言われたらはげた男も少しは考えました。

 しかし、どう考えても計算はできない、字も読めないでは仕事を紹介することができません。

「やっぱり申し訳ないが、どうやってもここでは仕事は紹介できないよ」

「だめなのか……」

 はげた男も一生懸命検討してくれた上での言葉だと感じたちゃんちは、申し訳なさそうに頭を下げた。

「もし本気で働きたいならせめて字が読めるように勉強してくるか、自分から足を運んで就職活動するしかないよ」

 はげた男が考えた末のできること、それはこのアドバイスだけでした。

「ありがとです。お世話になりました」

 ちゃんちは丁寧にお礼を言って『はろうわあく』を後にしました。


 仕事先を得られなかったちゃんちは、さっそく勉強しながら職場を探すことにしました。

 東へ行っては職を探し。

 西へ行っては職を探し。

 南へ行っては職を探し。

 北へ行っては職を探し。

 毎日毎日、朝から夜まで歩き通して職を探し、夜は勉学に励みましたが、ちゃんちはそれでも職に有りつけません。

「ああ、誰か……なんでも良いからボク働かないと……」

 しかし、ちゃんちは外を出歩く時には、人には礼儀正しく、困った人には手を差し伸べて助けます。

 そんなちゃんちは人里で密かに人気を集めていくのですが、世は不況の真っ只中。誰もちゃんちを雇ってはくれませんでした。


 やがて時は過ぎて、冬に入ります。

 きゅうりの時期はかなり過ぎ、値段もどんどん上がっていきます。

「はあ……寒いなあ……おしごと……見つからないなあ……」

 ちゃんちは『すうぱあ』の陳列棚を見て、寒さで白くなったため息を吐きます。

 きゅうりの値札には一本80円と書かれています。

「ああ……一本80円もするのか……。仕事が見つからないのにどんどん値上がっていく……」

 この頃、ちゃんちはとうとう蓄えのきゅうりのぬか漬けに手をつけ始めました。

 そうでもしないとひもじくて倒れてしまいそうでした。

 ちゃんちは残りのきゅうりのぬか漬けを数えてはため息を吐いて、仕事を探し続けます。

 さらに時間が過ぎ、見上げた空から雪がちらちらと降り始めました。

 河童は寒さが大の苦手で、ちゃんちの動作はどんどん鈍くなっていきます。

 さすがの人里の住人達もちゃんちが気の毒になって来ましたが、下手にほどこしもできない状態です。

 誰もが悲哀の目をして視線を投げます。

「うう……きゅうり……せめてきゅうりがどこかに落ちていないかなあ?」


 ちゃんちは限界が見えて来ました。

 もうぬか床にはきゅうりが2本しかありません。後数日で限界でしょう。

 最近は食べる量も極力ひかえて体重がどんどん落ちて、痩せこけていきます。

 それでもちゃんちは職を探します。

 北へ行っては職を探し。

 南へ行っては職を探し。

 西へ行っては職を探し。

 東へ行っては職を探し。

 どんどん上がるきゅうりの値札に書かれた数字を見て懸命に雪の中を歩いて職を探します。


 そしてとうとう、ぬか床のきゅうりは底を突いてしまいました。

「ああ……もうきゅうりが一本もないよ……ボクはどうしたらいいんだろう?」

 途方に暮れて彷徨うちゃんち。

 とうとう『すうぱあ』の前まで来ました。

「せめて、きゅうりの一本でももらえないかなあ……」

 ちゃんちは淡い期待を胸にいだきました。

 しかし、首を振って自制心を働かせます。

「おじさんにはご恩がある、恩を仇で返しちゃだめだよ」

 ちゃんちは最後の理性を振り絞って、きゅうり泥棒を思い止まって踵を返しました。

 ちゃんちは小さな肩を震わせながら雪道を歩きます。

 最近は雪が激しく降るので、戸を叩いても誰も外に出て来てくれません。

「誰か……ボクにお仕事ちょうだい……」


 やがて激しい空腹感でちゃんちの身体がふらつきました。

 何が切っ掛けなのか分かりません。

 雪に隠れた石に躓いたのか、それとも雪道に足を取られてもつれたのか。

 降り積もった雪に頭からまっすぐ倒れこみました。

「ああ……もう限界だよ……きゅうり……きゅうりが食べたいよ……」

 空腹と疲労による限界を迎えたちゃんちは起き上がることができません。

 そんなちゃんちの上には無情にもしんしんと白い雪が降り積もっていきます。

「最後に……きゅうり……食べたかった……」

 最後の力を振り絞って、先ほど見たスーパーの陳列棚に並べられたきゅうりの値札を思い出します。

「きゅうり……一本88円……か……」

 雪上には最期の力を振り絞って書かれた「キュウリ一本88円」という文字……。

 ちゃんちはそれっきりぴくりとも動かず、まぶたを開けることも有りませんでした。


 時は過ぎて一週間後、激しい降雪も収まり、町の人が雪かきをし始めます。

 そして、『すうぱあ』の店長が店の前の雪かきをしていると……。

 ああ、ちゃんちが氷のようにかちかちになって埋もれているのが発見されました。

「ああ、ちゃんち……どうしてこんなところで……」

 『すうぱあ』の店長は凍てついたちゃんちを涙を流しながら抱き上げました。

「こんなことならきゅうりの一本や二本、分けてあげればよかった……」

 人里の住人達も次々とこの知らせを聞いて涙を浮かべました。

「あれだけ親切にしてくれたんだ。私達もお返しにきゅうりの一本でも上げれば良かった」

 後悔先に立たず。

 住人達は心優しいちゃんちの死に心を痛め、一つの物語を作り、『親切な者には種族の垣根無く恩を返すべし』と後世に語り継いでいきました。



――真冬の河童物語。

――聞くも涙、語るも涙の物語。

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。


皆さま最後まで読んで頂きありがとうございます。

そしてtwitterのフォロワーさんであるちゃんちさんありがとうございます。セリフを全てチェックして頂きました。

とりあえず言っておきますが『ご本人から名前の引用の許可は頂いております』。

決して本人に無許可で使ってるわけではないことを明言しておきます。

因みにこの『真冬の河童物語』の注意文は、

『作品上の登場人物の物語は実際の人物とはそこはかとなく関係あるかもしれません。

ですが関係があるかもしれないのは名前だけです。

それ以外の全ては多分フィクションです。』

となります。

そこの所をご理解ください(ぺっこり

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[一言]  Twitterではお世話になっています。  きゅうり泥棒を思いとどまり、そのまま力尽きていくところに「ちゃんち」の良心を窺い知ることができます。  (どちらが提案されたのでしょうか?) …
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