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Schaufensterpuppen

作者: パンター

私自身はそんなに音楽には詳しくありません。多少建築家には興味があって知っている程度ですので大目に見てください。

 クラフトワークはYMOよりも先に世界的にテクノポップを演奏した先駆的なバンドである。

 今この部屋にはそのバンドの曲が流れている。

「The Robotsという曲だよ。知らないとは思うが」部屋の主がおれに説明する。

「そうですね。勉強不足ですいません。時代が違うもので」

 そのバンドが活躍したのは70年代後半から80年代らしい。平成生まれのおれが知るはずもない。

 8ビットのゲーム機が出すピコピコ音でできた音楽だと言ったらわかるだろうか。それに電子音化した肉声が重ねられている。極めて単調で無機質な音楽だった。それは恐らくそこを意図して作られたのだろうと推測される。

「そこがいいじゃないか。感情的な音楽は好きではないんだ」

「そうでしょうね」

 そうだろうとも。この部屋の趣味からしてそれが出ている。とても質素な印象を受けた。最低限の生活感しか感じられないのだ。それは彼の人生観が伺えるものだった。単純で質素。彼のこだわりはいかなるものだろうか。それを尋ねに来たわけなのだが。

 しかし家具はシンプルデザインだがセンスのいい輸入品であることはわかった。マルセル・ブロイヤーがデザインした椅子とテーブルの量産品。壁にはワシリー・カンディンスキーの絵画のコピー。オリジナルではないもののその流行を追わないスタンスで構築されたインテリアセンスは孤高を気取るアーティストにありがちだがここは褒めておくべきである。

 彼は世界で屈指のクリエイターで、おれは彼にインタビューに来たフリーのライターだからだ。

「今猫巻き団子が焼けたところだよ。どうだね君も?」

「中身は干しぶどうですよね。なら頂きます」

「よく分かっているね。午後のティータイムにしよう。あとスコーンも用意してあるから」

 あれ、でもそれでは英国風なのでは?

 彼をやはり過大評価していたようだ。ただの欧米被れなのかな。

 まあそこを突っ込むのが今回の仕事ではないのだから気にしてはいけない。へたなことで機嫌をそこねてはここに来た意味が無い。インタビューに専念すべきだ。

 用意された紅茶を飲みながらおれはインタビューの機会を伺っていた。

 がそれは彼の方から用意してくれた。カップを置いてこちらを向き話しかけてきたのだ。

「さて、今日はどういったことを聞きたいのかな」

 まずは差し障りなく。

「今回の作品ですが、今までの作品とは異なるテーマ性を感じるのですがどういったコンセプトが込められているのでしょうか?」

「うむ。そうだ。よく気がついたね。今回のはあれだ。あれ。アバンギャルな」

「ギャルドですね」

「そうギャルドなやつだ。それを加えてみたのだよ」

「はあ?」

 本当かよ。

「前回の作品は原点回帰のアーキタイプを近未来的なケイオスモデルにフュージョンさせたコスモポリタンなセクシーさを感じさせるロハスへのアンチテーゼがテーマでしたが、今回はアバンギャルドさを追求したということでよろしかったですか?」

「うん。まあ、そんなものだな」

 まあこんなものだろうな。結局流行を作り出すのはおれたちマスメディアだ。適当に格好良さ気な横文字言葉で煙に巻いてしまえば自称流行に敏い連中が飛びつく。だいたい芸能人にお付きのスタイリスト連中だ。芸能人はスタイリストに任せきりのセンスのかけらもない連中だから着せ替え人形のように着せられてテレビに出る。それでさらにそれを見た自称ハイセンスな一般人が飛びつく。で物は流行してゆく。

 おれたちはただ煽ってやればいいのだ。それで収入を得ているのだから何ら恥じるところはない。踊らされる奴らが愚かなのだ。

「では来月の雑誌で掲載させて頂きますので。作品は撮影用にお借りしていきますね」

「あ、ああ。大事に扱ってくれたまえよ」

「はい。分かっております」

 おれは特に何の変哲もない(とおれの目には見える)作品を預かって作家の家を出た。

 そういえばこの家もフランク・ロイド・ライトの落水荘を真似て建てられたらしいがとても醜悪な気がした。人の趣味に口を挟むべきではないと思うのだが、思うだけなら誰も傷つかないから問題無いだろう。

 そしておれの手には宝石を散りばめた箱に入れられた作品がある。Schaufensterpuppenである。


 


ちなみにSchaufensterpuppenはおしゃぶりのことです。

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