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恋する乙女は肉食獣

携帯が潰れました…。新しい携帯って文字打ちにくいなぁ(; ´∀`)

床に伏したままだった花太郎を渋々座席に着かせてすぐに朝のホームルームが始まった。

「柚木君、無断早退はもうしたら駄目ですよー?」

と小さくて可愛らしい我がクラスの担任、伊月しほり先生に言われた時はまた赤面してしまった。恥ずかしくてまた早退したかったが、二日続けてともなれば幾ら伊月先生でも怒るだろうからとりあえず隣に座って――無言で机に伏したままである――花太郎の足の甲を爪先で踏みつけて何とか耐える。

「っ……ぃ…た…!」

「田中君、先生がお話ししてる時は騒いだら駄目ですよー?」

「……は、はい」

世の中とは不条理なものである。




今日は授業が無かった。入学して二日目なので当たり前と言えば当たり前な話である。

「柚木君」

「光君」

そんな訳で帰り支度をしていると三木原姉弟が声を掛けてきた。

「何だ?」

「親睦会でもしようと思ってね」

「親睦会なんて大層な名前だけど、実際はお昼ご飯食べてカラオケかボーリングって予定よ」

親睦会か…。

中学生の時はあんまり学校の帰りに遊んだり、というのが無かった。

何故か?決まっている、校則で禁止されていたからだ。

「うん、行こうか」

首肯しつつちらりと長身痩躯の男、幸哉の方に目を向ければ、丁度あいつは鞄を手に教室を出ていく所だった。

「那由多っ」

少し離れていたので語気を強めて呼ぶと、幸哉はゆっくりと振り向き、不思議そうな表情で己の顔を指差した。

俺がそれにうん、と頷くと幸哉は近くまでやってきた。

「どうか、した…?」

「親睦会やるんだ。後ろの二人と」

そう言って振り返ると双子は笑顔で揃って手を振っていた。やっぱり双子だ。

「良かったらお前も行かないか?」

幸哉は暫く考え――真顔で数秒間不動だったので少し恐かった――うん、と頷き

「僕も、行きたいな…」

にっこりと微笑んだ。

今日一日だけで充分分かった事だが、幸哉は三白眼な上に猫背で無口。正直言って不気味な分類に入るだろう。

しかし、幸哉の手入れやセットとは無縁そうな長くて黒い髪はサラサラで、目付きを除けば顔立ちも悪くないのだ。

そんな幸哉の満面の笑みは破壊力が高かった。ギャップも手伝って不覚にもドキッとしてしまった。

後ろの双子も目を丸くしつつ幸哉を凝視していた。

「ああ……いい」

とか

「可愛い、かも」

とか、人のまばらな教室のあちこちから聞こえてきた。恐るべし、ギャップ萌えといった所か。

「じゃ、四人で行こうか」

と言う千佳の台詞で気を取りなおした俺は咳払いをし――違和感に気付いた。

「花太郎が居ない…?」




クラスメイトに聞いてみた所、花太郎はホームルームが終わってすぐに、しかも俺に気付かれない様にこっそりと帰ったらしい。

まぁ、四六時中一緒に居る訳でも無いし側に居てくれないと困る訳でも無いので特に気にしないでおく。

そして俺は学校の最寄り駅周辺の繁華街まで来ている。

この街は大都市という程では無いがそれなりに栄えている。都心へも乗換え無しで行ける駅の正面から伸びたメインストリートは若者が寄り道して楽しむには充分な店のラインナップだ。

「そうそう、昼飯何処で食べるんだ?」

隣を歩いていた千佳に尋ねた。

それにしても背が高い。聞いてみた所、千佳の身長は188センチ。由佳は179センチ。幸哉は何と191センチらしい。

三人とも俺より最低でも10近く背が高いので何だか四人で歩くのが憂鬱だ。畜生、お前ら皆日本バレーの未来でも担ってろ。

「―――に行こうとしてるんだ。新しく出来たらしく…って、柚木君?聞いてた?」

まるで聞いて無かったな。

「だから、新しく出来たハンバーガー屋に行こうって話。チェーン店じゃないから少し値は張るけど美味しいって評判らしいね」

「私も行った事無いから行ってみたいんだけど、光君は嫌かしら?」

「別に。俺も千佳の話聞いて行きたくなったしな」由佳の問いに答えつつ幸哉に視線を向けると幸哉はいつもの無表情で頷いた。別に構わないらしい。

それからメインストリートを歩く事数分。目当てのハンバーガー屋に着いた。

外装は喫茶店に似ている。店内も落ち着いた色彩に暗めの照明と、チェーン店とは駆け離れていて、一見してハンバーガー屋には見えない。

フロアの面積はあまり広くはなく、カウンター席が15席。4人用のボックス席が2つと、いかにも個人経営の香りを漂わせていた。

「いらっしゃいませ。四人様でよろしいでしょうか」

「はい」

「御案内します。こちらの席へどうぞ」

私服にエプロン姿の女性店員に案内され席につく。俺の隣には幸哉。正面には由佳、その隣は千佳だ。

「ご注文がお決まりになりましたらこちらのベルを鳴らして下さいね」

人数分のおしぼりと水の入ったグラスを置くと店員は奥に引っ込んだ。

「どれどれ…」

テーブルにあったメニューを手に取った。

ハンバーガー 350円

チーズバーガー 380円

BLTバーガー 420円

その他に何種類かのハンバーガーがあるようだ。

確かに割高だが、メニューの写真を見るからにサイズはチェーン店のそれよりも大きい。

ちなみに+250円でドリンクとポテトが付くらしい。値段は高いがこの辺はチェーン店と同じ様だ。

「んー…僕はハンバーガーかな。単品で良いや」

千佳がオーダーを決めると由佳も

「私も同じで良いわ」と言い、幸哉も

「同じの」と言った。

「じゃ、俺もハンバーガーにするか」

先に言っておくと、別に三人とも同じ物にしたからハンバーガーにした訳じゃ無いぞ。

「…何、言ってるの?」

「いや、別に」

うっかり口に出していたらしい、幸哉に突っ込まれた。地獄耳め。




オーダーを済ませ店員がまた奥に引っ込んでからずっと由佳が無言で俺に視線を向けている。

目が合うと由佳は微かに微笑み、そしてまた視線を俺にぶつける。少し恥ずかしかったが何も言わなかった。

すると由佳は身を乗り出し、更に顔を近付け、下からのアングル――いわゆる上目遣いである――で見つめてきた。

艶のある由佳の黒く長い髪から良い香りがする。シャンプーの香りだろうか?

そんな事を考えながら俺は由佳の額に人指し指を沿え、軽く押し退ける。

「近い。しかも凝視する意味が分からん」

渋々といった風に、額をさすりながら元の体勢に戻った由佳は「観察よ、観察」と言った。

…何か恐いな。「由佳は好みの男の子を見付けたらそれはもう…執拗に獲物を狙う肉食――」

「…千佳?」

寒気がした。

直前まで饒舌だった千佳は由佳の一言で萎縮してしまい、明後日の方へと視線を向けている。

幸哉は無表情。内心どうかは分からないがな。


「何て言うのかしらね…顔も好みなんだけど、そう、雰囲気が好みなの」

急に由佳が語り始めた。

「ツンツンしてる割には意志が弱い所とか、照れ屋であがり症な所とか、思わず虐めて凹ませてから慰めたくなるのよ」

俺の好きな所を挙げていく由佳の顔は恋する乙女――ではなく、さながら肉食獣染みた笑顔だった。

「出会ったばっかで良く見てるんだな…」

犯罪染みた笑顔の由佳だが、言っている内容は的を得ていた。不本意だが、由佳の観察力は一級品だ。

「突っ込み所が違うよ、柚木君…」

「…恋、してるんだね」

幸哉、良い感じの笑顔で勘違い発言は止めてくれ。それと千佳、突っ込みを入れるならもう少し声を張れよ?まぁ、由佳が恐いのは分かるがな。

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