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転生先で幸せになれると思ったけど暗殺者になってしまいハードな人生を送っています

作者: 惑城鍵
掲載日:2026/02/02

 月のない空には数えきれない星々が輝いていた。ローブのフードを深々と被った女ケイティ・ションオアは星空を見上げることなく村を歩いていた。ケイティの視線の先には明かりのない家があった。村の外に人影はなく、家屋からは声すら聞こえてこない。聞こえるのは虫の鳴き声だけであった。ケイティは立ち止ると右手を顔の横あたりに構えた。ケイティはこれから殺す人数が何人かは把握していなかった。ケイティが王国から指示を受けたのは村長及びその一族の暗殺であった。


 ケイティは軽く右手に力を込める。すると右手の上に火の玉が現れた。視線先には村長宅がある。右手の火の玉をぶつければあっという間に村長宅は焼け焦げるだろう。ケイティは右手を後ろに引いた。その表情に涙などは当たり前のようになかった。

 引いた右手をボールを投げるように前に出した。火の玉は右手を離れ一直線に村長宅に飛んでいく。火の玉が村長宅に着弾する、爆発音が響いた。村長宅は一瞬で火に包まれていく。ケイティは村長宅が燃えたのを確認すると現場から離脱した。


 村の外まで移動したケイティはフードを脱がないまま。空を見上げた。前世とは違い星空で埋め尽くされた空もこの世界では珍しくはない。ケイティは村の方を見る。今いる場所は村からそれなりに走らないとたどりつけない場所だったが、赤い火柱が目視できた。今頃村はパニックに陥っているだろう。ケイティは火柱の何の感情もない瞳で見据えながら地面に腰掛けた。


 前世では大学卒業後、就職した飲食チェーンで過重労働を強いられた。最終的には退職する前に過労で死んでしまった。そして気づけばこの世界に貴族の娘、ケイティ・ションオアとして転生していた。


 最初は貴族という地位にケイティは喜んだ。だが兄妹が多く、末っ子のケイティの立場は微妙であった。転生者の特典なのか火魔法の扱いにおいては国でもトップクラスであったケイティは親の命で王国の魔導士として仕えさせられた。この世界でのケイティは職を選ぶことすらできなかった。だが不幸はそれだけではなかった。


 魔法の腕を国に買われてしまい、暗殺者としての訓練を受けることになった。その訓練は地獄であり一年間苦心する日々が続いた。そして訓練が終えてからケイティは国の命を受けた国の不利益になるものを殺害し続けていた。


 だがそんな日々もしばらく終えようとしていた。死んだが村長の代わりにケイティが村長代理として村の運営を担うことになっていた。子ども時代からそれなりの教育を受けていたことが理由で村長代理に国から指名された。ケイティは立ち上がると村長代理としての日々が平穏なものであることを願いながら近くに張ったテントに向けて歩いて行った。


 数日後、ケイティは再度村を訪れていた。元村長宅は村の入り口から見てかなり奥の方にあったが、丸焦げいるのがはっきりと目視できた。村の入り口には村側の迎えらしき人物である老爺が一人立っていた。


「あなたが村長代理のションオアさんですか?」


 老爺が尋ねてきた。


「はい、わたしが今回国から派遣されたションオアといいます」


 ケイティは笑みを作ると老爺へと手を伸ばした。老爺はケイティの手を握った。握られた老爺の手には全く力が込められていなかった。


「カニングといいます。お忙しい中このような村に来てくれてありがとうございます。事情は聞いていると思いますが何分、村長が火事で急遽亡くなったところで村を運営するものが必要でしたので」


「事情は聞いております。なんでも村長宅が火事になって村長以外にもその家族まで亡くなられたとか」


 ケイティは握られていた手を解いた。


「はい、村長の奥さんにお子さん、そしてお孫さんまで亡くなりました。」


 カニングはケイティを見ながら答えた。その後すぐに地面の方に視線を傾けた。ケイティはカニングの話を聞いて安堵していた。生き残りがいれば国側にとって面倒なことになるからだ。森を開拓して新たな都市を作りたい王国側と自然を保護したい森の所有者である村長の間で溝ができていた。そこで国側は村長及びその一族の暗殺をケイティに指示した。村長を暗殺し、その親族がいなくなれば所有権を引き継ぐものはいなくなる。そうなれば自動的に森の所有権は国家に帰属する。


「悲しい事故でしたね。まさか全員亡くなられるとは。この村は代々村長の一族が治めてきたそうで村への影響も大きそうですね」


 ケイティがそう言うとカニングが顔を上げた。カニングは見開いた目でケイティを凝視していた。


「知らないのですか? 村長のお孫さんが一人だけ生存していたのです。なんでも火事が起きた瞬間に外に逃げ出すことができたそうで、無傷らしいですよ」


「そうなんですか」


 ケイティが言った。ケイティは表情を乱さないようにしながらも歯を食いしばっていた。生き残りがいるとは初耳であった。


「セレストという子なのですが、まだ十五歳にもなるので村を引き継ぐには若すぎます。あの子が成人するまでの間は他の誰かが村長代理を務めるしかありませんな」


 カニングの言葉に対しケイティも「その間は我々国側もしっかりとサポートさせていただきます」としか返事ができなかった。ケイティにとってセレストという存在は緊急事態であった。


「国からの指令は一旦監視せよか」


 ケイティは食卓の席に座りながら一通の指令書を読んでいた。村に赴任してから数日が経っていた。指令書の差出人は国だった。内容はセレストの件であった。セレストを暗殺すべきところだ。しかし時間が経たないうちに再度死者が出ては村人から謀殺を疑われかねない。現時点では監視するしかなかった。


「監視にせよ、暗殺任務から当分離れられる。しばらくはゆっくりさせてもらうさ」


 ケイティは席から立ちあがるとベッドに横になった。暗殺業で疲れ果てたケイティは時間も経たないうちに寝息を吐き始めた。


「ケイティさん、書類の整理を終えましたよ」


 黒髪を一つの束にした少女が言った。席に腰掛けていたケイティは書類から声の主へと視線を切り替えた。ケイティの座る席の木目の机には書類が山積みとなっていた。ケイティ宅の書斎の壁と床は塗料を塗っただけの木の板で作られていた。室内には机以外にチェストと本棚がそれぞれ一台ずつあった。いずれも厚みのある木の板を材料にしている。三年以上使っているが、塗料が少し剥がれかけていた。本棚にはあまり本は収められてはいなかった。


「ありがとう、セレスト。これでセレストの仕事はひと段落かな」


 ケイティは少女を見ながら言った。その表情はとても柔らかった。ケイティが話している少女はあの村長代理の孫娘であるセレスト・フローリーだった。


「セレストさんはまだ仕事続けるのですか? いくら代理とはいえ少し休んだらどうですか」


 セレストは山積みの書類を目にやった。ケイティはセレストの視線の先にちらりと見るとまたセレストの顔に視線を移した。


「村長代理としてこれくらいはこなさないと村民の役には立たないからね。それにしてもセレストと出会ってもう三年も経つのか」


「三年も村長代理ってケイティさんも物好きですよね。こんな辺鄙な村で。だって貴族の出なんでしょ。王都で暮らすっていう選択肢もあるのに」


 セレストが言った。ケイティは机を人差し指で数秒、なぞってから口を開いた。


「王都にいても幸せとは限らんよ。わたしにとっては王都よりこの村のほうが居心地がいいさ」


「わたしは王都で暮らしてみたいですけどね」


 セレストが言った。ケイティは下唇を浅く噛んだ。それから瞬きを二、三回してからセレストに視線を移した。


「王都は辞めときな。君はこの村で暮らす方が幸せだよ」


「確かにこの村の人たちは身寄りがいないわたしに優しいし、ずっとここで生きてた方がいいのかな」


「そうした方がいいさ」と言うとケイティは背もたれに背中預けた。


「それではケネティさん、わたしはそろそろ帰りますね」


 セレストは微笑みを見せながら一礼すると、外へと出ていった。


 ケネティは扉が閉まるを確認すると天井を仰いだ。


「王都なんて不幸の塊さ。わたしももう戻りたくない」


 ケネティはため息を吐いた。それから間を置かずに机の書類を手に取ると、残っている作業に取りかかった。


 ケイティはベッドに腰掛けながら国からの書簡に目を通していた。ケイティ宅は風呂とトイレを除けば、部屋は書斎と居間だけしかない。それでも居間は家族で暮らすには十分な広さは確保されていた。


「暗殺指令……。もはや殺すしかないのか。あの上層部にしては気ままに待ったほうか」


 ケイティは書簡をベッドに投げ捨てた。書簡には三つ折りの跡がついていた。書簡には指令を確認後、燃やして廃棄するように指示が記載されている。ケイティは上半身だけベッドの上に仰向けになった。


「この生活からわたしは抜け出したくないのに」


 ケイティは右手拳でベッドを殴った。拳はベッドにめり込み、誰も気にしないような音が立った。


「いっそのこと逃げ出すか。別の国で魔法など使わずひっそりと生きたい。この世界でわたしの火は目立ちすぎる」


 ケイティは天上を見上げた。開いた木窓から太陽のない曇り空が伺えた。

 

「どうしたんですか?」


 ケイティ宅の前でセレストがケイティに尋ねた。ケイティは自分の家を背にして立っていた。無数の星々が二人を見下ろすが月は存在していなかった。そして周囲には明かりというものはなかった。


「いや昔話がしたくなってな」


 ケイティは言った。ケイティはぼんやりと見えるセレストの瞳を直視しようとはしなかった。


「昔話となるとわたしたちが初めてあった三年前のことですか?」


「ああ、そうだよ。あのときのことを語りたくなったんだ」


 ケイティはぎこちない笑みを浮かべながら答えた。


「あのときのわたしの第一印象最悪だったでしょ? 親も親族も全員なくなって精神的に憔悴しきってたので」


「まあ仕方がないことだよ。家族全員なくしたんだ。誰だってそうなるよ」


「けどわたし一人だけ無傷で生き残って、亡くなった家族に対して罪悪感すら抱きました。今でこそケイティさんや村の皆さんのおかげで辛うじで前を向いていられますけど」


「セレストはよくやってるよ。わたしの仕事の補佐もしてくれているし、指導者としての才能があるよ」


「わたしは村長なんかにはならないですよ。村の人たちもおじいさんのあとを継ぐように言ってきますけど、わたしからしたら、ケネティさんこと正式な村長になるべきですよ」


 セレストが言った。ケネティは目を瞑り首を横に振ると口を開いた。


「わたしはあくまで『代理』に過ぎない。ほかの誰かが村長をやるべきだ。まあもっとも君がセレスト、君が村長をすることはないけどね」


「ないって、セレストさんはわたしが村長に向いていないと思うんですか?」


 セレストは首を傾げながら尋ねた。ケイティはセレストと視線を重ねると答えた。


「君は明日いないから村長にはなれない」


「何言ってるんですか? わたしは明日もケネティさんとまたこうやってお話してますよ」


 セレストは息を飲み込んだ。その目を大きく見開いていた。セレストはケイティを凝視していた。ケネティは無表情で返事をした。


「君に三年前の事実を教えよう。君の家に放火したのはわたしだ。この火の魔法を使ってね」


 ケネティは話しながら、右手の上に火の玉を出現させた。その瞬間、セレストは無言で首を何度も横に振った。セレストはケネティを見ながら何度も後ろに下がっていく。ケネティは火の玉を発生させたまま話を続けた。


「わたしは国の暗殺者でね。三年前国からの指示で君たち一族を殺害するように指示を受けた。全員火事で死亡したと思っていたけどうっかり君を殺し損ねた」


「嘘ですよね? ケネティさん」


 セレストは後ろに下がりながら言った。セレストの呼吸は乱れていた。


「いや本当さ。この一帯の森を開拓したい国側とそれに反対していた森の所有者である村長の間に亀裂が走っていたんだ。だから国は村長の排除を決定した。村長の親族が生き残っていると所有権が相続されるから親族もまとめて殺害するように依頼された」


 ケネティは火の玉を後ろに投げ込んだ。火の玉が当たった家は一瞬にして燃え上がり始めた。セレストは足を滑らして尻を地面につけてしまう。そして赤き家を唇を震えさせながら見詰めていた。


「なんで、三年間もわたしと一緒にいたんですか? すぐに殺せばよかったのに」


「生き残った君のすぐに殺せば村の者たちに謀殺だと気づかれるからね。さてこれから君はあの家で死んだことにする」


 ケネティは走り出すと一瞬でセレストに目の前まで接近した。そして腹部分に拳を一発叩きこんだ。セレストの体中から力はなくなり、瞳を瞼に覆われた。セレストを抱きかかえたケネティは数歩家の方に歩いた。「さようなら」とだけセレストに声をかけると、セレストを火の中に放り込んだ。セレストはケネティが燃えるだけ目視すると村から走って逃げ去った。


 村から離れてケネティは森の中にある道を走っていた。既に村は見えなくなっていた。


「どうせあの子は別の者に殺されていた。だからこれで良かったんだ。それよりこの先どうするか。とりえあず隣国に逃げるか。」


 ケネティが独り言を呟いた。空からは星が消え去っていた。ケネティは足を止めた。数十メートル先に誰かが立っていた。正面の人物はケネティに歩きながら近づいてくる。ケネティは腰のベルトに装着してあったナイフケースに手を回す。人物はケネティの数メートル先で歩みを止めた。その人物は金髪の男だった。


「ケネティ無事にあの孫娘は殺害できたか?」


 金髪の男は言った。ケネティはナイフケースから手を離し答えた。


「ああ。わざわざ使者まで出して国は確認しに来たのか」


 ケネティは男のつま先から頭の先まで視線を巡らせた。


「まあ三年も殺害してない人物だ。念のため用心はするさ」


 金髪の男は右手を後ろに回した。ケネティは「そうか」と言葉を発すると再度歩き出した。そのまま金髪の男の横を通り過ぎると「先に王都に戻っている」とだけ言い残し走る体勢をとった。だがケネティが走り出すことはなかった。ケネティは胸側から地面に倒れこんだ。背中から心臓にめがけてナイフが刺されていた。


「今回の任務はあの孫娘とお前の始末だ。何度あの女の暗殺を延期するように国に懇願した? そんなやつは国にはいらん」


 金髪の男は言った。そしてケネティの元から走り去った。しばらくすると空からは大量の雨が振り出した。瞼も口も動かない一人の女の体は雨によって冷えていくのであった。

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